バカンスは是非アルデーテで!!
コーヒーまで飲み終わり、三人はデッキへと向かった。デッキへ向かうドアを開ければ潮風が鈴の髪を揺らす、髪を手で押さえながら前に進めば広がったのは大海原。
「すご」
船の最先端まで行き、手すりに手を置く。その横にグレンとノアも立った、遥か彼方には小さな黒い影が見える。
「あと二十分ほどですかね」
ノアは黒い影に視線を向けボソリと呟いた。小さな黒い影が三人の目指す水上都市アルデーテなのだろう。鈴はどんな所だろうとワクワクしてくる心をすぐ抑える。子供っぽい反応をするのは恥ずかしく思ったのだ。
◆◇◆◇◆
森でモンスターと遭遇した、では海では遭遇しないのか??という疑問が浮かんだ。その答えは、端的に出る。と言っても、森や町ほどではない。森に出る確率は九十%ほどなら海は五十%も満たない。確率は低くはある。
船の運賃や宿泊代がタダになるのはタダにしてやるから、もしモンスターに遭遇したときは助けろよ!!って事らしい。その話を聞いて、ワクワクはハラハラに変わったが何事もなく何とかアルデーテに到着した。
そびえ立つ大きな水門を前に、船は徐々に低速していく。船が来たことを知らせる大きな鐘の音がなり、水門が海水を押しながら左右に開き始めた。
大海原にポツーンと浮かぶ水上都市アルデーテ。人口は王都に続いて二番目に多く、バカンスに訪れる観光客が多い。バカンス=アルデーテとこの世界では決まっているようで、確かに一緒に乗っていたお客さんの大半は旅行行くぜい!!な雰囲気だ。
水門から船は都市の中に入っていく。中から見える、レンガ造りの建物とそれを彩るようにあちらこちらに飾られた花たち。その景色は、美しいと口にするのを忘れるほど綺麗だった。
景色に見とれているうちに船は碇泊場で止まり、乗客たちが降りるために荷物をまとめ始めていた。鈴達も船から降りている人たちの列に並び、長いようで短い船旅を終えた。
船から下りると太陽の日差しが降り注がれた。快晴の空、観光客向けに出来た露店では大きな声で商品を売る売り子の声が響いている。ガヤガヤしているが、それが逆に気持ちを高揚させた。これからモンスター退治に行く事実を忘れるほど。
「さて、依頼人の元へ行きましょうか」
ノアの言葉で一気に現実に引き戻される。そう、今回は観光が目的ではない。あの愛くるしい顔をしてやる事がえげつないモンスターを退治することが目的だ。
さて行きましょうと意気揚々ようなノアの後ろを鈴が肩を落としてついていく。近くを歩くグレンはその鈴の様子に考え込むように顎に手を当てた。
「……終ったら観光するか」
俯いていた鈴はバッとグレンを見上げた。キラキラとした目と嬉しそうな顔、今の鈴に尻尾があれば千切ればかりに振っているだろう。
「分かりやすいな」
グレンは笑いながら鈴の頭をポンポンッと撫でる。あぁなんて子供っぽい反応を!!グレンさんに気まで使わせてしまった!!と気恥ずかしさと申し訳ない気持ちで鈴は顔を両手で隠しながら俯いた。
そんな様子に気づいた先を歩くノアは不服そうにジトーッと目を細めた。
「なんですか、なんなんですか!?お二人、仲いいじゃないですか。僕も混ぜてください!!」
「……煩い」
ギャンギャンッと自分も加わりたいと文句を言うノアに、グレンは迷惑そうに視線をそらした。これからモンスター退治に行く雰囲気ではまるでない。
そんな三人を物陰からのぞき見るものがいた。ジーッと観察するように見つめた後その人物は三人の後を追いかけるように物音を立てず駆け出した。




