第96話 処理落ち(スタミナ切れ)の危機と、自律型サブプロセッサによるヘイト管理
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
「ハァッ……! ハァッ……!」
魔王領の砂漠。
慎也の荒い息遣いが、乾いた空気に溶けていく。
ズバァァァッ!!
力を振り絞って放った剣圧が、前方のアリジゴクと上空の排泄物を吹き飛ばす。
だが、その威力は数時間前に比べて明らかに落ちていた。
(……くそっ。物理的な出力低下が著しい)
剣圧による強行突破。それは確実に道を拓いたが、同時に慎也の「腕の筋力」と「スタミナ」をゴリゴリと削り取っていた。
不完全な睡眠で70%しか回復していなかった体力は、終わりのない波状攻撃の前に、今やレッドゾーン(10%未満)にまで落ち込んでいる。
背後を走るガルドたちも、足取りは重く、限界が近いのは明らかだった。
その時。
突如として、周囲を埋め尽くしていたサソリと上空の怪鳥たちが、潮が引くように姿を消した。
「……! 敵のアクセス(攻撃)が……止んだ?」
慎也が剣を杖代わりにして膝をつき、血走った目で周囲を睨む。
ザザァッ……。
砂丘の頂上から、ゆっくりと五つの影が姿を現した。
砂漠の熱気と瘴気を纏った、人型の魔人たち。この砂漠のトラップを管理していたボス、「砂影の五連星」だ。
『ククク……よくぞここまで辿り着いた、勇者よ。だが、もう立っているのがやっとのようだな』
リーダー格の魔人が、歪な双剣を構えて嘲笑う。
「……なるほど。相手のリソースが完全に枯渇するタイミングを見計らっての、管理者のお出ましというわけか。……セコいスクリプトを組む奴らだ」
慎也は立ち上がろうと足に力を入れた。
だが、筋肉が痙攣し、膝がガクンと折れそうになる。万全のスペックなら5秒で処理できる程度のザコだが、今の慎也には剣を振り上げる力すら残っていなかった。
『死ね!!』
五人の魔人が、一斉に砂を蹴って殺到してくる。
絶対絶命のタイミング。慎也が「システムダウン」を覚悟した、その瞬間。
「……リーダーは下がってな!!」
ガルドの巨体が、慎也の前に割り込んだ。
「ガルド……?」
「へへっ、いっつもアンタの頭脳に助けられてばっかだったからな。たまには俺たちにも、カッコつけさせろや!!」
ガルドは斧を地面に叩きつけ、全身の筋肉を限界まで膨張させて、砂漠中に響き渡る大咆哮を上げた。
「ウォォォォォォッ!! 俺を狙え、砂のドブネズミ共!!」
戦士のスキル『挑発』。
魔人たちの視線が、強制的に慎也からガルドへと引き剥がされる。
『小賢しい肉壁が!』
二人の魔人がガルドに斬りかかる。ガルドは新しい重装甲でそれを受け止めるが、疲労で足を踏ん張れず、激しく吹き飛ばされて砂を転がった。
「ガルド! ……やらせないっスよ!」
ナイルが残された最後の力を振り絞り、魔人の死角から短剣を投擲する。
「私も……! リーダーには、指一本触れさせない!」
ミナが鞭を振るい、魔人の足に絡みついて動きを鈍らせる。
「エリス、回復はいい! ガルドたちへの防御バフ(リソース)に全魔力を回せ!」
「はいっ!!」
エリスの放つ光が、ボロボロになりながらも魔人たちのヘイト(攻撃の矛先)を一身に集める三人を包み込む。
慎也は、荒い息を吐きながらその光景を見つめていた。
満身創痍の仲間たちが、格上のボス五人を相手に、必死に食らいついている。殴られ、斬られ、砂に塗れながらも、絶対に慎也の方へは敵を行かせまいと「壁」になり続けている。
(……自律型のサブプロセッサどもめ。勝手に私のタスク(ヘイト)を肩代わりするなど、生意気な……)
慎也の口元に、彼自身も気づかないほど自然な、微かな笑みが浮かんだ。
彼らが稼いでくれているこの数分間。それは、オーバーヒートした慎也のCPU(脳)と肉体を「再起動」させるための、何よりも尊い時間だった。
「……ガァハッ!!」
数分後。ついにガルドが限界を迎え、魔人の蹴りを受けて膝をついた。
ミナもナイルも動けず、エリスの魔力も完全に底を突く。
『終わりだ、ゴミ共!!』
魔人たちが、仲間にトドメを刺そうと凶刃を振り上げた。
「……よく耐えた。再起動、完了だ」
シュラァァァァンッ!!
澄み切った抜刀音が、砂漠の熱気を切り裂いた。
仲間たちが稼いだ時間で、最後の一撃分だけ「魔力と腕力」を回復させた慎也が、魔人たちの背後に立っていた。
『なっ……!?』
振り向いた五人の魔人の視界を、蒼い絶対零度の閃光が覆い尽くす。
「……最適化してやる」
放たれた一閃。
それは、余分な力が一切入っていない、極限まで研ぎ澄まされた完璧な剣筋だった。
仲間たちの決死のヘイト管理によって一箇所に固まっていた魔人たちは、回避する間もなく、五人まとめてその蒼い軌跡に両断された。
ドサァッ……。
魔人たちが砂に崩れ落ち、光の粒子となって消滅していく。
「……はぁ、はぁ……」
慎也は剣を杖にして、ついにその場にへたり込んだ。腕は鉛のように重く、もう指一本動かせない。
完全なスタミナ切れ。正真正銘の、限界ギリギリの辛勝だった。
「……へへっ。やったな、リーダー……」
ボロボロのガルドが、砂まみれの顔で笑いかけてくる。
「……ああ。貴様らの無謀なヘイト管理のおかげだ。……及第点を与えてやる」
一切の余裕を失い、全員が砂の上に大の字になって倒れ込む。
しかし、ボスを倒したことで周囲の砂漠の瘴気は晴れ、ようやく彼らには「本当の安息」が訪れたのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




