第1章 5・黒風党(ブラーム)の本部
第1章 5・黒風党の本部
トリミング王国の地下、迷路のように入り組んだ下水道地帯。
この奥深くに黒風党の秘密本部がありました。
巨大蟻の群れと戦った地点から40~50分歩いたところです。
壁に仕掛けがあり、板を外すとそこからまた隠し通路が続きます。
その先にぼんやりと松明の火に照らされた部屋がありました。
4m×4mほどの広さをもつその部屋には机がひとつ、その椅子には老人がひとり座っています。ソファーがふたつあって、そこには小さな少年と対照的な巨人が向かい合って座っていました。
机の横にただひとり立っている男がいます。黒い甲冑姿に巨大な剣。ホーリーはこの男をどこかで見かけた気がしました。
ウィン姫にホーリーが襲われたときに助けてくれた男、キリュウですが、肝心のホーリーが失神寸前だったのでほとんど記憶に残っていません。
この秘密本部に辿り着いたのは、先導する弓の使い手ヨークと、やせっぽっちのヒューイ、そして裸足のホーリーの三人です。
疲労困憊で矢を使い切ったヨークの姿を見て、老人がまず声をかけました。
「やはり、巨大昆虫の襲撃があったか」
この老人は白髪で、顔はしわくちゃ、眼鏡の奥の目は見えませんでしたが、歳は70を超えているようにホーリーには見えました。
「やはりって、ヤンさんは初めからこの男が巨大昆虫を呼び寄せるってわかっていたんですか?」
ヨークがソファーに深く腰をかけ、煙草に火をつけながらそう尋ねました。少し怒っているようにも見えます。
「王宮の忍びの追撃は予定通りだったけど、巨大昆虫の話は聞いてなかったな」
「すまんのヨーク。確信がなかったのじゃ。もしこの言い伝えの男がシャナムの国を焼き尽くした張本人ならば、必ず巨大昆虫の標的となる。いきなりこの本部に匿って巨大昆虫の群れに襲われては、我らとて食い止める手立てがない」
老人ヤンの謝罪を聞いても、なおヨークは不機嫌そうに、
「つまり僕は王宮忍びと巨大昆虫両方への囮だったわけだ」
「この男が真の言い伝えの男かどうか、その証拠がほしかったのじゃ。仮に違うとなれば、お主の足ならばこの地下迷宮であれば忍者も巨大昆虫の追っ手も撒けると信じての作戦じゃった」
「今度は褒め殺しですか」
ヨークの吐いた煙草の白い煙が、静かに上っていきます。
「この男も生き残ったということは、巨大昆虫の群れを撃退したということか」
老人ヤンの問いにヨークは軽くうなずきました。
「巨大蟻一万匹ですよ。ここまで足音が聞こえていたと思いますけど」
「巨大蟻一万匹を倒したというのか?」
初めて黒い甲冑姿の男、キリュウが口を開きました。
「ええ、ヒューイの持ってきてくれたあの怪しい直方体の触媒を使ってね。行って見て来てくださいよ。一万匹がひっくり返って死んでますから」
「す、凄い……伝説は本当だったんだ…」
ヨークの横に腰かけている少年が紅潮した表情で感嘆の声を漏らします。ヨークはそちらをチラリと一瞥し、
「ノエルが思っているほどの魔力があるかは疑問だけどね。実際、巨大蟻を撃退したのもギリギリセーフだったし。あの忍者マスターがいなかったら確実に死んでいたよ」
「王宮の忍びと協力して巨大蟻と戦ったのか」
3mはありそうな巨人が初めて口を開きます。ヨークを責めているような口ぶりです。
「忍びは全滅。僕たちが逃げるのを手伝ってくれたんだ。あの綺麗な女、なんていったかな……」
「ケリーさんです!」
入口近くでずっと立っていたホーリーが力強くそう答えました。全員の視線がホーリーに向けられます。
「ケリーさんはまだ生きています。巨大昆虫たちが人間を呼び込むために囮として生かしておくそうです。僕はケリーさんを救出しに行きます」
そうハッキリと宣言しました。
「救出って、蟻の巣に行くってことか?」
巨人が目をパチクリしながら尋ねました。
「ええ。そのためにはヤンさんのご協力が必要です」
「わしのか?残念ながらわしには巨大蟻一匹倒す力もないぞ」
「これを、これを見てください」
ホーリーはズボンからスマートフォンを取り出しました。電源はすでにOFFになっています。使用するためには充電が必要です。
「魔法を使うときの触媒じゃろ。さっきヨークが言っておった。わしは初めて見るが、それが何なんじゃ?」
「え?初めて見る?だってヤンさんはスマホの充電ができるだけじゃなくて、マリエッタのバージョンアップもできるって……あれ?」
しばらくの間、室内に沈黙が流れます。
「なんだかよくわからないけど、僕もこの男に同行しますよ。このままケリーさんを見殺しにするなんて、スッキリしないから。巨大昆虫用の弓と矢があるから、そっちを借りていきますね」
ヨークがそう言うと、
「王宮の人間を救うために戦うつもりか?」
巨人が怒りの形相でヨークを睨み付けます。
「別にバスケスの力を借りようなって思っちゃいないさ。僕は借りを返すだけ」
ヨークは平然とそう答えました。
「俺も参加しよう。非情なる虐殺の魔導士の実力をこの目で見ておきたいからな」
キリュウが参加の意思を表明すると、少年ノエルもはしゃぎ気味に右手をあげて、
「僕も!僕も参加するよ。伝説の魔導士とパーティを組めるなんて、一生に一度あるかないかだもん」
「フン!」
巨人バスケスだけはそっぽを向いて不満気です。
「よし。この男の正体が真の裸足の魔導士だったことが判明したことだし、この男には作戦もあるようだから、お前たちの好きにするがよい。ただし深追いはするなよ。その女を救出したらすぐに戻れ。いいな」
老人ヤンの指示にバスケス以外は「OK」と返事をしました。
(え、でも、スマホが充電できないと救出どころじゃないんだけど……)
ホーリーだけが困惑の表情を浮かべていましたが、とりあえず、
「あ、あの、ちなみの僕の名前はホーリーです。虐殺の魔導士とか、裸足の魔導士とか呼ぶのはやめてもらえますか。ホーリーと呼んでください」
この指示には誰ひとり「OK」とは答えてくれませんでした。
次回も午前3時に更新します!!!!




