第99話 実力試験(ベンチマーク)のスコアと、限界突破(オーバークロック)による証明
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
4月中旬。
新学期早々に行われた「全学年一斉・実力試験」の結果が、1階の掲示板に張り出された。
学年上位50名の名前と総得点が公開されるこの日は、3年生たちにとって自らの立ち位置を突きつけられる残酷なイベントだ。
「うわぁ……今年もやっぱり、あの二人がトップかよ」
「いや、点数見てみろよ。マジでバケモノだろ……」
掲示板に群がっていた生徒たちが、ざわめきながら道を空ける。
そこへ歩いてきたのは、生徒会長の齋藤慎也と、副会長の花憐だった。
掲示板の最上段、燦然と輝くツートップのスコア。
【第1位】齋藤 慎也 998点(1000点満点中)
【第2位】花憐 995点
【第3位】…… 812点
「……ふむ」
キースラインは自らのスコアを一瞥し、忌々しそうに眉をひそめた。
「物理の最終問題、重力加速度の計算で小数点以下の丸め処理を1桁見落としたか。……ヒューマンエラー(ケアレスミス)による2点のロスト。極めて非効率で腹立たしいバグだ」
キースラインが涼しい顔(内心は不機嫌)で吐き捨てる横で、花憐は自分の「995点」というスコアを見た瞬間、ふぅっと全身の力が抜けたようにその場にしゃがみ込みそうになった。
「よかったぁ……。落ちて、ない……っ」
彼女の額にはうっすらと汗が滲み、目の下にはメイクで隠しきれない薄いクマがあった。
「……おい、どうした。システムダウンか?」
キースラインが冷たい声で問いかけるが、その視線は、花憐の少し開いた鞄の中身を正確に捉えていた。
そこには、付箋で膨れ上がり、表紙が擦り切れた分厚い参考書が何冊も詰め込まれていた。さらに、インクを使い果たしたボールペンの束が、彼女の春休みの「異常な出力(努力)」を物語っている。
彼女は天才ではない。キースラインという「完成されたスーパーコンピューター」に置いていかれないためだけに、人間の脆弱なハードウェアを限界までオーバークロックし、無理やり彼と同じ演算速度に引き上げていたのだ。
「ううん、違うの。ちょっと、安心しちゃって……」
花憐は立ち上がり、無理に笑顔を作った。
「齋藤くんに、『スペック不足だ』って、切り捨てられなくて済んだから」
「……」
キースラインは、花憐の指先にできたペンダコと、充血した瞳をじっと見つめた。
「……馬鹿な女だ。たかが学校のベンチマークテストのために、自らの生体リソース(睡眠と体力)をそこまで削り落とすとはな。冷却装置(休息)の不足による熱暴走で、いつかハードごと焼き切れるぞ」
口から出るのは辛辣な言葉ばかりだが、キースラインは花憐から鞄を無言で奪い取ると、自分の肩にひょいと掛けた。
「えっ、ちょっと、齋藤くん……?」
「……だが、貴様のその『非効率極まりない根性(演算のゴリ押し)』だけは評価してやる。私の要求仕様に追いつくためだけに、己の限界を突破したのだからな」
キースラインは、花憐を見下ろしてニヤリと笑った。
「安心しろ。貴様が自壊しないよう、これからは私が貴様のスケジュール(タスク)を完全に管理してやる。……貴様は私の専属参謀なのだ。勝手に壊れることは許さん」
「……っ! もー、素直に『よく頑張った』って言ってくれればいいのに!」
花憐は頬を赤くして膨れ面をしたが、その表情は心底嬉しそうだった。
圧倒的な才能で頂点に立つ王と、彼に寄り添うために血のにじむような努力で限界を突破し続ける少女。
遠巻きに見ていた健太は、その「次元の違う絆の深さ」と、花憐の凄まじい執念を目の当たりにし、自分が入り込める隙間など1ミリも存在しないことを完全に悟って、逃げるようにその場を去っていった。
「さあ、行くぞ花憐。……今日は生徒会の仕事は休ませてやる。私の家で、貴様のすり減ったメモリ(疲労)を回復させるための、高栄養価の食事を作ってやろう」
「えっ、本当!? 齋藤くんの手料理、久しぶり!」
キースラインの不器用な労い(デレ)に、花憐の顔にようやく年相応の明るい笑顔が戻る。
誰も追いつけない二人のトップは、連れ立って春の廊下を歩いていくのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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