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第十一話 お姉さんは気が強い

朝、目覚めたら体が重かった。


物理的に、だ。


「お前ら、自分の部屋で寝ろ――ッ!」


右腕にセシル。左腕にイリス。腹の上にミナーヴァ。


昨夜あれだけ部屋割りをしたのに、この有様である。


「ふぁ……おはようございます、ノア」


「おはようございますわ。いい匂いですわ」


「ノアくん、あと五分」


「目覚まし時計みたいに言うな! 起きろ! というか出てけ!」


「「「えー」」」


「えー、じゃない!」


こういう時の切り札は、決まっている。


「ルサルカー! 頼むー!」


静かな足音が一つ、部屋の前に立った。


「はいはい。ほら三人とも、ノアくんが困ってるよ」


「「「はーい……」」」


三人が、しおしおと退出していく。


「助かる。まじで助かる」


「姉として当然の事だよ」


「姉って認めてないけど、今のは姉だったわ」


ちなみにこの家の朝は、洗面所の争奪から始まる。


「順番ですわ!」「先に並びました!」「お姉ちゃん権限で」


「権限は存在しない!」


五人暮らし三日目にして、俺は朝の時間割を帳面に書く羽目になった。


『洗面所、一人五分。超過は罰金銅貨一枚』


罰金箱には、既に銅貨が七枚入っている。全部ミナーヴァのだ。


「ノアくん、それ没収?」


「店の備品代になります」


朝食は、イリスが作った。


即席のサンドイッチ。だが、これが上手い。


「王女様が料理できるの、地味に驚くんだが」


「花嫁修業ですわ。……ちなみに殿方の胃袋を掴むと、恋が成就しやすいと聞きましたの」


「動機は不純だけど味は認める」


「複雑ですわ!」


ちなみに屋根の修理は、依頼主の綺さんに大層驚かれた。


「兄ちゃん、梯子も使わんで、どうやって直したんだ」


「企業秘密です」


《転移》で屋根材を運んで、俺ごと屋根に跳んだだけだ。


種を明かせば簡単だが、明かさない方が、なんでも屋の看板は光る。


食後、俺は帳面を開いて、今日の予定を確認した。


なんでも屋、開業二日目。


初日の護衛依頼のおかげか、朝から張り紙を見たという客が二人来た。


一件は、屋根の修理。銀貨五枚。


一件は、迷い猫捜し。銀貨三枚。


《転移》を使えば、どちらも一時間仕事だ。屋根材は触れれば運べるし、猫は……猫は普通に探した。掟の三、命は心許した者のみ。初対面の猫は、心を許してくれなかった。


結局、猫はセシルが呼んだら一瞬で出てきた。


「ノア、猫の気持ちが分からないんですか?」


「分からん。お前はなんで分かるんだ」


「乙女の勘です」


猫耳を疑ったのは、心の中だけにしておいた。


「にしても、平和だな」


「平和ですわね」


「依頼がなければ暇ですからね」


午後は、店の掃除をすることにした。


雑巾を配り、窓を開け、五人で手分けする。


――そういえば。


「ルサルカは?」


「さっき、出かけて行きましたよ。『外せない用事がある』って」


セシルが窓を拭きながら答えた。


外せない用事。


この街に来て三日目の奴に、外せない用事があるだろうか。


行き先も、相手も、言わなかったらしい。


……詮索は、やめておこう。誰にでも、言えない事の一つや二つはある。


俺の帳面にだって、書いていないページがあるように。


それでも、と思う。


あの空間で、ルサルカは言った。僕は君の味方だ、と。


なら今は、それを信じる。裏切られたら、その時に帳面へ書けばいい。


……そんなページを書く日が、来なければいいが。


そう思うことにして、俺は掃除に戻った。


ルサルカが戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。


「ただいま。……どうしたの、みんなして僕を見て」


「別に? 用事は済んだのか」


「うん。済んだよ」


それだけだった。


嘘の匂いはしない。ただ、全部を言っていない匂いはした。


――と、その時。


客用の扉が、勢いよく開いた。


飛び込んできたのは、息を切らした女性だった。


「助けてください! 私の家族を!」


なんでも屋の依頼は、尽きる事を知らないらしい。


俺は帳面を開いて、新しいページに走り書きした。


『緊急依頼。家族の救出。報酬、後決め』


「詳しく聞かせてください。うちは、なんでも屋です」

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― 新着の感想 ―
[一言] ルサルカは頼りになりますね
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