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キャッスルの町襲撃(下)

 走りながら武器の確認をする。棒手裏剣が二十本にソードブレイカーが一本か、どのくらい相手にするかわからないが、ちょっと心許ないな。

 まあエインだけ倒せればいいか。術者の片割れだけ倒すことができればゲートも消えるって言っていたしな。


 もう一人の術者であるエインの場所はわかっていた。魔力を探ってもわからないが蠢く気の動きを辿れば居場所はすぐにわかった。この世界に来てから気の気配を探れる範囲がどんどん広がっている気がする。日本にいた時よりもかなり広がっている。この世界に気が満ちていることが関係しているのかもしれない。



 気の気配を探りながら町の西側の森の奥にやって来た。ここまで来たら集中しなくてもどこにいるかわかった。気づかれない様に慎重に進む、さらに森の奥に進むとエインと魔物達を見つけた。


 様子を窺う為、さらに気配を消しエインと魔物達に近づく。エインの横にはマリクさんが言っていた転移門だと思われる魔道具があった。その魔道具はこの場所には不釣り合いなほど立派な門で、片方の扉が開いていた。開いた扉の先はゲートと同じような漆黒の闇が渦巻いていた為、その先の様子を窺うことはできなかった。


 エインの右側にはエインが作り出したゲートが開いており、転移門から出てきた魔物はそちらの方にどんどん送られている。まずいな、この流れを止めないとマリクさんの方にどんどん魔物が行ってしまう。


 おれがそう思っているとタイミングよく転移門からゲートへの魔物の送り出しが止まった。このタイミングを逃さずおれは「草結びの術」を唱える。


 エインの足元から草が伸びエインを拘束する。「この術はまさか!」エインがそう呟いた時にはすでに拘束が完了し、おれもエインの前に姿を見せる。


「ほほう。あなたは先程領主のそばにいた者ですね。あなたがこの術を?」


「そうだ」


「あなた面白いですね。これは忍術ではないですか!」


「な! お前なぜ忍術の事を知っている!」


 エインは不敵に笑うとこう言った。

「私は研究者ですから、自分が興味を抱いたものに対しては調べないと気がすまない性分でしてね。このような場所に来るよりも研究室で研究していたかったのですが、まさか忍術をこの目で見れるとは、これは幸運でした」


 もっと詳しく話を聞こうとした時に変化が起こった。いつの間にか転移門の中から剣が真っすぐ突き出ている。その剣が現れた途端、エインを拘束していた草がバラバラになりエインを解放した。


 あの真っすぐ突き出た剣は斬撃を放った後の姿だったのだと、おれが理解したのはその後だった。おれが驚きながらも棒手裏剣を放とうとした時、やっと気が付いた。


 懐に手を入れた途端、赤いしぶきが噴き出す。懐を見るとおれの右手首から先が無く切れた断面から血が噴き出していた。


 おれの手首は手が胸に当たったはずみで腕から離れ、地面に落ちていた。

 先程転移門の中から剣が現れたのは下から上へ切り上げた後の姿だったのだ。つまりおれが真っすぐ突き出た剣を見た時には、すでに斬撃が放たれていたという事だ。あまりの斬撃の鋭さにおれもおれの手首も切られたことを認識できずに、手が胸に当たってやっと切られたと認識したようだ。


「ばかな……」おれが声を漏らし動揺したのはその一瞬だけだった。すぐに冷静な思考に切り替える。左手で布を取り出すと、それできつく手首を締めてこれ以上血が出ない様に縛った。アドレナリンが出ている所為か、手首は熱くなるだけで痛みは感じなかった。


 真っすぐ突き出ていた剣が転移門からさらに突き出され斬撃を放った主が現れる。

「こいつはなかなか面白い。今まで数々の手首を落としてきたが、そこまですぐ冷静に対処できる者に初めて出会ったぞ」

 そう言いながら剣をしまい転移門から出てきたのは、白髪で紫色の肌をした鬼だった。おでこから小さな角が二本生えており体つきは赤鬼より少し小さいくらいだが、一目見て強いと感じる気配を纏っていた。


「これは紫電様、研究成果を見にこられたのですか?」

 エインが驚いた様子で紫電に話しかける。


「エイン、お前の目は節穴か。ビルツの方がもうやられそうになっているぞ。撤退しろそう言いに来た」

 そう言いながら紫電はエインに何やら楕円形の板を見せる。


「ビルツがですか?」

 驚いた様子で楕円形の板を覗き込んだエインは「これは……」そう言うと自分が作り出したゲートに顔を突っ込んだ。


 そのままエインが中に消えすぐに、

「兄者! しかしもう少しで奴らも疲弊するはず」


「これは紫電様からの命令だ」


 そう言いながらエインとビルツがゲートから出てきた。


 紫電はビルツの姿を確認するとビルツに向けて「撤退だ」とだけ言った。


 そこでやっと紫電の姿に気が付いたビルツが驚き声を上げる。

「これは紫電様! こんな場所に……」


「物見鏡で劣勢が確認できたのでな。お前達の「ゲート」の魔法は貴重だ。今失うわけにはいかん」


「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」


「では撤退する。それとお前の名前だけ聞いておこう」

 紫電はおれを指さすとそう言った。


「シンタロウだ」


「シンタロウか……それではシンタロウまた会う事もあるだろう」

 そう言うと転移門へ戻っていった。


「あなたなかなか興味深かったですよ。今度忍術について詳しく聞かせてください」


「今度会う時は今日のようにはいかんぞ」


 エインとビルツはそれぞれそう言うと、転移門の中に消えていった。追いかけようか逡巡している一瞬の間に転移門は跡形もなく消えてしまった。


「マリクさんの方に加勢に行かないと」

 先程魔物の方が劣勢と言っていたのが気になるが、あのまま行けば劣勢なのはマリクさん達のはずだ。熱をもって痺れだした右手をさらに縛りながらマリクさん達の元へ向かった。





 遠くで勝鬨を上げているような声が聞こえる。さらに近づいてみるとやはり勝鬨を上げているようだ。中心にマリクさんを見つけ駆け寄り声をかける。


「マリクさん!」


「おお! シンタロウ今からお前の所に向かうところだった。こっちはあちらの方々の救援が有ったので、敵を殲滅できた」

 そう言いながらマリクさんが指さす方を見ると、驚いたことに生徒会長や副会長を筆頭に学校のみんなが来てくれていた。


 おれが驚いていると、青ざめた顔のエリスが目の前に飛び出してきた。

「シンタロウ! あなたその右手どうしたの!」

 驚いた声を上げながらおれを揺さぶる。


「これか。おれともあろうものがとちった。紫色の鬼にやられちまってな。ちなみにエリス、めちゃくちゃ痛いので揺さぶらないで欲しい」時間が経つにつれ熱さと共に痛みを感じ始めたが、今は痛みが勝っている。


「ご、ごめんなさい。すぐに回復魔法を……」

 そう言いながら「癒せ」、「癒しの光よ癒し給え」「癒しの光よ」立て続けに魔法を唱えるが何も起こらない。


「こんな時でも回復魔法を使えないなんて……一体なんでなの! どうやったら使えるのよ!」

 そんなエリスの悲しみにと怒りが混じった叫びを聞きながら、どう声をかけていいものか悩む。


「大丈夫だエリス。血もほとんど止まったし後で誰かに回復魔法かけてもらうよ」

 エリスを慰めていると「どいて!」そう言いながらおれとエリスの間にソフィーが割って入る。


「メイ、ミト」

 ソフィーがそう言うとメイさんとミトさんが周りから見えない様におれとソフィーを布で覆う。


「これで良し。シンタロウ行くわよ」

 ソフィーがそう言いながら「この者に神の軌跡を」と魔法の詠唱を始めるとおれの手首が光りだし、光が収まった時には、飛ばされたはずのおれの手首がそこにあった。


 おれは驚きながら左手の感覚を確かめる。違和感がまるでない。先程まで手首が無かったのが嘘のようだ。


「こ、これは……」


「「神の軌跡」の魔法よ。神様が多くの者を救ってきた軌跡をたどるように奇跡を起こす魔法よ。失った血も水分さえとればすぐに元に戻ると思うわ。」


「助かった。ありがとう。義手って方法もあるかなと思っていたけど、まさかまた自分の手が新しく生えて来るとは」

 おれは新しく生えた右手首を眺めながら感心した様子で呟く。


「厳密には新しく生えたわけではないのだけど、まあ詳しい事はいいわ。メイ、ミトもういいわありがとう」

 ソフィーがそう言うとおれ達を覆っていた布が外される。


「シンタロウ!」

 そう言ってエリスが駆け寄ってくるとおれの右手首を見て安堵する。


「よかったわ。魔法をかけていただいたのね」


「ああ、おかげさまでこの通りだ」


「ソフィー様ありがとうございます」


「お礼ならシンタロウに言われたから、あなたが言わなくていいわ」


「いえいえ、シンタロウはキャッスル領の人間ですから、家族が助けていただいたらお礼を言うのは当然ことです」


「私もクラスメートとして助けるのは当然と思っているから結構よ」


 おれにはそう言いながら見つめ合う二人の間に、火花が飛び散っているように見えた。


 そんなにらみ合いを止めたのは会長からの一言だった。

「あなた達! 怪我人を放っておいて何をしているのですか? シンタロウ君、体の具合はどうですか?」


「会長ありがとうございます。特に手首以外は大丈夫です。でもまさか会長達が救援に来てくれるとは思っていませんでした」


「気にしなくていいのよ。ソフィーちゃんに泣きつかれたら私も無視できないし、王家の人間としても放っておけなかったですしね」


「けど感謝するっていうならシンタロウ君の秘密をあたしに話してくれてもいいのよ」

 副会長がそう言いながらおれの肩にしなだれかかってくる。


「副会長! シンタロウに秘密なんてありません。それに密着しすぎです離れてください」

 そう言いながらおれと副会長の間にエリスが割って入る。


「なるほど。エリスちゃんは何かを知ってるっていうワケね。それにあたしはこのぐらいの距離は普通だと思うけど、エリスちゃんが怖い顔で睨むから離れるわ。フフフ」


「シンタロウ! 無事だったんだね」

 そう言いながら手を振っているのはマルコだ。


「マルコまで来てくれたのか! ありがとうな」


「うん。姉上から聞いてね。結構やられたって聞いたから、戦闘は無理でも壁や建物を直すのに僕の土魔法が役に立つと思ってね」


「町の人も喜ぶと思うよ。おれも手伝うから必要なら言ってくれ」


「うん。けどシンタロウは今は休んだ方がよさそうだね」

 そう言いながらマルコがおれの上から下を眺める。


「確かにボロボロだな。ちょっと休ませてもらうよ」

 今まで張っていた緊張の糸が切れたのか、そこでおれの意識は途絶えた。





 おれが目を覚ますと懐かしいキャッスル領のおれの部屋だった。おれはどのくらい寝てたんだろうか。


「シンタロウ! 起きたのね」

 声をかけられそちらに目を向けると本を手に持ったエリスが椅子に座っていた。


「エリス、おはよう。おれはどのくらい眠ってた?」


「丸二日よ。怪我は治っているから、その内目を覚ますと司祭様はおっしゃっていたけど、私心配で」


「そうか、ありがとう」


「けど目が覚めてよかったわ。お腹空いてない?」


 そう言われると急にお腹が空いてくるから不思議だ。

「空いた」


「すぐに食事の支度をさせるわ。食堂に行きましょう。立てる?」


「うん。大丈夫みたいだ」


 食事をしながらこの二日間の話を聞いた。

 救援の要請をしに行ったミーシャさんだったが、まず軍部に行ったところ軍部では判断できないから王城を通してくれと言われたそうだ。


 王城に向かうと、王城でも色々たらい回しにされ困っていた所、ソフィーに出会いソフィーが生徒会長に話をしてくれて生徒会長が王に嘆願してくれたらしい。


 救援要請が終わったミーシャさんがキャッスル領に戻ろうとしていた所、軍は動きだすのに少し時間がかかるからと生徒会長達が一緒に来てくれたというわけだ。その判断が良かったようで生徒会長達が来てくれなかったら、マリクさん達も結構やばかったみたいだ。


 そのあと軍が来て残党を殲滅して町を復旧して戻ったようだ。食事の後、町を見て回ったが、すっかり元通りになってむしろ老朽化していた建物なんかは綺麗になったと町民が喜んでいた。


 こうしてキャッスルの町を襲った大事件は幕を閉じた。

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[良い点] とても読み応えがあり、楽しく拝見させてもらってます。 [気になる点] 紫電が気になります! [一言] 続き楽しみにしています。
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