21.もし光のかけらを見つけたら
あれから二ヶ月が過ぎました。すがすがしい秋模様も終わり、季節はすっかり冬の中です。
最近は日記を書くのが趣味です。レンさんが外出の支度を整えている間、昔を想いながら進めていこうと思います。
(えっと……まずは)
ハルさんは、結局街を出てしまいました。挨拶には来てくれたので、きちんと名残を伝えられました。
さよならは言っていません。またどこかで会えるから。きっと今も元気に過ごせています。
(それから)
つい最近、ボブさんから手紙が届きました。実はお嫁さんとお子さんがいたらしく、家族で仲良く暮らしているみたいです。
写真も同封されていたのですが、それを見たレンさんは祝福しつつも悔しがっていました。先を越されたとかなんとかで。
(……えっと)
ドール君は仲間と会えたでしょうか。残してくれた双剣の片方は、きちんと事務所に飾ってあります。
音信はないですが寂しさはありません。思わぬタイミングで会える可能性がありますので。
なぜそう思えるかというと、こんな出来事が三日前にあったからです。ふいに玄関扉が叩かれたので開けてみると、
『アリシアさん、えらい久しぶりやね! レンも元気しとったー?』
『約束してたからね。面倒だったけど、会いに来てやったよ』
訪ねてくれたのは、影の姿をした関西弁の女の子と無邪気な少年。まさかの再会でした。
その後ろには生神さん。彼の計らいのおかげで、二人は旅立つ前に現世に来れたのでした。
生神さんに送られた命は生まれ変われる。再会するまで少しのお別れです。次はどんな姿で会えるでしょうか。
(イリアちゃんとジャック君、元気かな)
二人が教えてくれた名前を回想します。絶対に忘れません。記憶をつないでくれる合言葉ですから。
別れは悲しいものではなく、出会いのための準備。いろいろあったからこそ、素直にそんなふうに考えられました。
近況報告は、こんな感じになります。玄関が叩かれたので日記帳を閉じました。どうやら二人が来たみたいです。
「はーい」
扉を開けます。キールさんが立っていました。レンさんも待ちわびたように隣まで来ます。
「時間ぴったりだな。体内時計正確すぎだろ」
「そうだろう。さてアリシアよ、いつものようにリズと留守番をしていてくれるか?」
キールさんの後ろにはリズちゃんがいました。安心できる流れです。
「分かりました。よろしくねっリズちゃん」
「おねがいします」
頭を下げるリズちゃん。これからレンさんたちは依頼攻略に向かいます。つまり私たちは事務係です。
以前よりも、みんなと一緒の時間が増えました。関係が進展したのかもしれません。なんだかいい雰囲気です。
「じゃあな。二時間以内に帰るからさ。安心して待っててくれ」
「なにかあったら、いつでもわたしたちに連絡するのだぞーっ!」
みんなで外に出て、離れていく二人の背中を見送ります。相棒と表現するのがぴったりな並び姿でした。
怪我の心配もありますけど平気です。レンさんもキールさんも優しくて強いですから。
あらためて事務所に戻る途中、ふとリズちゃんが立ち止まりました。玄関横にかけられた看板を見つめています。
(気付いてくれた)
ひそかに心でガッツポーズ。先日まで名無しの便利屋でしたが、このたび名前が決まりました。
木板の看板ですがお気に入りです。レンさんと相談して決めた名を、リズちゃんが穏やかに読み上げてくれました。
「月影の、プレリュード」
「うん」
「……いい名前だね」
「ありがと」
眺めていると誇らしくなれますが、外は寒いです。あまり長時間は出ていられません。
おとなしく戻ろうとします。ですが私たちは再び立ち止まりました。後ろから話しかけられたからです。
「あの……」
不意に聞こえた声。振り返れば素朴な雰囲気の女の子。どこかで会った覚えがありました。
たしかあれは、レンさんがキールさんに土下座や犬真似をした日。橋の上で泣いていた女の子に声をかけて、
「わー、思い出した! あのとき以来だね。友達とは仲直りできた?」
「はい。レン・シャドームーンさんにお礼を言いたくて……よかったら、会えますか?」
元気そうでなによりです。友達との仲も治せたみたいでした。でもレンさんは留守中で。
また後で来てね。昔の私ならそう告げたはずですが、レンさんだったらきっとこう言います。
「よかったら、私たちとお話ししない? 二時間くらいで戻るから」
「え、いいんですか?」
「うん。誰かと一緒にいられるのは、すごく幸せなことだからね」
「はい。その、ありがとうございます」
遠慮がちだった女の子に笑顔が咲きました。私が優しくなれたのもレンさんのおかげです。
みんなで中に入ります。ぱたん。玄関扉がゆるく閉まる音が背中の方から聞こえました。
世の中には大変なことの方が多いと感じます。悲しみは避けられないし、いつかは命もついえてしまいます。
だからこそ、私は歩きたいと思えます。いいこともたくさんあるのに、全てを投げ出すのはもったいないですから。
時々は、道が閉ざされるかもしれません。だけど、全てが満足とまではいかなくても、自分にとっての正解は必ず残されています。
(あと、どれくらいで春になるのかな)
寒い季節は、もうしばらく続きます。だけど大丈夫です。あたたかく帰りを迎えてくれる人は、これからも側にいますから。
過ぎる歳月を思い出に変えながら、いずれ終わりを迎える時まで、一日一日を大切に生きていこうと思います。
鍵のあいている玄関扉は、冬色の風にゆらされて、かたかたと静かな音を奏でていました。
【終】




