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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第8章 誰よりも大切な人
60/60

60.7年後 ※

※少し、センシティブなシーンがあります。

――騒動から7年後。


オルダナ王国では、一時的にランスが仮の王として選ばれたものの、「自分には柄じゃない」と3年でその座を辞し、再び部隊へと戻った。

その後、19歳を迎えたエリーナが正式に王として即位し、新たな時代を歩み始めた。


教皇にはサーシャが就任し、民を導く穏やかな声として国を支えている。

カレンは故郷の地へ帰り、教師として子どもたちに知識と希望を授け続けていた。

ハンナはオルダナ王国の病院で看護師として働き、多くの命と心に寄り添い続けている。


それぞれが、自らの道で世界の再生を支えていた。


そしてハルは――

イゼルディア王国で魔人奴隷解放の活動に身を投じ、

オルトの志を継いでいた。


ガチャ。


イゼルディア王国、魔人奴隷解放のための拠点――その一室に、マニエールとカンナの姿があった。


そこへ扉を開けて入ってきたのはグエールだった。


「……あれ? ハルはどこに?」


室内を見渡しながら尋ねるグエールに、マニエールが静かに答えた。


「今日は――あの日ですから」


その言葉を聞いた瞬間、グエールの表情がゆっくりと曇る。


「……ああ……」


***


マルア山の火口へと続く道を、金髪の青年が一人、静かに歩いていた。

その整った顔には、どこか影のようなものが差している。


ふと、背後から声がかかる。


「……ハル」


立ち止まり、ゆっくりと振り向くと、そこにはジュリアが立っていた。


「どうしましたか?」

ハルが穏やかに問いかける。


「……あの時のこと……ちゃんと謝れていなかった気がして」


ジュリアはうつむき、小さく呟いた。


「もう、いいんです。過ぎたことですから」


ハルはわずかに視線をそらしながら答える。

そして、静かに続けた。


「……それに、人間がしてきたことは……決して、許されるものではないと思っていますから」


ジュリアの瞳が揺れる。


「ありがとう……行くの? あそこに」


「はい」


ハルは短く、しかし確かに頷いた。


「……そう。気をつけてね」


ジュリアはかすかな微笑を浮かべ、そっとその場を去っていった。


一人残されたハルは、小さく息を吐き、再び歩を進めた。

***


火口にたどり着くと、ハルは中を静かに覗き込む。

あれからマルア山は活動を終え、火口の底は空っぽになっていた。


ハルはそっと、持ってきた青い花を置く。

《この花、いいな!お前の目の色と同じで!》

――そんな師匠の声が、ふと脳裏に響く。


「……会いたいです、師匠」


ハルはかすかな声で呟くと、静かに山を下り始めた。

視線の先に、オルトが行きたがっていたルイナ湖がきらめいていた。


ハルは引き寄せられるようにルイナ湖へ向かった。


「……結局、一緒に来られなかったな」

小さくつぶやく。


――そのとき。


「そんな......こと......ねぇぞ?」


――耳元で、確かに声がした。


「っ……!?」


ハルは驚いて振り返り、あたりを見渡した。だが、そこには誰の姿もなかった。


「……気のせいか……」


呟きながらルイナ湖を後にしようとした、そのとき――


「……おい……せっか……く……実体を……作ったってのに……まだ……うまく……出られねぇ……のかよ……」


途切れがちな、けれど懐かしくて、不器用な声が耳に届く。


「師匠!!」


ハルは叫ぶように名前を呼んだ。


「お……う! ハル!……久しぶり……だな!」


今度はすぐそばから、はっきりとした声が聞こえた。


「……ちょっと待ってろ……まったくよ……かっこよく登場したかったのによ……」


くぐもった笑い声とともに、空気がわずかに揺れ動く。


そして――


ルイナ湖の水面に、淡いもやが立ちのぼった。


もやは少しずつ形を持ち、人の輪郭を帯び始める。

ゆっくりとハルに向かって歩み寄り、その姿が次第に確かなものへと変わっていく。


やがて、はっきりとした人の姿となって、目の前に現れた。


「……師匠……」


ハルは、目を見開き、まるで夢を見るようにその姿を見つめた。


「なんだよ……戻ってきたってのに、もっと喜んでくれよ」


オルトは少し拗ねたように、けれど優しく笑った。


バッ


迷いなく、ハルはオルトを強く抱きしめた。


「……もう、会えないと思ってました……」


その声は震え、感情があふれていた。


オルトはハルの背にそっと手を添え、静かに笑う。


「……俺もな。覚悟はしてた。でも――助けてくれたんだよ」


「……誰が、ですか?」


ハルが顔を上げて問うと、オルトは穏やかに頷いた。


「アチアル神と、カイール神だ。」


「カイール神……?」


オルトは、首にかけていたアチアル神のペンダントをそっと握りしめると、静かに語り出した。


「ああ。カイール神はもうほとんど力を残してなかったんだ。

でも、この世界が滅びかけて……自分の間違いに気づいたらしい。

アチアルが、このペンダントを通して呼びかけてくれてな。

三神の力を俺に分ける形で分散させて――

それで、俺は完全に消えずに戻ってこれたんだ。」


「まあ……実体化するまでに七年もかかっちまったけどな!」


オルトが照れ隠しのように笑って言った。


「……師匠……本当に、良かった……」


ハルは震える声でそう呟きながら、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。


「……ったくよ。お前、もう立派な大人なんだから、そんなに泣くなって。」


オルトは優しく笑いながら、そっとハルの頬に手を伸ばす。


その手をハルはぎゅっと握りしめ、まっすぐに見つめた。


「……師匠……愛してます……」


その言葉に、オルトは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐに真剣な眼差しでハルを見つめ返し、静かに告げた。


「ハル……俺も、お前を愛してる。」


その瞬間、ハルの青い瞳がぱっと見開かれ、そして次の刹那――これまでで一番と言っていいほどの、美しい笑顔がその顔に咲いた。


そして、静かに、ゆっくりと、二人の顔が近づいていく。


そっと、唇が重なった。


時間が止まったかのように、静かで、温かな口づけだった。


◇◇◇


それから数日後――

ハルとオルトはオルダナ王国に戻った。


「オルトさん……ほんとに……生きててよかったですっ!!」

ハンナは涙を浮かべながら、思わずオルトに駆け寄る。


「まったくだな……!」

ランスも力強く頷きながら、こらえきれずに鼻をすすった。


「お前たちにも……ずいぶん心配かけちまったな」

オルトは照れくさそうに呟いた。


すると――


ガバッ


「そろそろ……いいですか?」


ハルが後ろからオルトを右腕で抱きしめ自分の体によせながら静かに言った。


「なっ……お前、いきなり何すんだよ!?///」

オルトは顔を赤らめて驚く。


「師匠……これ」


ハルはそっと、四角く折り畳まれた小さな紙切れをオルトに手渡した。


「ん? なんだ、これ」


訝しげに紙を広げたオルトの目に、ある文字が飛び込んできた。


【なんでも言うこと聞く券】


子どもの字のような、雑な筆跡でそう書かれていた。


「なっ……!? これ……お前、まだ持ってたのか!?」


オルトは目を丸くして言う。


「はい」

ハルは真っすぐに頷くと、そっとオルトの耳元に顔を近づけた。


「――だから、師匠。俺のお願い……聞いてくれますか?」


低く、甘い声で囁かれた言葉に、オルトは思わずドキッとしたように肩をすくめた。


その様子を見ていたハンナとランスは、顔を見合わせると、こっそりと小声で話した。


「……あっ。私たち、お邪魔かもですね! そろそろ病院に戻りますっ!」

「俺も!剣の訓練があるんだった!」


二人は気まずそうに笑いながら、そそくさとその場を後にする。


「おい! ちょっと待てよ、お前たちっ!」

オルトが慌てて手を伸ばすが――


ぎゅっ。


その腕を、背後から回された腕が止めた。

ハルが、オルトの腰に後ろから手をまわし、肩に顔を埋めながら小さく言った。


「……師匠。俺と……ずっと一緒に暮らしませんか?」


その声は微かに震えていた。


オルトはその震えに気づき、ゆっくりとハルの頭に手を置いた。


「それだけで、いいのか?」


「……だって、師匠は“魔王”でしょう……いつか、魔界に帰ってしまうんじゃないかって……」


ハルの声は、かすれながらも本音をこぼしていた。


オルトは一瞬だけ息を吐くと、穏やかな声で答えた。


「ああ……それなんだがな……」

「――俺の体、よく見てみろ」


そう言って、オルトはそっとハルの手を取って向き合った。


「……? 特に変わったところは……」


「そう。角も、羽もないだろ?」


オルトが少し微笑む。


「まさか……」


ハルが目を見開く。


「……そのまさかだ。俺の体はもう、完全に人間になっちまった」


「それじゃ……もう、魔界には……」


「まぁ、俺は一応、神様だから、魔界に戻れないってわけじゃないけど――長くいると、体がもたねぇかもしれない」


オルトは肩をすくめて、からかうように笑った。


「だから……お前と一緒に、人間界にいないとな」


そう言って、オルトは優しくハルの頭を撫でた。


ギュッ。


ハルは何も言わず、ただオルトを強く、強く抱きしめた。


「……ありがとうございます……」


その声は、喜びと安堵の涙に濡れていた。


そして、ハルはそっとオルトに口づけをした。


ちゅっ…ちゅ…


「んっ……ちょっ、待てって、ハル……ここで……」


オルトが慌てて身を引こうとする。


「じゃあ……ここじゃなければ、いいんですか?」


ハルはいたずらっぽく微笑むと、そのままオルトの腰を抱き寄せた。


「このやろ……っ、ん……!」


オルトの言葉を遮るように、ハルはもう一度深く口づけた。


そして――


シュパンッ


転移魔法の音とともに空間が揺れ、二人の姿がその場から消えた。


バサッ。


軽い音と共に、どこかの室内に降り立つ。


「お前……手際良すぎるだろ……」


オルトがやや呆れたように言う。


「……ずっと我慢してたんです」


ハルはそう囁くと、オルトの身体にそっと手を這わせる。


「んっ……ちょっと……待て、まだ心の準備が……」


慌てて身を起こそうとするオルトの両腕を、ハルが静かに押さえ込む。


「……七年分の誕生日プレゼント、まだもらってませんから」


「はぁ!? なんで今その話――」


「だから……これが、その“まとめてのプレゼント”ってことで」


ハルは囁きながら、オルトの首筋に唇を落とす。

そのまま、ゆっくりとズボンに手をかける。


「バッ……お前、ほんとに……んっ……」


口づけは次第に深くなり、互いの鼓動が、熱を帯びて重なっていく。


(……この感覚、ほんと、久しぶりだな……)


オルトはぼんやりとそう思いながら、熱に浮かされるように目を細めた。


「……んんっ……」


突然、鋭くも甘い快感が下腹部に走り、オルトは思わず体を震わせる。


「……ハル……もう……いいだろ……」


息を荒くしながら、オルトはかすれる声で懇願した。


だが、ハルはいたずらっぽく微笑みながら、ゆっくりと上着のボタンに手をかける。


「師匠……これからが本番ですよ?」


「っ……おま……なんで……そんなに、いい体してやがんだよ……」


視線を逸らしながらも、赤く染まった頬を隠せないまま、オルトが呟く。


「師匠が、鍛えてくれたからですよ」


ハルは涼しい顔でそう言いながら、服を脱ぎ終える。整った体が月明かりに照らされて、美しく浮かび上がる。


オルトは両手で顔を覆い、しばし黙り込んだあと、ぽつりと呟く。


「……ハル。……お前だけだぞ、こんなこと許してるの……ちゃんとわかってんだろ?」


ハルは真っ直ぐオルトを見つめながら、静かに頷く。


「はい。もちろんです、師匠」


オルトは深く息を吐き、そしてゆっくりと顔を上げる。


「だったら……ちゃんと最後まで、責任取れよ……」


その言葉に、ハルは笑みを浮かべながらオルトの手をそっと握る。


「はい。一生、ずっと。――この命が尽きるまで、あなたのそばにいます」


二人の指が重なり、唇が再び重なったとき、

その世界には、ただ静かな熱と、

誰にも壊せない絆だけが存在していた。


◇◇◇


――オルダナ王国・王城 謁見の間


静けさに包まれた玉座の間で、エリーナが静かに口を開いた。


「……サーシャ」


玉座に腰掛けたまま、穏やかな声でサーシャを呼ぶ。


「はい、エリーナ様。何かご用でしょうか?」


サーシャが丁寧に一礼しながら返す。


「ふと思い出したの。昔……アチアル様が残した予言。間違っているとまで言われていた、あの予言って……何だったかしら」


サーシャは一瞬目を伏せてから、ゆっくりと答えた。


「ええ、たしか……『黒き翼を持つ者と、白き翼を持つ者。そのふたりの心が結ばれるとき、この世界を救う鍵となり、闇を祓うだろう』……というものでした」


「……ふふっ。本当に、その通りになったのね」


エリーナは微笑み、どこか遠くを見るような眼差しでつぶやく。


「はい。まさに……予言は現実となりました」


サーシャもまた、優しく頷きながら、静かに微笑みを浮かべる。


窓の外には、穏やかな風に揺れる光と緑。

闇は去り、世界は再び希望の光に包まれていた――。

最近、とある不思議な噂が流れている。


マルア山の麓にある湖のほとりに、ひっそりと佇む一軒の家。

そこには――

金色の髪を持つ、まるで王子のように麗しい青年と、

散歩好きだという黒髪で目つきの鋭い男が、湖のほとりの小さな家で仲睦まじく暮らしているという。


ふたりはまるで正反対のようでいて、並んで歩けば息はぴったり。強い絆で結ばれていて、強大な魔法すらも自在に操るという。


そして彼らは、人間であろうと魔人であろうと分け隔てなく、助けを求める声に耳を傾け、必ず手を差し伸べてくれるらしい。


――もし、今あなたが何かに悩んでいるのなら。

静かな湖の光のそばを、そっと訪ねてみてほしい。

きっと、彼らはあなたの話を時に静かに、時に騒がしく聞いてくれるだろう。


__Fin.

この話で一旦完結です。

最後までお読み頂き誠にありがとうございました。

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