後悔
「アイザック・クラーク侯爵を覚えているよね」
「誰?」
全く見覚えのない名前だ。
クラーク家というとクリティーナ・クラーク宰相かその息子のウィリアム・クラーク副騎士団長しか思いつかない。だいたいクリスティーナの爵位は公爵だ。
「ほんとに?」
ルイが目を大きくして驚いている。そして何度確認してくるが、知らないものは知らない。
「そう言えば、ルカの家庭教師どうしたの?」
私はあまりの意味のわからなさに眉が繋がりそうになる。
転送魔法陣の話しから知らない自分の名前をだして更に家庭教師?
確かに、家庭教師の件はどうなったかルイに伝えていない。しかし、それが今気になったとでもいうのか。
結論はもうでたので伝えるのは問題がない。
「暇を与えたよ。ちなみに数ヶ月後からはじまるカミラの家庭教師は私がやるよ」
「ルカそうするかなとは思ってたよ。その暇を与えた家庭教師がアイザック・クラーク侯爵なんだ」
家庭教師を解雇した件は予想していたようで特に驚きはしなかった。むしろ、私に驚けとでもいいたげであった。
しかし、私は意味が分からない。
「それで?」
相当ヒントを貰っているようだが、やっぱりわからない。元家庭教師がアイザック・クラーク侯爵だからなんだと言うのだ。クラーク侯爵と言うのだからクリティーナ宰相の親戚かもしれないがだからと言って今回の処置は覆らない。
ルイは頭に手を当てて指で額を押す。私にどう伝えるか悩んでいるようである。
物分かりが悪くて申し訳ない。
「ルカも知っていると思うけど、配達となると持参するか使者を出すしかないんだ」
ルイの言葉に頷きながら“やっぱりないのか”と思う。ルイが自信満々だったので私の知らない方法があるのかと思った。
「けど、このは使者を使うわけにはいかない。だからと言って僕らが持参できるなら、もう貧困地域行っているしね」
また指で額をたたきだす。そして、言葉を選びながらゆっくとした口調で言いたい事があるがそれをわざとぼかすような言い方をする。
相当話しずらいことなのかな。
「最近クラーク侯爵のいい噂聞かないだよね。ルカに暇を出されたから城には来ないしね」
「ルイの家庭教師じゃないの?」
あの家庭教師はルイと私の兼任しているのだと思っていた。だからこそ何度もルイと私を比べているだと考えた。あの人のナメクジが這うような言い方を思い出しただけで背筋が寒くなった。自分の中でトラウマになっている。
「数年前まではね。彼はその高度な事を教えられないみたいだからね。だからルカの家庭教師を解任されたら城に来られない。つまり半年暇だっただよ」
ルイは頭にあった手をテーブルの上で組み、じっと私をみる。その顔にはさっきまでの笑顔はなく真剣そのものである。周りの空気が冷たくなるのを感じた。
まるでこれから大切な話をするようだ。
「彼の良くない噂がで始めたのは半年くらい前からなんだよ」
更に話を続けようとしたところでルイは何かに気づいたように言葉を止めた。
「ああ、そうか。もしかして、ルカは図書室に引きこもっていたから知らないのかな」
最近は図書室に引きこもっていた。それ以前は専属の侍女する避けていたので噂話は一切知らない。正式に私宛にきた情報しか持っていない。
私はひどく衝撃をうけた。しかし、その様子がルイにとって楽しい事のように優しい笑顔を向ける。先ほどに緊張していた空気はどこかへ行ってしまった。
「噂話も大切な情報だよ。全部信じることは危険だけどね」
知っている。
火のない所に煙は立たぬと言うし、特に女性の噂は根も葉もないということはない少ないだろう。
「あー」
後悔のあまり声を出し頭をテーブルにつけた。そんな私の奇行にルイがビックと体を動かした。今までの笑顔がこわばる。
「大丈夫」
ルイの心配そうな声が頭の上でする。
私は“大丈夫”と返事をしながら手を振って見せてからすぐに顔をあげると、案の定そこには私の心配をしているルイがいた。
「多分、以前話した事があると思うだけど、図書室で勉強していたのも食事に参加したのもルイと手合わせを始めたのも全部人と関わり国の事知るためだっただよね。でも実際は引きこもりで…」
声がどんどん小さくなり、最初はルイの顔も見ていたが段々視線が下に落ちる。気持ちが落ちてきてしまいルイの顔を見ていられないのだ。
「本末転倒だね」
さっきまで心配そうな顔をしていたルイが今はニコニコと笑っている。
ルイのその言葉が心に刺さったが思った事を言えるようになったのは良かったと思う。




