喫茶店ローズ番外編「高城颯太について」
エドワードとアルフレッドと鷹司が颯太についてのお話。
――閉店後。客も引け、照明を少し落とした喫茶店の一角。
エドワードはソファに深く座り、空になったカップを指先で転がしていた。
「颯太ってさぁ……。絶対、普通の家の子じゃないよね」
アルフレッドはカウンターにもたれ、肩をすくめる。
「あー。やっぱり? 普通に愛情もらってる感じはするんだけどさ。なんか、根っこに闇あるよねー」
その二人から少し離れた席で、鷹司は静かに紅茶を置いた。
「根拠は?」
低く、淡々とした声だった。問いというより、観測の要求に近い。
エドワードは少し考える素振りをしてから言う。
「まずさ。あいつ、他人の顔色読むのが異常に早い。初日から、アンナに合わせて喋り方変えて、オスカーの邪魔しない動線取って、アレクシアには逆らわない距離感」
アルフレッドも頷く。
「うん。で、誰にも踏み込まない。自分の話はほとんどしないくせに、人の話はちゃんと聞く。あれ、家庭内で空気読む役やってた人の癖だよ」
鷹司は目を細める。
「それだけなら、気配りの利く少年で済む」
「済まないんだよ」
エドワードは笑わずに続けた。
「いや、なんとなく?」
アルフレッドも、珍しくふざけない声で言う。
「初日さ、制服投げられても、仕事振られても、一回も文句言わなかったじゃん。普通、異世界来てそんな扱いされたら、キレるか泣くかするって」
「……」
「なのにあいつ、“使われる側”に即座に適応した。あれ、安心の取り方としては一番危ないタイプ」
鷹司はカップを持ち上げ、ゆっくりと一口飲んだ。
「自分の価値を、“役に立つかどうか”でしか測れぬ人間の挙動だ」
エドワードが小さく息を吐く。
「そう。それ。まさにそれ」
「愛情は受け取っている。だが、無条件ではないと学習している」
鷹司の声は静かだったが、妙に鋭かった。
「恐らく、良い家庭だ。だが“良い家庭であろうと努力し続ける必要があった家庭”だ」
アルフレッドはしばらく黙ってから、ぽつりと言う。
「……つまりさ。あいつ、自分がいなくなっても、世界は回るって、最初から知ってる顔してるんだよね」
エドワードは苦笑する。
「それなー」
鷹司は視線をテーブルの一点に落としたまま、静かに締めた。
「居場所を与えられたことに安堵している人間は、もっと無防備になる。彼は違う。“奪われる前提で、居場所に座っている”」
「……」
「それが闇だと呼ぶなら、闇だろう。だが同時に、非常に現実的でもある」
エドワードは背もたれに頭を預けた。
「ほんと、厄介なとこ来ちゃったよな。あいつ」
アルフレッドは天井を見上げながら、軽く笑う。
「うん。でもさ。だからこそ、今ここにいるのが一番安全ってのも、皮肉だよね」
鷹司は何も言わず、ただ静かにカップを置いた。
その仕草だけが、この話題に対する彼の結論だった。




