【セレン視点】小さなお茶会
お久しぶりです!
書き溜めが進んだので、更新をスタートします(^^)
産後、お仕事に戻って頑張るセレンを、また応援いただけると嬉しいです。
「セレンちゃん、無理は禁物だからね。特に残業は僕が許さないから、そのつもりで」
「大丈夫ですわ」
このところべリアさんから毎日のように言われる言葉に、思わず苦笑が漏れる。
レアリーが一歳の誕生日を迎えた翌日からお仕事に復帰したわたくしだけれど、こんな風にいつも気遣っていただいているのが申し訳ない。
ただ、久しぶりのお仕事はやっぱり楽しくて、産休に入ってからレアリーが一歳を迎えるまでの間にたくさんの魔術や魔道具が開発されていて、それを勉強していくのもわくわくするし、それをもとにさらに改良できないかを検討するのもとても楽しい。
レアリーにしっかりと向き合って、愛らしいその成長をつぶさに確かめられたあの期間はとても大切なものだったけれど、こうして魔術に真摯に向き合う時間も、わたくしとってはとても大切なものだと改めて感じる。
ついつい熱中して、定時を越えてしまいそうになるものだから、こんな風に心配されてしまうのだろう。
これ以上ご迷惑をおかけしないように、時間管理をしっかりしないと。
……もしかして、これも魔道具にできるのかしら。必要な時にお知らせしてくれるような魔道具。そうね、いいかもしれない。
こんな風にちょっとしたことで思いつくアイディアを提案して、魔術や魔道具に活かしていけることが素直に嬉しい。
そして、邸に帰ればレアリーが可愛らしい笑顔で、時には大泣きしながら迎えてくれて、邸の皆に今日のレアリーの様子をたくさん聞かせてもらい、ヴィオル様と忙しくも楽しい時間をすごせるのだから、毎日が楽しくてしかたがない。
少々の疲れは疲労回復魔術で吹き飛ばし、わたくしは充実した日々を過ごしていた。
そんな日々にも慣れてきた午後。
わたくしの邸のエントランスでは、小さなお茶会が催されていた。
親しい友人であるリンデ様とラーディア様、そしてわたくしの妹であるマリエッタだけを招いた本当に小さなお茶会だけれど、だからこそちょっとした工夫を凝らしてある。
テーブルクロスや生花、ナプキンなどの小物はレモンイエローとクリーム色の装飾で統一し、涼やかだけれど温かい雰囲気に。そしてテーブルには、この邸のパティシエであるジャンが心を込めて作った『香り立つアンルーミルフィーユ』が並んでいる。
極薄のパイ生地と、ヴィオル様が炎の魔術を閉じ込めた魔道具でサーブする時に目の前で焼き色を付けた果実をふんだんに盛り込んだそれは、まるで天上のデザートのようだった。
「お姉様! このミルフィーユ、なんて繊細なの!」
マリエッタが華やぐ声を上げると、その隣でリンデ様も深く頷いてくださる。
「本当に。このパイ生地が秀逸だな。まるで朝霧のように儚いのに、口に入れると豊かにバターの香りが広がるんだな。しかもこの凍った果実との相性も素晴らしい」
「まぁリンデ様ったら随分と詩的な表現をなさるのねぇ。けれど、同感ですわ。ねぇセレン様、この果実、アンルーなのではなくて? ボーデン様の故郷で採れる、あの爽やかな酸味と甘みがある」
「ご名答です」
「ははは、さすがに婚約者の領地で採れる名産品には詳しいんだな」
「当然ですわ」
ツン、と顔を上にあげて得意げな顔をするラーディア様が可愛らしい。
既にボーデン様の婚約者として、そのお母様と弟であるリース様が収める領地のことも頭に入っているということなんだろう。彼女の顔は自信と喜びに満ちていて、見ているこちらもなんだか元気になるから不思議だ。
「まあ、この甘い果実がアンルーなの?」
「アンルーは甘煮にすると甘さと酸味と香りのバランスが素晴らしいのです。味に立体感が出るというのか……果肉がしっかりしていて煮崩れしにくいし、煮ると香りが立って、生地を引き立てながらも焼いた時に香ばしくて華やかな仕上がりになるのだとか」
「ラーディア、すごく勉強したんだな」
「ええ。領地はリース様が継ぐとはいえ、王都でこうして流通する特産品もあるのですもの。学んでおけば何かお役に立つことがあるかもしれないでしょう?」
「そうか」
当然、という顔のラーディア様を見るリンデ様の目はとても優しい。しっかり者で努力家の友人が、幸せの階段を順調に上っているのが嬉しいんだろう。
リンデ様は微笑んで、目の前のミルフィーユの薄い層をじっくりと眺める。そして感心したように呟いた。
「しかしこの繊細な仕事は、もはや魔術の域だぞ、ジャンは素晴らしいパティシエだな」
「ええ、本当に。このお菓子のレシピ、いただけませんかしら。今は貿易船でもスイーツが流行っているそうで、きっと喜ぶと思うのだけれど」
ラーディア様もマリエッタも目を細めて食べ進んでいて、その繊細な美しさと美味しさを堪能してくれているみたい。これだけ喜んでくれたなら、ジャンもこの日のために何度も試作をした甲斐があったというものね。
「そういえばさっき目の前で焼き色を付けてくれただろう? あれは魔道具か?」
リンデ様の疑問はもっともで、実はまだ市場には出回っていない魔道具だったりする。
「実はまだ試作段階の魔道具ですの。と言っても開発自体はいったん終わっていて、今はジャンに使い勝手を試して貰っているという段階なのです」




