【セレン視点】興味がある話題
「これは実際に販売されるようになったら人気がでそうだな。焼き色も綺麗だし、何といっても素材の香りを引き立てる」
「目の前で仕上げていただけるというのも特別感があっていいと思うわ。わくわくするもの」
マリエッタも目を輝かせて同意してくれたところをみるに、この魔道具はかなり好印象と言えるだろう。
「まさかこんなニッチな魔道具まで作られているとは驚きですわよね、このところの第三魔術師団の開発速度は目を見張るものがある、と王宮でも話題になっているとか」
ラーディア様の言葉に嬉しくなる。二年ほど前にヴィオル様が、国全体を守る防護壁を少人数で構築できる魔道具を開発してから、わたくし達特級魔術師の働き方は劇的に変わった。
研究・開発に充てられる時間が爆発的に増えたことで、魔術開発も魔道具開発も、それ以前からは考えられないほど成果が出るようになったらしい。
事実、産後お仕事に戻った時、あまりにもたくさんの魔術や魔道具が開発されていて、わたくしも驚きを隠せなかったのですもの。
「王宮で話題、というと……宰相殿からの情報かな?」
「ええ、もちろんですわ。ボーデン様が、両陛下もヘリオス殿下も、報告があがるのをいつも楽しみにしていらっしゃると伝えてくれと」
「ほう、ヴィオル様に直接お伝えになるのではなく、ラーディアからセレンを通して、とはこれまたまわりくどいな」
「もちろん直接仰ってもおいでですわよ、ねぇ」
「ふふ、そうですね」
「婚約者であるわたくしからも伝える、ということが重要だということでしょう?」
「ははは、ラーディアと宰相殿は本当に手ごわい夫婦になりそうだな」
「ええ。誰にも侮られたりしないように、しっかりボーデン様を支えるつもりですわ。ところでマリエッタ様」
「はい」
「貴女も、そろそろなのではなくて?」
そう問われて、マリエッタがわたくしをチラリを見る。
マリエッタの婚姻はもう日取りも決定していて、披露パーティーの案内を送る段階だと聞いた。
「さすがラーディア様ですね」
わたくしが言うと、とマリエッタもくす、と笑う。
「仰る通りですわ。マリエッタ、キッツェ様との準備は万端かしら?」
「ええ、近々皆さまにも披露パーティーの案内状をお届けいたします」
「そうか! いよいよか……おめでとう」
「まさかマリエッタがキッツェ様と結婚することになるとは思いませんでしたわ」
「最初は私もそう思いましたわ、随分厳しい事も言われましたし。けれど、今となっては厳しくて優しくて頼もしい……キッツェ様は、私にとっては世界で一番、安心できるお方です」
本当に幸せそうに微笑むマリエッタは本当に綺麗で、なんだか涙が出そうになった。
「まぁ、堂々と惚気るなんて」
「幸せそうで何よりじゃないか」
嬉しそうに笑うマリエッタと、リンデ様とラーディア様の軽口を微笑ましく見ていたら、腕の中で急にぐん、と重みが増した。
「あーーーーー!!!」
「きゃ、レアリー!」
レアリーがわたくしの腕から身を乗り出して、マリエッタの方へと腕を伸ばす。
「あら、私の方へ来てくれるの?」
マリエッタが嬉しそうにレアリーを抱きとってくれる。レアリーはマリエッタにとっても懐いていて、マリエッタもとても可愛がってくれているのだ。
「あうっ」
ところがレアリーはマリエッタの腕の中で、さらに腕を伸ばしている。
「やだ、ミルフィーユに興味があるの? でもまだレアリーにはちょっと早いわね」
マリエッタはくすくすと笑いながらレアリーの頭を優しく撫でてくれた。レアリーのふわふわの黒髪がぽよぽよと揺れて可愛らしい。
「大きくなったな、あんなに小さくて頼りなかったのに」
「もう一歳と……二か月くらいなのかしら? リンデ様ご覧になって、このむっちりとしたお手々。赤ちゃんって本当に可愛いわよね」
リンデ様がレアリーの小さな指に触れながら呟けば、ラーディア様はぷにぷにの二の腕をつつく。レアリーはふたりに構って貰えたのが嬉しかったのか、きゃっきゃと声をあげて笑って、今度はラーディア様の耳元で揺れる愛らしいピアスに手を伸ばす。
「まぁ、ダメよ、レアリー。ラーディア様ごめんなさい。もう何にでも興味津々で、目が離せないんですの。こんなに小さいのに意外と好き嫌いもはっきりしてますし」
「まぁ、赤ちゃんのころから好き嫌いってあるのねぇ」
「ええ。食べ物も毛布も、お洋服も、嫌いなものを渡そうものなら眉と眉の間にきゅっと皺がよってものすごく不満そうな声を出すのよ。それがまた可愛くて」
「はは、ちゃんと自己主張するのか。確かに可愛い」
「イヤなものはイヤよねぇ。ね、レアリー」
マリエッタがそう言ってお膝に乗せたレアリーを覗き込むと、レアリーも「あーーー!!!」と声を上げる。
まるでマリエッタの言葉に同意するように発された「あーーー!!!」があまりにも可愛らしくて、皆の笑い声に包まれた。
ひとしきり皆でレアリーを囲んで話していたのだけれど、興奮してはしゃいでいたレアリーもさすがに疲れたようでうとうとし始めた。
「おねむになったみたい。ちょっと寝かせてくるわ」
席を外してアリーを侍女のリンスに預けて戻ったら、話題はわたくしもとても興味がある話題へと移っていた。




