55話 「女同士の戦い」
三重坂遊園地・お化け屋敷裏、突如現れた赤い髪の四魔将ヴィッタと対峙するジェシカ。
私はただその様子を見守るだけ。
「アンタ、ホントにここで戦う気? そんなことしたら人間に迷惑かかるじゃん! ちょっとは考えなよ」
「キャハッ! だよね! だけど、その心配はないよぉ」
ヴィッタは宙に浮いたまま指をパチンと鳴らす。すると空が黒く染まった。お化け屋敷の小屋はあるが、さっきまでいた人間たちが見当たらない。
「……何をしたの?」
ジェシカは怪訝な顔で聞く。
「キャハッ! 周りの時間を止めただけだよぉ。四魔将はこんなこともできちゃう! 凄いでしょ、キャハッ! キャハハハッ!」
何が愉快なのか分からないが、ヴィッタは一人、高テンションで笑っている。
「……ふん。じゃあやりたい放題暴れていいってことだね」
ジェシカは聖気を集める。そして作った剣を握り、構えた。
場所が場所なのであまり派手には暴れられないと思うが……。
「そうそう! キャハッ。そっちからどうぞ!」
宙に浮いているヴィッタは挑発するように言い放つ。口元に不気味な笑みを浮かべている。
「バトルキターッ! いいじゃん! 面白いじゃん! ……なら遠慮なくいくよ」
そう言うジェシカの表情は、異常に生き生きしていた。
剣に桃色の光が集まり、刃が光り輝いてくる。恐らく聖気を込めているのだろう。
次の瞬間。
「せいっ!」
ジェシカは剣を大きく振る。桃色の衝撃波が上空のヴィッタに飛んでいく。一直線に。ドオォン、と音が響き、上空で爆発が起こる。
が、衝撃波は赤いリボンで防がれていた。
「キャハッ! 甘いねぇ!」
ヴィッタの反撃。赤いリボンがジェシカに迫る。
「あたしに勝てると思ってるんじゃないよ!」
ジェシカは迫るリボンをすべて剣で斬った。
そして地面を蹴りヴィッタに向かって飛び上がる。
「王女様に手を出すやつは許さないんだから!」
小屋の裏という狭い場所では動きにくいが、上空へ行ってしまえば全力で剣を振れる。これでやっとジェシカも本領を発揮できる、というところだろう。
まるで意思を持ったかのように次から次へと襲いかかってくるリボンを確実に斬り刻んでいくジェシカ。素早い剣技でヴィッタを圧倒する。
追い込まれ気味のヴィッタは急に顔をしかめた。
「あーもー! テメェ、面倒!」
赤い電撃を放つ。
「……くっ!」
ジェシカは即座に回避するが、完全には避けきれず、羽の端に電撃が突き刺さる。
「貧乏臭ぇんだよ! テメェ!」
怒っているヴィッタは品のない怒声を撒き散らし、激しい電撃を放った。先の一発でバランスを崩していたジェシカに電撃が襲いかかる。
「ぐあっ!」
今度は避けられない。赤い電撃の直撃を食らったジェシカは短い声を出して落ちてくる——が、地面へ落ちる直前にクルッと回転し、綺麗に着地する。華麗な身のこなしだ。
「ジェシカさん!」
心配して名を呼ぶ。
本当に情けない。私はいつも狙われるだけで、戦う力なんて少しもないんだもの。いや、力がないことはないかも。言葉の力を使えば……でも、逆に足を引っ張るかもしれないから止めておこう……。
「心配無用! 大丈夫っ!」
ジェシカは横目でこちらを見ると、元気そうな声で返してくる。どうやら甚大なダメージではなさそうだ。
「キャハッ! ちゃーんと着地するとか、なかなかやるねぇ」
余裕を取り戻したからかヴィッタの口調は元に戻っていた。
ジェシカは再び空へ飛び、ヴィッタに向けて剣を振る。
「でも、さっきより遅くなってるねぇ」
「黙れ!」
「強気だねぇ。キャハッ! 無理しないでいいよ」
——刹那。
ドゴォッ、と低い音がした。
「でも欲しいかもぉ」
ヴィッタがジェシカの腹を殴っていた。肉弾戦はしないものと思っていたので驚いた。
何本もの赤いリボンがジェシカへ向かっていく。
「……くっ!」
数本の赤いリボンに縛られた。
「何すんの! 離してよっ!」
ジェシカは強気にそう叫びつつ体を動かして抵抗する。しかしリボンはびくともしない。それどころか、ミシミシと音をたててジェシカの体を締め上げていく。
「あっ……う……」
赤いリボンにミシミシと締め上げられるジェシカ。胴を、腕を、羽を、リボンは無情に締めていく。強く圧迫され、ジェシカは苦しそうに呻いた。
「ヴィッタ! 何をするの。すぐに離しなさい!」
「やーだねー。キャハッ!」
ふざけた態度が腹立つ。
「この女は連れて帰ってヴィッタのおもちゃにするんだから! キャハッ! さーいこー!」
前も思ったがこの女はおかしい。いちいち意味が分からない。
「王女様……逃げ……て」
ジェシカは苦しそうに息をしながら漏らす。
「ヴィッタ! 離しなさいよ!」
彼女は面白そうに笑う。
「エンジェリカの王女。この女を助けたいなら魔界まで来てよねぇ。キャハッ!」
赤いリボンに縛られているジェシカをヴィッタは担ぎ上げた。意外と力持ちだ。
「待ちなさい!」
「バッカだねぇ、待たないよ。それじゃバイバーイ」
ヴィッタは満面の笑みでわざとらしく手を振る。
「ヤーン! 天使で遊べるなんて、ヴィッタ嬉しすぎっ。カルチェレイナ様に自慢しよーっと」
彼女がいなくなると黒くなっていた周囲が元に戻った。
再び、遊園地の賑わいが耳に入ってくる。
「王女様ー」
ノアが走りながらやって来た。はぁはぁいっている。
「……ノアさん」
——怖い。言えない。
ジェシカが連れ去られたなんて、ノアに言えるわけがない。
「あれー、ジェシカはー?」
「…………」
黙り込む私を眺めながらノアは呑気に首を傾げている。
「……ごめん。ノアさん……、私……」
地面に座り込んでしまう。
ジェシカを連れ去られたなんて言ったらノアに嫌われるかもしれない。折角家族とまで言ってくれたのに。
「赤い悪魔が来たんだよねー」
えっ?
ノアの顔は笑っていた。
もしかして、私の心を察してくれたのだろうか。
「魔気ですぐに分かったよー。遅くなってごめん。……でも、王女様だけでも無事で良かったなー」
優しく言って、そっと抱き締めてくれる。
「ジェシカは大丈夫だよー。僕が助けに行くからねー」
「……私も行くわ。私も行って、ちゃんと謝らないと!」
「王女様は純粋だねー」
何げない一言、ただそれでも少し心が温かくなる。




