7.才能よりも努力です
よく晴れた昼下がりの広場。ゆったりした雰囲気を散らす声が響きました。
「いいか! キールは攻撃こそ強いが不意打ちに弱い。今後は防御も意識するんだ。分かったかぁ!」
「う、うむ、自分でも理解はしているのだが、苦手なものは苦手で」
「口答えするなぁ! あと返事は押忍と言え!」
「おっ……おーす!」
犯人はレンさんです。キールさんの希望により、スパルタ式の戦闘訓練が続けられています。
私とリズちゃんは噴水のふちに座って観察中。便利屋を極めることの大変さを知りました。
「そういえば、どうして炎とか自由に出せるんだろう……」
「いわゆる体質。一日に使える回数は限られてる。強い技を使えば、それだけ早く限界がくる」
「そ、そっか。生まれつきの才能なんだね」
ぼんやり瞳なリズちゃんの回答。納得できたようなできないような。
私も素質がほしかったです。能力があれば、レンさんの役に立てたかもしれないのに。
ひそかに落ち込みかけていた時、すくっとリズちゃんが腰を上げました。
「強くなりたい?」
振り向いたリズちゃんが私に問います。もちろんなれるのならなりたいです、けど。
「え……無理だよ私には。才能なんてないし、腕力だって全然で」
人には向き不向きがあります。こんなに貧相、じゃなくて貧弱な体では、トレーニングの段階で倒れてしまいます。
ふと向こうを眺めてみれば、レンさんとキールさんは、なんの支えもなく片腕逆立ちをしている最中でした。
「ようし、あとはこのまま親指だけで腕立てだ。俺ぐらいになると、こんなふうに、楽々いけるな」
「うぐぐ……こ、これはつらいぞ。だが、レンに負けるわけには……いかぬ」
「頑張れよ。まずは軽く二十回だ。分かったかぁ!」
「お、おーすっ!」
ワイヤーアクションのごとき身体能力を発揮する二人。ますます自信がなくなりました。
「……二人とも、人間やめてるのかなあ」
「……あれは変人。アリシアさんにもできることがある。私が力になりたい」
ひたすら後ろ向きになっている私に、ひたむきな気持ちを届けてくれるリズちゃん。
「友達、だから」
ふわりとわき上がったのは、挑戦したいという好奇心。優しい言葉が背を押してくれました。
最初からあきらめたら、なんにもなりません。できないかどうかは、やってから決めることにします。
「ありがと、リズちゃん。リズちゃんはどうやって強くなったの?」
「私の場合は能力頼み。単純なパワーで勝負したら勝てない」
「そっか。長所を伸ばしてるんだね」
「あたり」
ゆるやかに私の二の腕をつかむリズちゃん。そのまま周辺を全体的に揉まれました。
「ど、どうしたの?」
「アリシアさんは、たぶん自分が思ってるよりも力持ち。本気を出したことはある?」
「な……ないかな、言われてみれば」
考えたことありませんでした。家事の時に重めの物は持ちますが、それくらいのものです。
「アリシアさんはひかえめだから、自分を小さく評価してる。一歩間違えればネガティブ少女」
「う、そ、そうかも」
「でもそれは、すごく誇れること。自分を見失わない強みがある」
とても的確な指摘。思わず意味を熟考します。
私はみんなのおかげで生きていられます。そのせいか、自分自身をちっぽけな存在だと捉えている節があります。
でも、だからといって自信を失うのは間違い。リズちゃんが伝えたいことは、きちんと届きました。
「うまくやればレンを倒せる。大切なのは、全力で挑戦してみる意思」
「え、ほんとに? ……うん、レンさんをびっくりさせてみたいな」
「きっといける。強い人は油断する。まず、相手が自分の背後に来た場合の反撃方法は――」
リズちゃんの講義が展開されます。私に合った戦い方。人体の急所。どうすれば相手を倒せるのか。
経験から導き出された貴重な意見。勉強していくうち、なんだか試してみたくなりました。
―――――
特訓は終わった。仰向けで地面にへばるキール。あんなので疲れるなんて貧弱なやつめ。
アリシアとリズは仲良く喋っていた。キールを休ませる意味もかねて二人に近付いてみる。
「いじめは終わり?」
「いじめじゃねーよ誤解はいけないぞ」
人聞きの悪いリズ。こんなにも紳士的な指導のどこが不満なのか。
「ちょうどよかった。アリシアさんが強くなった。私が特訓したから」
「アリシアが、か?」
ちらっと視線を送る。ふわふわ金髪に赤リボン。普段と変わりなし。こんな短時間で変化してたらおかしいけど。
「まさか。エプロン姿が最高に似合うアリシアだぞ? 強くなるなんて絶対にないない」
「だ、だったら勝負しませんかっ! 先に相手を倒した方が勝ちです!」
意気込むアリシア。かわいげのある威勢なので迫力も何もなかった。面白いから受けて立とう。
「はっはっは、まあいいぜ。この俺さまが負けるわけないけどなぁ」
「て、手加減はしませんよ。せいやー!」
律儀に叫びながら迫るアリシア。ぜんぜん遅い。頑張る姿に和む。
パンチと呼ぶには不器用すぎる連打を、徒歩で下がって避ける。空振りのせいで早くもバランスを崩すアリシア。
「やあっ! もーレンさん、どうしてそんなによけられるんですか! 強すぎますよっ!」
「おっと、よし分かった。ハンデをやろう。今から俺は、アリシアを後ろから抱きしめるからな」
「え、それって私にさわりたいだけじゃ、ってきゃー!」
アリシアの背後に回り抱きつく。やっててよかった戦いの練習。とてもいいにおいがします。
筋肉とは無縁そうな細い体。わざと殴られてみようかね。大したダメージは受けないだろうし。
「い、行きますよっ!」
「え」
宣言の直後、右足の甲を衝撃が襲う。想像を超えた鋭い痛みが走った。
「いっ!」
思わず離れる。かかとで踏まれたのか。いやそれよりも、アリシアがこんな力持ちなんて。
続いて俺のわき腹に打ち込まれたのは、回転の加えられたひじ打ち。吐き気をもよおした。
「おっふ!」
「とどめですっ!」
アリシアが振り返る。最後の一撃は、踏み込みながら放たれた右腕の突き。見事みぞおちにめり込んだ。
「ま……まいった、ぜ」
呼吸困難。がくりと地面にうずくまる。なんつう危険技を教えやがるんだリズのやつ。殺す気ですか。
完全になめていた。どうやらアリシアは心だけでなく、実は肉体的にも強い人だったらしい。
「あああ! ごめんなさいごめんなさい! 当たるなんて思わなくて!」
「いや……いいんだ……おかげで初心を思い出せたよ、ぐふっ」
必死に謝ってくれるアリシア。超痛いけど少しは気が楽になった。
苦手でも全力で挑戦すれば、物事は良い方向に動き出す。大事なのは踏み出してみること。
でも、できればもうちょい加減してほしかったな。虫みたいに転がる俺の願望は、深い意識の海に沈んでいった。




