決戦決闘
空からキラキラとした物体が、降って来ている。
ロッシーとフォルの2人は、一斉に空を見上げた。
そこには案の定、割れた空と、黒い空間が出来上がっている。
その黒い空間から、蒼い鉄の塊で出来たようなドラゴンと、その頭に乗った、赤い帽子に赤い服とスカート。
そんな格好をしたフォルが、蒼き魔竜騎ズルワーンの頭に仁王立ちしている。
「やっと見つけたわロランッ!あの女も居るわね…ん?なんか1人増え…ハウッ!?」
以前、攻撃をして来たフォルが、ヒック側のフォルを見て固まっている。
向こうは赤い服、こちらのフォルは魔導軍服のままなので、黒が基調の容姿となっている。
そして軍服フォルも、目を丸くして、上を見上げたまま固まっている。
「ちょ…アレって…私…?」
赤服のフォルが、ズルワーンに向けて話す。
「ちょ!!分魂しちゃうんじゃないの?!私?!ねぇ!ズルワーン様!!」
軍服フォルも、ヒックに向かって話す。
「ちょ!!分魂しちゃうんじゃないの?!私?!ねぇ!ロラン!!」
2人は叫ぶ!!
「「ねぇ!!!どーしよ!?!」」
その時、魔竜騎ズルワーンとフォルの上空に、青い霧の様な物が突然現れる。
そして、それは人の形へと変化していき、次第に色がつき始める。
その霧は、青白髪の男へと変わり、赤服フォルの横に舞い降り、頭を撫でながら話す。
「心配ないよ。アレとキミは、似て非なる者さ、安心しなさい」
青白髪の男は、優しそうな笑みを赤服フォルに向けている。
赤服フォルは、猫の様に喉を鳴らしながら、青白髪の男に擦り寄り、幸せそうな顔を見せる。
そして軍服フォルの顔が、蒼白として来ている。
「あ、、、アイツ…なんで…倒した、はずじゃ…なかった、の?」
それに気付いた青白髪の男が、下に居る軍服フォルへ軽く会釈する。
「あの時は、どうも…愛しの君…」
そう言って微笑んでいる。
蒼白としていたフォルの身体は、震えだし、怒りに満ちた顔は、紅くなっていく。
「ロランを…ロランを…返しなさいよ!」
そう叫ぶも、身体にチカラが入らなくなったフォルは、地面へと座り込んでしまう。
それを見たヒックは。
「大丈夫か?」
と寄り添う。
「アイツを、知ってるのか?」
「ええ、ロランはアイツに殺られたわ。あなた達が来る前に…私が戦って、アイツを倒した筈だったんだけど…」
失意に満ちた顔を見せつつも、握る手にはチカラが込められていた。
「大丈夫だ、安心しろ。今は俺たちが居る。な!?ロッシー!」
そう言って振り返るとロッシーは、放心状態で、ただ黙り込んでうずくまっていた。
「おいロッシー?どうした?!大丈夫か?!…ったく、どうしろってんだよ…」
うずくまっているロッシーと、ただ黙っている軍服フォルの間で困惑を隠しきれないヒックは、怒りの表情で上に居る青白髪の男を見上げる。
青白髪の男は、笑みを浮かべて見下ろしながら手に嵌めていた白い手袋を外そうとしている。
それを見たヒックは、横の2人に叫んだ。
「まずい!全速力でヤツらから逃げるぞ!逃げろ!」
そう言ってロッシーと軍服フォルの手を握りしめ、ヒックは立ち上がる。
横の2人もヒックが叫んだ事に驚いて正気に戻り、同じように後ろへ向かって走り出す。
両隣りが走り出した事を確認したヒックは、手を離して前を向きながら叫んだ。
「全速力で奴らから隠れる!振り向くな!絶対に受理するな!」
と叫んだ。
「じゅり?!何よぉ!それぇ!」
走りながらヒックに、軍服フォルが尋ねる。
しかしヒックは、もう走るのに夢中で聞いていない。
軍服フォルとロッシーは、ただヒックの後を全速力で追いかけている。
が、ロッシーの様子がおかしい。
少し走った所で、またしゃがみこんでしまった。
それにヒックとフォルは、気づかなかった。
「私は…」
ロッシーは、考えていた。昨日の戦いの事を。自分に起きた、ここ1ヶ月程の様々な事を。ロッシーは、戦闘に長けている訳でもない。魔法使いでもない。ただの山の中で本を読んで育っただけの少女なのだ。ただ本が読みたかっただけなのだ。
なのに何故、今こんな事に巻き込まれて怖い思いばかりしているのかを。
あの黒い本で魔法を使った事も、この間の戦いの時も。
自分の行動が正しかったのか、ずっと悩んでいた。
私は、本当に着いて来て良かったのだろうか?
本当に断る機会は無かったのだろうか?
家へ帰れるんじゃ無いのだろうか?
それにあの時、もっと早く何かしていたら、ヒックを傷つけなくて済んだのか?
あの少女に怪我をさせてしまったんじゃないだろうか?
私は図書館で、本が読みたかっただけなのに。
読みかけの本、読みかけの本もあるのに、こんな事。
ヒックは、私に嘘を…ついているんじゃ、ないの?
ロッシーの目は、少し潤む。
そして身体にチカラが入らなくなり、動けなくなる。
ロッシーは、地面に手と膝を着いて、顔は地面だけを見ている。
「何やってんだ!走れ!ロッシー!」
大分と走った所でヒックが、ロッシーの異変に気づいて叫ぶ。
それでフォルも異変に気づき足を止めて振り返っていた。
ヒックは、叫んだ後に少し考えていた。
そして。
「フォル!お前は、そのまま逃げろ!」
と言い放つと方向転換し、ロッシーに向かって走る。
「え!え?!え?!ああああ!?もう!なんなのよぉ?!」
ロッシーに向かって行くヒックと、荒野から森へと続く道を交互に見て、どうすれば良いのか迷い過ぎて軍服フォルは、その場で兎の様にただ跳ねているだけだった。
失意に呑まれたロッシーは、まだ放心状態で周りが見えていない。
そんなロッシーの目の前に、上から青白髪の男が舞い降りて居る。
「ヤバイッ!!」
とだけ叫んで、走る速度を上げるヒック。
青白髪の男は、ロッシーの片手を手に取る。
「君には関係のない事だけれど、悪くは思わないで欲しい、が…」
と言いながらロッシーへ微笑む。
そして先程外した白い手袋を、ロッシーの片手に置いた。
「受理、してくれたね?」
そう言ってロッシーの頭を、微笑みながら手袋がない手で撫でる。
すると上に居る赤服フォルが、叫ぶ。
「ああああ!!生の手で頭を撫でられているっ!あの娘っ!許せないわ!」
と怒り狂う。
そしてロッシーは、頭を撫でられて、やっと意識を取り戻す。
「…え?…なに?」
青白髪の男が、小声で独り言のように言う。
「さぁ、決戦だ。カタストロフィ…」
突然、地鳴りがするとロッシーと青白髪の男を中心に、500メートル程離れた場所から、ロッシー達を丸く囲むように光の線が、地面に引かれて行く。
青白髪の男は、ロッシーに手を振りながら魔竜騎ズルワーンの方へ浮かび上がり、到着すると赤服フォルに、下へ向かうように告げる。
ヒックは、やっとロッシーへと辿り着く。
その後ろには、何故かフォルも着いて来ていた。
「大丈夫か?ロッシー!ってぇ?!フォル!なんでお前まで戻って来てんだ?!」
走って来た軍服フォルが、視界に飛び込んで来たのを見て、ヒックは飛び上がるほど驚いていた。
「置いとける訳ないでしょ!こんな状態の女の子を!こんな所に!ほらっボンクラ魔導師、行くわよ!なんかヤバい感じよ、これは…」
そう言いながら軍服フォルは、辺りを見回す。
ヒックは、ロッシーの手に握られている白い手袋に気付く。
そして、それを取り上げて後方に捨てる。
「しまった…受理しちまってる。こんなの通るのかよっ…」
横で聞いていたフォルが聞く。
「だからその『 じゅり』ってなんなのよ!」
「『受理』は、決戦決闘の申し込みを受けたって事だ!これはヤバイ、来るぞ…」
そして魔竜騎ズルワーンが、人型に変形し、落下して来て地面に土埃を巻き上げる。
敵フォルと青白髪の男は、ズルワーンの肩に立っている。
それと同時に先程引かれた光の線から、六角形の半透明な板の様な物が無数に浮かび上がり、瞬時にしてドーム型の壁を形成する。
すると、その壁の外の様子が変わる。
大地は、ひび割れ。マグマが吹き出し。空には稲妻が、突如として世界の終わりが来たかの様な、天変地異に襲われている。
しかし、このドームの中は、平穏で何も変わらない。
しかし大地ごとドームが、空へと浮かび上がり、移動して大地と雲の間ほどで止まる。
「な、なんなのよ…これ…魔導結界、なの?でも、こんな、規模の…それに外は、なんなのよ、これ…」
軍服フォルは、困惑し、ただ変化した悲惨な世界の現状を眺めているだけだった。
変わって行く外の世界が、目に反射しているだけのロッシーは、ただただ放心していた。
そして、小さな声で何かを呟き続けていた。
「私のせいなの……私が…私が悪いの…私は…私が…わた…」
小刻みに震えながら動けないロッシー。
ズルワーンが、こちらへと進んで来ようと足を上げる。
「話は後だ!このままじゃ負けて全部終わっちまう!ロッシー、頼む!」
そう言うとロッシーの小指に自分の小指を引っかける。
ヒックの小指が、ロッシーの手の小指に引っ掛けられる。
すると震えが、一瞬にして止まるロッシー。
しかし、そのまま無言で下を向いている。
そしてヒックは、反対側の小指を軍服フォルに向かって差し出す。
「フォル!悪いがお前にも付き合ってもらう!俺の小指にお前の小指を引っ掛けてくれ!そのままの状態で、ここに居る方が危険過ぎる!」
そう言ってフォルに小指を差し出す。
「え?!こんな時に何言ってるの?!何するの?!」
そう言いつつも、ロッシーとヒックがそうしているのを見ながら、ヒックの小指に自分の小指を引っ掛ける。
左にしゃがんだままのロッシー、右には立って左指の小指を、不安そうな顔で引っ掛けている軍服フォル。
そして真ん中には、しゃがんで片足を立てているヒック。
「上手く行ってくれよ…」
ヒックは、そう言うと1人で叫ぶ。
「ユニリンクッ!」
そうすると三人の身体は、光り輝き宙へ舞う。
ヒックの光は、白い巨大な人型となり白き魔竜騎ヒックとなるが、以前とは少し形状が異なり、全体的に少し手足が細く、ボディのカラーも白が基調だが、赤いラインが数本胴体や手足、頭などに入っている。
軍服フォルは、全身の輝きが消えると、赤い帽子に赤い軍服型のミニスカート姿へと変身する。
向こうのフォルと、似て非なる格好へとなった。
ロッシーも同じく、黒い帽子に黒い服とミニスカート姿に変身して、二人とも宙に浮いたままとなる。
そして巨大な騎士の姿になったヒックは、こう叫ぶ。
「白き不死の魂よ!我が、主を守るチカラを我が拳に!」
その一瞬だけ騎士は動き、マントを靡かせ両手を広げる。
そして、不動となる。
空に浮く紅い姿となったフォルも、続いて叫ぶ。
「真紅の因果が導く魂よ!運命に抗うチカラを我らの為に!」
右手の人差し指を空へとかざし、片方の手は腰に。
そして2人は、両手を胸に当て、2人は叫ぶ。
「我は魂を捧げる!白き魔竜騎ヒック!」
「我は全ての運命!紅き魂の片鱗!フォルヒックトゥーナ!」
そして両手を、同時に前へ出す。
その決めポーズをした瞬間、3人の後ろが派手に光を放ち、弾け飛ぶ。
すると、変身した軍服フォルが、驚いて叫ぶ。
「ちょっ!?な、何よ今の!ビ、ビックリしたじゃないのよ!?」
そして1人、変身はしたものの、何もせずに居たロッシーは、そのまま下へと下りてしまい、立っていられないのか、その場にしゃがむ。
それを見たヒックが、フォルに。
「ロッシーを左後方の離れた場所に移動させてやってくれ!」
と言う。
状況が把握出来ないが、前方から巨大な人型兵器の様なものが走りながらパンチをする体勢に入っている。
一刻を争う状況だというのは分かる。
魔導が使える軍服フォルは、この状態でも変わらず魔導が使える様で、高速でロッシーの所まで行き、抱えて、そのまま後方左へと宙を駆けた。
「うわっ、なんか、いつもよりも早い…っ」
自分の移動速度に驚くも、行動にミスは無い。
離れた場所に大木があり、放心状態で人形の様になってしまったロッシーを、そこへ下ろすと、ヒックの方へ振り向く。
すると巨大化したヒックが、ズルワーンに殴られて、こちら側と反対側に吹っ飛んで行くのが見えた。
それを見てフォルは。
「そう言う事ね。やるじゃない…」
と呟く。
すると頭の中にヒックの声が、直接聞こえて来る。
〈 ロッシー!大丈夫か?!ロッシー!俺はナイトだ!動けない!お前が俺を使って身を守れ!そのチカラが、お前にはあるんだ!黒い本を思い出せ!〉
この声は、フォルとロッシー、2人に同時に聞こえていた。
ロッシーは、少し身を震わせたものの、動こうとはしない。
軍服フォルは、これが魔導通信の様なモノだとすぐに認識し、ヒックへと通信を試みる。
〈 ねぇ!聞こえる?!〉
〈 ん!え!?あ!フォルかっ!そうだ、お前も俺たちと…〉
魔竜騎ズルワーンが、吹っ飛んで倒れたヒックの方へと向かい、また拳を叩き込もうとしている。
〈 状況がまったく掴めないわ!なにこれ?!この外はどーなってるの?!私の世界は?!〉
〈 今は、それ所じゃ…くっ、それは見ての通りだ!これは現実!決戦決闘を受理してしまったので世界は変わった!〉
ロッシーの身体が、また一瞬、震える。
〈 戦わなくてはダメだ!チカラを貸して欲しい!〉
軍服フォルは、自身の魔杖を抱きしめ震えている。
〈 こ、これが…現実?外の、これが…?みんなは、どうなるの、よ…あと、なんだか少し…痛いわ…〉
魔竜騎ズルワーンが、魔竜騎ヒックに拳を叩き込み、ヒックの身体は、地中に埋もれていく。
〈 ぐっ…はっ!そ、外の連中は、分からない、けど、ぐっ、希望は…あるっ!!がはっ〉
ヒックは、打撃を受け、それに耐えつつも説明する。
〈 ぐっ、ううう!ただ、俺の魂が、ヤツに取られたら、そこで全ては終わる!それだけは絶対に避けなければならないっ!〉
ズルワーンの左右、交互の拳から振り下ろされる打撃は、止まない。
そこへ赤い閃光弾が、飛んで入って来る。
それはズルワーンの顔へと当たり、激しい爆発を起こす。
その衝撃でズルワーンは、後ろへ後退し狼狽する。
「な、なんなの今の…」
魔竜騎ズルワーンを操る赤服フォルが、辺りを見回す。
すると魔竜騎ヒックの側に、赤い稲妻の様なモノがある。
赤服のフォルは、それを目を凝らして見た。
大きな筒を肩に抱えた自分では無くて、もう1人のフォルだった。
「この私!魔導ノ君人フォルヒックトゥーナが、相手してあげるんだから有難く思ってよね!喰らいなさい!我が、大魔砲!パトリオットファイヤァァァッ!!デラックス!!!!」
そう叫ぶと大筒が、両肩に増え、そこから赤い閃光が、爆音と共に、連弾されて魔竜騎ズルワーンへと向かって飛んで行くのだった。





