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遺体の回収

 僕らが墜落したワイバーンを見つけたときには、既に誰かによってとどめを刺された後だった。

 頑丈な鱗に覆われた竜の弱点となる、口内を一突きにされて死んだようだ。


「一体、誰がとどめを……?」


「さあね……でも、負傷していたとはいえワイバーンに近づいて口を一突きなんて、並大抵の人間にできるようなことじゃないわ」


 僕はふと、あのとき馬に乗って逃げていた誰かのことを思い出した。

 もしかして、たまたまあの人の近くに落ちて……?


「ま、あのとき追われてた奴は逃げられたんでしょ? ならこれで一件落着ってことにしましょう」


 不可解な点は多いけれど、とりあえずこのワイバーンによる脅威は去った。


「……メリュジーヌさん、一旦このワイバーンのことを他の冒険者かミドガルドの兵士に報告してきてもいいですか?」


「なんでもう倒したコイツのことを報告しなきゃならないわけ?」


「このワイバーンがなぜ暴れていたのか、しっかりと調べる必要がありそうですから。……それと、神殿が見知っている竜であれば、万竜教に引き渡して丁重に葬ってもらう必要があります」


 各地に神殿を持つ『万竜教』において、竜は特別な生き物であり、場合によっては土着の神として扱われる。

 冒険者ギルドは神殿との取り決めにより、可能であれば竜の遺体を神殿に引き渡すのが通例となっている。

 これには遺体を検分する必要があったり、暴れていた竜の身元の確認をしておく必要があるためだ。


「……まあ、あのペルーダに襲われていたときは完全に取り乱していて、あいつの遺体を放置してしまったわけですけど」


 竜の遺体の回収は必ずしも義務ではないけれど、あのときは迂闊な失敗をしてしまった。


「……ふっ、また人間がアタシ達を見て勝手に思いついたことね」


 まるで子供のごっこ遊びを見ているような目で、メリュジーヌさんは僕の話に耳を傾けていた。

 意外と、竜からすれば人間の価値観なんてものは、その程度の話なのかもしれないな。


「確かこの近くに、ミドガルド帝国が治める関所があったはずです。そこにワイバーンのことを報告してから、ジラクへと向かいましょう」


 そのまま僕らは、ジラクへ向かう街道の途中にあった関所へと入った。

 門前まで来ると、ミドガルドの正規兵が二人で警備をしていた。


「君は冒険者か?」


「龍人とは珍しい……」


 やはり、滅多に見られない龍人であるメリュジーヌさんは目立つらしい。


「まあそうよね。どこに行っても珍しがられるわ」


 得意げなメリュジーヌさんの前に出て、僕は事情を説明する。


「実は先程、偶然遭遇したワイバーンを撃ち落としました。その後、僕らが発見したときには既に死んでいたようなのですが……。よければ遺体を回収して、近隣の神殿へと引き渡していただけませんか?」


 僕の報告に、兵士の二人は顔を見合わせた。


「ほ、本当にあのワイバーンを?」


「ま、まあそこの女性と二人ならもしかしたら……」


 メリュジーヌさんの姿を見て、僕ら二人でワイバーンを撃墜したのだと納得してくれたらしい。


「まあそうね。アタシがいなきゃできなかったことよ!」


 メリュジーヌさんは、いつにも増して得意げだ。

 まあ、実際メリュジーヌさんの力を借りなければ、奴に殺されていたのは事実だし。


「それでは現場までご案内しますので、後はミドガルド軍にお任せしてもいいでしょうか? それと、冒険者ギルドにもお伝えいただけると嬉しいのですが……」


 兵士の二人は驚く出来事に戸惑っていたようだったが、やがて僕らのもちかけた話を了承した。


「よし、そのワイバーンは我々に任せてくれ。冒険者ギルドとも連携を取って、必ず遺体を神殿に引き渡すから」


「そうだ。ギルドに連絡するために、君達の名前と冒険者としての身分を証明するものを提示してもらえるかな?」


「は、はい」


 僕とメリュジーヌさんは、それぞれのランクを示す『石級ストーン』のブローチと、身分を示すボードカードを提示する。


「ジャックとメリー……か。なるほど、了解した」


「そういえばジャックって、『モノクロの狩人』……。でも銀級シルバーだったはずなのに、なぜ……?」


 やっぱり、ここでもピエール様のパーティに入る前のことが知られていたらしい。


「ま、まあ色々あって、石級ストーンからやり直すことになって……」


 僕らは数人の兵士と荷馬車を案内しながら、先程ワイバーンの遺体を発見した森を先導していた。

 特にビアンカは鼻がよく利くため、こういう道案内を行うときはすごく役立ってくれている。


「ここです」


 やがて、僕らと兵士の皆さんはワイバーンの遺体の前に到着した。


「なるほど。君が見つけたときには既に、別の誰かが……」


「そうです。誰が止めを刺したのかは断言できませんが……」


 兵士の皆さんは、ワイバーンの遺体を布で丁重に包み、荷馬車で牽引する準備を進める。


「なるほど! ここで軍隊と神殿の両方に協力しておけば、ジャックの名を上げて『玉級クリスタル』に近づけるかもしれないってことね」


「いや、そんなことが目当てじゃなんですけど……」


 確かに僕の夢を叶えるには『玉級クリスタル』に昇り詰める必要があるけれど、わざわざそんな下心があって協力してるわけじゃない。

 冒険者が信頼を得るためには、常日頃から誠実な気持ちを忘れずに、常にベストを尽くす必要がある。


 ワイバーンが牽引されていくのを眺めていると、兵士の隊長に声をかけられた。


「君のおかげで、このワイバーンを神殿に引き渡して、遺体を葬ってもらうことができそうだ。ここでお礼を支払わせてもらおう」


 そう言いながら、隊長は僕らに金貨と銀貨を渡した。

 金貨が1枚ずつ、銀貨が2枚ずつという、遺体回収の手伝いとしては高いものだ。


 やがて関所まで辿り着いたところで、僕らは関所を通してもらうことが決まった。


「それでは、後は我々とギルドに任せてくれ」


 関所を抜け、僕とメリュジーヌさんは元の旅路へと戻る。

 朝にトロニエ城を立ったときと同じく、僕はビアンカに乗り、メリュジーヌさんは翼で浮かんでいるという状態だ。


「やったじゃない、ジャック! これでジャックはここの軍隊の覚えもよくなったはずよ」


 メリュジーヌさんは、後ろから僕に抱きつく。

 体格差があるせいで、メリュジーヌさんの豊かな乳房が後ろ頭に押し付けられる形になってしまう。


「ま……まあ、これをきっかけに少しずつ名を上げていけるといいですね」


 でも、今回のことは僕一人の功績じゃない。

 メリュジーヌさんの力を借りたから、あのワイバーンを撃退することができたんだ。


 僕は左手の印を見つめながら、今回のことを考えていた。

 まさか僕がメリュジーヌさんの魔法を使うことができるなんて、考えてもみなかったな。

 僕も、使い魔の使役に関する魔法を勉強したことはあるけれど、使い魔から力を貰えるなんて聞いたことがない。

 もしかしたら、この印を通じての使い魔契約は、何か特別な魔法が使われているのかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて目的地の象徴となるものが見えてきた。

 尖った峰に雪が降り積もった山脈が、長々と続いているのがここからでもよく見える。


「見えてきました。あれこそがドワーフの国カザード・ジラク独立国がある、ジラク山脈です」

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