夢
眠りから目が覚めたロランは、胸に痛みを感じた。
苦しさから、手を胸に当てようとする。
しかし手は、動かそうとしても胸へとやって来ない。
一呼吸した後に、自分の状況を確認する。
辺りは、黒い。
その黒い流れは、自身の胸から出続けている。
手足は動かない。
その黒い流れは、次第に螺旋を描く。
ロランの胸を中心にして、放出を繰り返しうごめいている。
ロランは、自分がどうなってしまったのか。理解しようとしなかった。
ただ、そこに居る事が、自分の使命だと思ったのだ。
そこへ、どこからともなく、1人の少女が、やって来て、ロランへと声をかける。
「おはよう。気分はどお?」
自分と同じくらいの身体で、年齢は、幼そうだとロランは、感じていた。
「あ、ああ…普通かな?」
突然の質問にロランは、少し口ごもる。
続けて1人の少女は、ロランへと声をかける。
「それなら良かったわ。自己紹介が遅れましたわね。私は、ニア。あなたを管理する者よ。よろしくね」
それを聞いたロランは、声を出さずに口を何度か開閉させる。
「か、管理?と、言うか…この状態は、なんだ?俺は、何を…?」
ニアは、それを聞いて長い髪を手で、後ろへ払い、靡かせる。
「本当、聞いてた通りのバカさ。呆れましたわ。ここは、世界が創り出した中心部。クロイテン。私たちは、この世界のバランスを保つ為だけに産み出された存在。特異点の子。どぉ?少しは思い出しまして?」
ロランの顔は、ただニアを見つめ、口は半開きのままで、何も返事はしなかった。
それを見たニアの顔は、呆れていた。
「あのね!こっちが質問していますの?返事くらいしてもらっても宜しいんじゃないかし…」
「…ロッシー…」
突然、ロランの口が動き、名前を呼ぶ。
それを聞いたニアは、話すのをやめて、険しい顔となる。
「ふんっ。だから私は、このシステムに反対でしたのよ!さ、眠りなさい。あんたは、ただ世界を吐き出してればいいんですわ!また明日…おやすみなさいですわ…」
そう言うとニアは、自分の指をパチンと鳴らす。
するとロランは、突然眠気に襲われ、目を閉じて行く。
意識が、朦朧とするロランの目からは、一筋の涙が溢れ、名を呼ぶ。
「…おやすみ。ロッシー…」
またロランは、目を覚ました。
目の前に、ニアと言っていた少女が立っている。
「さ、調子がどうか教えてくださる?私も忙しいんですのよ?」
ロランは、何故か頭が痺れる様な感覚だった。
それをニアに伝える。
「あら?そうですの?少し構造を変更したのが、影響してるのかもしれませんわね。ま、そのうち馴染んで来ますわ。お気になさらずに…それじゃ、また来ますわね」
ニアは、そう言うと指を鳴らす仕草をしようとするが、ロランは口を開く。
「なぁ、少し話さないか?少し頭が、軽くなって来た。俺は、産まれてから、ここに居るのが役目だけど、動けないし、顔くらいしか動かす事が、出来ないんだ…」
ニアは、怪訝そうな顔をしてロランを見ている。
「だから…?」
ロランは、続ける。
「話そう。世界について。目を閉じたら見えるんだろ?ニアも、色んな世界が。そうだ!ニアなら何処の世界に行きたい?俺は、何処でもいいんだけど…」
ニアは、それを聞いて笑う。
「ふふっ!ふふふっ!あははっ!あなたって、本当にバカですわね!世界なんて…見えるわけないですわ。遂に頭がおかしくなってしまったのかしら?目を閉じるだけで世界が見渡せるなんて…。はぁ…先が思いやられますわね…」
そしてニアは、指を鳴らした。
ロランは、意識が遠くなる。
目を閉じると沢山の世界が、目の前に広がる。
ロランは、探していた。
もしかすると、居るかもしれない。
名前も顔も思い出せない、1人の少女を。
しかし世界は、遠くなり、暗く、何も見えなくなり、意識を失う。
時は、動いている。
ロランは、また目を覚ます。
目の前には、ニアが居る。
「世界の進行度は、順調よ。あなた達が、このシステムを始めた頃に戻りつつあるわ。どぉ?気分は?」
ロランは、その言葉を聞き逃さなかった。
「あなた…達…?」
ニアは、ロランから目を逸らす。
そしてニアは、突然ロランへと近づいて来る。
「あなたは忘れている様だけど、私達は、忘れていませんの。私は、あなたを、許しはしません…」
ロランは、ニアの瞳の中に居る自分を、見つめる。
すると指を鳴らす音が、聞こえる。
(俺は…忘れてなんて…)
ロランの意識は、遠のく。
しかし目の前が、暗くなる事は、無かった。
ロランの小指が、温かくなる。
曲げてみる。
何かに引っかかる様な感覚があった。
(何だろう…?)
意識は、虚ろだが、顔をその温かさへと向ける。
そこには、10歳程の小さな少女が居た。
その少女は、ロランへと話しかけて来る。
「ねぇ、ロラン。私は、あなたを忘れないわ。ねぇ、ロラン…?」
ロランは、胸が締まる様な感覚になった。
「お、俺だって忘れてない。俺は…君を…いや、お前を…、名前を…ずっと一緒に…」
その少女とは、小指だけで繋がっている。
本当に、この広い、無限に広がる空間の中。
ただ小指と小指だけで。
けれど、それは固く結ばれていて、温かさを、ロランへと運んで来る。
またロランの胸は、苦しくなる。
「あなたは、ずっと私と一緒に居てくれた…。だから今度は、私があなたとずっと一緒に居るの。約束、したものね」
微笑みながら少女は、小指を繋いでいない手で、ロランと繋がる小指を包む。
大きな熱が、身体中を駆け巡る。
ロランは、目を閉じる。そしてロランもまた、その置かれた手へと、小指を繋いでいない手を伸ばし、重ねる。
「ああ…約束をした。俺は、ずっと…ここに居るよ…」
するとロランの胸は、熱くなる。
意識は、遠くへと、遠くへと。
少女との距離も遠くなる。
(ああ…行かないでくれよ。傍に居ててくれよ。俺も、傍にいるから…)
そしてロランは、遠のく少女に手を伸ばし、目を開く。
世界は暗く、何も無かった。
誰も居ない。
そしてロランの足は、片方が前へと出ていた。
ロランは、もう片方の足を前に出す。
それと同時に、腕を振る。
足を交互に出す速度を、速くしていく。
腕を振る動作も速くなる。
息を吸い込む。
ロランの胸から黒い渦は、出ていない。
うごめいていない、黒へと、ロランは加速して行く。
そして、走るロランの姿は。
闇へと消えた。





