カサブタ
― ともしび荘 ―
銭湯から帰って来たロッシー達は、2人で1本ずつ、パピコを食べていた。
「…ん…んん…」
ニアは最後の方を食べるのに苦労している。
ロッシーは、何やら分厚い本を読んでいた。真っ黒な、辞書の様な本を。
「…ロッシー姉様…その本…好きね…」
「え?!あ、ううん。好きな訳じゃないんだけど…何だか、気になって…。別に読んでても、そんなに面白くは無いんだけど…それに…結構、白いページが多いのよね…何も書かれてないの」
そう言って、ニアに本を開いて見せる。
「…。ホント…」
そう言ってニアは、殻になったアイスを捨て、布団をひき始める。
「ニアちゃんは、本、読まないの?」
「…読まない…」
そう言ってニアは、テレビをつけて布団の上で横になる。
ロッシーは、何となく、その本に書いてある、魔術と呼ばれる動作を試してみようと思った。
髪の毛を1本ちぎり、空中へ放り投げ、地面に落ちる前に精神統一をして、空間をイメージし、目を開く。
本には『飲み込まれ無いように注意』と書かれていた。
ロッシーは、同じ事をして、目を開けた。
何も起こらない。
「やっぱ、本は本よね」
そう言って、布団をひき始める。
2人はテレビを見て、笑っていた。
― 惑星グラン ―
ズルワーンとフォルは、金色に輝く光に包まれ、宙に浮いていた。
その少し前を、白装束のフォルと幼いズルワーンが、歩いている。
「驚きました。彼女もフォルヒックトゥーナという名前なのですね。顔もそっくりだわ…」
「そうなんだ。あの2人を守らないと、僕の好きだったフォルは、帰って来ないんだって…」
「あら、まだフォルと言う、お名前の方がいらっしゃるのですか?」
「あの中に居るんだ…」
そう言って幼いズルワーンは、風船のように浮かぶフォルを指さした。
― ルーナ家 ―
ルーナは、仕事を休み、家のリビングのソファに座り、悟に絵本を読んでいた。
「その時、狼は言いました。お前を食べるためさぁ!!!と」
「うわああああああああっ!!!!」
「ちょっ!ふふっ、あはははは!もう、悟は怖がりね、ホント。ママ心配だわ…男の子なのに」
そう言ってルーナは、悟の頭を撫でている。
「…だって、ママの声が大きいんだもん…」
「…そっちなの?」
ルーナは、また1人、大声で笑っていた。
それに釣られて、悟も笑う。
その時だった。
庭の窓に人影が見える。
「ルーナ、楽しそうだね」
咄嗟に悟を抱き寄せ、ルーナは青ざめる。
「な、何をしているの…け、警察…呼ぶわよ」
ガラスが割れる音がする。
ズルワーンは、窓の鍵を外側から開ける。
「その子は、誰だい?」
ズルワーンは、迫って来るのをやめない。
悟はただ、黙って窓の外に居る、女の子を眺めていた。
「な、なんなのよ、あなた…頭おかしくなっちゃったの?!」
「僕は!何も変わっちゃいないさ。変わったのは君の方じゃないのかい?ルーナ…」
そう言って、震えるルーナに手を伸ばすズルワーン。
「何してんだい!あんた!」
ルーナの祖母だった。
ガラスの割れる音を聞いて、慌ててリビングへ来たようだ。
少し息が荒い。
「おや、これはどうも。おばあ様。僕はルーナの…ボーイフレンドです」
「ボ…」
祖母は固まっていた。
ズルワーンは、ルーナの手を引き庭の方へ引っ張って行く。
「は、離してっ!」
ルーナは、抵抗するが、ズルワーンの力は強かった。
窓の方には、ガラス辺が散らばっている。
裸足だったルーナは、足に、その欠片が刺さる。
「っ痛…」
「さぁ、フォルに君の電子脳を分けてやってくれ…それで…」
「ママをはなせ!!」
悟だった。
悟がズルワーンのズボンを引っ張っている。
ルーナは、ガラスの破片で、悟が怪我をすると危ないと思った。
「おばぁちゃん!悟をお願い!分かったわ、ズルワーン。話をしましょう…」
「ルーナ!何言ってんだいっ警察呼ぶよ!」
悟を抱きしめながら、眉間にシワを寄せて、ズルワーンを睨んでいるルーナの祖母に、ルーナは微笑みかける。
「心配しないで、おばぁちゃん。悟とステファンをお願いするわ…」
足の裏の欠片を取ると、庭のサンダルを履いて、そのままルーナは、ズルワーンと小さな女の子フォルと一緒に、どこかへ行ってしまった。
残された悟と、ルーナの祖母は、それをただ見ていた。
「ママは?」
「ルーナなら、大丈夫よ、悟ちゃん…」
その表情は、とても暗かった。
ズルワーンは、歩きながら話し出す。
その手には、フォルの小さな手が握られている。
「さっきのは君の子かい?ルーナ…」
「え、あ…そ、そうよ」
「結婚したんだね。おめでとう」
「いえ、それは…」
ルーナは、思っていた。
(これは、私の望んでいた、事…言うのよ。あの子は、私とあなたの子だって…)
「あ、あの!ズルワーン!」
その時だった。空を見上げたズルワーンが、呟く。
「…フォルも、喜んでいるさ」
ルーナは、ズルワーンが連れている、小さな女の子を見る。
(確かに、似てるけど…なんだか…似すぎているわ…ね…それに、いつ、出来たのよ…あの時にもう妊娠してたっての?あのバカ女、そんな風には…)
「ね、ねぇ、ズルワーン。フォルとの子供なの。その子は…」
ルーナは、もう耐えられなかった。
「ああ、そうだよ。僕が努力して作ったフォルとの子供さ。苦労したんだ…」
「な、何を苦労したのよ…」
ルーナの顔は、少し赤みがかかっていた。
「フォルの腹から子宮を取り出して、僕の細胞と結合させたんだ。それを培養した。脳みそも取ってあるんだ。フォルの血液細胞液と、微尺な電流を流し続けてるから、まだ生きてるはずだ。いつも脈打ってるし」
嬉嬉としてズルワーンは、ルーナに向かって話をしている。
「…な、ズルワーン、あなた。何を言っているの?」
「え?聞いてなかったの?フォルのお腹から…」
「やめて!何を言ってるのよ!!何なの?!」
「ど、どうしたんだよ…ルーナ…」
ズルワーンは、ルーナの手を掴もうとするが、ルーナはそれを許さない。
ズルワーンの手を、逆に掴んで離さなかった。
「警察へ行くのよ。もう日本の警察でも構わないわ!」
「よしてくれよ。僕は何も悪い事なんてしていない。君なんて、助けを求める僕を無視し続けたじゃないか。それこそ罪なんじゃないのかい?」
「それとこれとは、話は別よ…ねぇ、それホントの話なんでしょうね?ごめんなさい、私、なんだか余裕ないみたいで…」
ルーナは、ズルワーンの手を握るチカラを緩めた。
「僕が嘘をつく訳無いじゃないか、ルーナ」
そう言われ、ルーナは先程の話が嘘なのだと確信した。
「そうやって、私に復讐しに来たって訳?じゃあ、私からも言わせてもらうわ。さっきの男の子、悟はね、あなたの…ズルワーン、あなたと私の子なのよ!!」
「…っえ?」
これには流石のズルワーンも、少したじろぐ。
「ほ、本当なのかい?ルーナ…そんな…。そんな…君こそ、僕を…いや、君はそんな嘘はつかない。なんてことだ…なんて…」
ズルワーンは、頭を押さえてよろめいている。
「少し、整理したい。明日、また電話をする。必ず出て欲しい。お願いだルーナ。僕を助けてよ…それじゃ」
そう言ってズルワーンは、女の子の手を引いて歩き出す。
しばらくルーナは、2人の背中を見つめ。自宅へと帰る。
家へ帰ったルーナは、すぐに悟と祖母に抱きつく。家には警察が来ていた。ルーナは痴情のもつれ。という事にし、事件にはしなかった。
「すいません。ご迷惑をおかけしました」
そう言って警察を見送ると祖母は、ルーナに尋ねる。
「大丈夫だったのかい?もしかして、本当に、あの男が…」
ルーナは、黙って首だけを縦に振り、悟を抱き上げ、家へと戻る。
そしてルーナは祖母に
「この事は、父さんには内緒にしてて…」
そう言って
ガラスの破片を掃除する
ルーナの足にはもう
カサブタが
出来ていた。





