第124話 静的ペイロード(機雷型トラップ)の検知と、A*(エースター)探索による経路最適化
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
巨大な水の壁の内部。
水棲魔族(自律型迎撃デーモン)の散発的な攻撃を退けながら、勇者一行の「完璧な分散処理システム」は着実に歩みを進めていた。しかし、魔王軍の強固な防衛網は、単一の攻撃パターンだけでは終わらなかった。
「ッ! リーダー、ストップ! 前方に無数の障害物よ!」
パーティの「目」であるミナが、鋭い声で進行の停止を指示した。
慎也が膜の進行を止め、伊達眼鏡の奥で前方をスキャンする。
暗い水の中に浮かんでいたのは、無数の黒い球体だった。それらは水棲魔族のように動くことはなく、ただ不気味に、そして等間隔に配置され、水の対流に揺られている。
「……なんだありゃ。機雷か?」
ガルドが大盾を構えながら顔をしかめる。
「静的ペイロード(設置型トラップ)……接触反応型の『論理爆弾』だな。不用意なパケット(我々)が接触した瞬間に爆発し、周囲の水圧を急激に膨張させてインフラ(膜)を物理的に押し潰す設定だろう」
慎也は冷徹に分析した。
「じゃあ、ミナの弓で遠くから射抜いて爆破しちまえばいいじゃねぇか」
ナイルが提案するが、慎也は即座に却下した。
「却下だ。水中での爆発は、凄まじい衝撃波を引き起こす。この至近距離で起爆させれば、連鎖爆発を招き、我々を守るこの脆弱なインフラ(空気の膜)が一瞬でクラッシュする」
「……なるほど。動く敵を囮にして、本命の固定罠に追い込む『複合型のフィッシング攻撃』というわけか。よくできたアーキテクチャだ」
慎也の視線の先では、背後や上下から再び水棲魔族たちが接近し、一行を機雷原へと意図的に「押し込もう」としていた。
「キースライン様、どうしますか!? 立ち止まっていれば、敵に押し切られます!」
魔力を供給し続けるエリスが焦燥の声を上げる。
「強行突破する。……ミナ! 貴様の索敵能力で、前方に配置された全機雷の三次元座標を私の脳内に直接出力しろ! 隙間を縫う!」
「ええっ!? 座標って言われても……とにかく、見えてる『危ない点』の位置を全部送るわ!!」
ミナが目を閉じ、自身の直感と視覚情報を魔力に乗せて慎也へと同期させる。
慎也の脳内に、無数の機雷の配置データがマッピングされていく。
「……マップデータの取得完了。これより『A*(エースター)探索アルゴリズム』を実行し、現在地から突破口までの『最短かつ安全なルーティング』を算出する」
慎也は両手から放つ魔力の性質を、瞬時に切り替えた。
「全員、極限まで密着しろ! 膜の形状を、球体から流線型(可変長パケット)へと『動的変形』させるぞ!」
慎也の号令とともに、今まで半径1.5メートルほどあった球状の空気の膜が、ギュルルッと縦に細長く変形した。当然、内部の空間は極端に狭くなる。
「うおっ!? 狭ぇ!!」
「ちょっとガルド、鎧が当たってるわよ!」
「す、すんませんミナさん! エリス様も、足踏まないでくださいっス!」
大男のガルドを中心に、パーティ全員が満員電車のようにギュウギュウ詰めに密着する。
慎也は一切の表情を変えず、細長くした「空気のカプセル」を操り、機雷と機雷のわずかな隙間へと滑り込ませた。
「右へ20度、下へ15度! 膜の表面積を最小に保て!」
機雷が膜の表面からわずか数センチの距離を掠めていく。
息を吸えば膨らんだ胸が膜の外へ出てしまいそうな極限の隙間を、慎也はアルゴリズムが弾き出した完璧な三次元軌道に従って、蛇のようにうねりながら通り抜けていく。
「ギ……ガァァッ!!」
その時、痺れを切らした水棲魔族の一体が、背後から機雷原を無視して突撃してきた。奴の持つ槍が、機雷の一つに接触しようとする。
「チッ……! 敵の自爆(ゼロデイ攻撃)か!」
「させないわ!」
密着状態のまま、ミナがアクロバティックに上半身だけを捻り、弓を弾いた。
放たれた矢が、自爆しようとした水棲魔族の腕を正確に射抜き、その衝撃で奴の軌道を「機雷の無い方向」へと大きく逸らした。
「ナイスだミナ! リーダー、そのまま抜けろ!!」
「……指示するな。演算の邪魔だ」
慎也は冷や汗一つかかず、最後の一連の機雷群の間を、スレッドを縫うような滑らかな軌道で潜り抜けた。
――そして。
「……前方に、光(出口)が見えたわ!!」
ミナの歓喜の声と同時に、一行を包んでいた凄まじい水圧がフッと軽くなる。
分厚い水の壁を完全に通り抜け、向こう側の「乾いた峡谷の地面」へと、一行は空気の膜ごと転がり出た。
「ぷはぁっ!! 死ぬかと思ったっス!!」
「ハァ、ハァ……。鎧の中で酸欠になるかと思ったぜ……」
膜が解除され、ナイルとガルドが地面に大の字になって新鮮な空気を貪る。
「……処理完了。システムの稼働状況に異常はないな」
慎也はただ一人、乱れた呼吸を見せることもなく、静かに伊達眼鏡のズレを直した。背中で魔力を供給し続けていたエリスが、安心したようにその場にへたり込む。
「完璧なルーティングだった。ミナの正確な座標データ(レーダー)と、全員の物理的リソースの圧縮(密着)がなければ、クラッシュは免れなかっただろう」
難攻不落と思われた物理法則無視の「流体ファイアウォール」と、その内部に仕掛けられた「機雷型ロジックボム」。
それすらも、論理的アルゴリズムと仲間の機能をフル活用した勇者(管理者)の采配により、完全に無力化することに成功したのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




