第37話 嘆きの預言
二人の精霊力が高まりを見せ、緊張感が上がる。
「サテ、君の様な雷属性は先手を取らせるト、面倒だからネ。先に行くヨ。」
「させるか!」
エレミアの言葉に反応してタツミが踏み込んで斬りかかろうとするが、それよりも速くエレミアの言葉が辺りに響く。
「キミは踏み込む際に足を挫くだろウ。そのまま壁に転がりながらぶつかル。」
言葉を聞いたタツミは有り得ないと言わんばかりに慣れた動作で一歩踏み込む。
「何を言ってる! ガキの頃からの動作だぞ……って、え?」
何故か地面に着いた瞬間、足をひねって勢い良く転がり始めてしまった。そのまま勢い良く壁まで転がり続けて、衝突する事で何とか止まったのだ。
「アンタ……何をした?」
「別に? 預言を言っただけだヨ。」
不気味さを感じたタツミはすぐに思考を切り替えて雷帝刀・鳳雷の切っ先をエレミアに向けると、エレミアも咄嗟にそれに反応する。
「放電!」
「キミの雷は稲葉へと飛んで行く。」
「ぇ?」
刀の切っ先から放たれた電撃はエレミアの方へ向かって放たれたが、途中で不自然に曲がって稲葉の方へと飛んで行く。
稲葉は急に巻き込まれて慌てるが、冷静にヒジリを掴むと瞬時にその場から消え去って反対側の部屋の隅に姿を現したのだった。
「相変わらずクロノ・トラベルは便利だネ。」
「エレミア! こっちを巻き込むな!」
「小手先確認だヨ、この程度、君なら対処できるだロ?」
エレミアと稲葉は軽く言い合っているが、タツミはその様子を見て違和感を覚えている。
(踏み込みを6歳から剣道をして来た自分がミスをするなど有り得ない。そして精霊術は外的阻害が無ければイメージを具現化する物なので、狙いが外れると言う事も無い筈だ。だとしたらエレミアの能力は干渉系か?)
「飛び道具は使うなって事か?」
「任せルヨ、やりたい様にやればイイ。」
エレミアは余裕で構えている。タツミは確認するべく別の精霊術を発動させる。
(肉体に電気を流して強制的な反射運動を引き起こす精霊術、『超反射』!)
空気に電気が伝わると同時にタツミの姿が消える。超速度の初速をくり返して、複雑に動きながら消えたと誤認する程の加速をしたのだ。
「キミの刀は、私には当たらナイ。」
エレミアは瞬時にそう喋ると、適当に体を動かし始めた。そして丁度動かした所を、目にも止まらない速度の剣閃が駆け抜けていくのが見えた。
そして数閃を躱したところで、タツミは再び間合いを取って構えた姿で現れた。
「何故避けれた? 呼吸を読んでいる様には見えないが。」
「だから預言ダヨ。当たらないと言ったヨ?」
タツミは少し考えるが、すぐに次の行動に移る事にした。
「だったら喋らせる暇も無い様にしてやる!」
「だかラ、君の刀は私に当たらナイ。」
タツミは再び超反射を使用してエレミアに斬りかかる。今度は息つく暇も無く、数十秒にわたって斬り続けるが、一向に当たる気配は見えなかった。
「タツミ君、超反射は筋肉に負荷が掛かり過ぎるからあんな長時間は使っちゃダメなのに……。」
「平気も何も、全然本気を出していないだろう?」
ヒジリは心配そうな眼差しで戦いを見守っているが、稲葉は変然としている。
「そ、そうですけど……」
「タツミ君は神器の力を全然使って無い。基本的な雷の精霊術だけだろう。このままだとエレミアが先に本気を出しそうだがな。」
稲葉の言葉にヒジリは黙って頷く。
恐らく攻撃が回避され続ける原因がエレミアの神器の力だと言うのは何となく理解出来た。神器は物理現象を超える能力を一つだけ得る。故にエレミアの言葉通りに現実が動いているのもその力と推察できた。
「わ、私の想像が当たっていれば、相性が悪いです。」
「ワシもそう思うよ。恐らく勝負にすらならない。」
「サテ、まだ続けるのかい? 降参してもイイヨ? 超反射の反動で筋肉がボロボロだろう?」
1分以上の攻撃を躱し続けたエレミアは片膝をついて倒れかけてるタツミへと声を掛けるが、その目は負けを認める事は無いと言っていた。
「避けてるだけで勝ったとか言うのか?」
「当たらなければ意味は無いダロ? それに攻撃の仕方は色々有るんだヨ?」
立ち上がり構え直すタツミに向かって不敵な笑みを浮かべると、元々不気味だった雰囲気がより一層増すのを感じた。
「キミは刀を振ろうとして、刀を落としてしまう。」
エレミアの言葉に反応する様にタツミは斬りかかる。そして振り下ろした際に、不自然に刀が抜ける様に手から離れたのだった。
「拾おうとしたキミは間違えて刀身を握ってケガをするだろう。」
慌てて拾おうとしたタツミは何故か右手で刀の刃の部分を握り深く指を切ってしまう。
「ぐあぁぁぁ! 何だと!」
ケガに慌てながらも残った左手で持ち直すが、エレミアの言葉は止まらない。
「刀を持ち上げた瞬間、再び落として足の甲に刀が突き刺さるヨ。」
言うと同時にタツミは立ち上がるが、左手から不自然に刀が滑り落ちると、右足の甲に刀が真っ直ぐ落ちて突き刺さった。
「な!? 何だと!?」
タツミは驚きが隠せない様子で慌てて引き抜く。そして雷帝刀を消してこれ以上自分がケガをしない様に対処した。
「オヤオヤ、神器をしまうとハ……どう戦うつもりだい?」
エレミアは勝ち誇った様な目で俯いているタツミに声を掛ける。すると微かに震えているのが見えた。
「怖くて震えているのカイ? まぁ、正しい反応ダロウネ。」
「ふ、ふふふ……」
エレミアの言葉に反して、返って来たのは笑い声だった。
「気がふれたのカイ? 安心しなサイ、別にアンタの自由を奪おうなんて考えてナイ。現場での上下関係を付けるダケダ。」
「何で勝った前提なんだよ。」
タツミが顔を上げるとその目は全然死んでいなかった。むしろ勝ち筋が見えたと言わんばかりの眼だった。
「では、キミはどうやって勝つつもりなんダ?」
「エレミア、アンタの神器の能力は預言でも何でもない。見えない闇の精霊力による精神干渉が正体だろ!」
タツミの考察にエレミアは軽く頷いて答える。
「ソウダ、そこまでは理解できても、どうやって対処スル? この神器による干渉範囲からは逃げれナイ。」
「だったら光で消すまでだよ……来い! アラスティア=サルファ!」
タツミが叫ぶと同時に体から光が溢れ出すのが見えた。エレミアは信じられないと言った表情でその現場を見入るしかなかった。
「何だ、ユキかと思ったらタツミか。珍しいな私の方を呼び出すとは。」
「スマンが力を借りるぞ。闇の精霊力を消すには光の精霊力だ!」
タツミの体にうっすらと光の精霊力が纏われると、エレミアは驚きの表情を浮かべる。
「オマエの属性は雷ダロ!? 何で光の……それに精霊を召喚して同化まで出来る! オマエの精霊は神器化したんじゃ無いのカ!」
「エレミアの精霊術は闇属性だろ? だったら光属性には効果が薄いんじゃないのか? 少なくとも体中を光の精霊力で満たしているなら尚更な。」
図星なのかエレミアは苛立った表情になると声高に叫ぶ。
「キミは精霊と分離スル。」
言葉と同時にアラスティアが分離されて、おさげ髪の精霊がタツミの目の前に現れた。突然の出来事にアラスティアは驚いた様子だったが、手に持っていた一本の日本刀に光を集めて光の大剣へと変化した。
「この精霊力の濃度なら私も単独で動ける! 喰らえ!」
「キミの攻撃は私に当たらナイ!」
エレミアの預言通りに攻撃は当たらないが、先程タツミの攻撃を躱していたよりも苦しい表情での回避行動になっていた。
「まだだ! 来い! ティルレート=アルセイン!」
アラスティアが時間を稼いでいる間にタツミは更に精霊を召喚する。今度は体から炎が湧き出る様に溢れていた。




