第14話 傷だらけの勝利
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「うぅ…。」
光輝は身体に残る痛みを感じながら目を覚ました。
(ここは…?)
部屋はベッドと簡単なテーブルと水が置いてあるだけのシンプルな作りで、窓を見ると外はもう真っ暗になっていた。
「…気が付いたか!!」
声の主を確認すると隣にギルクが座っていた。
「…やれやれ。お前あの後気絶して7時間近くも寝てたぞ。確かに出血もあったし、かなりムチャしてたからな…。全く起きないからこのまま一生起きないんじゃないのかと思ったぞ。」
「すいません…。」
「あの後お前はエルクが呼んだヒーラーに簡単な回復魔法をかけてもらって、転移結晶でギルドまで移動して、ここの部屋まで移動させてからギルドにいた医療班に治療を受けてずっと寝ていたと言う訳だ。」
「…ぁ。」
自分の胸元には包帯で治療した痕があった。顔や腕にはばんそうこうの様なものが貼られていた。
「迷惑を掛けてしまい本当にすいません…。」
「別に構わねえよ。このくらいのケガは日常茶飯事だからな。」
「はい…。」
「…とりあえずお前に聞きたいことがあるんだが聞いてもいいか?」
「はい…?」
「あの死の間際でお前は立ち上がり、ティルゼウェイク・ウィーゼルを圧倒して、最終的にはティルゼウェイク・ウィーゼルを仕留めた。圧倒的に不利な状況の中でなぜおまえは立ち上がれたんだ?」
「…詳しくは俺も分からないです。でもとにかく『死にたくない』『生きたい』という言葉が強く出てきて、まだ何も出来ていない自分に腹置立てて、それが力になったから何とかアイツを倒せたんだと思います。」
「…フッ。」
「?」
「フフ…、ハハハハハッ!!」
ギルクが突然笑ったので光輝は少し驚いた。
「…あー悪い悪い。やっぱりお前は不思議だなって。」
「…ぇ?」
「最初モンスターに攻撃するのに抵抗があると言っていたやつが、圧倒的不利なアイツに立ち向かった理由がここまでシンプルなものだとはな。」
正直なところ光輝も言ってみたはいいが、自分でも正直シンプルなことだったので言わなければよかったと思った。
「まぁ、結果としてお前はアイツに勝った。一応言っておくがLv.1の冒険者がティルゼウェイク・ウィーゼルを倒したというのはこれまでにない例だ。いくらアイツに勝てたからと言って今後先に無茶な真似をしようとはすんなよ。」
「はい。」
「それとお前に一つ謝っておかないといけないことがある。」
「え…?」
「お前があの時『モンスターに攻撃するのに抵抗がある』と聞いて俺はお前が冒険者には絶対に向いてないと思った。だけどお前が剣を一生懸命振り、強敵にひるまず戦う姿はまさに冒険者だった。モンスター相手にあそこまで一生懸命に戦闘することが出来るお前は冒険者に向いている。勝手に判断して悪かったな。」
「いえ…。」
「そうか。あ、お前まだクエスト報酬受け取ってなかったな。ここを出ればギルドの広間に出られるが、お前身体は動くか?」
「多少痛みはありますけど、動けます。」
「それならよかった。それと冒険者ライセンスといった私物は無事だったが、レザー式の防具はもう使い物にはならなくなっていて、剣は血のりと傷だらけだから新たに買い替えるとかしないと冒険はできないと思う。明日は無理に冒険しないで、武器の調整や防具の準備をしておけ。冒険はモンスターだけを倒せばいいという訳じゃないからな。」
「ありがとうございます。」
「あ、それと冒険ギルドの受付員は登録されている冒険者にそれぞれ一人に担当者がいるんだ。本来はクエスト終了時に発表するつもりだったが、お前は倒れていたからな。この紙にお前の担当者が書いてあるが、お前一応トレトアイル文字は読めるか?」
「…はい。」
「それなら安心だな。じゃあこのギルドの受付に着いたら確認してくよな。」
光輝はベッドから起き上がり、私物を身に着け、身体を少し伸ばして部屋を出ることにした。
「あ、ちょっと待ってくれ。」
「はい?」
「少年よ。お前の名は何だ?」
「…月攻匁 光輝です。」
「いい名だな。覚えておくぜ。」
「色々とありがとうございました。」
「おう。お前の事はしっかり覚えておくぜ、月攻匁 光輝。」
そうして光輝は部屋を出た。
(本当にあいつは不思議な奴だ…。だけどあいつは何か凄いものを持っている…。何故かそう思ってしまう冒険者は初めてだな。)
ギルドの受付の近くまで来た光輝は自分の担当者を確認するため、ギルクから貰った紙を確認した。
(…。)
光輝は担当者のいる受付へ歩いた。
「どうも。」
「お疲れ様です…、光輝さん…。」
偶然にも光輝の担当者はルルシアであった。ルルシアは何故か光輝に目を合わそうとしない。
「光輝さん…。」
「はい…?」
「本当に申し訳ございません!!」
突然と謝ってきたルルシアに光輝は困惑した。
「まさか今日のクエストで光輝さんがティルゼウェイク・ウィーゼルに襲われることになるなんて…。初めての冒険で私は光輝さんにいきなり冒険への恐怖を与えてしまいました。あの時私が光輝さんに冒険への勧誘をしなければこんなことには…!!本当に申し訳ございません…。」
ルルシアは目に大粒の涙を溜めて下を向いてしまった。今回の事件の原因は決してルルシアの責任ではないが、冒険への道に誘った自分に原因があるとルルシアは過剰に自分を責めていた。光輝はそれを見ているのが辛かった。また自分のせいで他人が辛い思いをするのが嫌だった。
「ルルシアさん。」
「はい…。」
「俺は確かにあのときティルゼウェイク・ウィーゼルと戦って死に目に合いました。だけど俺はあの時襲われたことは後悔するつもりはありません。」
「え…?」
ルルシアは驚いて顔を上げた
「俺は冒険の中で逃げていました。モンスターを倒すことが怖くて動くことが出来ませんでした。でも俺があの時ティルゼウェイク・ウィーゼルに襲われなければもう二度と冒険をすることなんてできなかったと思います。」
「ですが私は…。」
「俺は今回の事でルルシアさんを責めるつもりなんかありません。それに俺はティルゼウェイク・ウィーゼルを倒せましたけど、結局フェル・ウィーゼルは討伐できませんでした。だから俺の冒険はまだ始まっていません。今度こそ覚悟や勇気をしっかり持って冒険したいです。だからまたここに来て、もう一度フェル・ウィーゼルの討伐クエストを受けたいと思っています。」
「光輝さん…。」
「ですから今後もここでクエストを受けていきたいです。ルルシアさん俺はまだ冒険に関しては未熟です。これから先も俺は冒険するためにもどうかアドバイスなどお願いできないでしょうか?」
ルルシアは驚いた。いままでクエストのトラブルで他の冒険者からいままで何度も責められたので、自分も光輝に責められる覚悟だった。だが光輝の態度・口調・目からはそんなことは微塵もなかった。
「…分かりました。」
ルルシアは光輝への感謝との冒険への熱意をこれ以上妨げないために
「では光輝さん。改めて今日よりあなたの冒険者担当になりました、ルルシア・リナルミアです。あなたの冒険をサポートさせていただきます!」
「よろしくお願いします。」
涙を拭いて顔を上げ、笑顔で応えた。
「それでは冒険者ライセンスをこちらへお願いします。」
光輝は持っていた冒険者ライセンスをルルシアへ渡した。ルルシアは冒険者ライセンスを手に何らかの作業を行った。
「お待たせしました、冒険者ライセンスをお返しします。」
光輝は冒険者ライセンスを受け取った。受け取り冒険者ライセンスを確認するとLv.1だったのがLv.15へ変化していることに気が付いた。
「…この数字の変化には何らかの意味があるのですか?」
「もちろんあります。このLv.はモンスターと戦い、自らが成長した証を示しています。Lv.が上がることにより魔力・防御・素早さ・攻撃といった自身の能力が上がります。それによって受けることのできるクエストを増やして獲得できる報酬を増やすこと・モンスターとの戦闘を有利にすることも可能になります。今回フェル・ウィーゼルの討伐成功で通常ならLv.2になりますが、光輝さんはティルゼウェイク・ウィーゼルの討伐に成功しているため一気にLv.15まで上がりました。ですがここまでLv.が上がることなんてありません。本来Lv.は冒険を積み重ねていくことで自身の物にしていくものです。光輝さんは受けられるクエストの幅が今回のレベルアップでかなり広がりましたが、ギルドは今回のありえない事態を受けて光輝さんには一時的にですが一部クエストに制限を掛けさせています。」
「それはどういう…?」
「本来ならこのようなことはしないのですが、光輝さんはまだ冒険した回数は一回しかありません。それにモンスターの知識・戦闘の経験・武器がまだ手や身体に馴染んでいない状態で難易度高めのクエストに行った場合、今回のように光輝さんが生死の境目に追いやられる可能性があります。」
「…なるほど。」
「光輝さん、冒険で焦って強くなろうとしても基本は足元をすくわれるだけです。地道に鍛錬を積み重ねて強くなることが強くなることへの一番の近道です。最初は苦労もあると思いますが、頑張って下さい。」
「はい。」
「話がだいぶずれましたが、レベルの上昇に伴い光輝さんのステイタスも上昇しています。こちらを見てください。」
そう言うとルルシアは日本でいうタブレットPCの様なものを取り出した。
「これは…?」
「これはマジックタブレットと呼ばれるアイテムです。少し前まではマジックペーパーでステイタスの変化を表記していましたが、数年前からこちらのマジックタブレットにステイタスの変化を表記するようにしました。ではこちらにステイタスの変化が表記されていますのでご確認ください。」
ルルシアに言われ光輝は自身のステイタスの変化を確認した。
Kouki`s Status
Level1→15
生命力7263→9016
攻撃力387→549
防御力354→521
魔力342→503
魔防319→489
素早さ371→538
幸運13→15
最初にルルシアから聞いたステイタスよりは上がっていることが確かになった。だが肉体の変化も特になく、自身の力が高まっているかは分からなかった。
「それともう一つ光輝さんにステイタスについてお教えしたいことがあります。」
「それは…?」
「実はステイタスは少しだけなら自分の思うように上げることが出来ます。」
「…!!」
「私たちはこれを『ボーナスステイタス』と呼んでいます。ボーナスステイタスはレベルが上がるごとに基本的に2ポイント獲得することが出来ます。」
「ポイント?」
「このポイントは消費することによってステイタスを上げることが出来ます。ちなみに1ポイントにつき生命力は『10』、それ以外は『1』上がります。ちなみにポイントは制限なく所持できますのでポイントの消費は自身の任意のタイミングで行えます。」
「ところでそれはどうやるのですか?」
「こちらのマジックタブレットの右上にある『Bonus Status』をタッチしてください。」
言われた通りに光輝は『Bonus Status』の文字をタッチした。するとマジックタブレットの画面が切り替わり数字の部分に『+』と『-』のボタンが出てきて、右下の方に『OK』と枠に囲まれたが文字、左下には『Point 14』が現れた。
「今表示している子のステイタス画面で自由にステイタスをいじってみて下さい。今回はいじったとしても実際のステイタスには反映されませんのであまり深く考えずやってみて下さい。」
光輝は言われるがままにステイタスをいじった。深く考えず今回はそれぞれ2ポイントづつステイタスを上げて『OK』を押した。
「これで以上となりますが、次からは自分の好きなタイミングで行ってください。では最後にこちらをどうぞ。」
ルルシアはそう言うと少し大きな箱を出した。
「…?」
箱のデザインを確認すると、箱の中にはマジックタブレットがあることを確認した。
「これって…!」
「当ギルドでは冒険者全員にマジックタブレットを差し上げています。こちらのマジックタブレットは光輝さんへの当ギルドからのプレゼントです。今回は光輝さんのクエスト制限のお詫びのため最高品質のマジックタブレットをプレゼントさせて頂きます。どうかお受け取り下さい。」
光輝は断ろうとしたが、『冒険者全員に渡している』と『ギルドからのお詫び』ということで受け取ることにした。
「まだそちらのタブレットは初期設定が終わっていないので、申し訳ありませんが中に入っている説明書を参考に初期設定をお願いします。なおこのマジックタブレットは初期の段階で故障などしているのであれば渡してから3日以内の申告であればギルドが修理費などを全負担しますがが、今後紛失・故障などした場合は申し訳ございませんが修理費などはそちら側が全負担されることになります。なおこのマジックタブレットはこの時点で光輝さんの物になったので万が一光輝さんが冒険者を止めたとしても、ギルド側が『返してください』と言わないのでご安心ください。」
「ありがとうございます。」
「それではステイタスの説明はこれで終わりです。ではこちらがティルゼウェイク・ウィーゼル討伐の報酬『300,000クルフ』となります。」
ルルシアはお盆に報酬を乗せて光輝に渡した。光輝はいきなり目の前に出された大金に困惑したが受けとった。
「改めて光輝さん、クエストお疲れ様でした。最後に聞きたいことはありますか?」
「…じゃあ、防具や武器を調整したいのですがいい場所が近くにありますか?」
「私のおすすめですと、光輝さんがギルドに来た道のりから反対側に鍛冶師といった職人たちがいる場所があります。少し待ってくださいね。」
ルルシアはペンと紙を取り出してササッと地図を描いてくれた。
「こちらが詳しい場所になります。さらに詳しく知りたい場合はマジックタブレットでの検索をお願いします。」
「分かりました。ありがとうございます。」
光輝は貰った紙を丁寧に仕舞った。
「それでは失礼します。ありがとうございました。」
光輝はルルシアに礼をしてギルドから出た。
(本当に光輝君は凄いな…。私絶対に責められると思ってたのに…。心の広さや精神的強さもある。あの時涙ぐんだのが少し情けなくなっちゃうな…。)
光輝の強さと優しさに感心しながらもルルシアは仕事に戻った。
宿に戻った光輝は遅めの夕食を食べ、風呂に入り、洗濯など身の回りを綺麗にしてマジックタブレットの初期設定を行っていた。光輝はiP●oneを使っていたものの仕組みが違うためマジックタブレットの初期設定にかなりの時間を取られた。何とか終わらせたものの慣れない端末の作業に疲れてしまった。気付けば時刻は23時を回っていた。
(寝れるかな…?)
そう思いながらも灯りを消して、ベッドに寝転んだ。
(…。)
暗い部屋の中で光輝は一日を振り返っていた。新たな知識・新たな驚き・モンスターとの初めての戦闘。光輝にとってはとにかく色濃い一日だった。新しいことだらけでこれが夢なんかじゃないのかとまた思っていた。この夢のような現実で生きている感覚がいまいち分からないが、一生懸命に今日を生きることが出来たとは確信的に思えた。
(明日は何が起こるんだろ…。)
期待と不安を胸に感じながら明日の事を考えていたが、目が自然と下がっていき、光輝は眠ってしまった。