表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/32

21.もし光のかけらを見つけたら

 あれから二ヶ月が過ぎました。すがすがしい秋模様も終わり、季節はすっかり冬の中です。

 最近は日記を書くのが趣味です。レンさんが外出の支度を整えている間、昔を想いながら進めていこうと思います。


(えっと……まずは)


 ハルさんは、結局街を出てしまいました。挨拶には来てくれたので、きちんと名残を伝えられました。

 さよならは言っていません。またどこかで会えるから。きっと今も元気に過ごせています。


(それから)


 つい最近、ボブさんから手紙が届きました。実はお嫁さんとお子さんがいたらしく、家族で仲良く暮らしているみたいです。

 写真も同封されていたのですが、それを見たレンさんは祝福しつつも悔しがっていました。先を越されたとかなんとかで。


(……えっと)


 ドール君は仲間と会えたでしょうか。残してくれた双剣の片方は、きちんと事務所に飾ってあります。

 音信はないですが寂しさはありません。思わぬタイミングで会える可能性がありますので。

 なぜそう思えるかというと、こんな出来事が三日前にあったからです。ふいに玄関扉が叩かれたので開けてみると、


『アリシアさん、えらい久しぶりやね! レンも元気しとったー?』

『約束してたからね。面倒だったけど、会いに来てやったよ』


 訪ねてくれたのは、影の姿をした関西弁の女の子と無邪気な少年。まさかの再会でした。

 その後ろには生神さん。彼の計らいのおかげで、二人は旅立つ前に現世に来れたのでした。

 生神さんに送られた命は生まれ変われる。再会するまで少しのお別れです。次はどんな姿で会えるでしょうか。


(イリアちゃんとジャック君、元気かな)


 二人が教えてくれた名前を回想します。絶対に忘れません。記憶をつないでくれる合言葉ですから。

 別れは悲しいものではなく、出会いのための準備。いろいろあったからこそ、素直にそんなふうに考えられました。

 近況報告は、こんな感じになります。玄関が叩かれたので日記帳を閉じました。どうやら二人が来たみたいです。


「はーい」


 扉を開けます。キールさんが立っていました。レンさんも待ちわびたように隣まで来ます。


「時間ぴったりだな。体内時計正確すぎだろ」

「そうだろう。さてアリシアよ、いつものようにリズと留守番をしていてくれるか?」


 キールさんの後ろにはリズちゃんがいました。安心できる流れです。


「分かりました。よろしくねっリズちゃん」

「おねがいします」


 頭を下げるリズちゃん。これからレンさんたちは依頼攻略に向かいます。つまり私たちは事務係です。

 以前よりも、みんなと一緒の時間が増えました。関係が進展したのかもしれません。なんだかいい雰囲気です。


「じゃあな。二時間以内に帰るからさ。安心して待っててくれ」

「なにかあったら、いつでもわたしたちに連絡するのだぞーっ!」


 みんなで外に出て、離れていく二人の背中を見送ります。相棒と表現するのがぴったりな並び姿でした。

 怪我の心配もありますけど平気です。レンさんもキールさんも優しくて強いですから。

 あらためて事務所に戻る途中、ふとリズちゃんが立ち止まりました。玄関横にかけられた看板を見つめています。


(気付いてくれた)


 ひそかに心でガッツポーズ。先日まで名無しの便利屋でしたが、このたび名前が決まりました。

 木板の看板ですがお気に入りです。レンさんと相談して決めた名を、リズちゃんが穏やかに読み上げてくれました。


「月影の、プレリュード」

「うん」

「……いい名前だね」

「ありがと」


 眺めていると誇らしくなれますが、外は寒いです。あまり長時間は出ていられません。

 おとなしく戻ろうとします。ですが私たちは再び立ち止まりました。後ろから話しかけられたからです。


「あの……」


 不意に聞こえた声。振り返れば素朴な雰囲気の女の子。どこかで会った覚えがありました。

 たしかあれは、レンさんがキールさんに土下座や犬真似をした日。橋の上で泣いていた女の子に声をかけて、


「わー、思い出した! あのとき以来だね。友達とは仲直りできた?」

「はい。レン・シャドームーンさんにお礼を言いたくて……よかったら、会えますか?」


 元気そうでなによりです。友達との仲も治せたみたいでした。でもレンさんは留守中で。

 また後で来てね。昔の私ならそう告げたはずですが、レンさんだったらきっとこう言います。


「よかったら、私たちとお話ししない? 二時間くらいで戻るから」

「え、いいんですか?」

「うん。誰かと一緒にいられるのは、すごく幸せなことだからね」

「はい。その、ありがとうございます」


 遠慮がちだった女の子に笑顔が咲きました。私が優しくなれたのもレンさんのおかげです。

 みんなで中に入ります。ぱたん。玄関扉がゆるく閉まる音が背中の方から聞こえました。


 世の中には大変なことの方が多いと感じます。悲しみは避けられないし、いつかは命もついえてしまいます。

 だからこそ、私は歩きたいと思えます。いいこともたくさんあるのに、全てを投げ出すのはもったいないですから。

 時々は、道が閉ざされるかもしれません。だけど、全てが満足とまではいかなくても、自分にとっての正解は必ず残されています。


(あと、どれくらいで春になるのかな)


 寒い季節は、もうしばらく続きます。だけど大丈夫です。あたたかく帰りを迎えてくれる人は、これからも側にいますから。

 過ぎる歳月を思い出に変えながら、いずれ終わりを迎える時まで、一日一日を大切に生きていこうと思います。

 鍵のあいている玄関扉は、冬色の風にゆらされて、かたかたと静かな音を奏でていました。


【終】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ