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ヘタレな男

 ほんと俺、こんなんでいいのかなって思うんだよ? なにがって?

 俺さあ、もう今年で三十になるの。三十路よ三十路。いい年だろう? え? 若く見えるって? サンキューサンキュー、ありがとな。

 でもさ、いっくら見た目が若いっつっても実年齢は若いわけじゃないからさ。

 俺さあ、仕事してないんだよね。仕事してたことはあるんだよ。でもさ、夢を追っかけちゃったっていうの? そんで仕事辞めちゃったの。

 親とは同居してないよ。親となんて同居してたら、うるさくってかなわないじゃん。

 え? どうやって生活していけるのかって? そこなのよ。それなのよ。それがね、俺、彼女がいるんだわ。

 えー。そんなに驚くことないでしょ?

 でさ、俺が仕事しながら夢を追いかけてたら『私が食べさせてあげるから、とことん夢を追いかけてみなさいよ』ってさ。彼女が言うわけ。

 彼女? うん。公務員。老後は安泰、ボーナスもバッチリよ。

 でね、彼女に養ってもらって三年。これでも頑張ってんのよ。

 ああ、俺ね、漫画家目指してるの。夢みたいなこと言ってるって思ってるんでしょ。まあ、はじめはまったくダメだったんだけどさ、いまはちょろっと賞に入ったりもしてるんだよ。

 でも俺、もう三十だろ?

 それに実は、彼女にプロポーズされちゃってさー!

 だからさ……、俺さ……、今回ダメだったら……さあ。





 俺の目の前には、さんざん管を巻いていた三十男が寝落ちしていた。

「はあ、なんやねんこのひと?」

 まあ、どうやら漫画家志望の三十歳、しかし今回もあかんかったらしい。ということはわかった。

 そのくせ彼女持ちとか。リア充のくせに、なに童貞の俺相手に愚痴ぶちまけとるんじゃ! と、文句の一つも言いそうになる。

「ごめんねー。今、こいつのお迎えくるからさ」

 俺が困っていると、カウンターの中から焼き鳥屋の親父が声をかけてきた。どうやら知り合いらしい。

「お兄ちゃんは、この店はじめて?」

「ええ、転勤で近くに引っ越して来たんですわ」

「お、ではこれからよろしくぅ」

 マスターが店の宣伝の入ったティッシュをくれた。

 どうもと言いながら手を伸ばしたとき、勢いよく焼き鳥屋の入り口の戸が開き、びっくりして跳び上がる。

「おじさーん、ごめん! アキちゃん、こっちに来てるって?」

 眼鏡にショートカットの女の人が勝手知ったるといった雰囲気で入ってくる。

「そこ。潰れてる」

 マスターが漫画家志望男を指差した。おお、もしかしてこの人がプロポーズしたという彼女さん!?

「こんのぉ、ちょっと! 締め切りも迫ってるってのに、飲みに行った挙句潰れるってどういうわけ!?」

 彼女が怒鳴った。

「え? 締め切り?」

 俺の声に、彼女さんがこちらを見た。

「そうよ。この人漫画家なの。プロ一年目のピチピチの新人なんだけど、この通りヘタレでしょ? ときどき逃避するのよ」

 そう言いながら、彼女さんは漫画家志望……もとい新人漫画家の精算を済ませる。

「アキちゃん、ほら! 帰るわよ」

 彼女さんが漫画家男を揺り起こし、よたよたする彼に肩を貸した。

「部長……すいませーん」

 アキちゃんと呼ばれた男が、情けない声を上げる。

「部長さんですか?」

 そう聞くと彼女はニコリと笑った。

「ええ、私、彼が入っていた漫画部の部長だったの。その頃から彼のファン。少年ポンプに来月号から連載が始まるのよ。よかったら読んでね」

 彼女は鮮やかなウィンクをして男を肩を貸しながら、店を出ていった。

 彼女の左手薬指には、金色のリングが輝いていた。

「事実は小説より、いや、漫画より奇なり……」

 俺がそうつぶやくと、焼き鳥屋のマスターがぶっと、吹き出した。

〈了〉




公募ガイド投稿作品「TOBE小説工房」お題:新人。

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