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吉原を捕まえて先輩はずっと話しをしている。 吉原めっちゃ迷惑そうだなと思いきや……
先輩の目が吉原と違う方を捉える。 さっきのバカップルの女の子だ。 今思えば先輩の目に入らなかったのか? と思うがたった今気付いたようだ。
バカップルの女の子はこんな奴本当に居るんだ? というほど美人なので先輩の目も釘付けになる。 というより彼氏居るのに先輩手を出すつもりなのかよ?
吉原はその隙にサッと先輩から離れていった。
「うひょー、あの子に話しかける気か?先輩」
伸一も気になったのか覗きに来た。
「まぁあそこの彼氏より先輩の方が大分イケメンだけどさー、それって顔で選んでるってわけじゃないだろ? いくら先輩でも厳しいんじゃね?」
「伸一にしては的を得た事言うな」
「ああ!? 周人のくせに何様だ!?」
「ごめんごめん、静かにしろって」
そんな事を言ってる間に先輩はバカップルのテーブルに椅子を置いて座った。なんて度胸があるんだ…… バカップルは先輩のその行動に呆気に取られる。
「は?」
「何よあんた?」
「いやぁ、暇してるかなと思ってさ」
「私が? 暇に見えるわけ?」
「隣の人って彼氏?」
「おい、あんたいきなりなんなんだよ?」
バカップル彼氏がそう言うと先輩は手で制止する。 なんかこの光景藤崎の時も見たぞ。
「彼氏だけど? それがどうかした? 私忙しいから構わないで。 ねぇー?」
と、その女の子は彼氏に向けてとびきりの笑顔で言った。 彼氏と先輩の対応が全然違う、これはいくらなんでも先輩も厳しいぞ?
「ふぅ…… この後俺と一緒にどこか出掛けない?」
「はぁッ!?」
は? 何言ってるんだあの先輩は?
「そこの彼氏より俺と居た方がきっと楽しいと思うよ?」
「あんたよく俺が隣にいるのにそんな事言えるな…… ていうかまだ続けるわけ? やめた方がいいんじゃないか?」
「君こそ俺が彼女を口説いてるのに随分と余裕そうだな。 俺が奪っちゃってもいいわけだ?」
「いや、そうじゃなくてこいつと居ると結構そういうのってあってさ。 またかって思ってるだけだよ」
そりゃそうだろうなぁ。 彼氏も大変だなぁと思っていると……
「彼氏がこんなんだからさ、ここに置いといて俺が学校の中案内してあげるよ? 行こうか?」
と、さり気なく先輩はバカップル彼女の手を触る。 だけど一瞬で振り払われる。
「何? さっきからなんなの? 私の彼氏をバカにしておいて馴れ馴れしくない?
言っとくけどあんたみたいな奴なんて全然信用できないわ。 私にとってはこの人が1番なの! あ、あとそんな私の彼氏をバカにしたお返しね」
バチンとその女の子は先輩にビンタをした。 そんなんしたもんだから周りはギョッとする。 今日文化祭なんだぞ? まぁ先輩のせいだが……
「行こう!」
「ほら、言ったろ? 待てって! えりな」
プンスカと怒って女の子は出て行って彼氏もその後を追って行った。
「ププッ、東堂先輩ザマァないぜ! いやー、スッキリしたわ。 こりゃ噂になるぞ」
「まぁ確かにスカッとはしたけど」
みんなが見てる前であんな事されたら恥ずかしいだろうなぁと思い先輩を見るとやれやれとしたような顔をしているだけだ。
そして一ノ瀬が何故かタオルを持って先輩に近付いた。
「あ、あの…… 大丈夫ですか? これ使いますか?」
「うん? ああ、ありがとう。 あんな事もたまにはあるさ」
一ノ瀬から受け取ったタオルで先輩はぶたれた頬を冷やす。
「で、ではッ」
「ちょっと待って」
「ふへ?」
「サヤちゃんって呼ばれてたよね? じゃあ俺もこれからサヤちゃんでいいかな?」
「うええ!?」
一ノ瀬は慌てて吉原を見た。 吉原はそんな先輩の様子に溜め息を吐く。
見境なしかよ東堂先輩は…… 転んでもただじゃ起きないタイプなのか?
「先輩、他の人もいるのでサヤちゃん取られるとちょっと……」
「ん? フフッ、そういう事にしておくよ。 じゃあ俺はこれで。 芽依ちゃんとサヤちゃんも頑張って」
「なんでそうなるんですか…… ん?」
俺が見ている事に気付いた吉原は見ないでと言わんばかりにこちらに向けて手を払った。




