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6―1.信頼できる間柄

 レンの力を貸りたいのだ。リズを連れて事務所に来たキールは、なんの前置きもなく言い放った。

 報酬の半分を渡すから、依頼に協力してほしいとかで、つまり俺は手伝い係らしかった。


「というわけだ。退屈していたのだろう? 共に戦おうではないか」

「んー? ああ、まあいいんじゃないかな」

「きさまぁ! きちんとわたしの話を聞いているのかっー!」

「だってトランプタワーが途中なんだもの」


 やや怒るキール。やめて落ち着いて。もうすぐ八段タワーが建築できそうだから集中させて。

 キールが来る前から挑戦してたんだ。人生初、なんとしても八段の完成形を拝みたい。


「……リズよ、頼む」

「……こくり」


 キールの指示で小さくうなづいたリズ。すうっと右手が向けられる。

 発動したのは弱い冷風。けどそれは、建造中の六段タワーを崩壊させるには充分すぎた。


「あああああ! ううっ、なんてことを……こんなの、ひどすぎる」


 残骸と共に崩れ落ちる俺。夢だったのに。一時間半も頑張ったのに。あんまりだ。あんまりだ。


「レンが悪いのだ。ちっともわたしの方を向こうとしないから」

「キールさん、気を付けて行ってきてくださいね。リズちゃん、よかったら一緒に留守番しよっか」

「うん……ありがと」


 そっぽを向くキール。トランプを片付けながら提案するアリシア。少し嬉しそうに返事をするリズ。

 俺の味方は皆無だった。なんでもいい。せめて一つくらい優しい響きがほしかった。


―――――


 枝葉を踏みながら森の中を進んでいく。高い木々のせいで日光がさえぎられて薄暗い。

 悠々と進むキールに比べ、俺の足取りは重かった。タワー崩壊のダメージが尾を引いている。


「元気を出せ。二年ぶりの一緒の依頼だ。わたしはとても楽しいぞ」

「ん……まあそうだな。頑張るとするかね」

「ふふ、トランプを崩してすまなかったな」

「また作ればいいさ」


 キールの言葉に救われた。考えてみれば、二人で依頼をこなすのは本当に久しぶりだ。

 昔の俺たちは弱かった。俺とキールは協力し合うことで、どうにか便利屋として生きられていた。

 あの頃の暮らしが充実していたのは記憶に新しい。現在の生活とは違う良さがあったように思う。


「頼りにしているぞっ」

「ああ。俺の方こそ」


 今は別々に住んでいるけど、相棒だった事実は変わらない。まあ昔から俺の方が強かったけどね。


「で、今回の依頼内容ってなんだっけ?」

「森の調査だ。ここの化物の情報がほしいらしい。ただし森を焼いてはいけないぞ」

「ちぇー」

「ただ、敵は根こそぎ倒してしまってもかまわないそうだ」

「よっしゃ」


 なるほど。でも能力は制限しろってことか。銃を買っとけばよかったな。


「ふふふ、わたしの能力が活躍する気配だな。安心するがいい。化物などささっと仕留めて――」


 キールの言葉は途中で途切れてしまった。

 頭上から降下してきた赤紫の花に、キールの上半身が覆われていた。もよもよと花が動いてる。吸引されているらしい。


「うわ気持ちわるっ」


 植物の茎に向かってナイフを投げる。我ながら原始的な救出法だと思う。

 茎にナイフが半分ほど刺さる。呑まれそうだったキールが落ちてきた。ささっと仕留められかけたのはどっちの方なんだか。


「わ……わ、わたしは生きているのか? 今いるのは現実の世界か?」

「大丈夫だ現世だ。にしても、相変わらず不意打ちに弱いんだな。成長が見られないぞ」

「う、それは言うな! これでも能力は鍛えているのだぞ。見るがいい」


 わたわたと立つキール。毒赤色の花が再び襲いかかってくる。

 避ける動きや武器を構える流れ。どれもキールには必要ない。ハイタッチをするように手を伸ばすだけでいい。

 キールの手が花に触れる。途端、紫色の電流が発生、花全体は数秒で黒く焼き尽くされた。

 これがキールの能力。確かに昔より威力は上がっている。だが植物の茎部分は生きていた。


「まだ来るかぁ!」


 茎の先端が槍状に変形。危害を加えようと素早い動作で迫る。

 先に言うが、あんなんじゃキールの武器に対抗できないだろう。植物の進化もここまでか。


「わたしの勝ちだ」


 キールがレザージャケットの中から取り出したもの。昔から愛用している長い銀色のムチ。

 巧みに暴れる銀の軌道。茎は破片状に切断されて地に落ちた。電熱で焼き切られたのだ。

 普通なら不可能な芸当は、キールの電流のおかげで成立している。銀は電気をよく通すから。


「おー、やるな。キレキレの動きになってるな」

「いやなに。それより、休んでる暇はないぞ」

「ああ」


 背中合わせで立つ。森がざわめいていた。初見の場所だが分かる。俺たちは敵と認識されている。

 幾多の木の根が地面から飛び出した。俺たちを絞め殺す程度の太さはある。四方を囲まれかけていた。


「散開だ」

「うむ!」


 固まるのは愚か。互いに走りながら安全な位置を確保、根を迎え撃つ作戦に切り替える。

 物置から持参しておいた、三十センチのサバイバルナイフを構える。今回ばかりは銃より使い勝手が良さそうだ。


「伐採できるからな!」


 刃に青炎をまとわせながら斬りかかる。思いのほか楽に焼き斬れた。おかげで庭師気分を味わえる。

 避けて断つ。ある意味の単調作業だが敵の手数が多い。このままでは体力を消耗するだけだ。

 早く元を探して絶たなければ。そういやキールは無事だろうか。


「ふははは! どいつもこいつも弱すぎるぞぉ! この程度なのかぁ!」

(暴れてんなー)


 ぴんぴんしてた。あいつ能力の持続力だけは高いからな。本人の性格が弱点だけど。

 ふいに、強襲が止んだ。一転して静寂が支配する。森全体が沈静化するという正反対の展開。


「来るぞ」

「うむ」


 光景の変貌。俺たちの周囲にそびえている木々が動き、広い空間が生み出され始めていた。

 日差しが降り注ぐ。戦いの舞台を用意する気だろうか。おおげさな演出だ。

 森の変動が治まると同時、地面が高く盛り上がる。一メートル、三メートル、五メートル。ようやく俺たちは、森が開かれた訳を理解できた。


「まさかだろ……」


 現れたのは黒色の龍。雄大な神木を思わせる圧倒的な存在。崇め奉るための対象にすら思えた。

 闘争心が浄化されていく。敵意自体が罪のような感覚さえ芽生える。おおげさな演出でもなんでもなかった。


「なあキール」

「うん?」

「……帰らないか?」

「……できるだけ頑張ってみようではないか」


 立ち尽くす俺たち。炎や電撃でどうにかなる相手じゃない。もはや勝敗は見えていた。


「ていやあぁ!」


 龍の胴体にムチを叩き込んだのはキール。全力の攻撃だったのだろう。

 ばちん。強固な皮膚に弾かれた。焦跡すら付いていない。認識されているかも怪しかった。


「このおおぉ!」


 ムチを乱打するキール。たたずんで空を仰いでいる龍。隙ありだ。一気にケリをつけてやるぜ。


「あああくらえぃ!」


 俺も斬りかかる。なかばヤケだった。刃が到達した瞬間、ナイフは根元から折れた。こんなに想像通りだと逆に気持ちいい。

 不動を続ける龍。俺たちのことなんてアウトオブ眼中なのだろう。その余裕がいつまで続くかな。


「なめんじゃねー!」

「本気でいくぞぉ!」


 ありったけの力で能力を放つ俺たち。雷撃と青炎。至近距離での複合攻撃。

 努力は報われた。連撃の煙が晴れた時、龍の胴体には十センチ程度の傷口が出来ていた。


「おお、やっ……」


 つかの間の歓喜だった。傷が塞がっていく。何年も鍛えた俺たちの全力技は、わずか数秒のうちに治癒された。

 龍の視線が俺たちを居抜く。今度はこちらから行くぞ的な雰囲気。怖すぎて闘志なんぞ折れた。


「……提案があるんだ」

「……わたしもだ」

「逃げるぞ!」

「賛成っ!」


 俺たちの行動は早かった。反対方向に駆け出す。金なんてどうでもいい命の方が大事です。

 龍は追ってこない。慈悲をかけてくれたのだろう。二度と立ち入らないでおこうと誓った。

 がむしゃらに走って、走り続けて。最終的には森から抜け出せた。乱れた呼吸をキールと共に整える。


「ははは……あんな強いの、いたんだな。ひさしぶりにびびったぜ」

「ふふ……そうだな。だが、楽しかったぞ。レンがいてくれたからだ」

「ああ、俺も同じさ。キールのおかげだ。ありがとうな」


 二人で笑う。依頼人にはこう報告しよう。報酬金はいらないが、長生きしたいなら森には行くなと。

 息は戻った。そろそろ帰ろう。アリシアとリズが待っている。


「さて」

「すまない、レンよ」


 呼びかける声。歩き始めた俺の手をぐいっとつかむキール。立ち止まる。


「その……なんだ、少しわたしに付き合わないか? この近くに、小さな広場があるのだが」

「どうした急に。顔が赤くなってるが。熱でもあんのか?」

「ひ、ひたいにはさわるなぁ! わたしが帰りたくないと言ってるのだ、拒否は許さないぞっ!」

「なんか強引だな!」


 誘われてしまった。なぜかキールは慌てている。ただ公園で雑談するだけだというのに。

 リズがいれば、アリシアは長く留守番できる。じきに望める夕焼けを見ながら、たまには二人きりの会話を楽しもう。


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