表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Take On Me   作者: マン太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/42

28.雨

「なあ、叫べよ。あいつの前でお前を殺ってやるからさ…。あいつの泣き顔が見られるか? いい気味だ…」


 くくっと耳元で倫也(ともや)は笑う。

 ここまで来ると、何を言ってもダメだろう。

 ぐっと腹に固いものが押し付けられた。それは布地を既に突き刺して、肌を軽く刺している。


 本気だ。っていうか、油断した。


 俺としたことが。


 (たける)は気付かずそのまま土手を下りて行こうとする。勿論、呼ぶつもりはなかった。

 嫌なのが、冗談でなく岳との思い出が、走馬灯の様に頭の中を駆け巡った事だ。


 なんだよ。なんかフラグ立ってたのかよ。


 俺は深く息を吐き出す。


 岳、俺──。


「いいよ。お前が呼ばねぇなら、俺が呼んでやる──」


 倫也が息を吸い込み声を張り上げようとした瞬間、倫也を背負い込む様にしゃがみ込み、その身体を川側の土手へと押し倒した。


+++


 ふと、呼ばれた気がして、土手を下る階段を降り切る前に顔を上げた。

 しかし、そこに大和の姿はない。

 帰ったのだろう。


 でも、また会える。


 それは自分の努力次第だ。

 決して望んだ道ではないが、そこに大和がいてくれるなら乗り切って行ける気がする。人としての何かを失わずにいられる気がするのだ。

 あいにくの小雨も、今の岳には温かい祝福の雨に思えた。


 大和はこの手の中にある。


 抱きしめた時の温もりを忘れぬよう、そっと掌を握り締めた。

 ふと、胸ポケットに入れた端末に目が行った。


 後で連絡するとは言ったが。


 声が聞きたくなった。

 

+++


 先ほどから雨粒が大きくなってきている。

 露を含んだ草花は重くしなだれて身体にかかっていた。

 腹のあたりが熱い。熱くてドクリドクリと何かが流れ出ていくのが分かる。

 見なくても分かる。

 あいつを土手に突き飛ばした時、腹に当てられたナイフが刺さったのだ。


 しゃがめば、それは刺さるだろう。


 けれど、あのまま、岳を振り向かせるわけにはいかなかった。

 気付けば岳は戻ってくる。そして、倫也にやられ無いにしても、何らかの怪我を負う可能性があった。それは避けたかったのだ。

 その倫也はどうなったのか。

 俺が引き倒した瞬間、ぐうとかなんとか言ったが。

 僅かに首を巡らすが、身体が思う様に動かず、見つけ出すことができなかった。

 その辺に転がってるならいいが。


 とにかく、救急車か? 連絡、しねぇと。


 携帯は尻のポケットだ。


 てか、身体、動かねぇ。


 さっきから酷く寒く感じる。それでも力を振り絞って腕を回し、尻ポケットを探り携帯を取り出す。

 手が震え血にまみれたそれは、画面が良く見えなかった。目が霞む。


 ああ、なんかこれって、最後って奴? こんな風に、終わるのか…。


 ふと携帯が鳴った。表示は岳だ。


 って、あいつ。何、すぐかけてんだよ。見かけに寄らず、ガキだな。あいつも──。


 俺には言われたくないだろうが。


+++


「大和?」


『…んだよ。なに、すぐかけてんだよ』


 ワンコールで大和は出た。

 

「いや。その…ちゃんと繋がってるか気になって。真琴が連絡先を教えてくれたからさ」


『子どもか…?』


 携帯の向こうの大和が笑う。


「子どもでいい。いま、どこにいる?」


 その問いに、暫くの沈黙の後。


『もうじき、アパートに着く…』


「そっか。なあ、いつか、そこに遊びにいってもいいか? 勿論、目立つような真似はしない」


『…好きにしろよ。アパートの連中、きっと、びっくりするって。岳みたいに、カッコいい奴、見たこと、ないからさ…』


「良く言う。…なあ、大和」


『…なんだ?』


「好きの上ってなんだろうな?」


『なに、乙女みたいなこと、言ってんだよ…。そんなの、決まってんだろ?』


 大和の声が小さく呟くようになる。


「なんだよ。言ってみろよ」


 ふっと笑って先を促せば。すうっと息を吸う音が聞こえ。


『岳…。好きだ。大好きだ。ずっと…愛してる──』


「俺もだ」


 そこで通話が途切れた。

 岳は通話履歴に目を落としたあと、端末を胸に仕舞う。


 必ず、迎えに行く。大和。


+++


「お母さん! ここに寝てるひといるよ!」


 先ほど大和の横を通り過ぎた一団だ。

 子どもたちは雨脚が強くなってきたため帰ってきたらしい。母親が子供の声に笑いながら答えるが。


「ええ? 寝てるって、雨なのに寝てる訳──」


 そのあと、小さな悲鳴と、騒ぎが起こる。

 救急車のサイレンが聞こえたのは暫くしてのちの事だった。


+++


 雨の降りしきる中、一人の女性がタクシーから降り立った。

 見据えた先には、古式ゆかしい、日本家屋。女性は勝手知ったる様にその呼び鈴を鳴らし、モニターからよく見える様にきっちり正面を見た。


(きよし)、いるかしら? 帰っているって聞いたのだけど」


 インターホンの向こうの声が動揺したのか上ずった。


『お、お待ちください。直ぐ開けますっ』


 女性はふうと小さく息をついた。


「昔とちっとも変わらない。と思ったけど、だいぶガタが来てるわね。主と同じかしら?」


 綺麗に整えた指先を口元に添えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ