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17―1.試合の終わりに何を見たか

 リズが氷剣片手に斬りかかってくる。軽く殺意の感じる攻撃だったが伏せて回避した。

 広場に設置された石畳の舞台。何十人が一度に戦えるスペースが確保されている。試合の観客もなかなか多い。


「あぶねーな! 当たったらどうすんだよ!」

「避けられるところまで予想済み。予選で負けるわけにはいかない」

「だったら他のやつ蹴落としとけってー!」


 文句を言うがリズの斬撃は止まらず。あきらめるまで避け続けるはめになった。

 この大会に参加したきっかけは、ポストに入っていた案内チラシ。優勝賞金に誘われた俺は即出場を決めた。

 現在は予選中。総当たりの乱戦。残った三人のみが決勝に進める段取りになっていた。


「レンは優しい。私は負けない。なぜなら攻撃されないから」

「分かってんじゃねーかちくしょーめ!」


 遠慮なく俺の背後から剣を振り下ろすリズ。普段は良い仲だが今回に限っては敵同士だ。

 相手を場外に落とすだけでいいのだが、意地でも一太刀浴びせたいらしい。斬られてたまるかこのやろう。

 が、ついに舞台端に追い込まれた。じりじりと距離を詰めてくる氷娘。


「しまった……」

「かくごはいい?」


 勝ちを確信した様子のリズ。怪我をさせたら嫌なので反撃はしない。俺のこだわりだから。

 とはいえ無抵抗のままでは負ける。どうしても賞金は欲しい。だから策を講じておいた。


「……ふっ」


 たしかに俺は手を出さない。さっき指摘された通りだ。


「……いま笑った?」

「ああ。リズは素直だよな。これが一対一だと信じてくれるんだから」

「?」


 べしゃっ。

 背後から仕掛けられた膝かっくんで転ぶリズ。視覚外より優しい必殺技を当てたのは、


「ありがとなドール君」

『仲間を助けてくれたお礼です。レンさんに協力いたしますので』

「すごい助かるよ」


 ドール君だ。服や帽子で変装してるから他者からは人間に見える。

 本来はリズの味方だったけど、懐事情を話したら協力してくれた。とても律儀でかっこいい。


「ううう……ちょっとだけいたい」

「さあどうする? 二対一だときついだろ。ドール君を先に倒すべきじゃないのか?」

「……んー」


 ひたいをさすりながらリズが立ち上がる。すかさずの誘導尋問。深く考え込んでいるリズ。


「……そうする」

『僕は逃げますね』


 答えが出たらしく追いかけ始めた。逃げるドール君。相談していた通りの展開になった。


(ようやく休めるなー)


 ドール君はおとりだ。普通に不死身だから安心して任せられる。

 最後の三人に残りさえすればいい。体力の消費は抑えるに限る。優勝賞金はドール君と山分けする手はずだ。

 まだ予選参加者は多い。でも経過を見守るだけでいい。なんでってキールがいるから。


「ふふん、三対一でも負けはしないぞっ。新技をくらうがいい! 必殺!」


 向かってくる敵三人。キールは手に光球を出現させて軽く投げる。

 地面に落ちるなり強烈な閃光を発した。いわゆる目くらまし。三人に蹴りが叩き込まれていく。


「いちにーさん、だ! まだまだいるな。まとめてかかってくるがいい! ふはははは!」


 全員が舞台外に落ちた。飽き足らず周囲に喧嘩を売るキール。

 多人数が向かっていくが、電撃とムチの波状技により次々と倒されていた。予選なのに飛ばしすぎだと思う。


(酒飲んでんのかな?)


 もしくは運動したいんだろう。体を動かすのって気持ちいいよね。

 暇を感じてたら遠くから怒号が聞こえた。なんつう気迫。でかい男が暴れてるらしい。ちらっと確認する。


「Woooo!!」

(うわっボブがいる!)


 乱闘しているのはボブだった。腕力のみで相手を飛ばしている。相変わらずの強靭筋肉だ。

 あらかた倒し終えた所で、ボブと目が合ってしまった。普段は喜ぶとこだが今は事情が違う。


「オー! レンサンジャナイデスカ。会エテ嬉シイデス」

「お、おーっす」


 懐かしめなかった。彼も優勝狙いなんだろう。となれば友好条約は結べそうになくて、


「Ahhhh!!」

「うわあああ全力突進してきやがったー!」


 遠距離からの体当たり。やはり俺を殺りに来た。ただの突進なのに巨岩が迫るような威圧感。


「あああ燃えろぉ!」


 怖かったので本気気味に青炎を放つ。かまわず突っ込んで来たボブは直に炎に包まれた。

 ばかめ生身のままとは。いくら巨漢でも火傷だろう。俺の炎を受けて無事なやつがいるわけな、


「No sweat!(ちょろいぜ)」

「なんだってー!?」


 いた。漫画のヒーローみたいに火炎の中から現れた。冗談抜きでビビる俺。

 逃走再開。人の間を抜ける俺に対し、ボブは全員をなぎ倒しながら追って来た。あなた重戦車か何かですか。

 撤退の最中、俺たちの間に割って入る者が現れた。小さな乱入者にさすがのボブも止まる。


「リズか。ドール君はどうしたんだ?」

「勝った」

「まじで?」


 指差した先は観客席。アリシアの隣で試合を見ていたのはドール君。あとはゆっくり休んでくれ。

 リズとボブが対峙する。やばい体格差だけどいけるかもしれん。純粋な能力なら俺より強力だから。


「レンは私が倒す。あなたには譲れない」

「ドウスル気デスカ?」

「通行止め」


 地面に手を付くリズ。数秒で厚い氷壁が形成された。ボブとの間をしっかり分断する。

 おもむろに氷を殴るボブ。しかしびくともせず。痛がるボブの姿は意外だった。これは大丈夫そうな雰囲気だ。


「おおっ、やるなリズ」

「それほどでも」


 えへんと誇らしげなリズ。しばし氷壁を観察していたボブは、低く小さな声で宣戦布告した。


「……チョット本気出シテミマス」

「え」

「え」


 握られる拳。浮き出る筋肉。深い捻りから放たれた重打撃は、固い氷壁を突破粉砕した。

 散る氷の残骸。にこやかに笑うボブ。氷剣で斬りかかろうとするリズだが、さらに早く俺は、


「Get ready!(覚悟しろ)」

「うおおおい!?」


 リズを抱えて走り出した。奴に近付いてはだめだ。きっと剣も白刃取りで折られてしまう。

 リズを抱いてるせいか、すぐに距離が縮められる。けどリズを離すわけにはいかない。怪我する場面を見るのは嫌だ。


「レン」

「な、なんだ!?」

「どうして、私を助けてくれるの。レンにとっては敵のはずなのに」

「まあな! けど前に約束しただろ! もうリズは一人じゃないってな!」

「……そっか」


 納得してくれた。廃洋館での自分の言葉を守ったまでだ。リズが忘れても俺は覚えている。

 ついにボブが背後に肉薄した。本気パワーの体当たりが俺に炸裂。圧倒的な体重差の一撃。


「おうふっ!!」


 どかーんと吹き飛ばされた先は場外落ち一直線コース。まずい。このままではリズも道連れになる。

 思いが通じたのか、リズが俺の腕を外して飛んでくれた。このまま舞台に戻れば、リズは失格を免れるはずだった。

 やがてリズが落下した位置。それは舞台の上ではなく、予選敗退を意味する土の場外だった。


(なっ……)


 どさり。わずか早くリズが地面に付く。その瞬間、予選の終わりを告げる電子音が鳴った。

 僅差で俺は生き残った。リズ失格の時点で残り三人だったらしい。思わず側に歩み寄る。


「大丈夫か? どうして俺をかばったんだ?」

「……さみしくないから。私はキールさんの味方。でも、レンのことも応援してる」

「……そうか。分かった。ありがとうな」

「……がんばって」


 あえて口を閉ざすリズ。最後にかわいいことしやがって。深くは聞かないことにした。

 これで決勝に進める。優勝できたら賞金は三等分しよう。つっても敵は強者揃いだけど。

 数分後に組み合わせが発表された。俺の初戦相手は、なんやかんや勝ち残っていたキールだった。


―――――


 レンさんとキールさんが決勝に残りました。さすがです。ボブさんも見た目通りの強さです。

 ドール君と並んでの試合観戦。より盛り上がる決勝戦。陰ながら応援したいと思います。


「みんな強いね。ドール君は怪我してない?」

『心配には及びません。不死身ですから』


 私の方を見て話してくれるドール君。舞台の方に顔を向けた後、さらに言葉が続きました。


『アリシアさん』

『?』

『僕は、みんなと会えて、本当によかったです。楽しい毎日でした。アリシアさんも、どうかお体に気を付けて』

「ドール君……?」


 すぐ隣にいるはずなのに、なぜか私には、ドール君がどこか遠い存在みたいに感じました。

 まるでお別れを告げていたような声。気のせいだといいのですけど。

 観客の声援。優勝争いが始まります。舞台に視線を注いだ私の心からは、いつの間にか疑問は消えていました。


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