case9 探索編 3
「ふにゃ!にゃんにゃんだ貴様にゃ!!」
倫太郎たちが、マミ蔵に出会っている頃、姫は追っかけっこの真っ最中だった。
「とぼけるな、貴様らが、我らの事を嗅ぎまわっているのは先刻承知の上だチュウ!」
「勘違いだにゃ!確かに儂はあの男についてきたが、奴の仕事には興味が無いにゃ!」
何たることか、姫を追い回すのはネズミたちの群れだった。
窮鼠猫を噛む、否。姫が猫にちょっかいを出したわけではない、ネズミたちが一方的に姫を追い回していた。
勿論姫は唯の猫ではない化け猫だ、運動能力は通常の猫の比ではない、だが追い回しているネズミ達も通常のモノではなかった。
そのもの達に影は無く、そのもの達に姿は無い、只々チュウチュウと言う鳴き声とパタパタと走る足音が、塀や壁の中から聞こえるのみであった。
姿は見えず唯音のみ、だがそれが直接の危険性が無いとは程遠い事だとは、姫の直感が告げていた。
と言うか、件のネズミ達自身が言っているのだった。
「関係あるか、我らの悲願の達成のため、貴様には死んでもらうチュウ!」
「にゃー!あの馬鹿何に首を突っ込んだのにゃーー!!」
「それで、猫や狐が悪さをしてる雰囲気とかあんのか?」
「それなら流石に気づくのう」
そのころ、その馬鹿は、狸と見当違いの事を検討していた。
だが、それもある意味では仕方のない事だった。姫を追いかけている、いやこの島で暗躍しているネズミ達は妖怪とは別の系統の化け物だった。
それは海の向うの大陸では『壁の中の鼠』と呼ばれていた種族であった。
くっ、この爪が届くにゃら、こんにゃ奴らてきじゃにゃいのにと、姫は悪態をつきながら、ひた走る。
だが、ネズミ達との差は一向に広がらない。壁の中、塀の中、堀の中、ネズミ達はあらゆる場所の向う側を追走する。
「にゃー、もうしつこい奴らにゃ!」
壁の多い町中は不利だ。水は嫌いだが、こうなっては仕方がないと、姫は進路を海に向けたのだった。
「なら、最近島でなんか変わった事ないのかよ」
第三者が妨害しているとしても、それはこの島で直接行われたことだ、何か不審な動きを察知していないかと倫太郎はマミ蔵に尋ねる。
「うーんそうじゃのう、これと言った変化は目撃しちゃいないんだが……。
あっ、そう言えば人間たちが最近ネズミが多くなったとか話しておったのう」
「……ネズミ?」
「そうじゃ、森やここじゃ変化は感じ取らんから、住宅地の方じゃろうて。
儂ら狸とは生活圏が違うんで直接出会ったわけじゃないがの」
「ネズミの妖怪と言えば、鉄鼠ですかね。彼らが出没するのは寺と相場が決まっておりますわ。そんな雰囲気はございませんか?」
ネズミと聞いて、閃いた明がマミ蔵に尋ねる。
「流石に、奴らが暴れてたら気づくわい」
苦笑いでそう答えるマミ蔵に明は赤面するが、倫太郎はしょうが無いとばかりに明の肩をポンと叩きこう続けた。
「だが、今んところ。手がかりと言えばそのネズミだけだ。鉄鼠かどうかはともかく、当ってみるしかねぇだろ」
「そうですわね。捜査は足から、古臭い言葉ですが基本をおろそかにしてはいけませんわ」
倫太郎の発言に翔子も同意し、取りあえずの目標として異変の手がかりを探るため探索を行う事となった。
「そんじゃあ町案内を頼むぜマミ蔵」
「ほいよ、了解したぞい」
そう言いマミ蔵はひょいと祠から飛び降りる。
「ったく、それにしてもウチの馬鹿猫は何処ほっつき歩いてんだ、ネズミと言えば猫唯一の働き処だろうに」
皆で並んで探索に出かけようとしたところだった。海岸を疾走し、こっちへ向かってくる白い影があった。
「あっ!倫太郎さん!噂をすれば姫さんですよ!」
それを見つけたのは妖怪話にあぶれ気味だった鈴子だった。
姫さーんと、向かってくる白い影は手を振っていた鈴子を足蹴にし、倫太郎の帽子の上まで飛び上がった。
「きゃ!」
「おいおい、何だテメェ。この帽子に傷でもつけてみろただじゃおかねぇぞ」
「五月蠅い、それどころじゃないにゃ!ネズミが!ネズミ共が!」
「……ネズミがどうしたってんだ?」
「……うにゃ?」
海岸には潮騒が響き、海水浴客の嬌声が遠く聞こえるだけ。そこにはネズミの影も鳴き声も何一つ存在しなかった。
うちの猫が探索してくれないので、事件の方から寄ってこさせました。




