第119話 次期OS(生徒会長)候補の要件定義と、感情的UI(情緒)への脆弱性指摘
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
11月上旬。
秋も深まり、三年生である慎也と花憐の生徒会役員としての任期も、残すところあとわずかとなっていた。学園は次期生徒会長を決める「役員選挙」の準備期間に入っている。
放課後の生徒会室。慎也が次期役員への引き継ぎ資料(仕様書)の作成を進めていると、バンッ!と勢いよく扉が開かれた。
「失礼します! 現生徒会長、齋藤先輩ですね!」
そこに立っていたのは、二年生の女子生徒だった。次期生徒会長に立候補している、篠原という下級生だ。彼女は花憐とは対照的に、正義感に燃えるような強い瞳で慎也をキッと睨みつけた。
「……ノックもせずにポート(扉)を開放するとは、随分と無作法なアクセスだな。用件を手短に述べろ」
慎也はキーボードから手を止めず、モニターから視線も外さずに冷たく応じた。
「次期生徒会長候補として、現生徒会に抗議に来ました!」
篠原はツカツカと慎也のデスクの前に歩み寄り、両手をドンッと突いた。
「齋藤先輩のやり方は、冷酷すぎます! 部活の改革や体育大会の効率化……確かに結果(実績)は出ました。でも、今の学園には『心』がありません! 全員が数字や効率に縛られ、まるで機械の歯車(システムの一部)みたいに息苦しい思いをしています!」
「ちょっと、篠原さん! 齋藤くんは学園のために……!」
花憐が慌てて立ち上がり反論しようとするが、慎也は片手でそれを制した。そして、ようやくモニターから視線を外し、伊達眼鏡の奥の冷徹な瞳で篠原を観察した。
「……なるほど。現行システムに対する『致命的な欠陥報告』というわけか。具体的にどの機能が息苦しいと感じている?」
「全部です! 無駄を省くことばかり優先されて、生徒同士の温かい交流や、失敗を許し合うような『人間らしさ(情緒)』が排除されています! 私は次の選挙で勝ち、この学園を血の通った、温かい場所にロールバック(原状回復)させます!」
まるで魔王に立ち向かう勇者のような、堂々たる挑戦状。
感情と精神論を親の仇のように嫌う慎也ならば、一蹴して追い返すかと思われた。しかし――。
「……フッ」
慎也の口元に、微かな笑みが浮かんだ。
「……面白い。ユーザーインターフェース(UI)が機械的すぎて、エンドユーザーの感情的満足度(UX)が低下しているという指摘か。確かに、極限まで無駄を削ぎ落とした私のアーキテクチャは、高いスループット(結果)を叩き出す反面、一部のユーザーには『操作が冷たい(息苦しい)』と感じさせる仕様になっていることは否めない」
「え……?」
真っ向から否定されると思っていた篠原は、慎也が自身の主張を(IT用語まみれとはいえ)あっさりと認めたことに拍子抜けした。
「システムエンジニアとして、ユーザーからのフィードバック(苦情)は真摯に受け止めよう。……だがな、篠原」
慎也は立ち上がり、彼女を見下ろした。
「『心』や『温かさ』といった、数値化できない非機能要件(あいまいな理想)だけでシステム(学園)は運用できない。情に流されてエラー(不正や怠慢)を放置すれば、結局は真面目な生徒に負荷が集中し、組織全体がクラッシュする。……それが、私が着任する前のこの学園の惨状だったはずだ」
「う……それは……」
「貴様が現行OS(私のやり方)を否定し、新たなOS(次期生徒会)をインストールしたいと望むなら、立会演説会(公開コードレビュー)の場で証明してみせろ」
慎也は冷たく、しかし次代のシステムを担うかもしれない後輩へ、明確な試練を与えた。
「『効率』と『感情』。その二つを両立させる、矛盾のない完璧な要件定義を提示してみせろ。単なる『前任者への批判』ではなく、論理的な代替案を持ってこい。……それができなければ、貴様の脆弱なシステムは、私がこの手で完全にデリート(論破)する」
圧倒的な論理の圧を前に、篠原は一瞬怯んだものの、すぐに負けん気の強い瞳で睨み返した。
「……言われなくても、完璧な公約を作って見せます! 覚悟していてください、齋藤先輩!」
彼女はそう言い残し、嵐のように生徒会室を去っていった。
「齋藤くん……よかったの? あんなに喧嘩腰にされちゃって……」
花憐が心配そうに尋ねる。
「問題ない。むしろ歓迎すべき事態だ。……どんなに堅牢なシステムでも、運用を続ければ必ず陳腐化する。外部からのハッキング(批判)やペネトレーションテスト(侵入テスト)を受けてこそ、次世代のセキュリティ(生徒会)は強化されるのだからな」
自らのやり方を否定する下級生の登場すらも、システムを次代へ引き継ぐための「健全な負荷テスト」として論理的に受け入れる慎也。
世代交代の時期を迎え、学園のOSアップデートを巡る新たな戦い(選挙戦)の幕が上がろうとしていた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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