5話 理解が追いつかない。
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眩しい光で目を覚ました。
柔らかい布団。窓から差し込む朝日。遠くから聞こえるテレビの音。どこか懐かしいフィギュア、変なシミがある天井。
「……戻った?」
思わずポツリと声が出る。
女神の事を信用していなかったから期待はしていなかったが ここは魔王城じゃない。血の臭いもしない。冷たい石床でもない。
きっとここは日本だ。
しかもここは俺が12歳まで住んでいた家。実家に帰ってきた。帰ってこれた。
ということは今12歳??いや、そんな事はいい。年齢が前後するなんて想定済だ。俺が暮らしていた日本に戻ってこれた。その事実に 全身から力が抜ける。
もう勇者をやらなくていいんだ…。
もう殺さなくていい……。
もう、人が生き死にで涙を流す戦場にいかなくていいんだ……!!
そう思った瞬間だった。
_____違和感。
視界が低い。いや12歳にしては低すぎないか?身体が妙に軽いし、そういや声も幼かった様な……。
ゆっくり自分の手を見る。
「……は?」
小さい。
もみじ饅頭かってくらい可愛らしい幼児みたいな手が目の前で、俺の意思でグーパーグーパーしている。
混乱していると、部屋のドアが開き顔をだす。
「あら、起きてたの?」
入ってきた女性を見て俺は固まった。
俺の母親、母さんだった。
「あっ……かあ、さん?。」
母さんは俺が12歳の頃亡くなった。
女手1つで育ててくれた母さんは過労により亡くなって俺は転校、そして養護施設で育った。
目の前にはもう会えないと思っていた母さんがいる。
しかも記憶よりずっと若い姿で。
(やばい……、泣きそうだ。)
母さんは優しく笑う。
「フフッ 寝ぼけてるのかしら。静かにしてね 妹ちゃん起きちゃうからね。」
____________妹。
その言葉に思考が止まる。
俺は一人っ子だ。
少なくとも、勇者として召喚される前までは。
母さんは俺の部屋に入りベッドの横に座る。
腕の中には、小さな赤ん坊。
「勇志がずっと見たがってた赤ちゃんよ~♪」
「!!!」
「ほら、お兄ちゃんですよ~♪」
母さんは愛おしそうに赤ん坊を俺に見せてきた
俺と同じ黒髪。白い肌。
しかし ゆっくり開いた瞳は日本人離れした黄金色。
目が合う 誰かに似ている。そう思ったその瞬間。
ズキン、と右眼が痛んだ。
熱を持つ。
「……っ。」
顔が青ざめる。
《神眼》。
なんで。
なんで戻ってきても残ってる。
見たくない。
そう思ったの
に。
視界に勝手に文字が浮かび上がる。
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【個体名】???
【状態】 健康。おなかいっぱい
【 備考】 元・117代目魔王アダリア。現・118代目魔王。生後2週間
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一瞬呼吸が止まる。
「は……?魔王、アダ、リア……?」
理解が追いつかない。
なんで。
なんで魔王がいる。
なんで赤ん坊になってる。
なんで妹なんだ。
てか118代目魔王ってなんだ。
混乱する俺をよそに赤ん坊はぽけっとした顔でこちらを見ている。
「ん??リア??この子まだ名前が決まってないんだけど……。そうねぇ、リアちゃんって可愛いかもしれないねぇ。」
母さんは 俺の髪を撫で抱き寄せると
俺の前に魔王アダリアの顔が来るようにする。
「リアちゃ~ん。貴女は今日からリアちゃんよ 。お兄ちゃんが考えてくれたのよ。」
アダリアが俺を見つめる。
俺は変に緊張した。身体が固まりごくんと喉を鳴らす。黄金色の目が美しい。
そして____________。
ふにゃ、と俺を見て笑った。
言葉を失った。
「かかかか、かわいすぎる!!!!!!!」
「でしょー!!!可愛いのよ!!!」
ビックリだ。赤ん坊がこんなにも可愛いなんて、
なんというかハートを打ち抜かれた様な衝撃だ。
これが身内フィルターってやつか??いや、そもそも本当に兄妹なのか?
そもそも、父さんは俺が赤ん坊の時から居ないらしいし。
よく見たら魔王城で見た魔王アダリアとなんとなく似ていると言うか面影がある。
けれど今はただの可愛い赤ん坊だ。
(前世の記憶はあるんだろうか……。)
そんな事を思っていると神眼が追加情報を表示する。
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【備考】記憶保持率 0%
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俺は息を呑んだ。
覚えていないんだ。
この赤ん坊は 何度も魔王をしていて何度も自分が死んだことも。
ということは俺の事も覚えていない筈。
安堵で胸を撫で下ろす。
そしてなんとなく理解する。
きっとまた女神にしてやられた。
たしか俺は『魔王の願いを叶えてやって欲しい。』と伝えた筈だ。
それが 現・118代目魔王って……。確か最期に普通に生きてみたいと言っていた。魔王を辞めたいとか、そういう願いじゃ無かったのか?ピンポイントに俺の妹に転生してくるか?
「はぁ……。」
脳裏に、女神の笑顔が浮かぶ。
あいつは絶ツツ対、面白がってる。
もしこの子が再び魔王になったら。いや、もうなっているのか。
俺の願いはもう勇者として呼ぶな。って伝えたから他に勇者もいるんだろうか。
______この子は、また倒されてしまうのだろうか。
赤ん坊を見る。
俺は自然に赤ん坊を触ろうと手伸ばしていた。
赤ん坊は何も知らない純粋無垢な顔で俺を見つめたあと、俺の指を掴んだ。
小さかった。
驚くほど。
その瞬間。
涙が頬を伝う。
なんでこんな可愛い赤ん坊が魔王にならなきゃいけないんだ。
勇者なんて、もうやらない。
世界平和、人類滅亡なんか知らない。
けれど。
この子だけは。
今度こそ自由に幸せになって欲しい。
「……俺が守る。」
俺が小さく自身に訴えるように呟くと赤ん坊、アダリア。いや、リアは嬉しそうに笑った。
母さんも俺とリアの様子を見てクスリと笑う
「良かった〜。2歳差はイヤイヤ期と被るから大変って聞いてたけど大丈夫そうね!」
__________ん??
「2歳差???」
「??何言ってるの〜。昨日までボク、2ちゃいです!って言えてたじゃない。」
もう赤ちゃん返りー?と横で聞いてくる母さんを横目に俺は再度自分の両手を見詰める。
_____ああ、たしかに、
「2歳児って言われてしっくり来るわ……。」
母さんの心配する声を聞きながら俺は今度はトホホと涙を流した。
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、
その頃。
遥か上空、天界。
女神は寝転がりながら、その光景を眺めていた。
「くふふっ。」
肩を震わせ笑っている。
「情は湧かせるもんじゃないよ。元勇者くん。」
指先で空中をなぞる。
そこには、成長した未来予想図のように、少女になったアダリアの姿が映っていた。
「さーて。」
愉悦に満ちた声で呟く。
「面白い最期だといいなぁ。」




