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時空魔竜騎アースガルンプロット.  作者: 一ノ元健茶樓
始まりの章
7/129

黒い本

 



 ロッシーは、震えていた。


(ちょっ!?ちょっとぉ~!なんなのコイツ!その作り話を、私にする意味は何なのよ?!このパなんとかって言う、上に冷たい丸い甘いのが乗った細長いやつと、このミアーンツとかいう、黒と白を基調にしつつも!フルーツで彩りのある、雅な仕上がりの甘味があるデザート。そして、こっちの芋を甘くしたようなのと、このプルプルしてるのとか最高で、めっちゃ甘くて美味しいけど、う、うまいぞぉ~!とか思ってる場合じゃないわ!)


 (私、本は凄い好きよ。。。いくらでも読めるわ。

 でもこーゆー人が作った話を、直接に聞くのって、すんごい疲れる。しかも結構マジに話してくるし…)


(これは適当に聞いて「素晴らしかったわ!それじゃ!」って逃げるべきよね。うん。私、分かるわ。それしかないって!!)


「...い...お...おい、おいっ!どこ見てんの?!焦点合ってないけど?!大丈夫?!聞いてる?!なんだその目?!おいっ!おおおおい!!!」


 虚ろな目で、考え事をしているロッシーの目の前で、ヒックは手を振ったり、変な顔をしたり、私の気を引きつけようと必死だった。


 あの後の、ヒックの話はこうだった。


 巨大な時空魔竜騎となったロラン?ヒック?は、敵のドラゴン少女と交戦。

 戦闘は、黒髪の女がしてたらしいけど、強さは互角。

 少し向こうの方が、慣れている分、圧されてた。


 しかし、その時、黒髪の女が言う。


「時空を、越えなさい!今すぐ!!」


 そんな事言われても、意味が分からないロランは、身体さえ自由も効かない。

 どうすんだ!?と思っていると。ロランの身体は、元の人間の身体に戻る。

 黒髪の女が、耳元で何かを囁くと、辺りが真っ暗になり、気づくと、ミシの路地裏に居た。


 持ってたのは、青い宝石のついたペンダントと1冊の本。

 そして、この国で使えるコイン。


 (出来過ぎてるわ…)


 ロッシーは、ヒックの話を思い返し、冷静に分析をした。


「それで俺は、あの時、あの女にお前を探せって言われたんだよ」


(ええ、なるほど、なるほど。私を、ね。探せ、ね。なるほどなるほ…)


「どおおおおおおおおっ?!は?!なんで?なんで私なのよ?!」


 (冗談じゃないわ!怖い!最初から私が目当て?!怖っ!この男に関わるのは、これ以上まっぴらごめんよ!図書館に連れてってくれたのは、感謝してるけど…それ以上でも、以下でもないもの…)


「あの時、言われたんだ。ロッシーを訪ねなさい、と」


 何かを思い出すような顔をしてヒックは、こちらを見ないで話す。


「訪ねなさい...て、、、」


(私、訪ねられてないわ。むしろ私が街へ来たのよ。どーゆーつもり?)


「あ、あとコレ!さっきの約束。本好きだもんな?やるよ!」


 (な、何?!この真っ黒い表紙に、なんのタイトルも書いてない本は...?てか分厚い…。辞書じゃないでしょうね?まぁ、くれるなら貰うけど…)


 本好きの性か、ロッシーは、手に取ってパラパラとページを捲り、目に止まる項目を、少し読んでしまった。


「時空魔竜騎の動かし、、、方?」


 ― 時空を跳ねる魔竜騎は、その者だけで、チカラを解放させる事は出来ない。

 共鳴者の魂を糧に、時空魔竜騎は、起動し発動する。

 2人の意思や記憶、体型など本来必要とされる糧は必要なく、魂と時空の強い繋がりでのみ起動する ―


「ん、ん~?よく分からないわね、、、これ、さっきの話に出て来たやつでしょ…?アナタが書いた...の…?!うぇっ!!」


 ロッシーは、ヒックが間近まで来ていたのに気が付かなかった。顔が密着しそうな程だ。

 ロッシーは、驚いて


「キャーッ!」


 と叫び、ヒックの顔を、本で叩いてしまった。

 ヒックは、衝撃で机の下に吹っ飛び、ロッシーの視界から消えた。


「あ、ご、ごめんなさい...大丈夫?」


「痛てて」


 ...と頬を撫でながら机の下から出てきたヒックは、怒りもせずにこう言った。


「それが、読めるんだな?」


 (読める?馬鹿にしてんのかしら…)


 ロッシーは、特に文字の教育を受けた記憶はないが、物心ついた時には、文字が読めた。

 本来そうゆうモノだと思っていたロッシーだが。村の者達が、それを驚いて、色々と聞いて来た事を、ロッシーは、思い出していた。


(それ以来、本はだいたい読めるのよ。。。ちょっと変なのよね?

でも気にしてないわ、私…)


 (黒塗りの難しそうな分厚い本だって、読める文字で書いているんですもの。私に読めないワケがないじゃない!)


 (いえ、文字が読める人なら、みんな読めるわ、よね?)


 そう思ったロッシーは、お店で料理を運ぶお姉さんを、呼び止め声をかける。


「ちょっとお姉さん!この本のココ!読んでみてくださらないかしら?」


 ロッシーは、ヒックへの当てつけの為、見せつける様に、手に持ち、わざと本を高々と掲げ、お姉さんへと見せる。


 お姉さんは思う。


(げ、さっきから暴れてる変な客に呼び止められた…ふふ、しかし私は接客のプロ…ここは、しっかりとお客様のご要望に答える…わ…って…え?!)


「あ、はぁ、、、あの、え、えーとぉ~、、、ほ、、、本?なんですかコレ?文字が…何も書いてないですけど?真っ白で…」


 それを聞いたロッシーは、思った。


 (忙しいのに呼び止めてごめんなさい。お姉さん。でも、そんなあしらい方しなくてもよくないじゃないですか?少しでいいの。1行でも読んでくれたら、すぐに仕事に戻ってくれていいのよ。うふふ)


 今日1番の、優しい微笑みを作り、ロッシーはお姉さんを見ている。


「ほら、ココからココまで読んでみてくださいな!時の~って所から…」


 お姉さんは本と、ロッシーの顔を、交互に見ている。


「あの、、、ホントに真っ白い紙にしか見えなくて、、、すいません!」


 お姉さんは、思った。


(マジでヤバい人達だったわ!ヤバい!逃げましょ!プロは深追いしないのよぉっ!)


「失礼致します。仕事がございますので。また、何かございましたら、お声掛け下さいね…」


(二度と声掛けないで!あと早く帰ってね!お姉さんからのお願いよ!)


 と言い残し、そそくさと仕事に戻ってしまった。


 ロッシーが、ヒックの方を見ると、とてつもなくニヤけた顔で、ロッシーを見ている。ほれ、見たことか。と言いたげだ。


「え?なに?どーゆー事なの?」


 ロッシーは、少し怖くなる。そして思う。


 (と言うか、私まで変人扱いされた気がする…)


 そう思いながら、ヒックを見ていると、おもむろに話し出す。


「そのまんまさ。その本は普通の人間には読めない。読めないどころか、文字が書いてある事すら認識出来ない。本当は、表紙も黒くない。普通の人には真っ白い、何も書いてない分厚い、紙の束だ」


「そ、そんな、、、こんな分厚くて、黒い辞書みたいな本が?」


「この先も話したかったが、今日はここまでにしよう。その本は、分厚いが、出来れば最後まで読んで欲しい。時間もあるのか無いのかは、分からない。早い方が助かる。と思う…」


 そう言うとヒックは、料理の代金を置いて、何処かに行ってしまった。


(え…あんなに引き止めといて、自分が帰る時だけ早っ!)


 ロッシーは、街を後にし村へ帰り、自分の家で本を開く。


 本を読むのには慣れているロッシー。少し時間がかかったけれど、全部読み終える。月は高く上り、下りかけていた。

 本の内容には、よく分からない箇所が、多数あった。そこは、特に気にせず読み飛ばし、最後まで、とりあえず目を通した。


 ロッシーは、自分なりに、この本の内容を考察する。


(よく分からないけれど、時空魔竜騎というものの事や、魔術と言われる私たちの世界には無い事象。不思議な事が、説明と著者の解説付きで、色々と書かれている。異世界の話を綴った本だと思い、分からない所は深く追求せず、難しく考えずに読み終えたけれど…)


 ロッシーは、本を読むと、その内容が、頭に残りやすい体質らしく、これだけの量の本を読んでいるけれど。大体の内容は、覚えていられる。


 しかし、この黒い本の内容は、覚えているような、覚えていない様な、今までに無い感覚が伴う。

 ロッシーは、理解が難しい。と、素直に思っていた。


 現実とかけ離れすぎていているし、物語とは違うので、なかなか頭に残らない。

 特に、魔術関連に関しては、知らない情報が多過ぎて、文字をただ読んでいる。という感覚にしかならなかった。

 けれど何故かロッシーは、1つの魔術を、本に書いてある通り試す事にする。


 - 髪の毛を1本抜いて、空中へ放り投げ、床に落ちる前に、精神統一をし、空間をイメージして、目を開く -


 著者メモには『飲み込まれ無いように注意』と書かれている。


 たった、それだけの事しか本には書かれていない。

 ロッシーは、同じ事をして、そっと目を開けた。


 タイミング良く、ランプの火が消えたのか、真っ暗である。

 しかし、ロッシーは思う。


(いえ…これは…真っ暗過ぎるわ…。何も見えない…。自分の手すら見えないし。目を開けていないの?私は?)


 そう思えるほどに暗く。恐怖が、段々と脳へ、入り込んで来る。

 

「え、ど、どうしよう...」


 ロッシーは、自分の存在すらも無くなりそうな気持ちになり、手や足を動かし、存在を証明するモノを探す。

 特に何かに当たることも無く、身体もフワフワとしていて、何とも心許ない。


(ベッドの上に、居たはずなのに。ど、どうしよう…何よ、これ…怖い…)


 ヒックが話していた、白い空間と似ているが、何も見えない分こちらの方が厄介だ。


(ずっとこのままだったらどうしよう…)


 恐怖が、脳に焦りを与える。

 心臓の鼓動が、小刻みになって行く。

 汗が首を伝う感覚が、本当に汗なのか疑わしくなる。


 恐怖が、ロッシーを叫ばせた。


「やめてっ!!!」


 目を強く瞑り、無意識にそう強く叫んでしまったロッシー。

 次に、目を開いた時、ロッシーは、元の部屋へと戻っていた。

 そして、膝の上に置いてあった黒い本は、黒い霧のような物を、少し吸い込みつつ、何事も無かったかのように、ただの本へと戻る。


 ロッシーは、膝を抱え、独りで少し振るえていた。

 だけれど、何故か凄く疲れてしまい。


(明日、ヒックを、、、とっちめて、、、や、、、る…)


 そう思いながら、ロッシーは

 気を失う様に。



 眠りについた。







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