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09 ボッチ対リア充

 俺はスマホを横にして上級生達に向けた。


「なんだ?」

「?」

「はっ?」


 そして水平を維持し、俺を囲んでいる上級生達全員に見えるようにゆっくりと一周させた。


「なっ?」


 お前らのその目が節穴でなければ気付いたであろう。

 俺のスマホの液晶に赤い光点が点滅していることを。

 つまり録画状態だということをな。


「まさか撮ってるのか?」

「なっ、勝手に撮るな」

「この盗撮魔め。誰の許可を取って撮っているんだ?」


 では逆に問うが誰の許可を取って俺の貴重な時間を浪費しているのだ?

 誰の許可を得て、ボッチの俺を取り囲んでいるのだ?

 それに生徒会室では麗しの美少女女神の副会長様が、お菓子を用意してくださっているのだぞ。

 お前らに構っている余裕はないのだ。

 空腹で胃液が血中に溢れ出し、足の先まで溶けてしまいそうなんだぞ。


「……」


 俺はボッチらしく無言でスマホのカメラをズームさせる。

 激怒する上級生の顔がアップになる。

 ぶっさいくやな君ー。ああ、でも俺と変わらないか。

 イケメンは撮らない。ムカつくから。


「止めろってんだろがぁ」


 上級生が手で俺のスマホを払おうとするが、ひょいと一歩下がって回避する。


「ひっ」


 俺の口から変な声が出た。

 あ、危なかった。紙一重だった。危うくスマホが叩き落されるところだった。

 入学祝いで買ってもらったスマホを割ったら親に殺される。

 まさに危機一髪。ボッチの危機。ボッキキだった。


 もし俺が傭兵だったらこのギリギリの緊張感に生きている実感を感じて狂喜乱舞していたであろう。

 だが平和と孤独を愛する孤高のガンジーボッチの俺は争いを好まない。

 戦場とは正反対の隠密属性の存在なのだ。


 だがおかしい。

 今、身体が思い通りに動いたのだ。

 チョ待てよ。俺は今まで自分の身体さえうまく動かせない運動音痴だった。

 ポッチャリだった重い身体の俺に運動は苦手というより、不可能。

 俺の身体には運動神経なんて一本も通ってないはずだった。


 それなのになぜ今、身体が自由に動いた?

 しかも心なしか俊敏になっているような気がした。

 痩せちゃったからだろうか?

 このまま戦ったら負けないのかもしれないぞ?


『歯向かうリア充は皆殺しだボッチよ』


 ボッチ君が拳を鳴らした。

 ボッチ君待って。戦いは数だと諸葛孔明先生も言ってたような、言ってなかったような。

 とにかく今は多勢に無勢。少数の俺は圧倒的に不利だ。

 おっと、余計な妄想は後回しだ。今は戦闘中だった。

 俺はスマホを構え直した。


 皆さん見てください。

 これが今の高校生の実態です。集団で一人をリンチするという酷い状況です。

 伝統という言葉に美化された体育会系の悪しき習慣です。

 上級生による後輩の絶対服従支配。暴力による恐喝と恫喝。

 何と醜い姿でしょうか? 集団という虎の威を借り虚勢を張ることしかできない小心者達。

 こういった原始的な暴力行為は校内という閉鎖された安全な空間では通用するかもしれませんが、社会なら立派な犯罪行為です。

 まだ幼い彼等の知能ではそれが理解できていないのです?

 一つだけ確かなことは学校の中ならば何をしても許されると思っているということです。

 またそれらの行為を黙認している学校側も共犯といえるのではないでしょうか?


 と俺は噛むことなく流暢に一気にまくし立てた。

 そりゃ声に出してないから噛むわけないよね。

 こんなこと面と向かって言える訳もなく、俺は心の中で思う存分吐き出した。


 俺が普段無言でいるのは、何も喋るのが苦手な訳じゃない。いやちょっと苦手だけど。

 お前らごときに開ける口は持っていないだけだ。


 ボッチの俺は独り言なら誰にも負けない自信がある。

 独り言選手権では百三位以内に入賞する自信がある。

 俺は大人しいボッチ種の中でも極めて稀な攻撃的アクティブボッチ亜種なのだ。

 だが人前では決して喋らない。

 ボッチの定義に反するからだ。人前で話したら、それはもはやボッチとは呼べない。

 ただの自己満足のお喋り野郎になってしまうか。


 ――というわけで俺は無言でスマホを向けて流れるようなカメラワークで上級生達を次々とカメラに収めていく。

 ペンは剣より強し、カメラは銃より強し。

 これは撮影という名の暴力だ。


「止めろっつってんだろうがぁ。誰か早くこいつを取り押さえろ」


 お前が取り押さえろよ。

 周りの上級生達がその命に従って俺に襲い掛かろうと一歩踏み出した。

 だがボッチの三次問屋はそう簡単には下ろさない。


「……生配信中」


 俺はついに今日初めて喋った。

 そして彼らにスマホを向け直した。

 生配信という言葉に印籠を見た悪代官達にように彼らの動きが止まった。


「卑怯な」

「汚ねえ」


 上級生達が怯む。

 汚くて卑怯はどっちだよ。集団で囲むお前らが卑怯でなければなんだ?

 いや確かに俺も卑怯だろう。スマホで盗撮して無言の脅迫をしているのだ。

 

今この瞬間、殴りかかってこられたら間違いなく負ける。

 だが生配信という動かぬ証拠がある以上彼らは迂闊に動けない。

 まさに現代の印籠。控えおろう。


「ぐ」

「くそ」

「くっ。覚えておけよ」


 お前らの顔は世界中の視聴者が覚えているさ。

 入試や就職活動に影響がないといいな。


「ふっ」


 とニヒルに笑ってやった。


「ぐぬう」


 俺を囲んでいた上級生達は悔しそうに、歯を噛みしめながら下がった。

 俺はスマホを上級生達に向けたまま、堂々と渡り廊下を渡った。

 通り過ぎる時に舌打ちや、声に出さない殺害予告を受けるがボッチの俺にはまるで効果がない。

 戦わずにして勝つ。これが無血勝利というものだ。

 諸葛孔明先生もそんなようなことを言ってたような、言ってなかったような。


 実は渡り廊下に不審な空気を感じた時からスマホのアプリを立ち上げていた。

 奴らが俺を包囲する前から俺は勝っていたのだ。

 このクレバーな作戦は生徒会長が校内に監視カメラを設置したことがヒントとなった。

 もちろん渡り廊下にも監視カメラが設置されている。

 だが彼らも馬鹿じゃない。人を恫喝することに関してはクレバーだった。

 背の高い上級生達が壁を作り、俺の姿を覆い隠していたのだ。

 そう悪知恵だけは一丁前なのだ。

 これもきっと暴力漫画からの流用に違いない。

 そういえばサスペンスも殺しのレクチャーだし、この世には暴力のバイブルが溢れている。


 だが悪知恵ならボッチの俺も負けていない。

 今度は小型のアクションカメラを額につけて登校しようかな?

 歩くドライブレコーダーボッチ君だ。

 俺に関わるとネットで晒し者にされるぜ。

 うわ、我ながらすげー嫌な奴。そんな奴とは絶対に関わり会いたくない。

 もし俺の前に俺が居たら、絶対に友達にならない自信があるね。




 ――無血勝利の余韻でニタニタと妄想していた俺は無事に生徒会室に到着した。

 そこでようやく俺はスマホの録画モードを停止させた。

 そう、これはただの録画モードだ。

 残念ながらこのスマホには生配信のアプリはインストールされていない。

 録画を止めただけだ。

 世界中に生配信しているというのは嘘だ。

 ボッチの俺が生配信なんてできる訳がないだろう。

 俺はそんな自意識過剰なリア充じゃない。

 俺には自分の主張や伝えたいことも、世の中に不平不満もない。

 そりゃちょっとはあるけど、訴えたところで俺がイケメンになれるわけじゃない。


 人は人。ボッチはボッチなのだ。

 自分が文句を言われたくないから他人にも言わない。

 これが礼儀のはずだ。

 だがどうだ? 皆自分の意見を他人に押し付けることに必死だ。

 押し付けることが失敗すると文句を言う。

 なんて自分勝手で哀れな存在なのだ。

 だから俺は誰にも何も求めない。

 そもそもボッチの俺が他人に偉そうに主張できるほど人生経験も積んでいない。


 という訳で、話は大きく逸れたが生配信というのは、ただのはったりだった。

 冷静に考えれば嘘だと分かるはずだ。

 ボッチの俺が生配信する度胸がないことなんて一目瞭然だ。


 勝った。

 俺は姉ちゃんが放った刺客を撃退した。

 それにしてもプリンの恨みは怖いね。

 卒業した今もなお、この学校に影響を与える姉ちゃんが恐ろしい。

 あの人は一体どんな学校生活していたんだ?

 ちなみに姉ちゃん世代は悪魔の世代として語り継がれている。

 ゆとりの中のゆとり世代。自由気ままに個人主義に走った世代。

 フリーダムユトリキングジェネレーション。


 そう姉ちゃん達の世代が部活を自由にサボりまくったおかげで、俺達新入生は部活を義務付けられたのだ。

 俺がダンジョンに飛ばされたのも、俺がまっとうなボッチに育ったのも全て姉ちゃんのせいだ。

 上が強烈過ぎると下は大人しくなっちゃう原理が働いたようだ。

 そう考えると怒りがリサイクルされる。

 もっとプリン食べてやればよかったぜ。


 さて俺は生徒会室の前で独り妄想に勤しんでいる訳だが、ここからどうすればいいんだろうか?

 ボッチの俺が声を出して生徒会室に入るのもボッチ主義に反する。

 やはり昨日のダンジョン部のように無言で入るか?

 だが入った途端、また即ダンジョンって可能性は否定できない。


 だから今回だけはボッチ主義を曲げよう。

 腹が減って仕方がないのだ。

 美しいと噂される副会長様が、小汚い醜いボッチの俺のために美味しいお菓子を用意してくれているのだ。

 ファンクラブが乱立する生きた伝説の美少女が二人で俺を待っているのだ。

 さあ早くその女神のごとく美しいその姿をボッチの俺に見せてくれ。

 俺は期待に胸を膨らませた。一体どんなお菓子なんだろう。

 生徒会室にあるお菓子が普通のお菓子であるはずがない。

 きっと高級菓子折りに違いない。

 俺が普段食べたことのないお菓子が待っているんだ。

 あれ、お菓子のことしか頭にないぞ。どうした俺。

 これじゃあ、ただの食いしん坊キャラじゃないか?

 ボッチの食いしん坊。ボッチンボウと後ろ指を刺されてしまうではないか。

 俺は背筋を伸ばし、大きく息を吸って、声を出す準備をし。


「か、キャガ……加賀坂トーール。参りましたギャ、」


 俺は今日二回目の発声行動を行った。

 何度も言うが俺は別に喋れないわけじゃない。

 いや白状しよう。喋れないのだ。

 聞いた通り、すぐ噛むんだ。噛んじゃうんだ。

 どうでもいいセリフで噛むと一生喋りたくなくなるよね。

 頭の中では流暢に長台詞を回しているのに口に出そうとすると、口が動かない。舌が回らない。

 頭が真っ白になって内容が消えてしまうのだ。

 今何を言おうとしていたのか分からなくなるのだ。

 俺のボッチブレインのメモリは揮発性なんだろう。


 だから噛むことを笑いものにした芸人とテレビは許さない。

 人の身体的な特徴を笑うのはイジメなのだ。

 奴らはテレビという不特定多数の媒体を利用した広範囲のイジメをしているのだ。

 だがら、噛んだことをすぐ笑う奴は最低の人間だ。

 いや人間以下のごみ屑野郎だ。

 生きている価値もない、ただの地球の資源を浪費する環境破壊者だ。

 人が苦労して頑張って喋ったことを笑う奴は人間じゃねー。

 悪魔だ。屑だ。最低野郎だ。死ねばいいんだ。


「うむ、ひゃ、ひゃいれ」


 ぷっ。え? 何今の?

 滅茶苦茶噛んでやんの。おかしい。プププ。


 生徒会室の中から変な噛み噛みの声が聞こえてきた。

 俺はさっきの上級生ばりに醜い笑顔を浮かべていただろう。


「……」


 ひゃいれ? って何?

 もしかして入れってことか?

 でもそうは聞こえなかった。

 だから入らない。

 入れと許可が出るまでは入らない。

 俺は意地の悪い笑顔で扉の前で待った。

 俺は自他共に認めるほど性格が歪んでいるのだ。


「……」

「コホン。ひゃ、入れ」


 改めて許可が降りたので俺は、失礼しますとか言わずボッチらしく無言で入った。


「え?」


 そこには伝説の女神がいた。

 その美しさは俺の想像を、事象の水平線の遥かに超えていた。

 あまりの二人のその圧倒的な美少女っぷりに俺の意識が深淵に持っていかれそうになる。


「え?」


 さっきはこの世は地獄と言ったがあれは嘘だ。

 この世は天国だった。ここに女神が降臨している。

 爺ちゃんカムバック。天国はこっちだよ。

 それにしてもなんとまあ胸元の布地が引っ張られるほどの巨乳なのに、全体は細いというアンビバレントスタイル。

 小さな顔に大きな二重のパッチリお目目に小さな口。

 これを遺伝配列の奇跡と言わず何と言おう。

 物凄い女神級の美少女が二人、生徒会室の窓からの後光を浴び鎮座ましましていた。

 その美しさを見れば、銃を持った少年達は銃を捨て、長きにわたる紛争は収束するだろう。

 まさにこの世の救世主。


 だけど、なにこれ?


 その美少女は見たこともない大きな、身の丈を超えた大きな太刀を二振り、クロスして背負っていた。

 もう一人の美少女も同じような太刀を二振り背負っていた。


 なにこれ?


 俺は細いボッチアイを何度も擦った。

 だがその太刀は窓からの光を受け、反射し俺のボッチアイに紫色の残像を焼いた。


 太陽の光を反射するということは物理的に存在しているということだ。

 なんで伝説の美少女が刀を背負ってんの?

お読みいただきありがとうございました。

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