第118話 踏み台サーバー(プロキシ)の破棄と、フォレンジック(残留ログ)調査
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
静まり返った大都市の最奥。
豪奢な造りの領主の館に、ガルドの容赦ない蹴りが炸裂した。
ドゴォォォンッ!!
分厚い両開きの扉が蝶番ごと吹き飛び、勇者一行が館の内部へと雪崩れ込む。
「オラァッ! 出てきやがれ、この街の市民を操ってた腐れ外道!!」
ガルドが大斧を構え、ナイルも両手に短剣を握り締めて索敵する。
しかし、館の中には不気味なほどの静寂だけが広がっていた。敵の伏兵はおろか、使用人の姿すらない。
「……上だ。最上階のメインルームに、わずかな魔力の残滓(熱)がある」
慎也の冷徹な指示に従い、一行は階段を駆け上がる。
最上階の豪奢な扉を蹴り破ると、そこには床一面に複雑な魔法陣が描かれた、広大な儀式部屋があった。
魔法陣の中心には、周囲の魔力を集約・増幅させるための巨大な黒水晶が鎮座していた。しかし、その水晶には無数のヒビが入り、今まさにパラパラと崩れ落ちようとしているところだった。
「……もぬけの殻、か。どうやら逃げ足の速いウサギのようだな」
慎也は崩れゆく黒水晶を前に、忌々しそうに伊達眼鏡を押し上げた。
「逃げた!? どこにっスか! リーダーのジャミングで通信が切れてから、まだ数分しか経ってないっスよ!?」
ナイルが慌てて窓の外を見渡すが、怪しい影はどこにもない。
「物理的に逃走したのではない。『最初からここにはいなかった』のだ」
慎也は魔法陣の縁に歩み寄り、焼け焦げた床の匂いを嗅いだ。
「ここは単なる『踏み台サーバー(プロキシ)』だ。敵の管理者は、離れた場所からこの館の水晶にアクセスし、そこを経由して街の市民に命令を下していたに過ぎない。……私がジャミングで通信を遮断した瞬間、逆探知されるのを恐れて、自らこの中継拠点の物理的な破壊(証拠隠滅)を行ったのだ」
「えっ……じゃあ、結局誰がこんな罠を仕掛けたのか、分からないままってことですか?」
エリスが不安げに問う。
有能な管理者は、決して自分のメインアドレス(本拠地)を晒さない。
完全にログは消去され、手がかりは絶たれたかに見えた。しかし、慎也の口元には不敵な、そしてシステムエンジニア特有の「バグを見つけた時の笑み」が浮かんでいた。
「……素人を相手にするなら、これで完璧な『ログの隠滅』だっただろうな。だが、ソフトウェアのテストと解析を本業とする私を出し抜くには、あと十年早い」
慎也は聖剣を鞘に納め、砕け散った黒水晶の破片の一つを拾い上げた。
「デジタルデータは消去コマンドを実行しても、ストレージのセクタ上にはしばらく物理的な磁気パターン(残留魔力)が残る。……エリス、私の魔力探知に貴様の浄化魔法の『抽出』の波長を重ねろ。消された通信ログ(ルーティングテーブル)の『フォレンジック調査(デジタル鑑識)』を行う」
「は、はいっ!」
エリスが慎也の背中に手を当て、聖なる魔力を注ぎ込む。
慎也はその魔力をレンズのように用い、黒水晶の破片に残された極微量の「外部からの接続痕跡」を可視化していった。
空中に、青白い魔力の糸が幾重にも浮かび上がる。
それは複雑に絡み合いながら、やがて一本の太い線となり、窓の外――魔王城のある方角とは少しずれた、険しい山脈の中腹へと伸びていった。
「……接続元IP(座標)を特定。だが、魔王城の座標とは一致しないな」
「魔王城じゃないのか? じゃあ、一体どこから繋いでたんだよ」
ガルドが眉をひそめる。
「当然だ。あの巨大な城からここまで、数千人のボットをリアルタイムで直接制御しようとすれば、物理的な距離による深刻な通信遅延が発生し、動きが破綻する。……必ずこの街の近隣に、信号を増幅・管理するための『中継ルーター(地域拠点)』が存在するはずだ」
慎也は水晶の破片を投げ捨て、空中の魔力線が指し示す山脈の頂きを見据えた。
「見えたぞ。このエリア一帯のネットワークを管理している、地方司令官の防衛陣地だ。我々が本陣へ至るためには、まずあの厄介な中継拠点を物理的に制圧し、ネットワークのルーティング権限を奪取する必要がある」
魔王城への道のりは、まだ遠い。
しかし、敵の巧妙な隠滅工作すらも論理と解析の力で逆手にとった勇者一行は、次なる攻略目標へと確実にその歩みを進めるのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。
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