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甲冑

 魔法にはさまざまな種類が存在する。風や氷、炎や岩、様々あるが、その中でも特別な魔法がある。『覇王』と『結界術』だ。この二つの魔法が特別と言われるのは、この二つの魔法だけが他の魔法と決定的に違うところがある。この二つの魔法では魔力が『増える』のだ。



 普通、魔法を使うのには体内の魔力を消費する。当然、魔力が無くなれば魔法は使えないし、自分の持っている魔力以上のことは出来ない。この原則からは何人たりとも逃れられない。だが、『覇王』と『結界術』では、自身の持つ魔力の限界を超えることができる。



 『覇王』では召喚した『覇王』の魔力を自分の物として使うことができる。その増幅率は言うまでも無く凄まじい。これまで、軍神やルミ、それに西町谷の選手たちが証明してきたように、魔力が増えれば使える魔法も増え、自身にかけられる身体強化の強度も大きく高まり、個人の戦闘力を爆発的に増幅させる。



 一方結界術は、特定の規則に従って結界を描き、多角形になるように何本か柱を立てる。そして、その結界に少しの魔力を入れることで魔力を増幅する技術だ。その増幅した魔力は、結界の言葉の通り、壁のようにも使えるし、武器のように敵にぶつけることも可能だ。増幅率は低いものから高いものまで様々だが、条件さえ満たせば、数万倍、数十万倍という増幅率を実現できる。




 その『結界術』の頂点、秘奥ともいえるのが、この彼らのいる部屋、『結界室』だ。




 佐倉先輩が、大阪先輩に告げる。



「この部屋、『結界室』で間違いないと思う。」



 佐倉先輩の言葉に、大阪先輩が驚きの声を上げる。



「!?…………マジで言ってんのか!?」



 大阪先輩だけでない、他の3年生も驚きを隠せずに目を見開いている。



「正確には結界室のうちの、動力室の一つだと思うんだけど、この巨大な扉があるということは、この奥に、結界室の大本がある。つまり、結界室を使ってまでしまっておきたいものが、この扉の先にあるってことになるね……。」



 結界室。ティーにとってその言葉は初めて聞くものだった。どうも、他の一年生も知らないらしい反応だ。ティーが、大阪先輩に尋ねる。



「大阪先輩、『結界室』ってなんなんですか?」



「ん?ああ、知らないのも無理ないな。俺たちも、佐倉がいなきゃ知らなかっただろうしな。簡単に言えば、結界を使った、超頑丈な金庫だ。」



「超頑丈な金庫、ですか……?」



「ああ。結界を使って、何かを大切な物を守るのが結界室だ。高い強度の結界の内側に貴重品を仕舞う、発想自体はシンプルだが、この結界室ってやつは、強度が半端じゃないらしい。クソでかい敷地に、クソでかい結界を、超一流の結界術師たちが描く。そうするとなんでも数十万倍の増幅率を叩き出すって話だ。」





「結界室の中、入れそうですかね?」




「佐倉に聞いてみなきゃ分かんねえが、結界室は『解錠』しなきゃ入れなかったはずだ。だけどその解錠方法は、この部屋に仕掛けがあってその仕掛けを解くとか、特定の物や人を連れてくるとか、結界室によって様々らしい。その手順が分からなければ、開けるのは無理だな。それにこの解錠、この部屋だけでやればいいって訳じゃねえんだ。」



「?……どういうことですか?」



「結界室はこの一室だけじゃねえんだ。この部屋と似たような部屋が恐らく…東京郊外中に、何部屋かあるはずだ。そしてその全ての部屋で『解錠』しなければこの扉は開かないんだ。勿論結界室の内部と繋がっているのはこの部屋だけだがな。つまり、ここの『鍵』だけ開けられたとしても、他の部屋も解錠できなきゃ、この扉は開かないんだ。」



 この結界室を解錠し、中に入るには、この部屋を含めた東京郊外に散らばる複数の部屋で、結界の作成者が決めた特定の手順を踏んだり、『鍵』に相当する物や人を連れてくる必要がある。この部屋を解錠するのは勿論、他の部屋の場所を見つけ、さらにその全ての部屋で解錠することが求められるのだ。いくら結界術に詳しいといっても、他人の考えた鍵を見つけ出すのは相当困難といえるだろう。



「じゃあこの扉、開けるのは難しそうですね……」



「ああ。つっても俺も詳しいシステムは知らねえから、気になるなら佐倉に聞いてくれ。」




 その言葉を聞いたティーが、一つの疑問を投げる。





「そういえば、どうして佐倉先輩は、結界室に詳しいんですか?」



「………ん?聞いてなかったか?佐倉は結界術師なんだぜ。それも超一流のな。」



「……結界術師、ですか……!?」



「そうだ。結界術は時間をかけてこそ真価を発揮するから、魔闘には向かねえが、佐倉の結界術は本物だぜ。俺たちと単純な比較はできねえけど、単に魔法の扱いって話なら、軍神にも負けねえんじゃねえか。」



「そんなに、なんですか……!」



「ああ。だから、佐倉に開けられないなら、お手上げだ。せっかくなら、こんな旧校舎の地下深くに何を隠しているのか、一度見てみたかったがなぁ……」






 そうこう話していると、扉の手前で、結界室を調べている佐倉先輩が、当然、手をとめる。




「う、うそ………そんな、噓でしょ…………」




 その佐倉先輩の呟きは小さな声だったが、声が反響しやすい部屋なのだろう。その小さな声は全員の耳元まで届いた。



 その声を聞いた大阪先輩が尋ねる。



「どうかしたか?佐倉?」



 その言葉を聞いた佐倉が振り返り、少し強張った声で、告げる。




「この結界室、『解錠』されてる………。全ての部屋が………解錠、されてる……。」






「なっ!?」



 佐倉先輩が再び扉の方を向くと、右手を扉へと伸ばす。佐倉先輩の指が扉に触れた時、扉が光る。



 すると部屋が突然、大きく揺れだす。そしてその揺れとともに扉が開いていく。




「まじかよ……!ほんとに開きやがった!!」




 扉は、完全に開かれた。






§





 開かれた扉の先、そこは長い長い通路だった。その通路は薄暗いが少し幅の広い通路で、一年生、三年生、それに顧問の二人が一度に通っても窮屈でない広い通路だ。ところどころに異様な紋様があるのを見えるので、この先が結界室内部であることは間違いないだろう。



 通路は終点が見えないほど長い。どこまでも同じ景色が続く通路に飽きてきた大阪が、佐倉に尋ねる。



「なあ佐倉、この通路はどこまで続くんだ?」



「うーん、多分結界に記された言葉を見る限り、3キロぐらい、だと思うよ。」



「3キロ!?なっげえな。」



「誰か悪意ある人が結界室を探すとき、この通路が長いと、結界室を見つけるのが難しくなる効果があるの。だから、相当見つかりたくない物があったんじゃないかな。」



「ん?今、「あった」、っていったか?それじゃあ今は空ってことになるぞ?」



「うん。これだけ高度な結界室なのに、解錠されてるってことは、多分もう中身が無いってことだと思うんだけど……」




「まあ、考えてみりゃ、そりゃそうか。」




「でも、一つ気になるのが、その解錠がされたのがどうも、かなり最近みたいなんだよね…。」




「最近?」




「高度な結界だったから、正確な日数は分からないんだけど、恐らくさっきの部屋は一か月前から、今日までのどこかで、『解錠』されたみたい。他の部屋も、古いものでも一年以内の解錠のはず…」



「一か月以内……となると、本当に最近まで使ってたってことになるぞ!?」



「うん。それに、もし、中身が残っているとしたら……」



 そんな会話をしていると、先導していたケイが、声を上げる。



「あ!扉だ!扉が見えましたッ!!」






§






 一同が扉の前に集まる。扉の前に軍神先輩、佐倉先輩、それに仙田先生が立つ。万一危険な事態になってもいいように、実力ある軍神先輩と仙田先生が開けることになった。(里奈先生は魔闘は素人だが、仙田先生は魔闘も得意だ。)



 後方にいる一年生たち。ユリとティーはこの先にある物に思いを馳せていた。



「ティーちゃん、部屋の中に何、あるかな?」



「さあねえ。なんか都市伝説がどうとか、言ってるような雰囲気でもなくなっちゃったしねえ。」



「ティーちゃん、何が出てきても、ちびったら、あかんで??」



「なっ!?大丈夫だっつーの……!」



 扉の前に立った軍神先輩が一息つく。



「じゃあ、開けるぞ…」



 軍神先輩と仙田先生が扉に手をかけ、扉を引く。



「これは…」



 一同が中に入る。部屋は先ほどの部屋を少し小さくしたような、気味の悪い紋様が描かれた部屋だ。先ほどの部屋と違うのは、部屋の八方から巨大な鎖が引かれていること。そして中心には……



 「それ」を見たティーが、声を上げる。



「あ!?あ、れ、は……!?」




黒い甲冑。



巨大な鎖でつながれた、黒い甲冑だ。




 ティーの脳裏に、あの日の出来事が一瞬で沸き上がる。



 魔闘の試合を見た日、織田山寺に行ったこと。兄と母が儀式に行った後、父とユリとともに、織田の甲冑を見学しに行ったこと。突然、甲冑が動き出したこと。その場にいた人々がたったの一切りで切り殺されたこと。ティーとユリだけが、生き残ったこと。そして、父が、父が…………………………………




「なあ、ユリ、ユリ。……あの、甲冑は…………」




「う、うん………でも、……………」






 ……………違う。あの甲冑は、あの日の甲冑とは違う。見間違えるはずがない。10年も前の話だが、忘れられるはずがない。少しだけ作りが違う。あの甲冑の腰元にある緑の意匠は、あの日の甲冑には無かった。それに少しこの甲冑の方が幅広だ。




 だが、眼前にある甲冑が、禍々しいものであることは明白だ。結界室に封印されていたこと、鎖でつながれていること。それに、あの甲冑から放たれる不気味さに、他の一年生や先輩方も気づいている。




 だとしたら…………………だとしたら、あの甲冑は、一体、何なんだ……!?それに、何故、こんなところに……?





 ティーは脳から血の気が引いていくのを感じる。あの日の甲冑と違うのに、あの日の光景があふれ出して止まらない。嗤ったようにこちらを見る黒い甲冑の兜。自分を必死に逃がそうとする父の顔。父の姿と、甲冑の姿が、代わる代わる現れては消え、現れては消え、その度、嗚咽が込み上げる。



 やるせなさか、悔しさか、悲しさか、それとも憎しみか……分からない。分からない。分からない…………………… 








 ティーは自分の心の奥底に、鈍い鉛が落ちていくのを感じた。









§








 朝が迫る。一同は去り際、今日見たことは、全て忘れることに決めた。そして、二度と旧校舎の地下には入らないことも。そうして結界室を去っていく。



 最後まで甲冑を眺めているケイに、マツが声を掛ける。



「ケイさん?いつまで見てるの?みんな行っちゃうよ?」



「なあ、マツ、今この甲冑、動かなかったか…?」



「?……気のせいじゃない?早く行こう?」



「…………おう。」



 夜が明ける。だが、次の日も同じように太陽が昇るかは、誰も知らない。


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