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夏の日に


一年に一度、暑さに体が溶けてしまいそうな夏。全国各地から少年、少女達は集結する。


 武者震いをする者。己が勝利すると大胆に宣言する者。決戦の緊張に震える者。そんな少年を励ます者。これから大舞台を共にする友と最後の調整を進める者。大舞台に立つことなく、それを見届けるためだけに訪れる者。


 だが、そのいずれもきっと、望むことは同じなのだろう。






 その頂点に立つ。たったそれだけだ。





§




 「これよりッ!第49回ッ!!魔装闘技展 中学の部ッ!!!決勝戦を開催しますッッッ!!!!!」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!!!!」」



 歓声に会場が揺れる。広大なドームを埋め尽くした観客の全てが、叫び声を上げている。その全てが闘いを待っている。頂点が決まるその時を待っている。


熱気に揺れる会場の一角に一組の親子。父親と男の子。男の子は破裂しそうなほどの歓声に耳を塞いでいる。


「おとうさん、みんなうるさいよ…!なんでみんなさけんでるの!?」


「ティー、まあ今に分かるさ。ちょっとびっくりしたかもだけどそれまで我慢だ。いいな?」


「うん…」


「東ゲート入場ッ!!全国大会優勝経験はなんと11回!!そして昨年優勝校!!悲願の2連覇なるかッ!!天海中学校ッッ!!」



 薄暗いドームの一端が照らされる。ゲートの開門と同時に二人の少年が入場する。精悍な顔つきで歩みを進める二人に会場が湧く。



「おおッ!!先鋒2on2は仙崎選手、そして、エース、幸田選手だッ!!」


「おとうさん、これ、なにがはじまるの?」


「まあまあ、焦るなって、もうすぐさ、見れば分かるさ」






 「続いて西ゲート!!なんと全国大会初出場にして、ここまで!!上りつめてきましたッ!!これほどの快進撃、誰が予想したでしょう!?このままその頂点に上りつめるのか!?蘭花中学校ッッ!!」


 ドームの逆側、光に照らされたゲートから二人、一人の少年と一人の少女があらわれる。自信に満ち満ちたような、緊張を隠せないような、そんな顔をしている。


「蘭花の先鋒2on2は桜田選手に小町選手ッ!!実況の神田さん、この選出、どう見ますでしょうかッ!?」


「天海は初戦でリードを広げて、終始有利に試合を進めるのが狙いでしょうか。1on1に持ち込めれば幸田選手がいますからね。」


 「対して蘭花は堅実な選出ですね。中学生にして3人もの選手が“覇王”を扱える非常に突破力の高いチームですからバランス良くスコアを稼ぎ勝利しようとしているのでしょう。」


 「そうです!!この試合、初戦は天海の幸田選手、そして蘭花の桜田選手は“覇王”を習得している実力者だッッ!!」


 「今年、全国大会の中学の覇王習得者は23人、うち5人がこの決勝戦に集結するわけです。過去最も激しい中学決勝が予想されます!」






 決戦への期待に騒ぎ声を上げていた観客が不意に鎮まる。




「あれ?静かになったよ?」


「もうすぐ、はじまるんだ。」





「さあ、両チームの準備が整いました!ついに決勝戦開幕です!!」



フィールド内のレフェリーが声を上げる。


「第一試合、始めッッ!!!」






 瞬間、動いたのは蘭花の選手、桜田だ。蘭花の桜田が天海の陣営に飛び込む。




「豪炎!!!」




 突如、炎柱が天海の二人を貫く。




 放たれた炎柱を天海の二人が跳ね上がり、回避する。

 


「ちっ、速攻のつもりか!!!仙崎!後衛落とすのは任せたぞ!!俺はこいつをやる!」


「任されたぜ!」


 炎柱に少し驚くも、危なげなく躱した天海の二人が行動を開始する。



「豪炎!!」



「アイスアロー!!」



「なっ!」




 豪炎が、二人の行く手を阻む。阻まれた二人の頭上に大量の氷矢が降り注ぐ。


 だが天海の幸田は動じない。



(それで足止めのつもりか…!)




「ちっ、雷槍!!!」



 大きく構えた幸田の右手から雷が走る。そしてその雷が槍の形を成す。それを幸田が投げつける。




 雷が氷矢を、炎柱を貫く。




「出ました!幸田選手の得意技、雷槍だ!」




 雷槍の一撃に氷と炎が散る。




「やはり威力は雷槍が上だっ!!流石天海のエースです!!!」



 猛攻を防がれた蘭花の二人。炎柱を放った桜田が雷槍の威力に後ずさる。



 攻撃を防がれた蘭花の町田が再び構えを取る。



(攻撃のチャンスを与えたらまずい…!だけど!!!)


「アイスレイン!!」


 再び二人の頭上に大量の氷矢が降り注ぐ。先ほどの一撃よりさらに連射数が上だ。






「僕も忘れないでほしいですね。…サッチー、任せましたよ、クラッシュキャノン!!!」





「矢の雨が打ち落とされていきます!!!だが手数で氷矢が優勢か!!!」



「凄まじい魔力量ですね。息を切らす様子もありませんしすでに超高校生級とは、これはたまりませんねええ!!」



「………対する仙崎選手は少し緊張しているようでしょうか?だがそれでもアイスレインに劣らぬ出力です!」






「ねえ、おとうさん、凄い!!かっこいい!!!これが“まとう“!凄い! 凄い!!」


「ああ、凄いだろ!?だけどティー、これからが本番だぞ…!!」


「? …どういうこと?」








(くそ、なんだ、あの化け物みたいな魔力量…!だが、任されたぞ…!仙崎…!)


 幸田が仙崎を一瞥した後、魔力を高め始める。


「ちっ、蘭花のやつ、天下の天海、なめんじゃねえぞ…!はああああ……!!!」



 「はあああああああ……!!!」




 大気の流れが、変わる。全ての空気が渦巻くように飲み込まれる。天海の幸田の魔力が突如高まる。


「覇王を使う気か…!小町、砲撃はオレが止めるからこっちも覇王、行けるか!?」


 砲撃と氷矢が衝突する空中を指さし言う。



「分かった。でもあのクラッシュキャノンと豪炎は相性悪くない!?」


「…問題ない。あれぐらいの障害、越えられなくて優勝できるかってんだ。」





 桜田がクラッシュキャノンを放つ仙崎に飛び込む。なんとか躱しながらも進む。だが、その出力になかなか進めない。


(不味いな…時間が…!)


 不意に力を貯めていた幸田が声を上げる。



「はあああああああああーーーー!!!!」



「くそっ…!」



 幸田から放たれた爆風が全てを吹き飛ばす。


 仙崎の爆撃にも劣らない凄まじい出力が放たれる。



 数刻の硬直、そしてその煙が明けると…



 

「で、でました!!幸田選手の“覇王”!!「雷獣 グリーシア」だっ!!!」





 雷が幸田の周囲を走る。その中心から、金色の獣があらわれる。



 その存在は余りに巨大だった。選手たちの数倍はあるその巨体がフィールドの一角を埋め尽くす。


 全てが魔力で構成されている、実体を持っていない。だがその威圧感は実体以上だった。


 魔力体の雷獣が咆哮する。会場が、大地が、揺れ動く。





「あれが…“覇王”…!!…カッコイイ!!」


「始まるぞ、ティー、ここからが本番だ…!!」


 父はティーの頭をなで、どこか得意げに笑う。

 




「覚悟しろ、蘭花…!」



 静まり返った会場。雷獣を呼び出した幸田が大きく息を吸い込む。



「喰らいやがれ!!!雷獣槍!!!」










「え?」





 衝撃に会場が揺れた。幸田から放たれたそれは正に雷そのものだった。その雷槍、威力、規模は今までの数倍近く。



そしてそれが仙崎に迫ろうとする、桜田を貫いた。




「がっ…」



「桜田君…!!!」






 「直撃、直撃だあああ!!!!幸田選手の一撃が桜田選手を貫きました!!覇王召喚から初の一撃は正確に桜田選手を捕えていました!今大会トップクラスの一撃に、桜田選手、倒れ伏しています!これは厳しいか!!」


 「桜田選手の魔装が破られているようですね。魔装が破られた以上、これ以上の攻撃は受けられませんから、蘭花にとっては厳しい展開でしょう。」






 蘭花の小町が声を上げる。


「でも…間に合った!はああああああ!!!」



「これは!!!蘭花の小町選手も覇王を使うようですっ!!」


「はあああああああ、はあ!!!」



 今度は小町から、巨大なエネルギーが放たれる。その姿の後ろからは九本の尾。姿を現した巨大な白き女狐は相対する金の獣を見て不敵に笑った。


 「寒い!結界越しにここまで寒さが伝わってきます!!!「雪狐 クレオラ」だ!!すべてを凍り付かすという伝説の九尾です!!」



「ホワイト・ロスト!!!」



 たった一瞬で、フィールドが白に変わる。全てを吹雪が埋め尽くす。




「小町選手得意の天候術です…!天候術にも関わらずここまでの出力…!覇王の力、凄まじいです!!」




「サッチ―!この吹雪半端ないぞ!」


(くそ、この吹雪だと技の威力も正確さも駄目だ…この寒さで戦い続けるのも無理だ!遠距離での戦闘は不利か…)


「仙崎!俺が落としに行く!後方援護は任せたぞ」


「この視界だと正確に奴を狙えない。俺もラインを上げながら支援する。」


「そうだな、あの狐は後衛よりの能力だって話だが、油断するなよ…!」


「サッチ―こそな…!」






「おお!天海は接近戦を挑むようだ!!」





「させないよ……!」



「仙崎!!!」


「任せろ!!!はあああ!!!」


 小町が生成した氷矢の雨降り注ぐ。仙崎のクラッシュキャノンが相殺する。小町の吹雪は小町自身が風上だ。氷矢が明確に優勢だ。硬直状態は長く続かないだろう。


「サッチ―、間に合ってくれ…」


 爆撃の雨の中を幸田が戦火の重装歩兵の如く、一歩一歩と進む。氷矢が一本また一本と直撃する。それでも前に、前に進む。



「よう。」


「あ、」


「この距離ならその矢と俺の槍、どっちが強いと思うか?」


「…まだ、まだ、終わってないよ…!」



 吹雪が止む。小町の手には大きな白き魔力の弓が握られていた。そして弓を引く。



「力比べか!いい性格してるじゃねえか!!雷獣槍!!!」



「雪月弓!!!」



 衝撃が会場全体を支配する。会場全体がその一撃に目を奪われる。



「…どうだ…!ティー!魔闘は、凄いだろ!?」


「………うん…!」





§





(寒い…小町のホワイトロストか…)


 

 桜田の意識が戻る。雪の冷たさが、柔らかさが大地を埋め尽くしている。


(あれ…ホワイトロスト…止んでるのか…)





(あ……)



 そこには小町が倒れていた。まだ魔装は破けていない。だが、間違いなく大ダメージだ。雪狐の実体が大きく揺らいでいる。


「大丈夫か!!」


「…う、うん…」



 小町が起き上がる。だが、その足は覚束ない。


「桜田くん…魔装…」


「……問題ない」


(天海は二人とも健在……  !?雷獣が少し弱っている…!)


 小町は大きなダメージを受けたがそれは小町だけではなかった。しかし、倒れるほどではないようだ。天海の二人は少し距離を置き、蘭花の様子をうかがっていた。


「桜田くん、正直私たちが勝つのは厳しいと思う。せめて一人、雷獣じゃない方だけども落とそう。」


(くそっ、俺が、俺も、覇王を習得が間に合っていたら…!!いや、あきらめて、なるものかっ!)




「…優勝するのは俺たちだ。二人とも落とす…!」


「……何か考えがあるの?」


「なあ、弓、もう一度うてるか?」


「一度?……4回、行けるよ…!」


「……最高だ!」


 桜田が駆け出す。



「うおおおおおおおおお!!!!」





「おい、サッチ―!あいつ特攻してきやがった!」



「大丈夫だ!!あと一撃当てれば終わりだっ!雷獣槍!!」


 だがそれはすんでのところでいなされる。


「よけられた!!」


「弾幕ならどうだっ!!クラッシュキャノン!!」




 だが、それもダメージにならぬよう切り抜け続ける。


(問題ない!やっぱり基本の戦闘力は前情報通りだ!!速すぎて躱せない雷獣槍もダメージで足腰が安定してない分精度も速度もこの程度!余裕だ!)



 弾幕を切り抜け飛び上がる。


「逃がすか!!雷獣槍!!!」


 だがそれも予想通り。ひらりと躱しきる。


「喰らええ!!!乱豪炎!!!」


炎の弾幕が天海の二人を飲み込む。


(雷獣のあいつには効果は薄いはず…!だがもう一人なら!!!)


「くそ…」


 桜田の狙いはふらつく仙崎だった。




「豪炎拳!!!」


「がはっ!!!」


 仙崎を正面で殴りつけた桜田にはパリン!という音が聞こえていた。


(仙崎の魔装は破いた…!あとは小町が決めれば…)



「…小町!?」


「残念だったな。俺たちの勝ちだ。」




 フィールドの後方、矢を構えているはずの小町が倒れていた。



「…まさか!あの雷獣槍は!!」


「そういうことだ。これで二人とも魔装が破れた。勝負あったな。」


(俺を狙うと見せかけて小町を狙ってやがった!あの弾幕もこれが狙いか…!)



「まだだ…」


「まだ諦めねえぞ…!」


「いまさら何ができる!」


「くそ、未完成でもやるしかねえ!!!うおおおおおおおおお!!!」


「…………まさか」



 熱気が蒸気が会場を埋め尽くす。桜田の全身から湯気が沸き上がる。



「うおおおおおお!!」



 蒸気の中から人間があらわれる。兜を被り、鎧を纏った赤い巨大な人間だ。これもまた魔力だけの存在だ。それでも、まるでそこに命が存在するかのような、烈火に燃える目をしていた。


「うおおおおおお!!!」






「なんと…4人目だ!!蘭花に4人目の覇王だああああああ!!!」






「…ああ、覇王が、ふたり…」






「桜田君、ようやく、完成したんだね…」






「……だからいったろ、まだ諦めねえって」




§





 「うおおおおおお!!最高だ!!!最高だろ!!!これだから魔闘観戦はやめらんねええ!!!ティー!!分かるだろ!!この熱さ!!!」



 観客席の一角。覚醒の衝撃に燃えあがる者がここにもいた。




「……」


「…ティー?どうした?熱でもあるのか?」


「おとうさん…?」


「ん?なんだ?」


「僕もなれるかな?」


「?ん?」



「僕もなれるかな…?あんな、あんなふうに強く、なれるかな?」







―10年後 2012年 4月―


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