第20話 七十連の結果と、作戦会議
深夜一時。
冬馬は七十連目の光の柱を眠い目でにらんでいた。
「……ここまでSレアが十八個」
「ぷう」
「SSレアはまだ、ゼロ」
「ぷう……」
十連ごとに確定のSレアは出る。それでも確率の壁は厚い。この一ヶ月、運がよすぎたのかもしれない。
四十二連目のあたりでようやく、虹色の光が柱になった。
《★★★☆ SSレア 雷霆の籠手》
「おっ、来た!」
籠手を装着すると、紫電の短剣がぱちぱちと、いつもより強い光を帯びた。疾風の籠手の上位互換のようだ。
五十九連目。もう一度、虹色。
《★★★☆ SSレア 千里眼》
「千里眼……これは探知系か」
試しに意識を集中してみる。
壁の向こう側に隣の部屋の住人のシルエットがうっすらと、浮かび上がった。
「うわっ、見えすぎる、これ、プライバシーが!」
慌てて、スキルを切った。
(ダンジョン限定で使おう)
最後の七十連目。
光が金色に染まった。
《★★☆☆ Sレア ペットサモンカード》
「…………」
冬馬はポムを見た。ポムも冬馬を見た。
《重複カードを検出しました。ペット「ポム」を強化しますか?》
《第2段階 → 第3段階》
「いいかポム」
「ぷう」
「痛くないか。苦しくないか」
ポムはこくりと、頷いた。それから冬馬の膝から降りて、ちょこんと、床に座った。
「…………はい」
光がポムの全身を包んだ。
淡い輝きがゆっくりと収まっていく。
「…………」
そこにいたのはひと回りいや、ふた回り大きくなったポムだった。
猫サイズから柴犬くらいの大きさに。白い毛並みはより豊かに。耳はぴんと長く、先端がほんのりと桃色に染まっている。
「ぷう」
声は前よりも少しだけ、低く、やわらかくなった。
「おお……大きくなったな、ポム」
頭を撫でると、ポムが満足そうに目を細めた。
画面の新しい項目を確認する。
《ポム 第3段階:結界魔法を習得(ふわふわ結界) 効果:味方全体への、防御障壁》
「結界、か。ついに守る魔法まで」
「ぷう」
ポムが胸を張った。かわいい。ただし、かわいいがさらに場所をとる。
「……ベッドが狭いな」
「ぷう?」
「いや、いいんだ。お前が一緒に寝てくれるなら」
翌朝。
壁がどんどん、と叩かれた。
「椎葉さーん! 朝から何か大きなものが動いてません!?」
管理会社の人の声だった。
冬馬は反射的にポムの上に毛布をかぶせた。
「ぬ、ぬいぐるみです! 大きな、ぬいぐるみを買いまして!」
「ぬいぐるみ!? 動いてましたけど!」
「ぷう」
「今、鳴きましたよね!?」
「ぬいぐるみ、です!」
結局、その日のうちに冬馬は不動産会社にペットの飼育の可否を問い合わせることになった。
結果はまあ、いろいろあって、後の話である。
作戦会議までの、三日間。
冬馬は仕事帰りに毎晩、ギルドの訓練場へ通った。
目的はレオニーさんの、特訓だった。
「冬馬さん、お願いします。剣理をもっと、使いこなしたいのです」
「俺でいいんですか。剣術は素人ですよ」
「だからこそです。攻撃を見切るには実際に攻撃してくれる人が必要ですから」
冬馬は木製の模擬剣を握った。
身体強化Ⅰに剛腕、疾風の籠手。手加減してもかなりの威力だ。
「いきます。高速移動、なしで」
「はい」
冬馬が木剣を振る。
レオニーさんの目に銀の線が浮かぶ。
半歩、動く。木剣が空を切る。
「もう一度」
「はい」
一時間、二時間。
レオニーさんは汗だくになりながら何十回も冬馬の木剣を見切り続けた。
ときどき、受け流して、返す。木剣と木剣がぱん、と、乾いた音を立てた。
「ぷう」
ポムは訓練場の隅で冬馬が買ってきた、おにぎりをぱくぱく食べながら見守っている。
三日目の、夜だった。
レオニーさんの、頭の中に声が響いた。
《剣理Ⅱが剣理Ⅲに成長しました》
《剣理Ⅲ 効果:剣気――見切った軌道に剣の力を乗せて、離れた敵を斬る》
「…………!」
「どうしました?」
「剣理がまた、育ちました。……見ていてください」
レオニーさんが訓練場の、奥の、的に向けて、長剣を振り抜いた。
ひゅっ。
銀色の、三日月のような光が刃から放たれた。
光はまっすぐに飛んで十メートル先の、鉄の的をすぱん、と、断ち切った。
「…………」
「…………」
「ぷう……」
冬馬もポムも鉄の的の断面をじっと、見つめた。
「飛びましたね」
「飛びました。……剣気、というそうです」
「十メートルはすごいです。これなら囮じゃなくて、遠距離の援護も」
「はい。冬馬さんの、お手伝いがもっと、できます」
レオニーさんは嬉しそうに剣を鞘に収めた。
汗で前髪が頬に張りついている。
冬馬は思わず目を逸らした。
(落ち着け、三十三歳)
「ぷう」
ポムがじっと、冬馬を見つめていた。
見透かされている気がした。
三日後。ギルドの会議室。
長いテーブルを囲んで探索者たちが顔を揃えていた。
鷲尾さんのパーティ。
大盾の鷲尾さん。身軽な動きの、斥候の七瀬さん。杖を持った、物静かな魔法使いの久世さん。穏やかな目をした、治療師の真壁さん。
「おう、バット。久しぶりだな」
「お久しぶりです、鷲尾さん」
「改めて、紹介しておこう」
鷲尾さんが仲間たちをひとりずつ、紹介してくれた。三人とも礼儀正しく、頭を下げる。
「バットのおじさんが本当にいる……」
七瀬さんが小声で感動していた。
「だからバットは」
「ほらな」
鷲尾さんがにやにやと笑う。
獅子堂は会議室の隅の椅子に腕を組んで座っていた。冬馬と目が合うと、無言で軽く顎を動かした。挨拶の、つもりらしい。
荒垣さんが全員が揃ったのを確認して、前に立った。
「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。今回の依頼の概要を説明します」
壁のスクリーンに三階層の地図が映し出された。
「ゴブリンの巣の入口はおそらく、三階層の西側の崖の裏にあります。複数の探索者の証言と、魔物の移動経路から割り出しました」
赤い点が地図の一角に記されている。
「巣の内部の構造は不明です。ただし、規模は相当に大きいと見られます。数百体規模の可能性もあります」
「数百」
会議室がざわめいた。
「ですから今回は三パーティによる、合同作戦とします。鷲尾パーティ、獅子堂くん、そして、椎葉パーティ」
荒垣さんは冬馬の方を見た。
「椎葉さん。装備や物資について、何かご要望は」
「あの、荷物は俺が運びます」
「ほう?」
「ガチャで……いえ、拾い物で容量拡張の、鞄を持っていまして。食料もポーションも全員分、運べます」
隣のレオニーさんがそっと頷いた。
鷲尾さんが目を細めて、冬馬を見た。何か言いたそうだったが結局、にやりと笑って、頷いた。
「バットの鞄はまた、とんでもないやつなんだろうな」
「いえ、そんな」
「いい。詮索はしない。ありがたく、使わせてもらう」
荒垣さんが続けた。
「出発は明朝、八時。ギルド前に集合してください。……全員、必ず、無事に帰ってきてください」
その言葉に会議室が静まり返った。
ポムが冬馬の足元で小さく、ぷう、と鳴いた。
冬馬は拳をそっと握った。
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