第41話 全部だよ!
その時、友美の背後に展開する白金の翼の中央、リチャードの霊体が完全に再生し、静かに光を放ち始めた。彼の姿形はゾンビ形態のそれではなく、ハイパー生命体に覚醒時の少女、佐和子に殺害された当時のものだった。
丈の長い白衣に身を纏った、水蒸気のような半透明なその身体はディバイン・ファランクスの粒子の波から分離するようにして、私の前に現れた。
「榊友美…。俺の魂を再生しただと…。貴様、頭がおかしいんじゃないか?一体どういうつもりだ」
「リチャード。単刀直入に言う。あなたの実験台になってやる。私をすぐに【究極のハイパー】にしなさい」
「…なにぃ…」
「あなた、最初に言ったわよね。せっかく、真の適合者を育成できたのに、榊圭佑が、この村から連れ出したって…。ちなみに聞くけど、育成ってなんのことよ?」
「榊友美…貴様、どこまで知っている?」
「へぇ〜、白を切るかと思ったら、随分、素直だな」
「どこまで知ってるかと聞いているんだぁーっ!!」
「全部だよ!わたしが被験者だったってこともねぇーっ!!」
…なっ、なんだって!?…
「友美…、お前…」
アランと聖也は目を見開き、驚きの表情で私を直視した。
なんと…私は被験者だったのだ…。その事実を先ほどリチャードのアーカイブで初めて知った。そして、徐々に怒りと衝撃が押し寄せる。
…友美さん、君が被験者だったって、どういうことなんだ!…まさかっ!!…
「…それもリチャードのアーカイブだな?」
聖也の言葉に頷くと、私はリチャードを睨みつけた。
「そうよ、聖也。コイツは、まだ物心もついていなかった幼い私に、亡霊や悪霊、そして怨霊の念を染み込ませた苧麻の手拭いを巻きつけて、四六時中、監視してたのよ」
…なっ!そんなバカな事が!…友美さん、君が生まれた時代にリチャードは存在していないんだ!…そんなことができるわけない!!…
「アランの言うとおりだぜ。俺の中の銀次の記憶にも、この現代で恐里一族や榊一族は、すでにお前と父親の榊圭佑しか残っていないんだ!」
「クックック…おい、聖也よ…」
「はっ!!」
聖也が声の主の存在に、戦慄を走らせた。
「お前、本当に間抜けだよなぁ…。お前如きコピーに俺の全ての情報を与えるわけねぇだろうがよぉ…」
「銀次!!てめぇー!!」
「フン!いいぜぇ…てめぇら。面白い余興じゃねぇか。付き合ってやるよ」
「随分、余裕ぶっこいてんじゃねえか。銀次さんよぉ」
「大成か…。お前の復活も、俺の想定の内だぜ。なんたって、お前は友美に巻きつけた苧麻に染み込ませておいた怨霊だからな」
「なんだと!」
「なんだぁ?気付いてなかったのか?大成、お前は榊友美の精神の中に意識を絶たれ、ずっと隔離されてたんだよ」
「どういうことだ…」
「んー、そうだな。お前らの低レベルな思考に合わせた言い方をしてやると、お前の霊魂がそのままの状態で、友美の精神下で冷凍保存されてたってことだ」
「なんだ、そりゃ?」
「分からないか?つまり、リチャードより大成、お前の方の霊体復活が早い理由を説明してやってんだ」
…そっ、そういうことかっ!!そもそも霊魂が無事なら、リチャードみたいに粒子から再生しなくてもいい!…
「そういうことだ、アラン」
「だが…なぜ、一族の生き残りが榊圭佑と友美の二人だけなのに、リチャードの人体実験が引き続き行われていたんだ?」
聖也の疑問に銀次が含み笑いを浮かべた。
「笑止だな。聖也、俺がお前にしたことと基本的に一緒だ。リチャードの肉体は朽ち果てようとも、その魂の記憶だけ、別の媒体にリレーしてたんだよ」
「記憶のリレーだと?」
「そうだ。俺は幼い佐和子に殺されたリチャードの魂の核を、まず当時の助手だった女研究員に移した。そして、リチャードの研究を引き継がせたってわけだ」
「そして、そのリレーが巡り巡って、父の圭佑にリチャードの記憶がトレースされた」
…つまり、友美さんはリチャードの意識に支配されていた圭佑さんによって、被験者の扱いを受けたってわけか…
「そうよ。だけど、父は私を連れて、この村を出た」
「どこかのタイミングで、榊圭佑の自我が、リチャードの狂気に打ち勝ったんだな。…チッ!それを今度は俺が銀次に操られ、友美をこの村に連れ戻しちまったのか!」
「おい!逃げ腰のお前らの茶番など聞き飽きた。銀次の余興にこれ以上、付き合ってられるかっ!俺が一人で全てのカタをつける」
「大成!一人でやるなんて無茶だ!」
「なんだ、バカ孫…。言っておくが、勘違いするなよ。ひょっとして情にほだされたと思ったか?お前のことなんて最初から知らねぇよ」
「おい、大成よ…。貴様、なぜそこまで俺を憎む?復讐の機会と能力を与えてやったんだ。感謝されこそすれ牙を剥かれる筋合いはないんじゃないかぁ?」
「銀次…恩着せがましく言うなよ。俺を操って村を壊滅状態まで追い込んだくせしやがってよぉ…。俺がくたばった後も、苧麻を使って、孫をたぶらかしやがって…」
…大成、お前、ひょっとして、さっきの友美さんへの攻撃は、彼女を守るためだったのか…
「アラン…それは考えすぎだぜ。俺はお前とチヨのことを親だと思ったことは一度もない。ましてや、未来に生まれた孫など、どうなろうが知ったことじゃない。ただ…」
「…なんか、しらけちまったぜ。大成、今のお前の答えで興ざめだ」
そう言いながら、銀次は黒曜石色のオーラを全身から放った。
「もういい。つまらん寸劇には付き合いきれん。お前ら全員、塵になれ…」
「ただ、バカ孫よ…感謝するぜ。お前が俺を復活させてくれたおかげで、銀次に復讐できるんだからなぁ!!」
銀次の身体から発せられた、その冷徹なオーラがトルネード状に渦を巻き収束しながら、一本の巨大なムチへと変貌を遂げた。その直径は、優に人ひとりがすっぽり収まるほどの大きさだった。
「あれは、まさか…シルバーコードかっ!!…なんだ、あのデカさは…」
「驚いたか、聖也。これが、攻撃特化形態のシルバーコードだ。お前のチンケなそれとは異次元的にレベルが違うんだぜ」
銀次の放ったシルバーコードは、あたりに浮遊してる霊体を次々と貫いて串刺しにしていく。その様は、まるでうねり狂う大蛇に大量に飲み込まれいく蛙のようだった。
そのシルバーコードは地下施設にひしめき合っている十数体の霊体を貫き、細切れに切り刻みながら上昇していく。さらに、それが発生させた上昇気流によって、散り散りになった霊体たちの霊気があたり一杯に散乱した。
視界いっぱいに広がる霊体の残骸が、先ほど銀次が、佐和子に放った霊的ウォールとは比べ物にならないくらいの緻密な粒子によって形成されている。例えるなら遮光カーテンのようだ。その向こう側の銀次の放つオーラが神々しく、そのシルエットを浮き彫りにする。
…なっ、なんだ、あれは?…
「アラン、あれも、先ほどと基本は同じ霊的ウォールだ。そして、奴の規格外のシルバーコードが、かき集めた霊体どもを放って攻撃してくるぞ!」
聖也の言葉を受けて、私は前線の若き祖父に訴えた。
「大成!止まれっ!銀次がカウンターを狙ってるっ!!」
「チッ!…おい、バカ孫っ!友美とか言ったな。お前、この妙な技を知っているのか?」
「…ああ、知っている。しかも、今まで見たこともないサイズ感だ。…舐めてかかってると、一瞬で全滅するぞ」




