漂流
全員が、戦艦ロズウェルβの艦橋に集まっていた。
ロズウェルβの前部が、垂直に割れ開いて行く。その中からは、巨大なクリスタルの様な装置が現れる。
巨大なクリスタルが、細かな光を放出し出す。そして一際大きな光を放出すると、巨大なクリスタルから黒い円形の板の様なモノが、何枚も前方へ放射される。
モイラが艦長へと伝える。
「準備、整いました!」
ホーラが続く。
「マルハチ、フタマル!全方位に敵影無し、全艦装備、設備、異常無し!」
クロートーが叫ぶ。
「タイムライト凝縮放射炉、充填完了!行けます!!」
そして、艦長の声が艦橋に響き渡る。
「時空層間移動戦艦ロズウェルβ、我らが母星グランへ向けて…発進!!」
「了解でーす」
中央に設置された舵横のレバーを、前方へ全力で進めるパルカ。
続けてラケシス艦長が叫ぶ。
「ロズウェルβ、主砲、断時空破壊光線ネクストブライト、発射!!!」
舵を取る為の船輪が、中央から割れると中からは、トリガーの付いたレバーが出現する。
「ネクストブライト!発射しますっ!!」
パルカが、トリガーを引くと、ロズウェルβの巨大なクリスタルから、眩い巨大な光線が発射される。
それは黒い板を通る程に細くなり、凝縮されて行く。その細い光線が空の一部に当たると、その中心が黒い点を産む。
「未だ!縮小板を当てろ!!」
艦長がパルカに命令する。
「了解です!」
ロズウェルβは、進行速度を早め、後方から黄色い光を大量に放射する。
「当てまーす!!!」
その黒い点に、ロズウェルβの前方で展開している黒い縮小板を当てる。
黒い点に縮小板を当てると、縮小板は割れて消えて行く。
そしてロズウェルβから1m前方、最後の縮小板が黒い点に当たると、空は割れ、黒い空間が前方へ広がる。
そのままロズウェルβは、時空間へと進入して行く。
「やりました!2回目の成功です!!」
モイラが、艦長へ報告すると、艦橋に居る全員から歓声が上がる。
割れた空の黒い空間は、水の様にうねり、ロズウェルβを吸い込んで行く。
その速度は遅く、出力を最大にしても、前進するスピードは遅い。
ロズウェルβが、闇に沈む中、ギルバートとサランは手を繋ぎ、肩を寄せ合い、自分たちの世界を見ていた。
「ねぇ、ギルバート…何だか寂しいね…」
「なぁに、少し遠い新婚旅行さ。ヒックの話なら、また1周してくれば帰って来れるみたいだよ?」
「そうだよね。よっし!世界と私たちの世界!守るっきゃないって感じでぇ!チョベリグでウケる!ね?ギルバート…」
「そうだよ!僕もチョベリグ~な感じさ!」
2人は、笑って世界に手を振り、闇の中へと吸い込まれて行く。
ヒックは、ロッシーの事を思い出していた。
(ニアが傍にいる。大丈夫だとは思うけど…無事で居てくれよ…)
― それから1ヶ月 ―
「きょ、今日も…ダメでしたね…」
モイラが自分の席で項垂れる…。
「ま、また、こんな事になるなんて…ガックシですぅ…」
いつも元気なパルカですら、元気が無い。
「まさか、こんな事になろうとは…」
ラケシスも頭を抱えている。
― ロズウェルβ出発より2時間後 ―
クロートーが艦長へ報告する。
「艦長、データを分析しましたが何も出ません…」
ホーラも続く。
「何の反応も無いわ…出力は安定してるけど…」
ギルバートとサランは黙っている。
ヒックは、艦橋の装置や画面を眺めていた。
「んー…」
「うむぅ…まったく分からん…」
ラケシス艦長は悩んでいた。
― ロズウェルβ 時空間へ進入5分後 ―
クロートーが艦長へ聞く。
「艦長、座標はどうしますか?」
「我々の世界!我々の出発点だ!さぁ!全速力で前進するぞ!!」
まだ熱が冷めやらないラケシス艦長。
「それが、その…出発点の座標って…何処ですか?」
それを聞いたラケシスは、何かを思いついた顔をする。そして、額からは汗が流れる。
艦橋に居る全員が、艦長へと視線を向ける。
「え、あー、あのぉ、えーと…」
だんだん皆の顔が曇り出す。
不穏な空気が、艦橋を包んだ。
「分からん」
「…」
「座標、分からん…」
艦長以外の全員が、高い位置にある艦長席の周りへ、一斉に集まって何やら叫んでいる。
「ちょ!艦長!てか博士!行きの時と同じじゃないですか!!」
モイラが他を制して、艦長へと講義する。
「いや、さっき彼が逆流に逆らわなかったら戻れると…」
ラケシス艦長は、ヒックを指さしている。
全員の矛先がヒックへと向かう。
「どうなんですか?!ヒックさん!」
「ど、どうなんですか…て言われてもな…それは出発した時の話だろ…逆にアンタら、どうやって帰るつもりだったんだよ…」
ロズウェルの面々は、痛いところを突かれたという顔をしている。
特に艦長は、両手で顔を覆ってしまっている。
「アンタら、さては…アホだな」
そう言った瞬間だった。
ホーラが、ヒックの後頭部を、フライパンで殴り、ヒックを気絶させた。
すぐに全身が青い炎に包まれ、ロランが出て来る。
全員にもう恐怖心は無く、ロランの顔の直前まで顔を寄せている。
「あ、あの…ヒックは不老不死だけど、痛さは感じるから、もう少しやさし…く…」
そんな事を言っている場合ではなさそうだと、ロランは、咳払いをして話を変える。
「分かりません」
「え?」
「分かりません」
「ん?」
「分からないんです」
「へぇ…」
「ちょっと!ロランが分からないって言ってんのよ!このボンクラ共!!自分たちで考えなさいよ!!」
何度もロランに、聞き返して来る一同に、文句を言うべくフォルも青い魂となった。
「ロラン!こんな奴らユニリンクして蹴散らしましょ!」
「ちょ!ま、待って、落ち着いて、フォル!こ、この船には、座標を決めるっていうか、何か、こう、エネルギーを感知するような技術は、搭載されていないんですか?」
ロランの視線を感じたラケシス艦長は、手の指だけを動かして、目だけをこちらに向けている。
「…ある。けど、それの感知範囲は狭い…正直、時空間の距離感が、まったく分かっていない…」
ロランは続けた
「あるだけでも、凄い事なんですが…それでよく出発する気になりましたね…」
「グレイ君が…」
「アイツのせいか…こんな未装備のまま出発させたのも、これを…間違いなくアイツは…」
また全員が、ロランの顔に顔を近づけている。
「…すいません。相談はここまでです。失礼しました」
そう言うとロランは青い炎となり、ズルズルとヒックの両腕部分の黒い空間へと戻って行く。
「え!ロラン!ちょ!」
そう言うとフォルも赤い光に戻る。
「え!ま、待ってくれ!君が1番まともな意見言えそうなんだ!」
ギルバートは、青い炎を掴もうとするが、手はソレを掴めないまま、ただ気絶したヒックだけを残し、静寂が訪れる。
サランが、ヒックを掴み、縦や横に振る。
「…うが…う、うわわわ!な、何してんだ!!」
ヒックが目覚める。
サランは、ヒックを手放し、地面に落とす。
一同は黙ったまま持ち場へ帰る。
サランとギルバートは、艦橋を後にする。
「え?!え?な、何?!俺?!俺のせいか?!え!えええええ!!!!」
時空間にヒックの悲しい叫びがコダマする。
― そして現在 ―
「これ…本当に1ヶ月経っているのかしら?戻ってるのか、進んでるのかも分からないし…」
モイラが時計と、艦橋の外を見つめながら呟く。
「そうね…外は真っ暗ですものね…」
ホーラも呟く。
「この2ヶ月で陽の光を見たのって、ギルバート達の世界に出た時だけっすよね…」
クロートーも沈む。
「私…舵を握ってるだけの人形みたい…」
パルカは、本当に舵を握って、突っ立っている。
「ギルバート達、今日はどうしてるのかしら…」
あの後、ヒックが寝ている時に出て来たロランが
「ヒックの腕を治すと、何とかなるかも…」
という言葉だけを頼りに、ラケシスとギルバートは、あれやコレやと作業をしていたが、神経接続が出来そうにない、ヒックの腕の黒い部分に悩まされていた。
「私が見るに、コレは…無理だな…」
「ラケシスさん!諦め無いでくださいよ!」
諦め気味の艦長を、ギルバートが励ます。
「ヒック君の、この黒い部分。私が見るに、この世の物とは到底思えない。いや、ヒック君自体が私たちの認知を超えた存在だ」
「確かに…僕達の科学力…しかも、こんな閉鎖された船の中では…これ以上…」
ギルバートとラケシス艦長は、ヒックを置いて部屋を後にした。
研究室に取り残されたヒックは1人で呟く。
「…好き放題言うな、アイツら…でも、もう1ヶ月も過ぎたのか…ロッシーもだが、ズルワーン達の事も気になる。早く何とかしないと…」
そう言って部屋を出ようとした時だった。
ロズウェルβが激しく揺れて、ヒックはよろけて壁に頭を激しくぶつけ、気を失った。





