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夜の訪問者



「魔法道具が一般化されているんですね。前に泊まった宿にも、お風呂場に魔法道具の乾燥機がありましたし」


スープを口に入れつつ疑問を口にする。ノアはえぇそうですねと頷いて見せた。


「一般化したのはごく最近なんです。昔は良い値をしていたんですよ、買えるのは富裕層だけでした」


「今でこそこの袋は、持っているのが当たり前の必需品だが。一昔前は冒険者にとって、喉から手が出るほど欲しいものだった」


グレンも袋にチラリと視線を向けた。


「といっても、魔法自体が使える者は限られています。向いている人、不向きな人がパックリ分かれますし、ちなみにグレンは完璧に不向きな方ですね」


涼しい顔をして、呪文を唱えていそうな彼だったが以外にも肉体派のようだ。とそこまで考えた鈴はいや待てよ、剣士なのだから肉体派かと納得した。


「魔法かぁ憧れますね」


「何を言ってるんですか、リンさんだって魔法が使えるでしょう??」


宙を泳ぐように人差し指をくるくると回していた鈴は、ノアの一言にへぇあ??っと気の抜けた声を上げた。


「モンスターを一瞬で倒したあの魔法です」


何の事だと目を白黒させていたが、腰元の黒凪がチャキッと音を立てたことにより思い出した。そういえば、なんか凄いのでたなとすっかり抜け落ちていた記憶が戻ってくる。


「……あぁ!!いやでも、あれはイナトの魔法ですし、私は今まで、魔法とか無縁なとこにいましたし」


うん、神様チートに不本意だけどしてもらった。でも身体能力だけだろうし、魔法なんて無理だ。鈴がブンブンッと手を左右に振っていると、イナトが顔を上げた。


「……主よ、異様なものが近づいてきておる」


「……え」


その場が静まり返り、獣よけのために焚いたままの炎が枝を食いパチパチと小さな音を立てている。ゴクリと生唾を飲んだ、一瞬にしてあたりに腐ったような異臭が漂い始める。


「まさか、こんな所で出くわすとは」


とてもついていないとノアは額に手を当てた。同調するようにグレンもため息をつくと、剣を抜いた。


「不運だったな」


空に輝く大きな月が、イナトの言った異様なものをしっかりと照らした。肉がそげ骨がむき出しになった顔、口は大きく裂けている、だらんと力なく垂れている腕、ボロボロの服は黒いシミが着いていていた。恐らく、乾いた血痕だ。


食べたスープが口元まで押し返されてくる。ガタガタと震える足、腰が抜けないように必死に耐えた。


「この辺にはいないと聞いていたのですがね」


「あ、れって」


ノアは鈴を背に隠すよう立ち、目の前でこちらの様子を伺っている異様なものを睨みつけた。


「人を食らうという化物、食屍鬼(グール)です」


あぁ、ここはいつからホラーな世界に変わったんだ誰か教えてくれ。鈴は軽いめまいを覚える、目の前の食屍鬼は美味しそうなものを前にしてなのか、ただ単に興奮しているのか、だらだらと永遠に続くのではないかと思うほど涎をたらし続けている。


あぁ、神さまぁ!!助けてと叫ぶしかない。モンスターも怖いが食屍鬼の方がよっぽど怖く、半泣き状態だった。こんな事ではダメだとは思うが、仕方ない怖いんだもの。


鈴の傍らで警戒していたイナトが突如、牛ほどの大きさへと驚きの変化を遂げた。猫の様に愛らしかった姿は何処にもなく、大きなイナトは凛々しく力強いさを感じる。


鈴を包むように立たったイナトは、牙をむき出しにして威嚇している。口元には怒りに連動するようにバチバチと微量に放電していた。


「この無礼ものどもが!!!!低級の分際で、我が主に対してその様な発言、許さぬぞ!!!!」


ずっと「うぁウ゛アゥ」とうわ言を言っていただけに見えたが、どうやら仲間と喋っていたようだ。


その場にいたものの中で、それを聞き取れたのは仲間の食屍鬼とイナトだけだ。鈴達には、何を言ったのか分からない。


イナトの怒りっぷりに何を言われたんだろうかと鈴は知りたくも思ったが、そんな状況ではないので、静かに何も言わず口を閉じた。




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