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【BL】魔王様の散歩道  作者: のはな
第6章 コンゴ独裁国家と新魔力飴
38/60

38.進む実験と妖艶なる王

オルトが宿を出て、森沿いの小道を歩いていると――


「随分と……長かったね」

不意に声がして、目の前に黒髪の小さな少年が現れた。


「お前のせいでな」

オルトは眉をひそめながら返す。


「ちぇっ。あいつ、結局死ななかったんだ」

少年――エルは、つまらなそうに口をとがらせた。


「はぁ……お前な、命をそんな軽く扱っちゃダメだぞ」

オルトは肩を落とすようにして、少しだけ真剣な声を出す。


「え〜?でも先生は“命なんて、犠牲になってこそ意味がある”って言ってたよ?」

エルはにこにこと無邪気に言う。


「……まったく、タルールのやつめ……」

オルトは頭をかきながら、ため息をついた。


「それより、タルール....お前の先生のところに案内してくれるんだろ?」


「うん!行こう!」

エルはぱっと笑って、軽い足取りで前を歩き出した。


オルトはその背中を見つめながら、静かにあとをついていった――。


ギィィィ――。


重い扉がきしむ音とともに、オルトはエルに連れられ、実験施設の一室――まるで病院の診察室のような空間に通された。


「先生!連れてきたよ!」


エルは弾むような足取りで、タルールのもとへ駆け寄る。


「ヒヒッ、おかえりなさい」


タルールは優しげな笑みを浮かべながら、エルの頭を撫でた。


「……約束通り、戻ってきた。協力はしてやる。ただし――ハルたちには、もう手を出すな」


オルトの低い声に、タルールはにこやかに頷いた。


「ヒヒッ、もちろんですとも。オルト様。お言葉は確かに承りました。それでは、こちらへどうぞ」


タルールはベッドを指し示すと、オルトをそこへ横たえさせる。白いシーツの上に、彼の体が沈んでいく。


「失礼しますよ」


そう言いながら、タルールは無駄のない手つきで、オルトの手首に針を刺し、静かに血を採取し始めた。


わずかに眉を寄せながら、オルトが問いかける。


「……俺の血を使って、また“魔力飴”を作るつもりか?」


「いいえ、オルト様の貴重な血液は、“エルの仲間”を創る工程で使わせていただきますよ」


タルールはにっこりと微笑みながら、まるで尊い宝物でも扱うかのように血液の入った容器を見つめた。


「……お前。イゼルディア王国でギウルが従えてた、あの化け物――あれもお前の仕業か?」


オルトが目を細めて問う。


「いえいえ、あれはギウル様が“魔力飴”を媒体に独自に行った実験の結果です。私が直接手をくだしたわけではありません」


タルールはあっさりと否定した。


「もっとも、いくつかの研究資料を提供したことはありますがね……あれはただの“失敗作”ですよ。自分で力が制御できない。お粗末なもんです」


そう言って、嘲るように肩をすくめる。


その時、エルがぴょんとタルールの隣に跳ねるように近づいた。


「ねぇねぇ!先生~!僕の仲間、もうできるの?」


目を輝かせて尋ねるエルに、タルールは愉快そうに喉を鳴らして笑った。


「ヒヒッ……あと二日、いや、一日もあれば完成するはずです。もうすぐですよ、エル。あなたの新しい“友達”が生まれます」


◆◆◆


一方その頃。


「オルトさん、まだ帰ってきてないんですか?」


ハンナが不安そうにハルに尋ねた。


「ああ……今朝、“散歩に行く”って言って、それっきり戻ってきてなくて……」


ハルは眉間にしわを寄せながら答えた。


ガラガラッ!


そのとき、宿の扉が勢いよく開かれた。


「あなたたち!! 大変よ!!」


カレンが土埃をまとって飛び込んできた。息が上がっており、ただ事ではない様子だ。


「どうしたんですか!?」


ハンナがすぐに駆け寄る。


「商店街の大通りで――あの“例の化け物”が三体も現れたの! 暴れ回っていて……っ」


「っ!」


ハルの目が見開かれる。


「今、ランスが一人で応戦してる! 私には“ハルたちに知らせてこい”って言って……っ!」


カレンの声はわずかに震えていた。


「くそっ……!」


ハルは立ち上がると、足元の剣に手を伸ばした。

そして、ハルたちは駆け足で商店街の大通りへと向かった。


「――っ何……これ……!」


目に飛び込んできた光景に、ハンナが息を呑む。


破壊された店の数々、血で染まった石畳。その中心に、三体の異形が立っていた。


鬼形の魔人に加え、牙を剥いたオーク型の魔人、そして背に黒い翼を広げた細身の魔人――。


いずれも、今までの化け物とは違う、強大な魔力の波動を放ちながら、人間たちを無惨に斬り裂いていた。


「ぐっ……!」


一人で奮戦していたランスは、オーク型の魔人に殴り飛ばされ、石壁に叩きつけられる。


「ランス!!」


ハルが叫び、駆け寄ろうとする。


「ハルっ!……こいつら、信じられないほど強えぞ……! まともにやったら、やべぇ……!」


地面に膝をついたまま、ランスが絞り出すように言った。


ハルの横で、ハンナが両手を握りしめて震える。


「この魔人たち……以前会った鬼形の個体より、ずっと強い魔力を感じます……!」


ハンナの言葉は冷静だったが、その声は明らかに恐怖を帯びていた。


ハルは無言で剣を抜いた。


「どうしますか? 魔法が使えない状態じゃ、彼らと戦うのは正直、厳しいですよ」


ハンナが震える声で問いかける。


その時、カンナが杖をしっかりと構え、鋭い眼差しで前方を見据えながら宣言した。


「仕方ないわ。ここでみんながただ死んでいくのを、黙って見てられるはずがないもの。私は、あの空を舞うやつをやるわ!」


ランスは剣を握り締め、魔力を込めると、力強く叫んだ。


「俺は、オーク型のやつを相手にする! 覚悟しろ!」


「私は後方支援に入ります!」

ハンナは集中した面持ちで、ハルたちに身体強化魔法をかけ始める。その光は温かく、力強いオーラを放っていた。


しばらくして、ハルが低く決意を込めて口を開いた。


「……俺は、鬼形をやります!行きましょう!」


その声と共に、各々が配置についた。カンナは飛んでいる魔人に向かい、ランスはオーク型に、ハルは鬼形の魔人に集中する。

そして、ハンナは後方で、万が一の被害を軽減するため、仲間たちに魔法のバリアと身体強化の魔力を注ぎ込んだ。


ハルは鋭く目を細め、鬼形の魔人に斬りかかった。

剣は唸りを上げて振り下ろされ、鬼形の左腕を切り裂く。


「ぐっ……お前、なかなか強いな」


血を飛び散らせながらも、魔人は不敵に笑った。


「なぜ……なぜ同じ人間を襲うのですか?」


ハルの問いに、魔人は口角をつり上げて答える。


「はははっ! “同じ人間”? 違う、まるで違うな!俺はもう人間なんかじゃない……最強の魔人の力を手に入れたんだ!!」


そう叫ぶやいなや、鬼形の魔人は右腕に禍々しい魔力を集中させる。その腕から放たれた凄まじい魔力の塊が、ハルに向かって突き刺さるように飛んできた。


「くっ……!」


ハルは即座に氷の魔法陣を展開し、目の前に分厚い氷の壁を生成する。

轟音とともに、魔力の衝撃波が壁にぶつかり砕け散る。


「強くなれば……人間を殺してもいいっていうのですか?」

ハルがふつふつと湧き上がる怒りを抑えながら呟く。


「弱いやつなんて、いてもいなくても同じだろ!!それに――こいつらの心臓、いい素材になるらしいからな....」


鬼形の魔人は狂気じみた笑みを浮かべると、口を大きく開いた。


次の瞬間――

その口から、濃縮された魔力のビームが発射される。


「っ……!」


咄嗟にハルは身を翻し、かすめた熱気を背に感じながら、次の一手を構える。


「凍結」


ハルが静かにそう呟いた瞬間、空気が一変した。


――パリンッ!


氷が張る音とともに、地面から魔力が波のように広がり、辺り一帯を瞬く間に凍てつかせた。鬼型の魔人は放とうとした魔力のビームごと凍結し、その表情すら氷の中で凍りついている。


「これで……終わりです」


ハルは氷の上を静かに歩き、凍りついた鬼型の魔人の前に立つと、剣を構え――

振り抜いた。

氷塊とともに魔人の体が砕け、空中へと消えていった。


周囲では、オーク型の魔人や黒翼型の魔人も戦闘の途中で凍結し、動きを封じられている。


「ハル…お前こんな力が...」

ランスが目を見開いて立ち尽くす。


「今がチャンスよ!!」

カレンがすかさずランスに叫んだ。


「おうっ!!」


ランスは剣に魔力をこめて、一気にオーク型を、

カレンは魔力を最大限に練り上げ、杖から光の一閃を放ち黒翼型を――


パリンッ――!


どちらも氷ごと粉砕し、化け物たちは跡形もなく消え去った。


「三人とも……すごいです!!」


ハンナが駆け寄り、全身から安堵の気配をにじませる。


「.....それなのに、私たちは歓迎されていないみたいね」


カレンが睨みを聞かせてハンナの後ろを見る。


「え...?」


ザッ――

魔人たちを倒したばかりのハルたちの前に、武装した兵士たちが次々と現れ、あっという間に彼らを取り囲んでいた。


「一体……なんなんでしょう?」

ハンナが不安げに呟く。


兵士の列から、大柄で無骨そうな顔をした太い眉の男が前へと出てきた。全身に軍服をまとい、冷たい目でハルたちを見据える。


「お前たち。この国では、“クシエラ信仰外”の魔法の使用は固く禁じられている。従って、お前たちを拘束する」


「なっ!?魔人に襲われたんだぞ!こっちは民間人を助けるために戦ったんだ!」

ランスが声を荒げて抗議する。


だが――

ガシャンッ

兵士達がが剣を上に掲げると、金属音と共に、巨大な車輪付きの檻がハルたちの周囲に突如出現し、逃げ場を塞ぐように、鋼の格子が塞がれた。


「これは……鋼の造形魔法......」

カレンが呟く。


「この国のルールだ。仕方ない」


太眉の兵士は感情を見せることなく淡々とそう言うと、檻に繋がれた鎖を無造作に引き始めた。


「こっから出せよ!!おいっ!!」

ランスが叫ぶも、兵士たちはまるで耳を貸す様子もなく、彼らはゆっくりと城の方へと引きずられていった――。


「ここは……」

ハンナが目を見開き、周囲を見渡す。


「多分だけど……コンゴ独裁国家の王城、みたいね」

カレンが低く答える。


目の前に聳え立つのは、どこか和風の趣を感じさせる巨大な城だった。

高く積まれた石垣に囲まれ、朱塗りの梁と黒い瓦屋根が重厚な存在感を放っている。

その荘厳な造りの中にも、どこか異様な静けさが漂っていた。


ハルたちは大きな門から中へと連れられた。


ガシャン


檻の扉が開き、複数の兵士たちが無言で中へ入ってくる。


「な、何をするんだ!?」

ランスが叫んだ瞬間、背後から両腕をねじ上げられ、手首に硬い拘束具を嵌められた。


「魔力を抑える拘束具だ」

淡々と告げる兵士の声。


ハンナ、ハル、カレンも同様に拘束具を着けられ、それぞれの手首同士が太いチェーンで繋がれる。


「国王の前まで連れていく」


太眉の男――おそらくこの部隊の指揮官――が一言発すると、兵士たちは無言のまま4人を取り囲み、ゆっくりと階段を登らせていった。


石造りの廊下、仄暗い松明の明かり、重たい足音。

だんだんと、廊下が豪華な様相になっていく。

やがて、四階ほどまで登った先で、彼らはある一対の金色の狼の絵が描かれた襖の前に立たされる。


その場には、ただならぬ緊張感が漂っていた。


「ここは玉座の間だ」

太眉の男が重々しく告げ、金の狼が描かれた襖の前に立った。


「ミカゲツ様! 不届き者たちを捕らえてまいりました。謁見の許可をお願い申し上げます!」


その声に応えるように、襖が音もなくすうっと開く。

中に広がっていたのは、見渡す限りの畳の空間。

柱や欄間には豪華な金の彫刻が施され、室内は柔らかな光に満ちていた。


その最奥――一段高くなった床に、胡座をかくようにして体を少し傾け、居心地よさそうに座っている男がいた。

派手な衣をまといながらも、どこか不遜な雰囲気をまとったその男が、軽く片手を振る。


「よろしい。こちらへ連れてきなさい」


その一言で、太眉の男は無言で鎖を引き、ハルたちを王の目の前まで連れていった。


「膝をつけ!!」


怒号が響き、ハルたちは抵抗する間もなく、強引に膝をつかされる。


「……あなたたちが、この国で“他国の魔法”を使った愚か者たちなのね?」


ミカゲツと呼ばれる男の声は落ち着いていたが、底知れない威圧感を帯びていた。


そして、ミカゲツの目が鋭く細められる。


「そこの金髪の男……顔を上げてみなさい」


そう命じられ、ハルは無言のままうつむいていた顔をゆっくりと上げた。


ミカゲツの目がぴくりと動いた。

興味と、わずかな驚きがその瞳に浮かんでいた。

「ほう……ずいぶんと整った顔をしているじゃない」


玉座に座る男は、長い黒髪を揺らしながら優雅に微笑んだ。

その瞳は紅玉のように妖しくきらめき、赤く彩られた唇がゆっくりと綻んでいく。


「こいつ……男なのか……?」

ランスが思わず声を漏らし、目を見開いた。


――その男は、艶やかな黒髪を長く垂らし、白粉のように透き通った肌、しなやかな首筋、そして女性用の華やかな着物を身にまとっていた。

一見すれば、気品ある姫君のような出で立ち。

だがその声には低く艶のある響きがあり、どこか男のものと分かる力を孕んでいた。


バシンッ!


「この無礼者がッ!!」

太眉の男が怒声を上げ、ランスの後頭部を勢いよく叩いた。


「ミカゲツ様のお顔を無断で直視するとは、何たる無礼!!」


ランスは頭を押さえながら呻く。


だが、ミカゲツは楽しげにクスリと笑った。


「いいのよ、気にしないで。……私の美しさに、つい見とれてしまったのでしょう?」


その言葉とともに、紅の唇がゆっくりと舌でなぞられた。


「美しい者が愛でられるのは、当然のこと。ねえ、金髪の坊や……あなたも、私のことを綺麗だと思う?」


柔らかな物腰で、ミカゲツはハルの方へと視線を向けた。


ハルは、凛とした瞳を揺るがせることなく、真っ直ぐに国王を見つめ返した。

その青い瞳には一切の迷いも怯えもなかった。


「俺が、美しいと思う人は――たった一人だけです」


静かでありながらも芯のある声が、玉座の間に響いた。


ミカゲツの唇から、すっと笑みが消えた。

しかしすぐに、艶やかな笑みが戻る。


「あら……つまらないことを言う子ね......」


そう言いながら、ミカゲツはゆるく首をかしげ、太眉の兵士へと視線を送る。


「サイ、このふたり――女の子たちは興味ないわ。牢屋に放り込んでおいてちょうだい」


「か、勝手なことを――やめろ!!」


ランスが怒声を上げるが――


「うるさいわねぇ。そんなに騒ぐと、牢屋に入れるだけじゃ済まなくなるわよ?」


ミカゲツは目を細め、低く囁くように言った。


ランスは言葉を飲み込み、悔しげに唇を噛む。


「俺たちを、どうするつもりなんですか?」


ハルが真っ直ぐに問いかけた。


「うふふっ……そうねぇ……そちらのうるさい男は趣味じゃないから、兵士たちに遊ばせておこうかしら」


「っ……!」


「でも、金髪のあなたは、私の“遊び相手”にしてあげるわ」


ミカゲツは扇を口元にあてて妖しく微笑んだ。

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