心霊カメラ
私は、心霊現象とか心霊スポットといった、怖い話が大好きだ。
友人が、新しくできた美味しいクレープ屋さんの話題で盛り上がる時、私は心霊写真特集の組まれた雑誌をめくり、休みの日には心霊スポット巡りを楽しむ。
バラエティー番組の心霊特集だって、お笑い半分とわかっていてもきちんとチェックだ。
「ちょっと、叫んでばっかりいないで、ガンガン進みなさいよ!」
廃墟となった心霊スポットに足を踏み入れたものの、一向に先に進まないタレントに腹を立てる。ああ、もし私があの場にいたなら、華麗に的確にリポートをしているものを!
とまあ、こんなに心霊現象を愛してやまない私なのに、なぜだろう? 生まれてこの方、一度も幽霊というものに会ったことがないのだ。
「あそこのトンネルって、出るんでしょう?」
「昔あそこを通った時、肩が重くなってね、それからしばらく調子が悪くてさあ」
「えー、うそー。こわーいー」
そんな話を聞きつければ、勢い勇んで噂のトンネルを訪れる。
入り口でゆれる菊の花。暮れかかる空。不気味な音を立てる風。すごくいい雰囲気だ。
……だ・け・ど! 待てど暮らせど怪しい気配はない。時折私のわきを、車が大きく迂回してすり抜けていく。
帰ってからスマホでとった写真を必死で確認するも、どこにも幽霊は写っていない。
そんな私なので、学校新聞に載った心霊写真をみたときの衝撃は大きかった。
「ちょとなにこれ!」
学校の廊下に男子生徒が四人並んでいる写真。一番右端の男子の二の腕のあたりから、ピースサインをした手がはっきり突き出しているけど、その手の主はどこにも写っていない!
「それ、こわいよねー」
「この学校の三年に、心霊写真バンバン撮る先輩がいるんだってー」
「いっつも古いフィルム? のカメラを持ちあるってるらしくてさ」
「知ってる知ってる! 心霊カメラでしょー」
心霊カメラ! 灯台下暗し! この学校の先輩がそんなものを持っているとは。
私は迷わずその先輩を尋ねた。
「先輩っ! お願いです。そのカメラ一日でいいから貸して下さい!」
「は?」
先輩の机の上には噂の心霊カメラが置かれている。
「あんた、カメラに興味があるの?」
青白い顔をした先輩が、クマの浮いた落ち窪んだ目で私を見た。
「はいっ!(その心霊カメラに!)」
「使い方わかる?」
初めて見るフィルムカメラだけど、先輩の説明を聞くと、簡単そうだった。
「先輩、撮った写真はどこで確認するんですか?」
「だから、デジカメじゃないっての」
なんと驚くことに、撮った写真は現像するまで見られないらしい。でもなんか、そんなところも心霊カメラっぽい気がする。
「あと二十枚くらい撮れるから、使っていいよ。できた写真はあんたにやる。俺、たいしたの撮ってないから」
「いいんですかっ!!」
先輩の写真ももらえるとは!
私はその日幸せな気分で心霊スポットを巡り、会心のポジションで心を込めてシャッターを切った。
☆*゜ ゜゜*☆*゜ ゜゜*☆*゜ ゜゜*☆*゜ ゜゜*
「師匠~~! 心霊写真が撮れませんー」
できた写真は、全部なんてこと無い風景写真で、私は先輩に泣きついた。
「え? あんたカメラに興味があるわけじゃないの?」
「先輩が心霊カメラ持ってるってきいたんです!」
「あー、そんな噂もあるけど……いや、心霊写真はカメラじゃなくて、撮る人間の問題だから。残念だったね」
……。
……。
……。
「師匠~~! 弟子入りさせて下さい! 一緒に心霊写真撮りに行きましょう!」
「うるさい! ついてくんな! お前が来ると、霊が寄ってこなくなるんだよ!」
どうやら先輩はかなりの霊媒体質らしい。一緒にいれば、少しは霊を感じられるようになるかもしれない。
「そんなー。私にも霊感分けて下さいよぉ!」
迷惑がる先輩だけど、近頃では顔色が良くなったてきたと、学校中の噂なのである。
〈了〉
公募ガイド投稿作品「TOBE小説工房」お題カメラ。





