8話目-㊻
我との戦いで負傷した姫をエーテルを使って癒す。そしてその時に姫から伝言を頼まれた。
【きこえますか アーカーシャです 今あなた達の頭に直接呼びかけています バルディア全土にいる全ての者たちよ 戦いは終わりです そしてお願いがあります 城の前に1時間以内に集まって下さい】
【これでよかったの? 姫】
姫の洞察力と判断力はやはりずば抜けているのだろう。早速何か考えついたみたいなので、言われた通りに、ほぼ一方的に念話を繋げて、全員に集まるように頼んだ。
しかし正直望み薄だろう。少なくとも、さっきまで殺し合ってた魔物の言う通りに従う人間なんていないと思うが。だがやれる事はやるべきだ。それが例え徒労で終わろうとも。
「はい。では次にアレを下さい アーカーシャ」
【あ、アレとは?どれのことかね。きちんと言ってくれなきゃわからんのだよ】
「預けておいた特級魔法具"死の宝玉"ですよ。まさか無くしたとかじゃありませんよね?」
死の宝玉……あー、あの魔迷宮攻略した時に手に入れた悪趣味な髑髏水晶か。すっかり忘れてたぜ。何に使うんだろ
【あれね。ちょっと待ってろよ ゲロゲロ〜。へいお待ち!】
「……。これを平気な顔で渡せるなんて、いくらなんでも衛生観念が……今度簡易的な収納魔導具創ってあげます」
【あざまる】
「あとは……」
「ゆ、雪姫様! アーカーシャ様も!」
壊れかけの扉がガチャリと開いて、誰かが入ってくる。
姿は多少変わっていたが、すぐに分かった。
「! あなたまさかアヤメですか!?少し見ない間に随分と大きくなりましたね!うん。大人びて綺麗になりました」
黒の妖精アヤメがいた。痛んだ体を支えられながら、こちらに寄ってくる。
近付いてきたアヤメをそのまま流れるように姫が抱きしめた。
「え、あ、え、はひ?」
「頑張ったんですね。偉いです」
「私…頑張った……けど、全然 グスッ ダメで
皆死んじゃって うぇぇぇん!!!」
堰き止めていた不安と共にアヤメは姫の胸元に顔を預けてボロボロと安堵したように泣き崩れていた。泣き止むまで暫くかかったがそれは仕方ないことだろう。
「もう大丈夫?」
「は、はい。他の人たちには、ズピッ〜 何卒内密に。アーカーシャ様も絶対に言わないで下さいね!」
【へいへい】
少しだけ気恥ずかしそうにアヤメは取り繕う。それにしても傷が目立つな。内側から魔力か何かが逆流して焼き切られた跡が痛々しい。姫同様にアヤメの肉体の回復をエーテルを用いて活性化させ癒していく。
「これは……!」
【アヤメ。無事、じゃなかったみたいだけど生きてて良かった。色々ありがとうな。世話をかけた】
「はい!こ、これからもお世話していきます!」
【あ、そいや挨拶遅れちゃった。そっちの人たちが助けてくれたんだよね……っていうか冒険者がこっち側にいるのは何故?】
かっこいい斧型の武器を携えた女性の冒険者は一定の距離をとって挨拶の口上を述べてきた。この距離は我に対して隠しきれない警戒の気持ちの表れだろう。そして何かあっても対処出来る距離でもある。
「私はミリアス・アンクタス。貴方たちが戦っていた略奪者達の王様とは別の冒険者ギルドの殺し回る狩人ギルド長をしています。此度のヴァイキングの暴挙が目に余りましたので微力ながら参戦した次第であります」
キリングバイツ。確か三大ギルドっていう大手冒険者ギルドの一つだったよな。ギルド長ってことは、アレと同格なんだよな?
むむ、この落ち着きように佇まい。多分アレクセイより強い感じがする。
【そうなんだ。そっちの人たちも?】
「いや、俺は、ヴァイキングです。略奪者のシュウ・ハザマ。こっちの寝てるシチーって人も同じです」
【ん?お前……!!】
「ま、待ってください。王様!
シュウは、この人たち、ううん。冒険者の人たちが何人も私たちのことを助けてくれたんです!
だからこの人たちに酷いことをしないであげて下さい」
宝人族の女の子、えと、あれだ。ボナードの妹のダイヤちゃんがシュウと名乗った青年を庇うように大きく胸を張って手を通せんぼするように挙げる。何を勘違いしているのだ!
【顔をよく見せろ!】
「へ!」
エーテルを手のように構成し、彼を目の前まで手繰り寄せる。
やはりそうだ。
【お前、あの時のイルイちゃん追っかけ回してたイケメン野郎じゃねーーーか!!!】
そう言われて、シュウと名乗った青年も思い当たったようだ。
「あ!あの時の龍!?お前が、いえ貴方様がアーカーシャ様!いや、でもなんで白色」
イケメンは我の敵である。しかし、そのボロボロ具合を見るに凄い頑張ってくれたのだろう。ならば感謝こそすれ、憎まれ口など叩くべきではない。
【ぁぁぁぁ、シュウさんもありがとう。
出来ればもう少し力を貸して下さい】
「はい。俺でよければ喜んで」
イケメン過ぎる迷いのない爽やかな対応。対して我は変な声が出てしまった。何だこの差は、唯々ミジメである。
自己嫌悪に陥ってると背中から今度は別の人物から声をかけられた。
「おい玻璃! それにアーカーシャも!やっぱりあんた達だったか。苺水晶はいないみたいだな」
「貴方、トーチカじゃない。何でここに」
「ちょっと色々な。そういえばあの時の従魔士の娘っ子も来てるぜ。あんたらの仲間の龍見てはしゃいでるけどな」
従魔士って、確かポッポさんだっけ。本当に色んな人が助けてくれたんだな。
「これからどうするつもりだ」
「私に考えがあります。上手くいくかは賭けですけどね」
そこから1時間後、言われた通りにほぼ全ての魔物と冒険者が集まっていたようだった。しかし当然人も魔物もその多くが困惑しているように受け取れる。こちらの意図が読み取れないのだから当然であるのだが。
【みんな集まってるんだな。正直大半に逃げられても文句言えなかった目に遭わせた自覚あったんだが】
「逃げ場も勝ち目もありませんからね。逆らわずに協力した方が得策と判断したのかもしれません」
「悪く言えば諦めですよね」
ゴスロリドラゴンとドラゴンメイドというキャラ付けファッションをした超絶美人の彼女たちが背後で臣下のように控えながら答えてくれる。っていうか、この子たちが人間の状態になれるなら我もなれるのだろうか?人間形態に。そうなると当然なるとしたら前世の姿だよな。
……前々から思ってたんだけど、異世界の人たちってドイツもコイツも容姿偏差値高すぎない?我の前世の姿だと余りに醜すぎてどこぞのおじさん宜しくオークと勘違いされそう。
「幻滅しました。アーカーシャに関わるのやめます」なんて言われた日には割と本気で落ち込む自信がある。
お、男の価値ってのは外見で決まるわけじゃないと思うんですよ!大事なのは中身と通帳の額じゃないだろうか……どっちも自信ないけど。
【その、フィファニール、イオスガドル、命令しといて何だけど、何人殺した?】
彼女たちに命じ我が奪った命。その重荷を背負わなければならないだろう。震えた声で問いただす。怒りに我を忘れかけていたとはいえ。到底赦されることではない。
しかし、彼女たちは小首をかしげてあっけらかんと伝えた。
「1人も殺してはいません。叩いて潰せと言われましたが、なにも殺せとは命じられませんでしたから」
「正直私は迷いましたけどね。王の怒りは少なくとも本気でしたし。あ、王が戦った千人も生きてますよ。だから少なくとも私たちは誰も殺してはいません」
ムシの良い事を言ってるのは分かってるが、誰も死なずに済んで良かったと心底ホッとしたのが分かるほど、肩の力が思わず抜けた。
そっか〜死んでないのか……よがっだぁぁ!
【手間を…かけさせた。その忠心に感謝する】
「この程度の配慮、眷属ならば当然の差配かと」
後はこの事態をどう収拾をつけるのかだが、我には何も思いつかない。姫は何を見せてくれるのだろう
「じゃあ、いってきますね」
数十万が集っている。様々な者たちがいた。喧騒が大なり小なり巻き起こっている。
その集まりを一望できる高いところに姫は立った。誰かが彼女に気付いて指を指す。1人また1人と。騒めきが一際激しくなる。姫はあえて喋らない。ただ彼らを眺めている。
【黙らせようか?】
「威圧は余計に怯えさせてしまうだけよ。大丈夫。見てなさい。ちゃんと彼らは気付く」
言葉通りにやがて気付く。自分達に彼女は何かを語りかけようとしているのだということに。少しずつ波が引いていくように、群衆たちから音が消えていく。遂にはシーンと静寂が辺りを支配し、全員が姫の言葉に耳を傾けていた。
「このような高い場所から失礼します。私の名前は白雪姫。魔導教会トラオム所属の魔導師です。
集まった魔物とそして冒険者の皆さん。この地での戦いは終わりました。
ですので、集まってくれた皆さんにはこれから協力して力を貸してもらいたいことがあります。」
透き通る音が群衆たちに染み渡るように駆け巡った。人間と魔物のどちらにも動揺が見られる。だがそれ以上に怨嗟と恐怖が根付いている。
誰かがポロリと不満を溢す。
「ま、魔物と協力……そんなことできるもんか!」
「こっちの台詞よ!私の子供は冒険者に殺されました!こいつらを赦せません!」
「俺だって魔物に親友を目の前で撃ち殺された!」
「そもそも冒険者が魔物なんかと協力なんて出来るか!しかも何人も仲間を殺しやがって奴らとなんてなおさらだ」
「こっちだって大勢殺されてる!」
「んだと コラァ!知るか そんなこと!」
冷気の咆哮が不安な種火ををかき消し、再び誰もが口を閉じる。
「協力には信頼が不可欠です。これから私がお話しすることは皆さんがいがみ合うのであれば絶対に成功しません」
「それで、俺たちになにをさせたいんだ!」
「そうだ。言ってくれなきゃ何も決められない」
あくまでも姫は優しく丁寧に語りかける。
「この戦いで皆が何かを失いました。家族や友や或いは自分自身を。ですがまだ失われた命に関してのみ取り返しがつくといったらどうしますか?」
「この魔法具は始祖鳳仙の創りし魔迷宮で手に入れました。名を死の宝玉といいます。死に縁のある種を無尽蔵に生み出せる強力な魔法具です。
とはいえ、下級アンデット(スケルトン等)、下級死霊系(レイス等)などはともかく、中級(ウィルオ・ウィスプ等)、上級(エルドリッチ等)も日に生み出せる数は限度があります。」
「も、もしかして、エルドリッチを召喚して反魂の術でも用いる気!?あれは死んだ本人が生き返るわけじゃないわよ!」
「分かってます、創り出すのはタナトスと呼ばれる者です」
「それこそばかげた話よ!タナトスは……」
「そう。タナトスはとある渡航者が伝承のみを伝えた未だ確認されていない存在です。死を司る力を持つ超常の存在、と云われてますが定かではありません。なにせ誰も見たことが無いのですから」
「ですが可能性の話です。もしかしたら、死を無かったことにしてくれるそんな都合の良い存在がいるのかもしれない」
「いるかどうかも分からないモンスターを創り出すっていうのか。それは神の所業だ!それは人が絶対に犯しちゃダメな禁忌だろう!」
「魔力はあらゆる想像を実現する万能の力。ならば莫大な魔力があれば、或いは。その可能性を0とは言い切れません。ですから、限界ギリギリまで魔力を失います。」
「皆さんの足元にある魔力糸はこの死の宝玉に直結しています。無駄かもしれません。失敗するかもしれません。そしてこれは禁忌を犯す大罪なのかもしれません。それでもこの可能性に力を貸してくれませんか。お願いします」
姫が頭を下げるところを初めて見た。皆言葉を失っていた。それは手段と呼ぶには余りに心許ない狂気の願望に近いからだ。
だが、縋るものがあるのなら縋る。失ったものをそれで取り返せるのなら、と思う者がいた。
「俺の魔力あるだけ全部使ってくれ」
「おいおい1人でカッコ付けるなよ」
シュウが魔力糸に魔力を流した。遅れて、力を貸してくれていたトーチカさんたち冒険者が。
「あの子がかえってくるのなら喜んで」
そこから続くように。1人また1人と。魔物たちも力を貸してくれる。だがまだ大半の冒険者たちは動かない。動けない。
「なにをしてやがる!このクソ馬鹿ども!さっさとてめぇらも力を貸してやれ!」
怒号を飛ばしたのは意外な人物だった。
【アレクセイ・ニコラ……】
「勘違いしてんじゃねえぞ、てめえら魔物なんざどうでもいい。だがそこの魔導師の女に助けてもらった。だから手を貸す。それだけだ」
アレクセイはそう言って、魔力を流し始めた。
「では王 私たちも微力ながらお力添えを」
2匹の応龍も力を貸してくれる。
後は神頼みだ。そしてこちらには生憎神様がいる。我贔屓のとっておきが。
【コトア 力を貸して】
【……私様でよければ幾らでも貸してやるさ】
いったいどれほどの魔力が死の宝玉に集められたのだろう。
死の宝玉が暗く眩く輝いて、突然目から天に光を照射する。
闇の帷が降りてきた。それはブラックホールのように光さえ飲み込んでしまう空間の穴だ。そこから空間に指をかけて何かが這い出てきた。
夜が涙を流すように、ポトリと丁度我の目の前に落ちてきた。それは人間の女の子だ。
「足痛ったぁぁ〜!ジンジンする。あの高度は流石にやばかったかー〜」
我は絶句した。その人物を知っていたからだ。
25回。これは前世の俺が彼女にフラれた数字だ。
もう2度と会えないと思った彼女が何の因果か此処にいる。
【如月 千夏】
「ふっ……バレてしまっては仕方ない!
そう!私の名前は如月 千夏 今年二十歳になりました!
君の名前は何て言うのかな?」
【あ、アーカーシャだ。龍王と呼ばれている】
「龍王 うわぁ!かっくいーね!」
この持ち前の明るさ。太陽のように眩しい笑顔。紛れもない彼女だ。いやしかし待て。我の知っている彼女は1個下。つまり15歳だったはずだ。それがハタチ?なんで歳上になっている。
まるで意味がわからんぞ。
8月は1週間毎日投稿したので、9月は1日複数回投稿を実験的にやってみようと思います。
もしかしたら、9月は投稿までに日が開くかもしれませんが応援してくれたら嬉しいです。