母性
― ともしび荘 ―
ロッシーは、タウンワークをペラペラ捲りながら、ゴロゴロしていた。
「良いバイト無いわねぇ~。私って外国人って扱いみたいなのよねぇ~。難しいわ~」
すると玄関の扉が開き、ニアが帰って来る。
「あ、おかえりニアちゃん!聞いてよォ~面接行ったらねぇ…って、ニアちゃん?!」
帰って来るなり、玄関で倒れるように眠ってしまうニア。その手には、黒く分厚い、いつもロッシーが読んでいた本が握られ、靴には泥がついていた。
ロッシーは、布団を引き、ニアをそこへ寝かせる。
(ニアちゃん、大丈夫かな?まぁ、寝てるだけみたいだけど。それに、なんで、こんな本を持って出かけていたのかしら?)
そう思い、本をペラペラと捲るロッシーだったが、その本に、白紙のページが増えているように感じたが、それを机に置いて、ロッシーもニアの隣で眠ってしまうのだった。
― 惑星グラン フォルの部屋 ―
白装束のフォル、幼いズルワーンは、2人でローズティーを飲んでいた。
「どうですか?ズルワーンちゃん。ローズティーのお味は…」
「えーと、少し酸っぱい…です」
「まぁ!うふふ、ごめんなさいね…巫女の私は、この薔薇のお茶しか飲ませてもらえなくて…あなたには違うものをお出しすれば良かったですね、ごめんなさい」
隣のロランも笑っていた。
不思議そうな顔で、幼いズルワーンはお茶を飲み、また酸っぱい顔をするのであった。
― 時空間 ―
ヒックとロッシーは、気絶して漂っていた。
しかしヒックの中では、3人が喧嘩をしていた。
「だーかーらー!俺が世界を守ってやるって!」
「バカかテメェは!お前なんかより、ちょっと成長したコイツの方が絶対に、頭もいいし、俺にそっくりだろーが!!」
「お、お前の何処が頭いいんだよ!」
「ちょ、ふたりともケンカはダメなんだよ?!」
ヒックの中で、ヒック、ロラン、悟の3人は、誰がヒックの後を継ぐのか揉めていた。
「いいか?お前らは、俺の代わりにヒックと名乗るんだ。魂も成長し、見た目も精神も少し大人になる。そんで、あのロッシーって奴と一緒に、この世界の歪みを直して回るんだ。ずっとな。それがお前に出来んのかよ?!」
「出来るよ!さっきだって、俺が居なきゃ何ともならなかっただろぉ?!」
「う、そりゃ…」
「僕はどっちでもいいよ。妹のフォルをまもってあげれるなら」
「いや、あのな。こんな奴の中でずっと、暮らすんだぞ?!しかもコイツ、死なねぇからずっとだからな?!外の世界は見えるし、感じられる。ルーナと約束したのは、お前を成長させてやるって事だ。外の世界でな!」
「そっか…」
「んじゃ、俺はどーなるんだよ!」
「お前は勝手に入って来たんだろーが!」
「うっ…」
そして、3人は黙り込む。
「でも、やっぱり、外の世界をみるのは、ロランだよ。僕のそんざいは消えちゃうって言ってたし。僕がロランになる!」
「え?!」
2人は驚く。
「僕のパパと、ママが、こうなった原因だもん。ロランはそれを助けてくれた」
「本当に、それでいいんだな?もし会ったら絶対お前からそれを、あの怖いママに言うんだぞ」
念をおすヒック。
「いいよ!」
「よっしゃぁ!決まりぃ!!」
「お前なぁ…ほんとアホだよな…」
喜ぶロランを見て、ヒックは呆れた顔をする。
「しゃぁねぇ!俺がこうしてられるのも、あとちょっとだ。いいか?お前ら。絶対あそこに浮いてるロッシーって奴を見つけ出して守れよ!あれは、この世界を護る、お姫様みたいなもんだからな!」
「りょーかい!」
「わかりましたぁ!」
「そんで、お前らと、あの嬢ちゃんは、時を超え世界が自分を守る為に、別々の時間と世界で、恐らく記憶を無くし、書き換えられる。そしてアイツにバレないよう存在する。多分、あっちの嬢ちゃんもだ。成長し、見た目も少し変わるかもしんねぇ…」
「え?!無くなっちゃうの?!」
「えー!」
「安心しな。騎士としての役目と、胸の中にある気持ちは忘れねえさ」
「胸の中の…」
「きもち」
「それと、あの、ルーナにも、俺の魂が混じっちまってる。多分、お前らを助けるはずだ…」
「ママ…」
「それじゃあ頼んだからな!ヒック!ロラン!!」
「任しとけって!」
「僕もがんばる!」
2人は笑顔で、拳を上げる。
「じゃぁ…な…」
そう言って、ヒックの魂は収縮し、小さな光を残し、消えて行く。
それを見て2人は、何故か、泣いていた。
目を覚ますとヒックは、小屋にいた。
「おい!起きろよ、ロラン!おいって!」
「あ、ああ…ジュードか…おはよう…」
そしてロランは、しばらく呆けていたが、奴隷としての役目を果たすべく、仕事へ行く準備を進める。
「おい、ロラン」
俺の事をロランと呼ぶコイツは、奴隷仲間のジュード。そう、この頃の俺の名前はヒックでは無く、ロランだった。
「なんだよジュード」
「こないだの宿屋の赤ん坊ウチに来るらしいぜ」
この時ロランの魂と悟の魂に、ヒックの身体。
名も、ヒックとなる。
― その数日前 時空間 ―
魔竜騎フォルヒックトゥーナの手の中で、目を覚ます、2人のサトゥルーナ。
目を覚ますと、目の前には白い仮面を付けた、少女が居た。
「…お目覚め、ですね…」
「こ、ここは…」
「…?!ヒック!ヒックはどこなの?!私のヒックは!」
「…落ち着いてください…」
すると1人のサトゥルーナが、目眩を起こす。
「…まだ…完全に融合していません…落ち着いて話を聞いてください…」
もう1人のサトゥルーナが、目眩を起こしたサトゥルーナを支えていた。
「…あなた達は、2人で1人、そしてヒックの魂をお持ちです」
「…ヒック…」
そう言われ、2人のサトゥルーナは、世界の調律者ヒックの顔を思い浮かべるが、それは記憶の彼方へと遠ざかっていく。
そして悟という、ヒックの姿が、光の中から浮かび上がる。
その光から、もう1人。
青年が出て来ようとするが、光の範囲が狭く、足と手だけだった。ジタバタしている。
「な、何か…大切な…人を…」
「私たちは…」
「…あなた達には、少なからずヒックの力が残っています。しかし、それには限りがある…どうか…2人…を…」
そう言って魔竜騎フォルヒックトゥーナと、仮面の少女は、大きな時空の本の中へと帰って行ってしまう。
時空の中に取り残された2人は、何も無い地面へと足を着く。
その後ろから魔竜騎ズルワーンが、やって来る。
そして、その上には青白髪のズルワーンと、少し成長したフォルが乗っていた。
「やれ、フォル…」
「分かりました!ズルワーンさま!喰らいなさい!我が、大魔砲!パトリオットファイヤー!」
そう言うと、フォルが持っている大きな筒から、赤い閃光弾が放たれる。
それを1人のサトゥルーナが、片手で受け止め握り潰す。
「何をするのよ…」
それを見たズルワーンは、自身に魔防壁を張る。
「な、何だ、あの二人。以前とは魔力が段違いに…くぁっ!」
そう言って1人のサトゥルーナが、ズルワーンへと突進し、魔防壁に手を付く。
「ズルワーン…あなた、何をしているの…」
「お、お前は…誰だ?!」
「なんですって?!」
そこへフォルが、また魔法を放つ。
しかし、もう1人のサトゥルーナが、フォルの魔法を握り潰す。
「やめなさい!バカ少女!夫婦の会話中よ!」
すると、もう1人のサトゥルーナが話す。
「それ、私の娘なんだけど…反抗期かしら?」
「え?そうなの?!」
そしてズルワーンの魔防壁ごと持ち上げ、時空の壁を割り、外へと出て行くサトゥルーナ。
「え?!ズ、ズルワーン様?!」
フォルは取り残される。
「フォル!逃げよう!ズルワーンを探すんだ!」
「分かったわ!」
そう言って、フォルは広範囲に魔法防御壁を張りながら、魔竜騎ズルワーンごと逃げようとするが、サトゥルーナの放つ、怪しげな魔術によって、手や足を噛みつかれ、身動きが取れなくなってしまう。
そしてフォルに時空フィールドを貼る。
その間にサトゥルーナは、時空を割って外へと出る。
「んもう!何これ!気持ち悪い!」
外へと出たサトゥルーナは、ズルワーンとサトゥルーナを探す事にする。
しかし、ヒック。自分の息子の事も気になるのだった。
「…ヒック…」
この時点で、2人のサトゥルーナの意思は、混合が進み。お互いがお互いの足りない魂を、補修し始めていた。
そして、それはフォルの中でも起こっていた。
気を失ったフォルの中では、田舎の村から連れて来られていたフォルが目を覚ます。
「ねぇ、ロランは何処にいるの?」
外へと出て来た、サトゥルーナとズルワーンは、森へと降りる。
「ねぇ、あなたは誰なの?!私のズルワーンでは無いわ…」
「私は魂の王、ズルワーンだ!」
「何よそれ!ちゃんと分かるように話なさいよ!」
そう言ってサトゥルーナは、ズルワーンの魔法壁を殴って壊す。
ズルワーンは、驚き、抵抗しなくなった。
そしてサトゥルーナは、自身の周りに、時空フィールドを発生させる。
「絶対に、逃がさないわよ…」
もう1人のサトゥルーナは、ヒックの気配を感じ、ある屋敷の小屋へと進む。
(居たわ!ヒック!私のヒック!)
しかしヒックは、眠って居て起きようとしていない。
そして近くには、項垂れた人の様な物が居た。
そしてサトゥルーナすらも、分からない壁の様な物があった。
(何かしら…これ。それに…なんなの…この屋敷は…)
サトゥルーナは、一旦、森へと入る。
そして遠くから見ると、大きな時空フィールドに覆われた空間が広がる。
(そ、育てているんだわ…世界が…ヒックを…)
そう直感したサトゥルーナは、あるべき姿へと自身を変貌させ、その中へと入るには、物語の一部になる必要があると悟った。
(分かったわ。外から干渉さえすれば良いのよね)
そしてサトゥルーナは、旅人となり町の宿屋へ滞在し、自分の身体を赤ん坊にする事を決める。
(きっとヒックを育てているんですもの、母性は強いはずよ…)
そして、森へと魔術に必要な材料を取りに行っては、宿屋へ帰る。という日々が数日続く。
ズルワーンともう1人のサトゥルーナは、内側からは出られない時空フィールドに居た。
「ねぇ、本当に私を覚えていないの?あなたは何なの?」
「私は未来から来た、魂の王ズルワーンだ…」
「…こないだもらった、変な本の読み過ぎじゃないでしょうね。冗談はやめてよ?」
「お前こそ誰なのだ!この間までのルーナとかいう女では無いだろう!」
「ルーナ?誰よそれ。私はサトゥルーナよ…」
その時、2人の心に悟の姿が、一瞬だけ浮かび上がる。
「ルーナ…君は」
「ズルワーン…あなた…」
2人の魂は、離れていても共鳴し合い。
過去を思い出そうとする。
しかし2人は突然、大きな力に吹き飛ばされ、時空フィールドにぶつかり、弾き飛ばされてしまう。
そして2人は、気を失い、外の時間だけが過ぎ去って行く。
赤子となり、無事、時空フィールド内の屋敷へと、潜り込んだサトゥルーナだったが、赤子の姿を解除せずに様子を見る。
しかし離れた小屋に居るヒック達へは、近づけないでいた。
そんな時、屋敷の主人の部屋へと連れて来られるサトゥルーナ。
主人は言う。
「お前は…何なのだ?どうしてここへ来た…」
それを聞いたサトゥルーナは、驚く。
(バレていたのね。なのに何故、私をこの中へ入れたのよ…)
主人が話す。
「お前には、少しヒックの魂があるな…育てられに来たのか?」
赤子のまま、サトゥルーナは話す。
「ヒックを返してもらう為に来たのよ」
「それは出来ない。まだ十分に育っていない。私は世界から、あの青年を育てるように言われている」
「ヒックを返しなさい」
「ダメだ。ならばお前の中から、ヒックの魂を貰い受ける…」
その時だった。
ルーナの魂は、ヒックの魂が無くなる事こそ、守るべき者を守れないと思い、爆発する。
屋敷のその部屋は、サトゥルーナの放った魂の爆風により燃え盛り、それは屋敷全体を燃やして行く。
すると周りに居たメイド達が、サトゥルーナへと飛びかかり襲って来る。
サトゥルーナは、自身の長い髪を伸ばし、そのチカラを吸い取り、メイド達をミイラ化させる。
そしてサトゥルーナは、1人残った主人に言い放つ。
「私のヒックを返しなさい」と。





