8話目-㊽
今回の説明はどこかアラがあるのでフワっと理解してもらえると助かります。
そして次の更新は恐らく来週です
「心配しないでも死んでないよ。意識だけこっちに来ちゃってるだけだから」
「なる」
アーカーシャではなく、本来の俺の姿になっているのを確認して袖を正して淡雪ちゃんに向かい合う
「……」
「あ!」
気になる一点を凝視する。俺に気付かれたことを淡雪ちゃんも気付いたらしい。親に疾しい物を見られなくない子供のようにコソコソと俺の視界から外れるように両手を背中にもっていく。しかし一瞬だが手から血がポタポタと滴り落ちて、倍以上に腕もパンパンに腫れていたようになっていたのを俺は見逃さない。どう見ても普通ではなかったはずだ
「なんで隠した。手、見せてみろ」
「う、うん」
俺の圧に負けたのか、淡雪ちゃんはおずおずと応じて素直に腕を前に差し出した。やはり見間違いではなかった。よく見ると顔の方にも血痕が見られるし鉄の臭いがする。それを拭いながら色々と理解した時に思わず頭に血が昇って冷静を欠こうとしてしまった。落ち着いて、話を聞こう。そして冷静に犯人をぶち殺そう。
「誰にやられたの?」
「ち、違うよ!それにこれくらい全然大丈夫だから!1分くらいで直ぐに治るよ!」
「治るから怪我していいってわけじゃないだろ。こうなったワケを話してくれ」
「本当になんでもないから!だって意外とわたしヤムチャなんだよ!」
「また勝手にZ戦士に加入して!お父さんそんなの認めませんからね!それともなんだ?ヤムチャさんが暗にやられ役って言いたいんか!?謝りなさい!全国のヤムチャファンの皆様に!」
「ごめん。ヤンチャって言いたかったの……」
頑なに淡雪ちゃんは怪我の理由を濁すように話そうとせずに気丈に振る舞う。それが尚更、納得出来ず苛立ちが募る。
「お前の代わりにこいつが肉体のダメージを代替してるからだろ」
聞きたかった答えを告げたのはコトアだった。何処からともなく俺の背後に現れたのだ。あの子と同じ姿で。
それよりも到底聞き逃せない事を言った。俺の代わりにと。せっつくように詰問するとコトアは肩をすくめた
「どういうことだ?」
「言った通りだ。アルタートゥームでアーカーシャが受けたダメージは××にいくのではなく、淡雪が身代わりとして負うように設定したんだろう。このヴァイナハテンは世界に対してそれが行えるからな。"改変"と"後付け"と"設定"をな」
「……」
「"事実"というものは、"観測"と"記憶"の連続性により生まれるものだ。しかし歴史と同じで"虚構"と"歪曲"の入り込む余地がある。事実のウワベを"虚飾"で塗り固め、信じさせればいずれそれが真実となる。それをもっと大きく強く行える世界、という認識でいいよ」
本当の事だから真実ではなく、人が信じたことが結実となる。それこそが信実であり真実である。言葉遊びのようだと思ったのは内緒である。
「……ようするに何でも思い通りに世界を作り変えれる場所ってこと?」
「簡単にいえばそうだな。ちなみに」
「全知全能の獣。喋り過ぎた!お前はもう口を閉じろ!そういう相手の感情を無視してしたり顔で智識をひけらかす所が昔から嫌いなのよ!×××に余計なことを抱えさせようとするな!」
「よりにもよって、今のこいつを巻き込んだお前がそれを口にするか?知るべきだし知らせるべきだ。お前も。
唯一神ーー。おっと、名前すら無いんだったな。じゃあ、ーー。これもダメ。ーー。これも。
ラインハルト。おおラインハルト!こっちは未だ呼べるみたいだな。向こう側の世界にお前の血族がまだどっかに残っているのかな?」
「今のわたしの名前は淡雪だ!×××から貰った大切な名前、これが今のわたしの存在証明。だからこっちで呼べ!」
「なら私様も親しみを込めてコトアと呼べよ、淡雪」
凄い勢いで俺だけ置いていかれてるの巻。この2人は顔見知りみたいだ。凄い敵意丸出しで睨み合って険悪だし、なんなら淡雪ちゃんのことを唯一神って言ったけど。それってつまり……。まあ待て。こういう時は一つずつ片付けていこう。
とりあえず俺の脳みそが理解できた部分だけを辛うじて伝える
「2人とも色々とりあえず積もる話があると思うけど、その前に一つ。淡雪ちゃん。俺の代わりにこれまで痛みを引き受けてくれてたんだね。ありがとう。でも淡雪ちゃんがその分、痛い思いするのは嫌だな。だから俺に返してください」
「嫌だ。返さない。×××は分かってない!そんなに簡単に口にして良い言葉じゃないの!戦いで受ける苦痛ってのは本当に痛いし苦しいの!人は漫画のキャラクターみたいにカッコ良く痛みを糧に成長なんて出来たりしない!むしろ逆。酷い場合には再起不能のトラウマを植え付けられて戦えなくなる。
痩せ我慢はできても、そう簡単に乗り越えられたりしない!痛いものは何回味わっても痛いの!慣れたりはしない。その度に心が折れそうになるくらい苦しいものなんだよ!
君が受けたダメージは2回。だけどちゃんとその2回を想像して。アナムの攻撃で身体が蒸発する痛みを。さっきの数十万の死と痛みを触れた時の想像を絶する苦痛を味わって、本当に君は大丈夫だった!?」
「……そうだな。折れるかもしれない。大丈夫だったなんて口が裂けても言うつもりもないよ。それでも言わせてもらう。淡雪!お前が死ぬほど頑張って歯を食いしばった自己犠牲されて、そんなんで俺が感謝して喜ぶと思ったのか?」
「感謝されたいわけじゃない。でも×××のためを思って、わたしなりに……!それにせめてこれくらいはしないと、わたしの罪滅ぼしにならないんだよ!」
「うるせーーー!知るか!返せ!」
「ばかばか!絶対返さないもん!××との付き合いは長いからわたしには分かる。だってヘタレだもん!!だからわたしが少しでもやれることをやってるんでしょ!」
「かっちーん!てめっ……見てもないくせに…!!」
俺と淡雪の間にコトアが呆れ顔で割って入る。そして落ち着けと言わんばかりに肩にポンと手を置かれる。
「ステイ。私様抜きで2人で熱くなりすぎだ。時間は限られている。××は痛みを返して欲しい。淡雪は返したくない。だから私様が解決してやる。神様だからな。ずばり、1/3だけ淡雪は××に返してやれ。」
「なん……」
「ちょい待て。コトアさんや。それなら半分の1/2じゃねーか?」
「さては××。数も数えられない辺りお前文系だな?
3人いるんだ。残りの1/3は私様が引き受ける。おっと私様が獣だからとノケモノにはしてくれるなよな」
「まあ、別にそこは異論ない」
「か、勝手に決めないでよ!異論あるよ!わたしは」
「独りよがりで全部決めて他者の決断を認めない、そうやって私様と同じ轍を踏んだのにな。淡雪。審判にしてやられてまだ懲りないのかー。私様にあんだけ講釈垂れて否定してたお前がなー……」
「お前がそれを……!〜〜っっ!分かった。ちゃんと返すよ。でも本当に××後悔しない?」
「すると思う。でも返して」
「……死ぬほど情けなくて不安だよ。でも、うん。分かった」
今にも決意が鈍りそうな淡雪が差し出してきた手をすかさず握る。すると大切な何かが触れ合いを通して返された気がする。次に心底嫌な顔を浮かべながら淡雪とコトアが同じ要領で握手する。
「これで終わり」
「確かめさせてくれ」
コトアが突然に俺の方を向き直り、顔を思いっきりビンタした。鋭い痛みが顔に走るが、思ったより痛くない。突然何かを伝わるように淡雪とコトアの頬も同時に赤く腫れる
「い、いきなりなにすんだよ!」
「確認だ。確かに叩いた箇所が私様の方もしっかり痛いな。じゃあ次の話に移ろう。まだ時間がある」
自分を殴れば俺に痛みが伝わったはずなのに、なぜ俺を殴って確かめたのだ。
「一旦座ろうぜ?」
「そうだね気付くの遅れた。なんならお茶もだすよ」
淡雪がパンパンと手を叩くと、2人用の腰掛けソファーとテーブルが現れる。そしてお洒落でアンティークさを醸し出すティーカップに1人でに鼻腔をくすぐる香りの良い紅茶が優雅に注がれる
「さ、×××。こっち座って」
準備は万全と言わんばかりに淡雪がソファーに人形みたいにちょこんと座り、俺に隣に来いと示唆する。しかし待って欲しい。コトアはどこに座るんだろうか
「あ、ごめんね。コトア」
俺が気にかけて動かずにいることに淡雪が本当になんでもないといったように、ござを出した。何だろう。この露骨な扱いの差は。空気がピリつく感覚。もうすぐ戦が始まるって感じ
「淡雪。そういうのは止めない?ほら、ケンカになるから」
「冗談だよ。直ぐに3人用を出すね」
「いや、その必要はない。私様はその2人用のソファーに座りたい」
そしてどういうわけか、俺の膝に淡雪を乗せて、隣にコトアが座る形で落ち着くことで決着となった。なんだこれ?全然落ち着かないんだが。
「……カグラにはもう会ったかな?」
淡雪が徐に口を開いた
「うん。会ったよ。
未来の世界では仲間で俺と鳳仙ともう1人のあの子ってのとパーティ組んで、最後の審判を乗り越えられなかったとかなんとか。さっぱりワケが分からんが」
「ふぅーん。コトアも何も教えてないんだ?」
「察しは付く。だが私様はかつての全知全能には程遠い。故に憶測でモノを語って××を混乱させるのは避けた」
どちらにせよ今の時点でしっかり混乱してるからその心遣いは無駄だぞ。
「×××は、自分のこれまでの人生を大雑把でいいからわたしに教える事ができる?」
「16年生きて、告白して振られまくって、死んで転生した」
言ってて凄い悲しくなる。脈無しである。二重の意味で
「今はそうだね。でも本来はね。クリスマスの日に如月 千夏の方から告白される。それから結婚して就職して子供が生まれて、順風満帆に何不自由なく生きて最後は孫に囲まれて布団の上で安らかに死ぬ。それが君の人生だったって言われたらどうする?」
「それはもしもの話だろ?」
「違うよ。もしもじゃない。」
話が見えない。何が言いたいのかさっぱり分からない。じゃあアーカーシャに転生した今の俺はなんだって話になるし。
「君がアーカーシャとして過ごしたあの時間をね。大体300年から400年くらい後にまで進めて、わたしと来世の君とカグラがパーティを組むのが本来の正史なんだよ」
「来世!?」
「うん。×××が私と会うのは、死んで生まれ変わって輪廻転生して、そこから君が本来持っている世界を渡る力を使ってね」
「もう少し分かりやすく言うね。君は長い時間をかけて輪廻転生して生まれ変わって、その次の人生でも普通に生きて、今の君の倍の年齢くらいの時にさ、来世の君は"初めての渡航者"としてアルタートゥームに渡って来るんだ。本来の正史ではね。
来世の君はさ、凄かったよ。世界を渡り歩く力により、世界の定めた修正と抑止を受けずに、如月 千夏とほぼ全く同じことが出来た。いや、或いはそれ以上か。龍脈のエネルギーを自在に操る力。あれはわたしに匹敵する強さだった。」
「本来の正史では来世の俺が仲間。ってことは待て待て待て。そもそも審判ってのに負けたなら、それなら今の俺の方に働きかけるんじゃなくて来世の俺の方じゃないか?」
「最初から話していくね。
わたしはさ。自力で神域に到達して、そこから顕現した全知全能の獣コトアマツヌシを倒した。そこから唯一神なんて人々から持て囃されて、いつからか何でも出来ると思い上がってしまった。ヴァイナハテンを通して思い通りに動かせるようになってからは更に増長した。
逆らう者なんかいない思うがままになった世界でまるで万能の神様気取りさ。笑っちゃうよね。
知ってる?神様が人の上に立った世界はさ、地獄絵図だよ。人間以外の種族なんてとっくに争いで全部滅んじゃっていた。神は神でありそれ以外の何者にもなれない。そんな事にすら気付けないわたしはある時に君に出会った。そしてある日に審判の日を迎えた」
「驚いた。飽和した人間だけの世界で無知蒙昧の獣 審判 ディアスマトラを乗り超えられると思ったのか?」
「だから負ける度に時間を戻して繰り返した。わたしなら失敗を糧に何れは超えられると自惚れていたんだ。きっと何かを諦めるにはわたしという個は力を持ち過ぎていたし、恵まれ過ぎていたんだ。でも何度も負けてその度に挫折を味わい全てを失った。
時間をやり直すだけじゃ運命は変わらないと思い知ったわたしは前提を変える事にした」
「コトアを倒した直後にまで遡って、わたしの力を分け与えて始祖にするという改変を行ったんだ。1番初めにわたしの初めての従者を務めたカグラという子供。この子を始まりとしたものが始祖の始まりだよ」
「なるほど。始祖とはお前の眷属か。どうりで見覚えがある力ばかりだと思ったが、お前自身の力を体系化したのか。始祖を通して魔法や呪術やスキルや仙術。聖気と魔力。多種多様な力として捉えさせ扱える世界を創っていったのか。」
「それでも審判の日を迎えた時に残ってた始祖はカグラだけだったから、上手くはいかなかったけどね。
何度繰り返してもどれも些細な失敗の積み重ねで結局最後の審判を乗り越えられなかった。でも少しずつでも結果は良くなっていくと思った。
100回目辺りで君より早く渡航者が実は世界を渡ってきたって後付けを安易に加えた。」
「多分これが致命的だった。この後付けは外の世界にも影響を与えることだから。理の破局を迎えて、そうしてわたしは肉体を失った。
転がり落ちるようにこれまでの歪さのしわ寄せがやってきた。代表的なのが生物の魔獣化の多発かな。そして最悪なのがこの後付け関連以降から全てが取り消しできず、世界の理として定着してしまうようになったこと。」
「魔獣化の対抗策として前もって聖杯という浄化システムが世界の免疫として用意してあったといえ、聖杯の処理能力を大きく超えていた。
更に改変により未来におけるわたしと君の出逢いそのものが無くなった。理由はわからないけどさ、恐らく君の世界を渡る力を奪い取って使っていたんだ。君の力を経由して世界を渡れる者たち。これが渡航者と呼ばれる者だ」
「あれは本当に絶望した。今度こそ大丈夫。そう信じて走り続けた先の未来にはさ、絶望しかなかった。追い越すどころか追い抜けさえしなくなったんだ。
そして笑えない事に顛末がこれまでで1番悲惨だった。審判を迎える早くに数多の魔獣によって世界が滅ぼされたんだから。
何度繰り返してもそこからは同じだった。始祖がいても渡航者がいてももうダメだった。
審判の日を迎える条件にわたしと君の存在が必要不可欠だと思い至った。わたしはわたしの代わりを生み出した。けどエニシをどれだけ辿っていっても、もうあの時の君にはもう会えなかった。それでも諦めきれなかったわたしはさ、探し続けて因果の果てを見つけた。これまでの因果が前世の君に全て集約されていたんだ。その証拠に今の君には開闢の神 コトアマツヌシが付いている」
「赦されることじゃないのは分かってる。けど、審判の日をまた迎えるには君も必要だった。無関係な前世の君が。そして関わってもらえるお膳立てをした。妲己を使ってね」
「ねえ、トラックに轢かれたあの日。×××を後ろから突き飛ばして殺したのわたしだよ。そして君という存在をアーカーシャに押し込めて巻き込んだ。」
「……そっか」
怒りはなかった。ただ、そうなんだと受け入れた。ショックだったのかは分からない。自分でも驚くくらい素直に受け入れられたからだ。
光が一瞬だけ強くなる。
「外の世界に呼ばれてるよ、×××。多分あの子だ。もうじき目が覚める」
「だな」
「わたしのこと怨んでいいよ?いいんだよ、それで」
「舐めんな」
「あてっ」
「諦めずに投げ出さずに、足掻いてより良い未来を掴み取ろうと頑張った子を誰が責めるかよ。大体分かった。だから見てろよ、ちゃんと。俺が今ある問題全部解決して審判の日に行き着かせてやんよ。んで淡雪の創った世界のみんなとちゃんとそれも解決するからよ。ハッピーエンドのクレジットロールを見せてやる」
目が覚める。姫がアーカーシャとしての我の顔を覗いている。髪の毛から仄かに潮の匂いがする。
「どこかの島に打ち上げられたみたいです。偉大なる龍王様は大丈夫ですか?」
【我を誰だと思ってる。バリバリ元気だっての】
そして我は立ち上がった。なすべき事を胸に秘めて
キャラクター紹介(登場予定は無し)
【Dear.th魔十螺】
神/審判
【ステータス】
パワー -
技術 -
スピード -
強さ -
【無知蒙昧の獣】
一定の知性を獲得している生物たちと同じ数だけ地上に出現する(億単位)。姿形は巨大な赤ん坊。無知で蒙昧なのでどんな『手段』でも倒すことができる。しかし、倒されるたびに少しずつ学習を繰り返していくので『手段』→『武器』→『攻撃』→『種族』→『個人』といった順で学習していき倒せる手段が限定されていく。最終的にはどこかで必ず倒せなくなる。打倒する為に必要なのは、個の強さではなく多種多様な強さである。
また力と数が常に総和になっているので、1体数が減れば残りがその分強くなり、半分倒せば2倍強くなる。そこから先は加速度的に強くなり、最後の1体に関しては文字通り最初の1体と比較して何億倍も強い。
仮に全滅させた場合でも、一定期間を開けた後に、最初と同じ数だけ出現する。
【説明欄】
三柱神の一柱。全と一の全を司る。顕現の際は審判の角笛を無知蒙昧の獣が吹くのが合図となる。現れた無知蒙昧の獣はその全てが本体であるが、獣自体を倒すことに意味はない。弱点そのものはワームホールを通して十の心臓を別次元に隠しているのでそれを破壊する必要がある。
但し、ワームホールを通って心臓を破壊して帰る度に時間のズレが最短でも数百年単位で発生する(いわゆるウラシマ効果)。300年後の未来では、正史では淡雪、××で対峙している。マトラを討滅するまでに数千年かかっており、カグラを加えてからは少しだけ倒す時間が短縮された。しかしそれでも3人でマトラを倒し終わって帰還するより早くそれ以外の全てを獣たちが絶滅させるので、勝負に勝って試合に負け続けてるのが現在までの事実である。