第15話 買い物
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「…ん。」
目を覚ました光輝は時間を確認した。時刻は8時42分を指していた。昨日ティルゼウェイク・ウィーゼルとの戦闘後かなり眠っていたため眠れないと思っていたが、10時間近くも眠っていた。
(ケガの影響か…?)
そう自分で考えながらも服を着替え始めた。そんなときに
『おはようございます、光輝さん。』
とノルスが話しかけてきた。
「…!ノルスか…。」
いつも突然と話しかけてくるノルスにまだ光輝は慣れないでいた。
『突然と話しかけてすみません。昨日はどうでしたか?』
「慣れないことだらけだったし、死にかけたよ…。だけど自分の中で何かが吹っ切れて、すごく久しぶりに一生懸命になれたと思う。一生懸命に生きていると冒険でしっかり感じることが出来るかは分からないと思うけど、冒険者を継続はしていきたいと思ったよ。」
『分かりました。光輝さんが自分の決意の為に努力していて良かったです。いつも丁寧に話して下さりありがとうございます。私は今後先もたまに話しかけることはあると思いますが、話しかけないでほしいのであれば質問時以外であれば話しかけませんがどうしますか?』
「…いや、そんなこといいよ。まだここの世界には慣れてないし、俺の理解者が話しかけてくるだけでも結構心の支えになっていると思うから。こんな無愛想な俺だけどよろしく頼む。」
『分かりました。では定期的に話させていただきます。では最後に聞きたいこととかはありますか?』
「…そうだな。今日は街を歩くけど服装はどうすればいい?」
『光輝さんが持っている服はデザインがシンプルなものが多いですので、特に街で歩いても問題ありません。ただし、デザインが個性的なものは人に見られがちになるので注意してください。』
「ありがとう。また分からなかったら質問するから、よろしく頼む。」
『分かりました。それでは失礼します。』
ノルスとの会話を終えて、光輝は身支度と朝食を済ませて剣とお金を用意して宿を出た。
今日は天候良しで、暖かな日差しが心地よいため買い物日和には最適な日になりそうだと光輝は感じた。光輝はルルシアから受け取ったメモを見ながら街を歩いていた。一昨日歩いた市場とは違いおしゃれな店が多く広がっていた。目的地へ向かっているとガラス張りに展示されている商品に目が行った。
「…?」
ポーチといった日本で見た日常品のものもあれば、不思議な色の結晶体・何かの液体が入った瓶があった。
(ここは…?)
『どうやらここは魔法商店のようですね。』
(魔法商店?)
『魔法や魔力を込められた便利な道具や冒険に役に立つアイテムを販売している場所です。』
(ということは『転移結晶』もあるかもしれないということか…。)
『それはどうかは分かりませんが気になるようであるなら入るのも一つの選択肢だと思います。』
(分かった。ありがとうノルス。)
『お役に立ててよかったです。それでは。』
ノルスとの会話を終えて光輝は魔法商店へ入店した。中は綺麗に整備され見たことのない商品が多く並んでいた。光輝は壊れてしまった転移結晶の代わりになってくれそうな転移結晶を探していた。
(…お。)
転移結晶が沢山置いてあるコーナーが分かりやすく店に入ってすぐの場所にあった。しかしあまりにも種類が豊富でどれを買えばいいのか分からないでいた。
(前みたいに簡単に壊れてしまったら困るからな…。)
悩みながらも転移結晶を見ていた。
「あのぅ…。お困りですか…?」
「あ…、はい。」
話しかけてきたのは眼鏡をかけた女性の店員だった。
「ギルドまで飛べて、簡単に壊れない転移結晶ってありますか?」
「ちょっと待ってくださいね…。」
店員さんは転移結晶をいくつか手に取りながら光輝が頼んだ転移結晶を探し始めた。
「…えーと、これでもない、あれでもない…。えーと、えーと…、ありました。」
店員さんが持ってきてくれたのは薄く赤い転移結晶だった。
「こちらの転移結晶は普通の転移結晶に比べかなり壊れにくい品物になっています。少し小さめの物になっているため持ち運びがかなり楽な物にもなっています。1,200クルフと少しお高いですがこちらでどうでしょうか。」
「じゃあこの転移結晶を一つお願いします。」
「ありがとうございます!…ところでお客様が剣を持っているのを見ると冒険者と思われますが冒険者ですか?」
「一応そうです…。」
「でしたら当店おすすめのアイテムなどがありますけど、良かったら見ていきませんか…?」
「…じゃあお願いします。」
「…では、早速ご案内します!」
店員さんに案内されて店の奥の方まで光輝達は移動した。
「おすすめの商品というのはですね…、こちらのウエストバックなんですよ。」
「普通のウエストバックとは何か違うのですか?」
「このウエストバックは『パラレルウエストバッグ』って呼ばれていて見た目は普通のウエストバッグとは違って魔法を使って見た目よりも何倍もの持ち物を入れることが出来るんですよ。」
「凄いですね…。」
「それにこちらにあるパラレルウエストバッグはとても丈夫な素材で作られていて簡単に破れず、バックの限界量まで持ち物を入れたとしても重さが350gを超えないといった優れものになっています。」
「…!」
今後先は持ち物が増えていくし、転移水晶もあの時のように簡単に壊れてしまうのも防げるのであれば買って損はないだろう
(見てみるか…。)
光輝は展示されているパラレルウエストバッグを見比べることにした。そして見比べていると一つのパラレルウエストバッグが目に留まった。色は『黒』と『蛍光色の黄色』でシンプルなデザインが施されていて周りのパラレルウエストバッグに比べるとシンプルな構造ではあるが、光輝にとってはそのシンプルな構造が逆に光輝の目を引いた。
(これにしよう…。)
光輝はパラレルウエストバッグを手に取った。
「すいません、これいくらですか?」
「そちら30,000クルフと少しお高いですが、良いんですか…?」
「はい。」
「ありがとうございます…!」
会計をしようとしたが、光輝はもしかすると思い
「あの…、これに似た財布とかもありますか?」
と聞いた。
「ああ…、マジックウォレットのことですね。案内します。」
案内されると財布がたくさん置いてある場所に着いた。
「マジックウォレットは種類によっては色々な機能がありますが、代表的なものとしては例えば金貨などを沢山入れたとしても財布が膨らむことがなく、銀行の口座に財布がリンクしていつでも自分の口座からお金を引き落としてその場で使うことが出来るといったものもあります。」
予想通りの財布だったので、光輝はすぐに財布を見比べ始めた。
(これだな…。)
二枚折りのシンプルな黒の革財布を手にして会計をすることにした。
「…お客様、冒険者ライセンスはお持ちですか?」
「あ、はい。」
光輝はライセンスを店員さんに提示した。
「…お客様はLV.10以上ですので、代金を一割引きさせていただきます。ですのでマジックウォレット・パラレルウエストバッグ・転移結晶の三点で46,080クルフになります。」
光輝は指定された金額を一通り払った。
「…マジックウォレットとパラレルウエストバッグの使用方法も一緒に入ってます。それと10,000クルフ以上のお買い上げなので『キュアポーション』と『マナポーション』をおまけに付けときます。冒険の役に立ててください。」
「ありがとうございます。」
商品を受け取った光輝は店を出た。
「はぁ、良かったぁ…。あの人少し怖かったけど何とか対応できてよかったぁ…。今日に限ってなんでみんなお休みなのかな…。」
と店員さんは肩を崩すのであった。
魔法商店での買い物を済ませた光輝は先ほど店員さんからもらった説明書をしっかりと読み、財布にお金を仕舞い、早速パラレルウエストバッグに所持品を入れて目的地へ向かった。地図を頼りに歩き、目的地に近づいてくると『カーン』という音と煙のにおいがしてきた。
(…お。)
目的地に着いた光輝は鍛冶街をしばらく見渡した。様々な冒険者・沢山の武器・輝く防具。光輝にとって新たに目にするものが沢山その街に詰め込まれていた。どの武器を買うか、どの防具を身に着けるべきかゆっくり歩き、時々止まりながら光輝は考えていた。
(ルルシアさんにもっと詳しく聞いておくべきだったかもな…。)
悩みながらも光輝は街を歩いた。そして歩いていると一軒だけやたらとボロい建物があった。
(ここは店なのか…?)
近くまで寄ってみたものの人の気配も感じることはできず、戸は頑丈に閉め切られており入ることができないようになっていた。
(ここは空き家か…。)
光輝は立ち去ろうした。だがしかし
「いけね、あれ買うの忘れてたわ。」
と言った男性の大きすぎるバッグが、男性が振り向いた瞬間にバッグが光輝の身体に思いっきり当たり
「!?」
空き家の方へと凄い勢いで吹っ飛んでしまった。
「イテテテテテ…。」
男性は光輝に当たったことに気づかないでその場をすぐに去ってしまった。戸は閉め切られていたものの木がかなりもろくなっていたため、光輝は戸を貫通して空き家の中に入ってしまった。
(まずいな…。家主には悪いけど早くここから出ないと…。)
身体を起こして空き家から出ようとした。がしかし
「おい…、何してんだてめぇ…!!」
暗い部屋の中で恐る恐る声のする方向へ振り向くと片手にハンマー持って怒っている長身の男性がいた。
「あ、あの…。」
光輝は間違ってここに入ったことを謝罪しようとしたが、男性はすぐに光輝に近づいて後ろ襟を掴んで光輝を建物の奥へ投げ飛ばした。
「…ぅ!」
突然と投げ飛ばされ、何が起こったのか訳も分からない中で光輝は胸ぐらを掴まれた。
「お前…、誰の依頼でここの場所を伝えろと言われた?」
「俺はただの通行人で…、吹っ飛ばされてここに入ってしまっただけです…。」
「嘘つけ、ただの通行人がこんな派手に戸をぶち壊すはずがねぇだろ…!誰に依頼された…?」
「本当に誤解なんです…!俺は誰からの依頼でここに入ったわけじゃないんです…!」
「だったらお前は俺に武器を打ってもらおうと、堂々と前から入って俺を脅して無理やり武器を打たせようとしてるだけだろ…!!」
完全に男性は怒りに身を任せていて、光輝は一方的に攻められていた。どうしようもできない状況で光輝は男性の怒りが消えるのを待つことしかできなかった。するとそこへ
「師匠!何してるんですか!?」
と一人の女の子が止めに入ってきた。
「こいつがいきなり勝手口を無理やり壊してここに入ってきたんだよ…!クソ…!最悪の場合また別の場所へ異動しないといけない…!」
「落ち着いてください師匠!私があれを持ってきますからとりあえず彼を放してあげてください!」
「チッ…!!」
男性は仕方なく光輝を乱暴に放した。
「…ゲホッ!カハッ…!」
光輝は放してもらえたものの、疑いの目が晴れずどうしようもできなかった。
「お待たせしました。」
女の子は手に無表情の顔が描かれている不思議な球体を持ってこちらへ戻ってきた。
「すいませんがもう一度聞きますけど、あなたはどうしてここに入ったのですか?」
「…ここがお店かと思って足を止めたけど空き家だと思ったから立ち去ろうとしたとき、大きな何かに当たったせいで戸を突き破って入ってしまっただけです…。」
すると無表情だった球体はにっこりと笑顔を浮かべ『ピンポン』という音が鳴った。
「…!」
「…!?」
男性と女の子は驚いて一瞬言葉を失っていた。光輝は何が起こったのか分からないでいた。
「…じゃあ聞くが鍛冶師“ゼノ・オベロス”の名前も知らなくて、オベロスの作りし武器のことも知らないというのか!?」
「はい…。」
またしても無表情だった球体はにこりと笑顔を浮かべ『ピンポン』という音が鳴った。
「…。」
「…。」
二人はしばらく驚いて黙っていた。しかし男性が光輝に
「すまなかった…、立てるか?」
と手を差し伸べた。
「…大丈夫です。立てます。」
いきなり態度が180°変わった男性に光輝は驚いた。そして何とか立ち上がると
「少し奥のほうで話がしたい。すまないけど付き合ってくれ。」
「私からもお願いします。」
何が起こったのか光輝は全く理解できなかった。話がしたいと二人が言ったのか意味が分からなかったが、女の子は深くお辞儀して光輝に頼み込んだので光輝はそれに応えることにした。
(しかし、何の話をするんだ…。)
光輝は二人にゆっくりついていくが、ただ不安だけが自身を包むだけであった。




