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食屍鬼が怖すぎてトイレにいけない



先陣を切るように、イナトが食屍鬼に向かっていく。それに続いて、グレンも剣を構えタッと駆け出していった。


一人と一匹の力は一目瞭然で、襲いかかろうと様子を伺っていた数体の食屍鬼は呆気なく倒れた。しかし問題はここからだった、いくら倒せたとしても食屍鬼は沸いて出てくるのだ。


「巣が近いのか」


冷静に考えつつ、襲い掛かる食屍鬼にグレンは剣を振り下ろす。それでも、次から次へと食屍鬼は姿を現した。生き返っているのではないかと錯覚してしまう。


「グレン、頼みますよ」


ノアが真剣な顔で、グレンの背に声をかける。グレンはチラリと振り返り、理解したのか何も言わず前に視線を戻した。


始まったのは大掛かりな魔法を発動するための詠唱。ノアは黙々と言葉を紡ぎ、あたりには無数の魔方陣が浮かび上がる。詠唱している間、ノアは身動きが取れないようでグレンがノアに襲い掛かる食屍鬼を切り倒していた。


詠唱に気づいた食屍鬼の行動が変化する。攻撃対象をノアに絞ったようだ。数え切れない、二十を優に越えるやつらの総攻撃からノアを守るのは、グレンとイナトだけでは厳しい。


ブルブルと震えていた鈴は、グッと足に力を入れる。黒凪を構え、少しノアから離れた場所で襲い掛かってきた食屍鬼を切り倒した。血しぶきをあげ、事切れた体がバタリと倒れる。


やった倒せたと喜ぶのも束の間、次の敵が現れる。それも切り倒した時、ノアの方へ一体向かった事に気づいた。無我夢中で黒凪を投げれば、意思を持ってそこに向かったように食屍鬼を捕らえる事に成功した。


刺さった黒凪を取りに向かおうと走る。しかし、黒凪に手を伸ばす前に木の上からノアに跳びかかろうとする食屍鬼を見つけた。月明かりに照らされたそれは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべている。


とっさに、鈴は手をかざし叫ぶように声を上げた。


「紅き精霊よ 汝の大いなる力を持って 焼き尽くせッ!!!!」


一か八かのかけだった。黒凪を手にする前にあの食屍鬼はノアに間違いなく襲い掛かる。どれだけ一生懸命に黒凪の元へ走ろうとも確実に間に合わない。


今回だけで良いから成功して!!かなり無謀な願いだったが、願うしかない。目を閉じ祈る鈴に何処からか現れた赤い人魂のような光がクスクスと笑った。


《手助けしてやろう、異界の人の子よ》


幼い無邪気な声に、鈴は目を丸める。刹那、木の上にいた食屍鬼が燃え上がった。火達磨になった食屍鬼はおぞましい断末魔を上げ木の上から落ちる。とりあえず未然に防ぐ事が出来たとホッと息をついた。


急いで黒凪を回収に向かう。それと同時にノアが詠唱を唱え終えた。閉じていた目を開き、ノアが右手を頭上へと掲げる、左手に持っている本のページが激しい風でペラペラとめくれ、浮かび上がっていた魔方陣は輝きを増した。


「悪しき闇に住まうモノ、大いなる光の裁きを受けよッ!!」


カッと魔方陣が光り、目が眩む。目をギュッと閉じ、眩しさが収まるのを待った。再び目を開ける頃には、先ほどのとこが嘘だったのではないかと思うほど綺麗に食屍鬼の姿は無くなっていた。


お、わったの??


力なくその場にへたれこむ。鈴の元へすぐにイナトが走りより、顔を近づけた。グイグイッと力強く顔を寄せ、ほお擦りするイナトに若干嫌がりつつ受け入れた。


「主、怪我は!?怪我はあるまいな!?!?」


「平気平気、問題ないよ」


大きくなったイナトの頭を撫でるのは少し違和感を感じるが、イナトの体温に安心した。


「主を守るのが我の役目だというのに、傍を離れてしもうた」


シュンッとするイナトに、鈴は優しく微笑んだ。胸元にギュッと抱きながら首を振った。


「ううん、そんなことないよ。ありがとイナト」


主ッと呟くイナトの尻尾は千切れんばかりに、忙しなく動いている。グレンもノアも怪我は内容で、鈴も元へ全力で走ってくるとノアはガシリと鈴を抱きしめた。


「怖い思いをさせてしまい、本当に申し訳ありません!!!!」


「だ、大丈夫ですよ」


男性に抱きしめられるような経験をあまりしていないため、動揺で声が裏返った。ギューギューと苦しいほどに抱きしめられると、嬉しいがやはり苦しい。鈴の顔色が段々と悪くなっていく。


「ノア、やめろ」


ストップをかけるため、ノアの後ろ頭をスパーーンッと良い音を立ててグレンが叩いた。アイタッと声を上げ、抱きしめる力を緩めたノアの腕から救い出される。


「大丈夫か」


グレンの声がやけに近く感じると視線を背後に向ければ、かなり近くに彼の顔がありパニックになった。ノアから救い出すとき、グレンは鈴を背後から腕を回し救出した。顔は近くにあるだろうがかなりの密着率で赤面する。


「はい、あの有難うございます」


カクカクッと不気味な動き方をしながらお礼を言う。ジーッとその様子を見ていたイナトは優雅に尻尾を振り大きな口をパカリと開けた。


「我が主は恋多き女子(おなご)じゃのぉ」


「ちょちょ、何言ってるの!?違うから!!」


なんて事を言うんだと、鈴はアワアワと口を開閉しなんとか否定した。ある意味、食屍鬼よりもこの状況の方が怖い。



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