第15話 完全なハイパー
佐和子の放った霊弾は、高速で不規則な軌道を描いているにもかかわらず、ターゲットを明確に捕捉しているようだった。しかも、あまりの早さで、まるで連打したかのような残像を伴った。
…くっそおおーっ!!なめるなよおぉぉーっ!!…
そう叫ぶと、新生命体は霊魂に姿を変え、パトリオットの如く霊弾を迎撃してきた。
「ー!えっ…!!」
(まさかっ!!突っ込んできた!?)
私は、咄嗟に伽耶の身体を抱きしめた。
佐和子が前に出て、私たちの盾となる。彼女の全身から霊気が迸った。それに共鳴するように霊弾の幾重にも重なる残像が、突風を発生させ、空気に真空状態ができる。
…そいつの身体は私のものだあぁーっ!返せぇぇぇーっ!!…
怒り心頭で突っ込んできた新生命体の軌道を、霊弾が紙一重でかわした。
…なっ、なに!!避けただとぉーっ!!…
直後に、スパッ!!っと、何やらキレのいい音がした。
(…なんだ?なんの音だ?)
私がそう思ったのも束の間、立て続けに、スパッ!!スパッ!!スパッスパッッ!!!!っと、何かが切り裂かれたような音が続く。
音の鳴った方へ振り向く。するとそこには無数の切り刻まれた霊魂が浮遊していた。
「えっ!?」
「真空の刃ーー、かまいたちだ。奴の魂を切り刻んでやった」
…うっ…うぅぉぉおおおおーっ!!…
切り刻まれた霊片が雄叫びを上げる。そして、それは凄まじい勢いで再生を始めた。
「間抜けがっ!!貴様程度の奴、まともに正面から相手すると思ったかっ!!」
…くそがぁー!!その身体は、私のものだぁー!!もう少し…もう少しでハイパー生命体に…いや…完全なハイパーになれたのにぃーっ!!…
「完全なハイパーだって?」
(…それって、なんの事だ?何を言ってるんだ…コイツは?)
私は、その答えを求めるように、佐和子を見た。
佐和子は目を伏せていた。何か思い当たる節があるのだろうか…
散り散りになった新生命体の魂が、ある程度、元の形に収束した。霊体に戻った後も、断片的に消滅した箇所が無惨に欠落している。
「残念だったな。お前は失敗作だ。『完全なハイパー』なら、ここにいる」
佐和子は自身に親指を立てた。
…貴様はハイパーなんかじゃない…聖也は言った…私ならなれると…私なら銀次を超えられると…
「えっ!!聖也!?」
(今、聖也って言った?)
「そんな奴は知らない。…もういい。お前の戯言は聞き飽きた」
そう言うと、佐和子は新生命体の後方に、凄まじいパワーを発現させた。佐和子だ!もうひとりの佐和子が現れた。
…なんだと?…
先ほど放った巨大な霊弾が姿を変え、いつの間にか奴の背後に潜んでいたのだ。その大きさは前回の優に倍はある。
…でかい…なんだ…これは?…
霊体変性によって霊体化した巨大な佐和子は、再び霊魂に戻って逃げようとした新生命体の魂を、鷲掴みした。
…うわあぁぁああーっ!!…
「終わりだ」
巨大化した佐和子が、握力を込める。
…やっ!やめろおぉぉおー!!…
その言葉が奴の断末魔になった。
「パアァァァァァーン!!!!!!」
それは、まるでパンパンに張った風船が、尖った針で刺されたように、粉微塵に割れた。
あたりに、鼓膜が裂けるような破裂音が鳴り響く。
しばらく麻痺していた耳の機能が戻った頃、佐和子が口を開いた。
「友美さん、まずは伽耶さんの魂をゆっくり解放してちょうだい。少しずつね」
私は頷くと、伽耶の魂を保護していた霊気のバリアーを、徐々に解除していった。
「あの…さっき、新生命体が言ってた聖也って奴の事、ほんとに知らないんですか?」
「知らないわ。でも香織を伽耶さんと結びつけたのは、多分、そいつね」
そう言うと、佐和子は私の目を凝視した。
「…なんですか?」
「友美さん、あなたは知ってるみたいね。その聖也って奴を。誰なの?」
「義理の弟だと言っていました。伽耶ちゃんの…」
「…なるほど…そういうことか。その事、アランは?」
「多分、知ってたと思う。私が、ここに飛ばされた事も、香織さんの魂が、伽耶ちゃんに取り憑いていた事も知っていたから…」
「…そう。大変だったね。友美さん、よく頑張ったわ。ここからは私に任せて。まずは伽耶さんを蘇生させる」
「…はい」
佐和子に、初めて労われ褒められた事で、張り詰めていた糸がぷつりと切れ、全身から力が抜けていった。
気が付くと…私は泣いていた。




