第九話 城塞都市トリム
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第九話です。
トリムの街に辿り着いたマサキはアリサから任務の終わりを示唆されるのだが・・・。
初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!
読んでくれたら、あろうことかなんでもするかもしれません!
「ああ! やっとトリムの街が見えて来たね!」
先を進んでいたアリサはこちらを振り返って語り掛ける。隣で足を止めた俺は彼女が指さす方に目を凝らし、大地から突き出る何本かの細い影を見つける。どうやらそれは塔らしき建築物だった。
「あれは塔かな?」
「そう、トリムの見張り塔。あれが見えたってことはもうこの旅も佳境ってわけさ!」
俺の問いにアリサは嬉しそうに答える。もっとも、自分が拠点にする街に帰って来たのだから、気分が高揚するのも無理はないだろう。
「では、最後の仕上げだけど、油断しないで行こう!」
「ああ、了解だ!」
そんな彼女の昂揚感に釣られるように俺の表情にも自然と笑みが零れ、掛け声に答える。三日を掛けた旅がようやく終わろうとしているのだ。
この旅路の間、初日にゴブリンの襲撃を受けた以外は、覚えたばかりの戦闘スキルを使うようなアクシデントは何も起こらず俺達の旅は順調に進んだ。もちろんこれは、旅慣れした冒険者であるアリサの助けと案内があってのことだ。俺は再び歩き出したアリサの後に遅れまいと続く。
「あれは、壁・・・城壁か?」
「そう、トリムの街は天秤勢力の拠点だからね。これまでの集落や村とは規模が違うよ」
「すごいな・・・」
しばらくすると疎らに生える木々の間から街道の先を塞ぐような壁が現れる。それが城壁であることを理解した俺は息を飲んだ。想像以上に大規模の建造物だったからだ。正確な数値はわからないが、城壁は高さ約10m、そして横幅は1㎞ほどあるように思われた。
先程の塔もより鮮明になっており、四本の塔がそれぞれ城壁の四隅に建てられていることを知る。つまりトリムは控えめに見ても1平方キロメートル程の規模を持つ城塞都市というわけだった。
「あれが北門、トリムは東西南北にそれぞれ門を構えていて、これまでの集落と同じく日ノ出から日没まで開いているよ。ただし、小さな村と違って門衛と知り合いだからって夜は絶対に開けてはくれないからね」
そんな圧倒的な城壁を誇るトリムの城門が見えて来たところで、アリサは俺の左腕を肘で小突きながら説明を語る。街に近づくにつれて街道の脇で商売をする露天商の姿が見え始め、行き交う人影も多くなり俺達は逸れないよう寄り添うように歩いていたのだ。
「・・・トリムでは時間厳守ってことか」
アリサの雑な対応も好ましいと感じながら俺は頷く。
「そういうこと。マサキとはそろそろ終わりだからね。わかっているとは思うけど一応、伝えておいた」
「・・・え!! お別れ!!」
「ああ、あんたをトリムの冒険者ギルドまで連れて来るのが、私が天秤の神格から受けた依頼だからね。マサキとはここでお別れ。だけど、あんたとの旅は面白かったよ、違う世界の話を色々と聞けたしね!」
アリサから別れを予告された俺は激しく動揺する。よくよく考えて見れば、確かに彼女が約束したのはトリムまでの道案内だけである。これからもずっと一緒に活動する約束をしたわけではないのだ。
俺は改めてアリサの顔を見つめる。薄い金色の髪と僅かに緑色掛かった青い眼はまるで人形のように可憐だ。それでいてその顔は表情豊かで、特に遠慮なく笑う様は、清々しいほど堂々としており愛らしい。
そう、俺はこの三日の間でアリサのことをかなり好きになっていた。美人に優しくされると直ぐ惚れる、ちょろい奴だと言われてしまえばそれまでだが、俺はアリサの可愛らしい外見だけでなく、素っ気ないようでいて細かいところまで気が効き・・・やっぱり簡単に別れを切り出すほど素っ気なく、捉えどころのない気紛れな猫のような性格に惹かれていた。
また、相当の実力を持っているにも関わらずそれを誇ることなく・・・いや、結構自慢していたような気もするが、飾らない人柄に俺もいつか彼女のような冒険者になりたいと、強い憧れと敬意を抱くようになっていたのだ。
何よりもいくら天秤勢力の本拠地に辿り着いたとはいえ、ゴブリン退治すら命懸けの俺にはこれからも協力者や味方は必要である。アリサと別れた後、新しい仲間を探すにしても、その人物、もしくは仲間達が彼女ほど有能で魅力的である可能性はかなり低い。そもそも新しい仲間を見つけられる保証すらない。
俺にとって最も生存確率を高める選択はアリサに正式な仲間になって貰うことである。いや、そんなことよりもアリサとこのまま別れたくない!! その想いが俺の身体を無意識に突き動かしたのだった。
「アリサ! どうか俺の正式な仲間になってくれ・・・いや、なって下さい! お願いします! このままでは生きて行けるかわかりません!」
アリサの前に先回りすると、俺は街道の地べたに膝をつき頭を垂れて土下座し懇願する。こんな恥ずかしいことをする日が来るとは思わなかったが、アリサとこのまま別れたくない、別れたら野たれ死ぬかもしれないという恐怖心が土下座スキルを使わせたに違いなかった。
俺は往来の人々の視線はおろか存在も忘れ、更にはプライドを捨てて頭を下げ続ける。
「ち、ちょっと! マサキ、あんた! いきなり何をしているの?!」
「見てのとおりだ。 アリサに正式な仲間なって欲しいから頭を下げている!!」
「いや、ちょっと! それは・・・逆にこっちが恥ずかしいんだけど・・・と言うかそんなに私の仲間になりたかったんだ・・・」
若干引いた反応を示すアリサだが、最後は思い直したように言葉を濁す。俺は手応えを感じると更に頭を下げる。もう下げ過ぎて地面に顔が着いて痛いくらいだ。
「・・・でも、ダメ! なかなか驚かされたけど、私には効かなかったようだね! 恥ずかしいから早く立ってくれないかな?」
「・・・どうしても?!」
「ダメなものはダメ!」
「・・・そうか、ダメか」
俺は失意に苛まれながらも言われたとおりに立ち上がる。粘ることも考えたが、あまりにもしつこいとアリサに嫌われてしまうだろう。それだけは避けたかった。
「・・・アリサの都合を考えず、無理を言って済まなかった・・・」
「うん、まさかこんなところで土下座を使われるとは思わなかったよ。交渉スキルだと甘く見ていたけど、どうやらそのスキルには魅了効果もあるようだね。思わず、承諾しそうになってしまった。多分、チャージ式のスキルでもあるんじゃないかな。チャージ式は使わないでいる期間が長いほど、効果が増すんだ。ちょっとしたことで土下座する者よりも、めったに頭を下げない者がする土下座の方がよりインパクトがあるだろう?」
「スキルにはそんなタイプもあるのか・・・なら、もっと貯めて・・・」
「いや、それはどうかな? 言い忘れていたけど、ステータスには隠し要素があって、経験値を多く入手した者ほど、敵対的な魔法やスキルへの抵抗力が上がるんだ。だから転生したばかりのマサキとそれなりの経験を積んだ私とでは抵抗力にかなりの差があるってわけ! いくら30レベルのスキルでも私にはそう簡単には効かないよ。この世界じゃ見た目で強さは計れないって言ったよね」
正式な仲間とはなれなかったが、アリサは俺へのアドバイスを惜しむことはなかった。
「そうだったのか・・・アリサ、最後まで良くしてくれてありがとう!」
「うん、でもさ・・・最後じゃないかもよ。さっき断ったのはスキルを使った勧誘だったからで・・・私ってこう見えても、かなり負けず嫌いじゃない。つい抵抗しちゃったんだよね」
「ええ!! じゃあ、普通に頼めば正式に仲間になってくれたの?」
「・・・・そうだね。リーダーが私で、実力差を考慮してこれからの報酬の取り分が九対一で良いなら、組んで上げてももいいかな?まあ、私はどっちかっていうとソロの方が気楽なんだけど・・・」
「も、もちろんそれで構わないから、お、お願いします!」
俺はアリサの思いがけない言葉に驚きながらも、彼女の気分が変らないうちにと再び誘いを掛ける。報酬についてはかなりの差があるが、今の実力を考えれば致し方ない・・・どころか役立たずの俺の方が優遇されているくらいだろう。
「じゃあ、その条件で組もう。ああ、それと堅苦しい言葉使いもなしでね!」
「おお、やったぜ!!」
既に諦めていただけに、アリサからの提案に俺は喜びの声を上げた!
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。
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