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第1章 7・ウィン姫と黒風党(ブラーム)

第1章 7・ウィン姫と黒風党ブラーム


 「何者だ?」

 

 漆黒の甲冑姿のキリュウが、突然の訪問者に向き合います。巨大な剣はいつでも振れる態勢です。

 

 訪問者は青い長髪の王国兵士です。30歳くらいでしょうか。表情は場の雰囲気に似合わずにこやかなものです。腰の剣には手をかけていないところをみると、話し合いを望んでいるようでした。


 「トリミング王国軍将校のラムサスと申します。黒風党ブラーム一味の方々にはお初にお目にかかります」


 「よくここを見つけたな」


 「ええ。さる方から教えていただいたのですが、それでも見つけ出すのに苦労しました」


 「さる方……?我らの中に内通者でもいるような口ぶりだな」


 「いえ、そうではありません。城の奥に住む大婆おおばば様に教えを乞うたのです。そちらにいらっしゃるヤン頭領とは古くからの馴染みとか」


 それを聞いて一味が皆、机に腰掛けている老人に視線を移します。ヤンは困ったような表情で、

「カメラめ、まだこの世におったのか。未練たらしい奴だ」

と、吐き捨てました。


 「どういうことだ。なぜ王宮の人間がこの秘密本部の場所を知っている?」


 キリュウがヤンに詰め寄ります。


 「まあ、昔いろいろあってな。じゃが、カメラはわしらを売るような真似は絶対にせぬ。むしろわしの思想と革命に賛同してくれていたぐらいじゃ」


 ホーリーが聞いていても苦し気な言い訳にしか聞こえません。


 「そんな所のひとが場所を知っていたんじゃ、秘密も隠れ家もあったもんじゃないですねー」

煙草の煙を吐きながらヨークが皮肉たっぷりにそう言いました。ほぼ全員がうなずいて賛同しています。


 「とりあえずこの場所が明るみに出たということは、もうここは王国軍に囲まれているな。王国の人間は殺さず、という掟だったが、もうそうは言ってはいられまい」

キリュウが首をクキクキと鳴らしながら戦闘準備に入ります。


 「お待ちください。キリュウ・アルドイッヒ殿。王国軍はまだこの場所を知りません。知っているのは私を含めて三名だけです」


 「三名……お前と城にいる婆さんと、もう一人は誰だ?」


 「私だよ。キリュウ。会いたかったぞ」


 高らかにそう言って室内に入ってきたのは、トリミング王国のウィン姫です。


 金髪に緑に輝く瞳。昨晩のドレス姿とは違い、白銀に輝く胸当て、右手には銀の剣、ショートパンツにまぶしい太もも、ライトブラウンの戦闘用ブーツ。足元には、主人には忠実でいて、敵に覇獰猛であろう大型犬が、リードもつけずに低い唸り声をあげてキリュウに睨みをきかせています。


 「ナターシャ待て、まだ敵と決まったわけではない」

ウィン姫が大型犬にそう命じました。


 「これはウィン姫、このような暑苦しい場所によくいらっしゃいました。私はこの一味の頭領を務めておりますヤンと申します」


 ヤンが立ち上がって礼をしました。ヒューイやノエル、ホーリーも慌てて共に頭を下げました。ヨークは気にせずに煙草を咥えてそっぽを向いていますし、巨人のバスケスはむしろ敵愾心てきがいしんを燃やした目でウィン姫を凝視しています。


 「ご注文通りに戦える格好で来てやったぞ、キリュウ」

ウィン姫は白い歯を見せてそう言って笑いました。ならず者たちの集団の中で委縮する様子など微塵もありません。


 「なかなかしつこいお嬢さんだな。連日言い寄ってくる女は初めてだよ」

キリュウはそう言って苦笑いを浮かべると、大型犬のナターシャが唸り始めます。


 「私は目をつけた男を絶対に逃さない主義なんでな」

ウィン姫はそう返答して、ナターシャの頭を優しくなでます。唸り声が収まりました。


 「姫様、一騎打ちをしに来たわけではありませんよ」

ラムサスがそう忠告すると、フンとウィン姫はそっぽを向きました。


 ラムサスは黒風党ブラームの一味に対して提案をしました。

「ケリー奪還のために向かわれるのであれば、ぜひお供させていただきたい。ケリーは私の妹なのです」


 キリュウが驚いた表情で、

「まさかと思うが、そのお嬢さんもか?」


 「ほう、私が行くのが不服か?貴様の首を斬り捨てて我が力を見せつけても構わぬが」

ウィン姫が剣を構えます。


 「王国軍を率いて救出に向かう方法もあるじゃろう」

ヤンが尋ねると、ラムサスは首を振って、

「国同士は不可侵条約を締結しております。あくまでも秘密裏に行動しなければならないのです。このことは将軍も知りません」


 「行先は巨大蟻アントの巣だよ。わかってるのかな。巣には二十万匹以上の兵隊蟻がいる。巨大蟻アント一匹の力は王国兵士十人分。単純計算で二百万の敵に戦争を挑むってことさ。そこに王様の一人娘が向かうなんて、いくらなんでも馬鹿げてるでしょ」

ヨークがたまらず口をはさみました。先ほど実際に戦ってみて、その強さを実感しているのです。


 「なんだ、盗賊だ義賊だと称しているが、腰抜けの集まりだな」


 「なんだと……」

ヨークがソファーから立ち上がります。


 ウィン姫はヨークにくっつくぐらいに接近し、

「ケリーは我が侍女。侍女ではあるが、姉も同然に育ってきた。親兄弟・仲間を救うのが義というもの。敵の強さを測りにかけて及び腰になっている貴様らに義を語る資格はない」


 雄弁に語るウィン姫に、ヨークは何も言い返せませんでした。苛立ち気味にまたソファーに座り、煙草に火をつけます。


 「相当に危険な挑戦になるが、構わないと言われるか」

ヤンが改めて問いました。


 「無論じゃ。だが真っ向から突き進むのは愚の骨頂。どれ、裸足の魔導士よ、貴様には策があるのだろ。それを話してみよ」


 ウィン姫とナターシャが同時にホーリーの方を見ました。


 (顔は可愛いけど、こんな勝気な性格、タイプじゃないな……)


 そんな思いにかられているホーリーは突然話を振られて、大いに動揺しています。


 

 こうして王国の姫一団と黒風党ブラームの一味、そしてホーリーが手を結んで、ケリー奪還の冒険に出発することになりました。


明日は午前3時に更新できるかな……

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