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第66話 カモフラージュ

 さらにその翌日、リィムとエルはスディレットの訓練施設へと足を運んでいた。そこは以前タツミ達が使用した極秘訓練用の部屋だった。


「さて、ここで私達が訓練していると言うていになっていますが……」


「稲葉さんがアル……いや、クロノ・トラベルでしたね。それでここに龍一さん達を連れて来ると言う事ですかね?」


「その方が機密性は保たれそうですね。ですけど、もしくは……」


「俺達をここから更に秘匿施設へとですか?」


「充分に可能性はありそうです。」


 二人は考察を述べながらもストレッチをしながら準備運動を入念に行っていた。すると間もなく稲葉が普通に扉から入って来たのだった。稲葉のアルマ・テシを言い直したのは念の為であった。


「お待たせ。君達の特訓道具を準備して来たよ。」


 余りにも普通に登場した稲葉に二人は肩透かしを食らった顔になる。内部通報者を疑っていたのに随分と普通にし過ぎだからだ。


「本当にここの機密性は守られているんですか?」


「当然じゃないか。そうで無かったら私も一緒に全力で訓練できないだろう?」


 不審な顔をしながらリィムが確認するが、稲葉は軽く笑いながらもジョークを交えて返事をする。


 だが、その時点で二人は油断するなと言うメッセージを察した。何故なら稲葉が全力で訓練する事に意味が無いからだ。


 移動系のサポート型の稲葉が何を訓練するのか? 逆にそれがバレてしまった場合のアドバンテージを失う事の方が危険である。つまりは本気を出す場所ではないと暗に伝えているのだ。


(つまりは今日の私達の訓練は本命を隠すためのカモフラージュと言う事ですね。)


(ええ、要するに今日は手抜き訓練で、成長が見られないと相手を油断させると言う事ですか。)


 瞬時に二人は稲葉の意図を見抜いて霊装銃の弾丸の確認を始めた。それが返事と察した稲葉も満足そうに頷いて部屋の奥から2体の鉄製の藁人形みたいな物を出して来た。


 この部屋の精霊力は充分に濃くしてある。なのに霊装銃を出したと言う事は神器の力は使わないと言う意思表示なのだろうとすぐに理解出来た。


「キミ達の訓練はこの特注製の対精霊力で作られた人形の破壊だ。」


「随分と単純なのですね?」


 リィムは驚きながらも聞き返すと、稲葉は笑みを浮かべながら説明を続けた。


「これはこの施設にも使われている程の硬度を持つ合成金属だ。硬さだけでなく精霊力の伝導率も良くてね、どんなに強い力も拡散させてしまうんだよ。」


「伝導が良すぎて拡散? 何か逆に貫通しそうな気もしますが?」


 エルが不思議そうに人形を見ながら拳に風の精霊力を集め始めた。その様子を見て稲葉はアゴを上げて試してみろと言わんばかりの表情をした。


 エルは加減しながらも風圧を纏った拳で人形の腹部に打ち付けるが、同時に硬い鉄を生身で殴った鈍い音が聞こえた。


「いっでぇぇぇぇぇ! 何ですかコレ?!」

「ふ、触れた瞬間に精霊力が霧散しましたよ?!」


 エルの悲鳴を聞きながらもリィムは起きた現象に驚きを隠せないでいた。こんな物が有るなら先のゼウス戦の時に使えと言いたくなったのだ。そんな様子を稲葉は察して説明を始めた。


「言いたい事は分かるが、これはあくまで拡散させるだけだ。なので下位精霊程度なら問題無いが、ティル君達クラスだと武器としては効果が薄いんだ。どちらかと言えば防具としてしか使えないな。」


「つまりは、武器として使用するには拡散できる総量が足りないと言う事ですね?」


「そうだ、そして重量もかなりの物だからな。なので施設等の動かせない物に使う事しか出来ない。故に基地の容積は相当だ。コレだけの質量なら先日のゼウスの攻撃などではビクともしない。まぁコスパが悪いから要所にしか使えないがね。ちなみにこの人形一体で普通の家が2~3軒は軽く立つな。」


「ナルホド……コレが有るからゼウム・ルクスリアは基地に攻め込んで来なかったと言う事か。」


 2人が納得しながらもその価格にも驚きを隠せないでいた。


「さて、君達にはこれを一撃で壊せるような必殺技を考案してもらう!」


 稲葉の演技がかった話が始めると、二人は要するに壊さない様に精霊力をそれっぽく撃ち込めと言う事かと察したのであった。


「当然必殺技なんだからネーミングも大事だぞ! ちゃんと見てるぞ?」


「「え???」」


 二人は心底嫌そうな表情で返したが、拒否権が無いのがすぐに理解出来た。そして二人は中二病も真っ青になる様なネーミングを稲葉に指導されるのだった。



―――――――その頃の晴香――――――――――


 晴香とその精霊は、広大な湖が広がる水の精霊界で精霊術の練習を行っていた。


「感情を込めろ! 溜めて溜めて! そして一気に開放する様に相手にぶつけろ!」


「ふき飛べえぇぇぇぇ! 爆水破《ばくすいは》!」


 両手を前に出して構えていた晴香の手の平から、まるで鉄砲水の様な濁流の水が噴き出すと、目の前に広がる光景を一気に飲み込んだ。


「はっはっは! 良いぞ! お前みたいに感情を溜め込む奴はこういった爆発系の能力が良く似合う! 少しは自分に素直になって来たか?」


 脳裏に精霊の声が響く。肩で息をしながらも晴香は別にと誤魔化すような返事を返すが、その返事に不服の声を上げられる。


「私は自分を誤魔化す感情が嫌いだ! そんなんじゃ晴香も私も強くならない! 私が望むのはもっと自由に! 解放された感情だ! 自分に向き合えていないんじゃお前独自の精霊術はいつまでも使えないぞ!」


「人には得手不得手が有ります! 確かに『カロナ』の言う通りかも知れませんが、私の意見もちゃんと聞いて下さい!」


 晴香の精霊は『カロナ=ルー』と命名されていた。カロナの気性はとても荒々しく、晴香のお淑やかのイメージとは真逆とも言えた。


「ヤレヤレ、精霊界に来て5日も経つのにまだ分離して行動や、単独での弱い精霊術がやっと使える程度とはな。先が思いやられる。」


「わ、私の術タイプとこの技って相性が悪いだけでは無いの? そもそもこの精霊術はカロナの物なのでしょう?」


「元々才能が無い奴が強制的に精霊界に送り込まれて精霊を具現化したんだ。人の何倍も努力しなきゃ雪子を探して人間界に帰るなんて無理だろうが?」


 カロナは常に正論を突きつけながらも、地味に根性論を押し付けるような性格であった。ただその点は晴香も同意しているのか、何も無い水面の上に立ちながら練習を繰り返していた。


 そんな姿を遠目から見ていた一人の男が足音も無く晴香の方へと近づいて来ている事に二人は気付かなかった。


 そして男は静かに気配を消したままナイフを構えた。背後から晴香の喉を掻き切るつもりで瞬時に接近するとナイフが一閃する。


「ほう……避けたか。」


 男の声が響くと、その目の前には晴香ではなく水色の髪と瞳をしたカロナの姿になっていた。


「ふん、水面の上を歩いてきたら流石に気配を消しても分かるし、余計に警戒するってものでしょ。で、何しに来たの? 殺し合いは勘弁だけど?」


「今ので死ぬなら……と思ったが、強くなりたいと叫びながら修行しておった様じゃからのう。見込みが有るなら鍛えてやろうと思っての。」


 男は長い白髪の初老に差し掛かったであろう年齢の細身の男性で、その姿は白一色で統一された服装をしており、フード付きの白の外套に白い長そでのピシッとっしたシャツ、そして白いスラックスを着ていた。


 行動とは裏腹に清潔感溢れる姿にカロナは一瞬驚きながらも警戒を緩めなかった。


「どんなご親切? 強制的に弟子でも探してるのか?」


「ワシは別に面白そうな奴を鍛えるのが好きなだけじゃよ。来るべき戦いに備えて素質有る者は貴重じゃからの。だがゴミは要らん。無能な働き者は戦いにおいては有能な物を殺すからな。」


「話が噛み合わないんだけど?」


「だから鍛えてやると言っておるのじゃ。この特異能力者《セカンド・スキラー》である『白い死神(シムナ=スナイプ)』がな。特に人間のお嬢ちゃんより周囲を常に警戒し続けていた精霊のお嬢ちゃんに興味がそそられたわい。」


「『白い死神(シムナ=スナイプ)』?!」


 その名前を聞いた瞬間に晴香の声色が変わった。何故なら稲葉に罰を与えてもらう為に極秘データベースを閲覧した事が有るからだ。その中でExTendedよりも上の存在『特異能力者《セカンド・スキラー》』を知り、その中で彼の名前を見ていたからだ。


 その声は絶望に近いのが伺えたが、カロナは動じる事無く話を進めようとした。


「見返りは?」


「強くなればいいわい。後は……神を信じない事かの?」


 その言葉にこの前のゼウスの襲撃の有り様を見ていた晴香は、すぐに味方でも無いが敵でも無いと理解した。そして危険を承知でその手を取る事を決めたのだった。


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