第3話
それは、1つのメッセージから始まった。
:今日、退勤後お暇ですか?
暇ですよ:
:飲みに行きませんか?
え?:
:嫌でしたか…?
全然嫌じゃないです。行きましょう:
:やった!!
:仕事終わったら連絡くださいね!
了解です!:
「仕事終わり、楽しみだな」
そうして、昼下がりの喫煙室で煙をふかした。
「何が何でも定時で上がってやる…!!」
———————
気合いで仕事を終わらせた金曜夜。
水上さんに連絡を入れると、いつも通りの喫煙所に呼ばれた。
「あ、お疲れ様です真壁さん」
「お疲れ様です。水上さん」
「今日はパーっと飲みましょう。パーっと」
「しかし驚きました。水上さんって結構アグレッシブなんですね」
「え?そ、そうですか?」
「ええ。なんだかんだまだ名前も知ってすぐなのに、もうお誘いが来るなんて思いもしませんでした」
「そ、それはそうですけど、顔自体はよく知ってるじゃないですか!」
「ふふふ、まぁ確かに」
「だめ…でしたか?」
自分の武器知りすぎじゃ無い?この人。普通に負けるけど。
「いえ、むしろ嬉しいくらいです」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。友人と会うとしても、みんな忙しかったり休みが合わなかったりするので」
「あ〜、わかります。学生時代より明らかに集まりづらくなりましたよね」
「ですね。本当に」
「さて、と」
水上さんは一旦佇まいを直し、真剣な顔で切り出した。
「タバコ、吸いましょうか」
「ですね。これは外せない」
そうして、二人で喫煙所に向かった。
「…はぁああああああ…幸せ」
「わかる」
二人揃って紫煙を吐き出し、ひとときの幸せに浸る。
「そういえば、何で飲みに誘ってくれたんですか?」
「ふふふ、それはですね…」
服装を見るにオフィスカジュアルである彼女は、どこか昏い笑みを浮かべながら———
「ボケカスクソ客にドセクハラ発言かまされて心の中でバチギレしたからですよ????」
「お疲れ様です!!」
思わず佇まいを直して労う。まじでドンマイすぎる。
「じゃあ今日はパカパカ飲みますか」
「どかどかパカパカ飲みましょう」
もう言葉は要らなかった。俺たちは無言でヤニをぶち込んでオススメであるという居酒屋へ向かった。
ちゃっと注文を済ませて、二人でジョッキの生ビールを手に持つ。
「それでは」
「「かんぱ〜い!」」
カチン!とジョッキを合わせて酒をぶち込む。
ゴクゴクゴクゴクッ!!
喉を通るきめ細かい泡。舌を埋め尽くす苦味。ああ、このために生きている。
それはそれとして2杯目からはハイボールにするが。
「やっぱり1杯目は生ビールなんですよ」
「わかる」
ぬるくなると不味くなるから何が何でも冷てえうちに飲んでやる。
真壁蓮にはその『覚悟』があるッ!!
「なんかダメですよ」
「なんかって何????」
「よくわかんないけどダメです」
「ウィッス」
なんかダメか。
「まぁまぁまぁ、とりあえずね」
「唐揚げっすよ」
二人揃って唐揚げを食う。
パリッとした皮に溢れる肉汁。下味がつけられた皮と肉の旨み。油のコントラスト。
すかさず生ビールで流し込むっ!!
「ッカァアアアア…!!」
「おじさんくさいですよ」
「やめて。まだ23なんです」
「えっ、歳s————」
「としし、何ですか?」
「何でも無いです」
「へ?」
「何でもないの!!」
「はい」
圧強。まぁええわ。
「いつから仕事してるんですか?」
「高卒からですね。元は工場側だったんですけど、今では営業側です」
しかも勤務地変更込み。結構珍しいかもね。
「元はどこに?」
「福島です。飯全部うまいですよ。海鮮とかマジでうまいです」
「ほう…」
なんて、故郷の話もほどほどに。
「さて、それでボケカスクソ客が何でしたっけ」
「セクハラです」
「最悪」
「良いケツしてるだのその年で未婚なのかだの」
「うへぇ」
よくあるセクハラジジィだったわ。
「でも、その歳とか言っても全然そうは見えないですけど」
むしろなんで客が年齢を…?
「褒めてもべろちゅーしか出ませんよ」
「酔ってます?」
「酔って無いです」
「これ何本に見えます?」
「2本です」
「ほな酔ってないか」
じゃあこええわ。
「だいたい、いくら私が大卒そのまま4年勤めてるからって未婚で刺すことないでしょ」
刺さるんだからな!!マジで!!と、不機嫌そうな顔で剥れていた。
ん?大卒4年ってことはにじゅうなn————
「何ですか?」
「何でも無いです」
「よろしい」
なんか撫でられた。
「ねえやっぱり酔ってません?」
「無いです」
「そうですか」
にしては踏み込むのはええなあ。と、一人ごちる。
「接客業ですか?」
「ですねえ。スーパーでバイトしながら編集とかでぼちぼち。って感じです」
まぁ今風の稼ぎ方だなあ。
「大体、ちょろっと4年通った程度で仲良くなったと思わないでほしいんですよね」
「えっ、ごめんなさい」
「違う違う違いますそういうことじゃなくてね!?」
そんな焦ることある??
「嘘嘘、ま、追加のお酒でも頼みましょ?俺はハイボールにします」
「私もハイボールで」
「すいませーん!ハイボール2つで!!」
「はーい!!」
ハイボールを待ちながら、残った生ビールと唐揚げをいただく。
「そういえば真壁さんは嫌なこととかなかったんですか?」
「毎日ありますね」
「ままならないですねえ」
「…敬語なしでいいですよ?水上さんの方が先輩ですし」
年上に敬語使われるの心苦しいし。
「なら、真壁さんも敬語なしで」
「え??」
「だって、私はタメ語で真壁さんは敬語だと不公平ですよ?」
「あーーーー…」
それは考えてなかった。歳上に敬語h「年齢で気にしたら起こりますからね」
「すみませんでした。タメ語でいかせていただきます」
僕が悪かったです。だから怖いので見つめないでください。
「モロ敬語ですけど」
「水上さんだって」
「ハイボール2つでーす」
「あ、ありがとうございます」
「…」
「…」
きまずっ。仕方ない。
グビグビグビッ!!
残った生ビールを飲みきり、気合いで切り出す。
「じゃあ、これからはタメでよろしく。水上さん」
「ん。よろしい。よろしくね。真壁さん」
と、水上さんは満足げに微笑んだ。
まぁ、この笑顔が見えたなら儲けもんか。
「さぁどんどん飲むよ!!」
生ビールを飲み干し、唐揚げを頬張り。ハイボールまでグビグビといった水上さんは、少し赤らんだ顔でそう言った。
「お手柔らかに」
そう言って、俺は酒を流し込んだ。
——————-
飲み終わった俺たちは、コンビニで水を買ってから、いつも通りの喫煙所に向かっていた。
「今からタバコなんて吸って大丈夫?」
「らいじょ〜ぶらよ!全く、まかべくんはひんぱいしょうなんらからはぁ〜!」
「そりゃ心配もするわ」
こんなベロベロ酔ってんだもん。いつの間にか君呼びだし。
「全くも〜さぁ!まかべくんはさぁ!めのまえにべろっべろのおんにゃのこがいるのにラブホにも連れ込めないの!?」
「知り合って数日の女の子ラブホに連れ込む男はやばいでしょ」
「数日じゃない!」
「ああ、今年に入って数ヶ月は顔見知りだったね」
彼女がこの喫煙所に来たのはここ数ヶ月だ。最初はクール系に見えたのに。
「チギャウ!!もっと前からだもん」
「え?」
うそだ。もっと前なら知らんはずない。こんな美女。
「覚えてなくてもいいですぅ〜!私だけが覚えてればいいもん」
「気になるんですけど」
「ふっ…この先はベッドでもいいんだぜ」
「帰りま〜す」
「ごみぇんってぇ!!」
全く。
「ねぇ」
「はい」
ふと、水上さんは真剣な顔で切り出した。
「楽しかった?」
「勿論」
「へへへ」
へにゃっへにゃな顔で、彼女は微笑んだ。
「ま、とっととタバコ吸って解散するに限るね」
「あ〜!こんなめんどくさい酔っ払いはとっとと捨てたいって言いたいんだ!」
「言ってねえよ」
めんどくせえなこいつ。
なんて話していたら喫煙所についた。
いつもよりおぼつかない所作でタバコに火をつける。
いつもより弱いオイルの匂いが鼻に残った。
「すぅ…」
煙を口腔から肺に入れ、真上に吐き出す。
「ん」
声が聞こえたので水上さんに向き直ると、水上さん火をつけていないタバコを咥えて、その先端を俺の方に向けていた。
「は?」
「ん!!!」
そうして背を伸ばす水上さんが危うかったので、仕方なく火のついた先端を水上さんのタバコに合わせる。
当たり前に火なんて点きづらいし、少しズレるだけでそれも長引く。
少しの間格闘して、どうにかついた火種を水上さんは必死に成長させ、大きく息を吐いた。
「…思ったよりめんどくさいね?」
「そらそう」
「ロマンな〜い!!」
「ロマンより実益」
「オトコノコってロマンが好きなんでしょ?」
「場合による」
ま、ドキドキはした。間近で見た長いまつ毛に高い鼻筋。きゅるんとした瞳。バッシリ決まったメイク。
そりゃドキドキしないわけもない。
「…ちょっと酔い回りすぎたかも」
「言わんこっちゃない」
泥酔時の喫煙は我が身を滅ぼすぜ。
「うべぇああ゛…」
淑女ならざる声がした。およそ水上さんからしないであろう声である。
「今度はもうちょっと抑える…」
「タバコは消さないんですか」
「やだね!!!」
草。
「ねーえ!飲み足りない!!」
「ダメです」
「なーんで!!」
「呑んだ後ヤニ決めて吐きそうになってる時点でダメ」
「や!!」
「また今度いきゃいいでしょ」
「…!!ほんとに!?」
「何が」
「また今度飲んでくれるの!?」
「勿論」
「じゃあ来週!!」
「はやっ」
飲みてえだけの人じゃん。
「じゃあ、また」
「うん。また」
今日は1本だけ吸って解散した。
不思議と、満足感が体を満たしていた。
———————————
彼と別れてから、私はしっかりとした足取りで帰路に着いていた。
「んふふ」
シガーキスまでいっちゃった。
「酔っ払いのふりすればいけるな…」
年下だったのは予想外だったけど僥倖すぎる。このまま隙があるけどできるお姉さんムーブしていけばいけるのでは???
「何が何でも年内に落としてやる…!!」
覚悟しておけよ真壁蓮ッ!!!
そうして、私は帰りの電車に足を運んだ。




